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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
29/41

エピローグ


―――月曜日カナン女子講堂。


 カナン女子の講義は基本的に大学と同じで自ら予定を立てて出席して学習する事が当たり前のシステムとなっている。


 故にクラスという概念は無く。


 多くが学内派閥を作って纏まっている事が多い為、新入生や転校生のような新しい生徒が紹介されるという事は無い。


 だが、その日の午前中。


 目的地までの通路を歩いていたアズール・フェクトの前には驚くような相手が転校生として姿を現していた。


「え、あ、貴女は!?」


 出会い頭に相手の顔を見て、少女が相手が誰かを思い出す。


「あ、マリア、さん?」

「―――!?」


 少女達の間には驚きばかりがあった。

 欧州脱出前。


 OPによる襲撃を受けようとしていた性犯罪者集団を殲滅した時。

 山の中にある館で赤子を釣れていたり、妊婦の女性達を匿っていた少女。


 マリア・アメーリア。


「えっと、お久しぶりです」

「あ、ぅ……あの……」

「?」


 途中でポロポロ泣き出したマリアに驚いた蒼の名を持つ少女はイソイソと近くの人気の無い通路の自動販売機が乱立する休憩所に連れて行く。


 椅子にマリアを座らせて、缶珈琲が一本手渡された。

 仄かに温かいソレを受け取って少女が涙を拭う。


「……あの時と同じですわね。わたくしは施されてばかりで……」

「マリアさん。どうして日本に?」


「ええ、それもお話しなければなりませんわね。あの日、貴女を送り出してからシェルターに籠っていたのだけれど、外の監視カメラを見ていたら、どうやら何処かの組織と襲撃者達が抗争になったらしくて。此処を目指していた犯罪者達は全滅していたみたいなの……」


 その後、警察が来てあちこちを捜索していたらしいが、何とかやり過ごして事態が落ち着くまで待つ事になったのだと少女は言う。


 そうして半月後には事態が収束。


 結局、法規制の厳格化は見直されたが、代わりに大量の国内の犯罪集団の摘発が大規模に行われて治安が悪化した。


 ただ、それも一時的なものになるとされていて、今回の一件で政府から咎められたアメーリア家は彼女をしばらく安全な場所で養育するという名目で追放した。


「今までは東南アジアのスクールを選定していたらしいのだけれど、そこがまた危なさそうだとの話で日本のカナンに長期留学という形で……」


「あの人達はお家に帰れたんですか?」


「ええ、きっと色々とまたとても困難な状況にあると思うけれど、わたくしにはもうどうしようもなくて……親族達からもしばらく頭を冷やせと言われましたわ……」


「マリアさん。立派だと思います。普通の人はそこまで出来ないですから……」


「……これからどうしたらいいのかとずっと不安だったの。もう、あの方達にわたくしの手は届かない。けれど、こうして何不自由無く学校生活をするのも何だか違っている気がして……」


