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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
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第24話「開宴」


―――木曜午後6時56分。


『こちらA班。動きありました。カルトらしき相手が警察署周囲で何かやろうとしてます』


『こちらV班。国会周辺に民間人がデモ隊で終結してます。でも、いつもの連中じゃありませんね。中に知らねぇヤツらが混じってやがる。野党の奴らも困惑してる様子です』


『こちらG班。あ、こいつら!? このご時世に放火かよ!? 済みません。先に動きます。報告は後で!!』


『こちらB班。浄水施設に屯ってた今時の恰好の連中。どうやら、此処に何かブチ込む気みたいです。今、現場の証拠映像抑えました。行きます』


『こちらP班。マジ無理!! 何だコイツら!? 急に裸になって街中に駆け出しやがった。追い掛けます!!』


『こちらR班。こっちで裸になった男女がいきなりサカリ始めました。しかも、街中だぞ!? 汚ったねぇケツ晒してんじゃねぇわ!?』


 次々に連絡が来ていた。


『こちらデンネ。連中が動き出した。恐らく実行時間が近い。そっちの映像はみんなで確認してる。こっちはカルト連中を抑えるのに指示出しで忙しくなると思う。何かやって欲しい事があれば、そっちから頼む』


 その情報は全てデンネ=サンの使っているサーバーに集約されて、次々にこちらのOP内のマップに表示されていく。


『連中、マジで始めやがった。カルトの連中の陽動と見て間違いないか。だが、人を踊らせて自分達だけ逃げようなんざ許さねぇ。オイ!! 精鋭共と一緒に行くぞ!! あのクソディーラーのお友達だ。持て成してやんよ!!!』


『あ、ヘッド。無茶しないでよ!!』

『分かってる。テメェらはカルト共を抑えておけ』


 今は元難民や元移民の人々も多く住む日本でも有数のドヤ街という場所になっているらしい場所は港湾労働者が多い。周辺には低所得者用の都立のマンションが立ち並び。


 日雇い労働者の数は日本でも有数。

 そんな倉庫街の一角で次々に異変が起きているのを確認出来た。


「これが……」


「はい。バーバヤーガです。当時の欧州にとって悪夢の一つとなった機体です」


 超遠距離狙撃用の精密望遠レンズ。

 日本の光学観測機器の精度は世界最高と名高い。


 近頃買った民間用1枚1200万するらしい巨大な望遠レンズ6枚を用いたシラヌイ特性のスコープは7km先の敵の姿をクッキリと自動で映し出してくれていた。


 その観測精度は地平の果て、10km先にあるコインの表面の汚れの種類まで見えるくらいである。

 ソレが載っているマーナガルム専用狙撃銃【クェーサー】は標準的なOP狙撃銃を肥大化させた代物。


 外見的には白い事を除けば、何処にでもありそうな対物ライフルだ。


「光る炎で造られた外套に装甲。あの後ろのが……」


 起動前の骸骨のようなデータからは想像も出来ない。

 その体は淡い緑色の炎ようなのっぺりとした光で骨組みを覆い。

 背中からはフード付きの外套のように同じ色合いの衣服を着込む。

 そして、その背後には大きな丸い物体が転がって付き従っていた。


「魔女の釜。あらゆるOPの部品を丸めた機能中核です」


 現在、全天候量子ステルスで隠蔽しつつ、遠方のビルの屋上でテディ形態で巨大なライフルを保持、相手をスコープで観測していた。


 機体内部は少し広くなり。


 いつものスーツ姿に仮面を付けたシラヌイが背後に付けられたサブシートに機械の体で座っている。


 生身の体はお留守番だ。


「マヲマヲ」


 その膝にはマヲンが座っている。

 今回はその力が必要になるらしい。


「もう一度おさらいを」


「うん。敵のブラックボックスを破壊せずに相手を停止させる」


「はい。そして、敵は無人機である事が確認されました。こちらの想定取りと言っていいでしょう。恐らく、自爆装置は付いていますが、使われません」


「バーバヤーガが高耐久過ぎるから?」


「ええ、可能ならば、出来る限り首都圏に被害を与えて破壊して貰いたいはずです。アレの最低限の仕事は自分がEV製であることを知らしめる事。そして、日本の国力を削ぐ事」


「そして、出来れば、首都圏のOPを減らしておく事?」


「そうです。故に倒し易く設定されているとは思いますが、今回は倒す事ではなく無力化して停止させる事が目的なので真正面から削り合いとなります」


「最終的にはマヲンがどうにかしてくれるんだよね?」

「はい。その為に連れて来たので」

「マヲー♪」


 そうです役に立ちます的な回答をされた気がした。


「敵の機能は?」


「磁力誘導装置と粒子加速装置による磁場収束式加速粒子装甲、だよね?」


 バーバヤーガの殆どの機能がそれに集約されているという。


 骨組みのあちこちにある“スカート”と呼ばれる加速された粒子の放出と吸収を行う行う機構が骨組みを覆う装甲を生み出すらしい。


 吸収された粒子は再加速され、機体の外と内側を循環しながら敵の攻撃を防ぐ。


 核融合炉程ではないにしても磁場を操る力は脅威だ。


 あらゆる攻撃兵器の質量を加速粒子に溶かし込む事で質量兵器と呼ばれるよう弾体や近接武装はほぼ全て無力化出来る。


 爆風や質量弾の類のみならず。


 ABCアトミック・バイオ・ケミカル兵器の類にも有効。


 防御力的には砲弾やミサイルの嵐すらも凌ぎ切る事が可能だとか。


 その加速粒子が磁場の収束から食み出している部分が炎の正体であり、その火力は数千℃以上という代物だ。


 プラズマ化しているのは粒子加速時のスターターとして用いられた超重元素の粒子であり、これに延々とエネルギーを加えて加速、収束する事で磁場とフレームをほぼ一帯としながらも自己崩壊せずに動けるらしい。


「要は大昔に言われていたような荷電粒子による射撃兵器ではなく。加速粒子を近場に磁場で押し固めるように留めて絶大な防御力を得る装備です」


「その為の熱や磁力や圧力に耐える為の簡素な超高耐久フレームなんだよね?」


「はい。敵の防御を貫くには相手の機能の中心であるマイクロ核融合炉を停止させるか。もしくは核融合炉本体から供給されている電力を遮断するか。あるいは磁場を乱してあの加速粒子を放散させ、装甲を剥がすかの三択です」


 テディが持っている巨大な4mはあるだろう白いライフルを見やる。


「磁力と加速粒子の壁を引き千切る超磁力弾。十五発……」


「内部には常温常圧超電導用の磁石を入れてあります。臨界磁場以上の磁場を接触寸前に発生させ、加速粒子の歪曲収束域を一瞬開放します」


「この弾が約秒速2100mで瞬間消失する相手の装甲内部に飛び込んで破壊……」


「そうです。あのフレームと言えども弾性限界近い衝撃を受ければ破壊出来ます。これでまずは移動を留める為に両脚を破壊。そして、攻撃力を奪う為に腕。最後にマイクロ核融合炉の入っているあの武装に擬態して尻尾で繋がっている機能中核部位、魔女の釜を破壊します」


「魔女の腕の攻撃力は磁力の大きさに比例するんだよね?」


「はい。当時は近接武装として相手に加速粒子の熱量と磁場をぶつけて破壊。遠距離攻撃を潰し、近接戦闘を強いる事で敵に戦っても無駄なOPを高価値目標と誤認させる戦術を取りました」


「敵はそもそも装甲を抜ける力が無い限りは勝てないのが所見じゃ分からないから、全滅させられるって事でいい?」


「はい。更に破壊した敵OPのパーツなども近接散弾化して用いた為、中近距離はタイタンマウルのような攻撃も可能で火力は減りません」


「だからこそ、まずは初撃は狙撃による機能破壊。後は出来る限りドローンで攪乱して自分の位置を隠す、と」


「OPによる近距離戦は自身の部品を敵にレールガンの弾として補給するようなものなので。中距離以上の戦闘でなければ、まず勝ち目がありません」


 磁場の内部で扱える全ての部品を攻撃手段にも防御手段にも転用出来る為、周囲には中距離までならばどんな方角にでも死角無く散弾で攻撃可能という話だ。


 どう見ても近距離戦では部が悪いだろう。


 もし攻略法を知らずに戦えば、遠距離攻撃がまるで利かない為に近付いて近距離戦闘を挑んで敗北するしかなかったかもしれない。


「行くよ。シラヌイ……」

「マーナガルムに移行」


 シラヌイの声と共に機体が変形していく。


 丸っこいデザインのテディが質量もそのままに変形し、背部に近場にいたドローンから放り投げられた背後の前衛的な翼の芸術にも見える防衛兵装【エリナシェイニー】が装着される。


 文字通りのハリネズミ。


 全方位からの凡そ3000発以上の弾幕を光の速さで撃ち溶かす超高速対弾迎撃光学防御兵装は機動中でも待機中でも、弾丸の大きさが100mm以下ならばほぼ確実に一発で溶かし切るし、140mmまでの砲弾も数発のレーザーで400m圏外からの攻撃であるならば溶かし切る。