「同じことをすればいいんじゃないですか?」

「え?」


「此処にも同じように苦しんだり、理不尽な目に合ってる人は沢山います。マリアさんが祖国に帰っても同じように活動したいなら、きっと実績が必要だと思いますし……」


 目を見開いたマリアが目の前の相手を見て、瞳を俯ける


「―――そう。そう、ね……ふふ……わたくしはまた貴女に助けられてしまいましたわね……」


 薄っすらとその唇には笑みが浮いていた。


「?」


 アズールが首を傾げる。


「お名前を聞かせて頂けますか?」

「アズール。アズール・フェクトって言います」

「今一度名乗りましょう。わたくしはマリア・アメーリア」


 凛として今度こそ少女は自分の名前をしっかりと名乗る。


「欧州統括理事会の末席に名を連ねているアメーリア家の者です」

「欧州統括理事会……えっと、SEUの国家統合権を預かる組織でしたっけ?」


「ええ、よく知っていますわね。その組織ですわ。欧州の国家が統合化され、地域になってからは欧州大統領の顧問機関になっているところです」


「じゃあ、マリアさんが立派になってお家を継げば、今の現状を変えられるかもしれませんね」


「っ………うふふ。そう、そうね……とても簡単な事だったんですわね。ありがとう。アズールさん。いえ、アズールと呼ばせて?」


「あ、はい」


 キュッと少女が少女の手を握る。


「その……これからはお友達としてお付き合い頂けないかしら?」

「勿論です。あ、連絡先……」


 2人の少女が笑いながら連絡先を交換している様子を遠方の角から見ている視線があった。


『な、何なんですの!? あの子!? ア、アズールさんはわたくしのお友達ですのに!? うぅ、あんなに親し気にぃ……』


『こんなところにいた。おねー何ブツブツ言って―――』


『アズールさんとはわ、わたくしが一番最初にお茶をするんですのよ!?』

『あ、ダメだ。おねーがハンカチ噛み噛みな僻みモードに入ってる』


『誰が僻みモードですか?!』


『おねーって束縛が強いから、今までの恋人の人達に逃げられてたわけだけど?』

『っ、余計なお世話ですわ!? ちょっと、休日はいつも一緒に居たいだけです!!』


『重い女って評判だもんね……』

『わたくしの体重は平均です!!』


 言っている傍からその後ろ姿を偶然会合に向かう通路で見ていたバックヤードの面々が『また、重くなってんのか? あの副生徒会長……』という呆れた瞳を背中に投げ掛けていた。


 校内では副生徒会長が“重い”というのは有名な話だ。


 色々とワケアリの家ではあるが、それより何より同性愛者でカワイイ相手に目が無くて、恋人を束縛したがる様子から中等部の頃から良家の子女達には随分と畏れられていたのだ。


 それがメル・クロイツフェルトという少女であった。


「マヲゥ……」


 そんな少女達の仄々とした青春を見ながら欠伸をした黒猫が白い首輪を付けて、その場を後にする。


 そうしておもむろにサーバールームのある区画に入り込むと。

 キーボードのある端末の前で尻尾によって機器を操作し始めた。

 やがて、メーラーソフトが立ち上がり、文面が作成されていく。


『Code-Prismaの現状報告』


 猫の尻尾が躍る。


『人格形成速度:良』


 尻尾が二本に増える。


『遺伝形質発現度:優』


 ユラリと尻尾が更に分裂して増える。


『先進技術適応度:良』

『人体改造適合率:特優』

『感覚器摩耗耐性:特優』

『射撃能力開発度:良』

『格闘能力開発度:良』

『技能習得効率:良』


 次々に様々な項目が書き上げられていく。


『現状、評価の対象として特筆すべき点無し。第八世代特異遺伝子導入型人造座位群を用いた個体は正当に評価されておらず。この個体に対しての人類側の動向無し』


 最後、メールにはこう添えられていた。


『人類斜陽期における量子転写技術の運用実績を確認。人類滅亡までの残り120年中にCode-Prismaによる斜陽期の脱出実績が確認されなかった場合、人類の電子世界への後続保管は現時点では不要と判断』


 黒猫がメールを確認してから、それを何処かに向かって送り出す。


『外宇宙脱出による生存率が4割に達していない事から地球上の人類の猶予期間を40年とする。以後、外宇宙環境での生存技術の向上もしくは各種の実績解除による要件到達がなされた場合にのみ、人類への技術供与による延命を図るべきと進言』


 黒猫がサーバールームから出ていく。

 メーラーソフトは開かれたままだ。


『Code-Prismaの個体調査は継続。本案件中の監視者の追加は不要。引き続き、【(LUCA)】の監視に戻る』


 メーラーが勝手に閉じられ、サーバールームの灯りが自動で落ちる。

 だが、ディスプレイには薄緑色の文字が僅かに羅列されていた。


―――楽園のネズミ達の為に笛を吹くのは誰か?


 しかし、そのディスプレイも電源が落ちて。

 外に出た黒猫は主がまだラブコメをしているのかと覗こうとしてハッと後ろの気配に気付き。


「親友~~~~!!?」

「マヲヲ~~~?!!」


 何故か、自分を友達呼ばわりする人間イーリに捕獲されてスリスリナデナデされながら研究室へとガッチリ拉致されていくのだった。


―――人類はやっぱり滅ぶべき!!


 と、言いたげな使用済みタオルみたいにヨレヨレの黒猫が悲哀を感じる姿で外の散歩から帰って来るのを見て驚いたエーミールは『猫同士の喧嘩に負けたのかなぁ?』と首を傾げつつも、優しく黒猫をリビングの寝台に横たえ。


 その日の夕食にハンバーグを出してくれるようにとジト目で何故か黒猫を見て溜息を吐いた保護者なAIに頼み込んだのだった。


 誰も運命からは逃れられない。


 けれども、人類の終末にはまだ間に合う。


 そんな陽射しの降り注ぐ学校。


 少女はまた新しい世界に到達したのだった。


 嘗て、彼女の傍にいた人のように誰かの傍にいられる世界。


 それは小さな小さな人の可能性であるとまだ少女は知らないままであった。

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