 本来はその量にも大量の電力が必要な事から限界があるらしいのだが、マーナガルムの電源はかなり強力らしく。


 100mm以下の弾丸ならば10万発分までなら溶かしてくれるそうだ。


「周辺の光学観測ドローンを最後方へ退避」


 長距離戦においてはバーバヤーガ程の防御力は無いけれど、それでも遠距離戦においてならば圧し負けるという事も無いだろう。


 マーナガルムへと変貌したテディの指もまた細くなり、精密照準の射撃モードにコックピット内の表示が変化する。


 レティクル内において敵との距離、周辺の低価値目標。


 更には各種の観測装置による熱、音、光、電磁波、圧力、臭気、諸々の環境情報が表示された。


「攪乱用の高機動型を前線に」


 それらが耐OP用スマート・ライフルである大型狙撃銃【クェーサー】に入力。


 シラヌイが諸々の姿勢制御とタイミングを計りつつ、銃本体はバレル内部のスマート・メタルスキン、銃弾発射時の銃口内環境を制御する金属皮膜で硬度や温度を変化させながら、狙撃の為に最適な環境を銃弾に提供する。


「【クェーサー】機関部の温度上昇中」


 従来のレールガンが単なるモノを飛ばすだけの能力を特化させた安定した威力と安さを誇る現代のAK……遥か昔のライフルに例えられるのに対し、スマート・ライフルはAI制御で弾丸を赤子のようにあやして目標に飛ばす事から高額な誘導兵器に例えられる。


「目標の解析の結果。4連射で凡そ四肢を半壊させられると推測」


 低速誘導型のMVTマイクロ・ヴァリアブル・タイムヒューズを利用出来るホーネット・ライフルのような事を長射程の超高速ライフル弾で行うのは正しく現代科学の恩恵が無ければ不可能だ。


 弾道予測、軌道計算、周辺環境情報、偏差射撃、コリオリ、大昔は人間の頭脳でやっていたものが今では完全フルオートである。


 勿論、費用対効果が高いとは言えない。


 そもそも先進技術の塊である高度な計算が出来る電子装備とAIとその機能を十全に発揮するライフルなんてものは個人用の武装にしては高過ぎるのだ。


「敵行動予測最適化。回避パターン時の機動補正情報を構築中」


 大型の誘導ミサイル十発以上の値段がするお高い装備をわざわざOPに載せるのも最後に人間が使うからという思想から来ているとシラヌイは言っていた。


 だが、実際に戦場で使われる狙撃という行為の大半はAI制御のドローンに置き換わって長い。

 実際に戦場でパイロットとしての狙撃手が活躍する事は殆ど無い。


「敵機反撃時の破損を考慮して、予備ライフルを即時投入可能状態で待機」


 だが、それでも先進国の軍事部門では狙撃型の人が乗り込むOPを造り続けているし、狙撃手の養成も行っている。


 今や狙撃の担い手は狙撃ドローンを戦略的に配置したり、タイミングを計ったり、狙撃のプランニングをするスポッター的な役割に収まるとされていて、これは一種の戦争における人道的な措置であるとすら言われていたりもする。


「これより連続射撃を開始します。ターゲット・ロック」


 カウンターが変形し、俯けに体が寝そべるような体勢に移行。

 背後のシラヌイは少し上に移動する。


「撃って」


 カチンッと操縦桿のボタンを押した刹那。

 ライフルが瞬時に4連射。

 それも僅かに右に姿勢を傾けていた。

 理由はすぐに解った。


 7km先の標的が撃たれた瞬間に横に動いていたからだ。

 倉庫街に止めてあった車両が動いていた。


 恐らく、車両のAIが作業用OPなどと接触しないように移動する機能を持っていた。


 秒速約2000mの銃弾が7km先に届くまで3秒以上。


 静かに待っている間にも車両を跨ぐ事にしたらしいバーバヤーガは周辺に接触して、倉庫街を瞬間的に蒸発させ、更に周囲を燃え上がらせていく。


 だが、その勢いが一気に十倍以上の範囲に膨れ上がった。


「……着弾を確認」


 超磁力弾による磁場の乱れで収束していた加速粒子が一気に解き放たれたからだ。


 相手の周囲が猛烈な熱量の放散で爆発。

 倉庫街は炎の海というよりは溶鉱炉のようになっていく。


「左足欠損。右手欠損。右足小破。まだ、敵は動けます。攪乱開始……」


 すぐに周辺から黒い蜘蛛型ドローンが消えたまま普通の攻撃を開始した。


 小型の小銃弾を使うガトリングが装着されている前衛の蜘蛛が次々に銃弾を撃ち込みつつ、相手の攻撃を喰らわないようにと距離100mの位置を維持しながら跳躍しつつ、倒れ込んだバーバヤーガの攪乱目的で攻撃し続ける。


 すると、瞬時に反応した敵の中枢であるOP部品と装甲の塊が一部破砕して、相手のいる周囲を破壊しようと散弾を周囲にばら撒き始めた。


 そのせいで倉庫街は更に粉々になっていく。


「磁場、磁力で操れないように弾丸の素材には気を使いましたが、どうやら倉庫群はやはり鬼門のようですね」


「あ、ホントだ」


 見ている間にもまだ無事な周辺倉庫が何やら猛烈な勢いで砕け、内部から大量のバラバラになったOPの部品が大量にバーバヤーガへと集まっていく。


 真下で立ち上がろうとしている片腕と片足を失ったバーバヤーガの上で巨大化したパーツの塊が浮遊し始める。


「あ、これって……」

「どうやら改修点は補修機能と無人機制御だったようですね」


 周囲の倉庫のまだ磁力の影響を受けていない場所から次々に民間OPが出て来て、周囲の建造物を攻撃していた。


 一応、近接用の大型の斧やナイフを持っているが、射撃用の武器を一つも持っていないのは計画を悟られない為に相手側が火器を諦めたからなのだろう。


 その上、バーバーヤーガの破壊した片手と片足がガラクタで構成するかのように集められていたOPパーツで形だけは取り戻され、移動を再開する。


「多数のOPの管制能力と磁場による精密誘導によって中核が破壊されない限りは欠損部位すら補って動き続ける……厄介です」


「もう一回此処から狙撃する?」


「いいえ、既に敵の防御シフトが敷かれている以上、遠距離狙撃では恐らく防がれるでしょう。最低でも相手が反応出来ない300m圏内からの狙撃でなければ、可能性がありません」


「でも、あれって……」


 バーバヤーガは次々に集めたOPの部品を移動方向や攻撃していたドローン達に向けて撃ち放っていた。


 巨大な尻尾の先の廃パーツの塊は今や10m近い大きさにまで成長していた。


「射程を観測……凡そ300m先までは届きますね。大分、レールガンよりは遅いですが、それでも並みの銃弾くらいまでの速度は出ています」


「OPの大きいパーツは溶かし切れない、よね?」


「はい。大きい方は避けるしかありません。攪乱中の機体の破損率が2%を超えました。少し包囲範囲を広めに取ります」


「うん。周辺の人達への避難は?」


「増田弁護士に依頼済みです。公安も動いてくれるでしょう。今、公的な地域メールで暴走したOPによる被害が出ていると退避勧告が出されました。公安が周辺地域にある端末の情報観測機能をロック。避難誘導はどうやらバックヤードが仕切っているようです」


「良かった……」


「敵移動速度は低下していますが、このままだと商業地域に進路を取るかもしれません。時速6kmで歩行中。さすがに防御を優先していますね」


「このまま仕掛ける?」


「いえ、戦っても勝率が高くありません。無数のOPを盾、攻撃、防御に使える状態では攻撃を避け続けて攻撃を当てるにも限界があるでしょう」


「……ねぇ。シラヌイ」

「何か考えが?」

「海もしくは水のあるところに誘導出来ない?」

「……今、周辺地形を解析しています。しばらくお待ち下さい」


 シラヌイの言葉を待ちながら、攪乱中のドローンがちょっとずつ散弾で装甲を破壊されていくのを見ていると。


「―――解析と予測が終了しました。この地区はフロート技術で造られており、地下はありませんが、下は海です」


「そうなんだ?」


「はい。ただ、今から地域のフロート管理をしている環境システムを乗っ取ってパージしても相手が自身の能力で飛んでくる可能性が高く」


「何か飛行中にぶつければどう?」


「周辺地域に磁場や磁力に左右されない建材は在りますが、それを大質量でピンポイントに飛行中の相手にぶつけるとなると……」


「大丈夫だよ」


「?」


「だって、此処にぶつけても磁場に左右され難くした質量があるし」

「ッ―――それは最終手段です」

「頑張ろう。シラヌイ……これはお仕事なんだもん」


 座席が元の状態に戻る。

 シラヌイは僅かに黙っていた。


「………解りました。近接格闘用のシステムを立ち上げ、周辺から質量を幾らか補填して機体の重量を更に増加。狙い目は敵がフロートと地表の境にいる瞬間です。まさか、狙撃手が弾丸になるのを希望するとは……これだから、人間は面白い……」


 シラヌイは笑ってくれているような気がする。

 戦いはまだ始まったばかりだった。

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