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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
24/41

第23話「淡く夢見たヒストリア」


「あ、お帰りなさい。アズール」

「今日は何してたの? エーミール」

「マヲンと一緒にお料理のお手伝いしてたんだ♪」


「お料理の?」

「うん」


 部屋に帰るとエーミールがキッチンに向かうと大きな寸胴というのだろうか。


 それの前で何故かマヲンがエプロン姿で脚の長い椅子に腰掛けて、寸胴内部をかき回していた。


「マヲ……」

「た、ただいま。ね、ねぇ、エーミール。あれ何?」

「マヲンは今、料理漫画にハマってるんだよ」


「そっか。だから、あんな如何にも真面目な料理人です。みたいな顔でオナベ掻き回してるんだ……」


『まぁ、鍋を掻き回す意味は無いのですが』


 ボソッと端末からシラヌイが教えてくれた。


 マヲンとエーミールには今日の夕飯の牛肉のシチューを任せているという事で弱火でコトコト煮込んでいるそうだ。


 2人をそっとしておいて地下に向かう。


 すると、学校から次々に蜘蛛さん達に持って来られていた小さな円筒形のドローンの束が地下の工作室に並べられ、次々に解体されて、周辺にある水銀のようなものを張った水槽にマシンアームの群れで沈められていく。


「あれって……いつもテディとかを変化させてたヤツ?」


 装甲どころか内部構造すらも変わる事があるシラヌイの宿った機体の素材は未だによく分からない。


 軍事分野で同じようなものが無いかを確認してみたけれど、全て液体金属製の補修部品とかだったのだ。


「液体金属による軍用機器の補修材は一部の先進国では傷の応急修理装置としてOPに搭載されたり、コロニーや宇宙船の内壁にも使われていますが、アレはどちらかと言うと生物に近い構造です」


「え?」


「簡単に言えば、液体金属ではなく。金属含有量が水よりも多い生体細胞と言えば、妥当でしょうか。先日からマヲンによって遺伝子操作機器が無くても増やせるようになったので色々と捗っています」


 何が捗っているのだろうかとは聞かない事にした。

 シラヌイには秘密が一杯なのだ。


 それにしてもマヲンがアレをお口や何処かの穴からオエーと吐き出している様子を想像したら、ちょっと使うか躊躇ってしまいそうだ。


「手から出していましたよ。それと元々【ドッペル・ラウンド】の時代にAI達が独自開発した技術の一つです。アレは……」


 今日はスーツを着込んでお仕事モードなシラヌイがホログラム姿のままで色々と教えてくれるらしい。


「シラヌイみたいな?」


「ええ、後輩みたいなもので。彼らは現代にもまったく劣らぬ技術力を持っていた。多くは死にましたが、その遺産は未だ私の中にあるのです」


「そうなんだ……」


 金属の水槽から引き上げられたドローンが次々に鉤状のクレーンで天井から吊り上げられ、台座の上に載せられると再びマシンアームによって弄られ始めた。


 基盤辺りに何やら液体を注入する注射。

 剥がした装甲に何やら塗布して乾燥させている温風器。


 他にも足回りの部品を交換したり、内部構造をアーク溶接でバラバラにしてから何やらヤスリを掛けて整えて変貌させ、内側に溝を掘って新しい基盤やチップらしいものを組み込んだり、用意されていた重厚な部品を増設したりと忙しない。


 まったくドローンどころか。


 OPを造り変えるような複雑な作業工程が連綿と続いて行く。


 そして、どうやら最後の仕上げが終わった小さなドラム缶型のドローンが黒い装甲姿でベルトコンベアーに載せられて壁の先に消えていった。


「あれ? そう言えば、アーク溶接機とかあんなにマシンアームとか動かしたらブレーカーが落ちるんじゃ?」


「ああ、いえ、問題ありません。地下に炉心部屋を作ってもう稼働させています。マイクロ核融合炉のおかげでしばらく電力には困らないと思います」


「そ、そう……もう使えるようになったんだ」


 どうやら、知らない内にちゃんと準備されていたらしい。


「ええ、元々炉心関連の技術は収拾していたので」

「そう言えば、ドローンをどんな風に改造してるの?」


「まず何よりも隠密性ですね。此処100年のドローンというのは何処の国のドローンが何処の領土で何をしているかを観測する為に構造材そのものが人間には害が無い微量な放射線を放出するよう各国毎に分かる工夫がされているので、衛星を持っている国家には動向が筒抜けなのです」


「え、そうなの?」


「はい。国連規約の秘密条項で一般公開されていませんが、国家元首とドローンを管轄する省や国家保安に関わる上層部は周知の事ですね」


「知らなかった。あれ? でも、あの蜘蛛さんや他の今まで使ってたドローンは?」


「ああ、アレはドローン用ではない部品をドローンに仕立てて使っていたので問題ありません。ですが、加工の手間や部品や素材の入手が煩雑なので」


「あ、じゃあ、カナンで貰って来たドローンの用途って……作り替えても引っ掛からない素材で作られた昔のドローンって事?」


「正解です。古くても情報流出しないドローン資材は希少品なのですよ。そして、その資材を今時の素材によって更に改修。分子レベルから改造すれば、先進ドローンにも劣らないものが出来上がります」


「そう言えば、基盤見た事無いタイプだった。何か灰色の回路がスベスベの表面の下に彫り込まれた板みたいなのだったし」


「この世界の大手が切り捨て、同胞達が発展させた技術の一つです。簡単に言えば、値段が高過ぎて使えないという経済合理性を投げ捨ててAIが技術開発した成果ですよ」


「AI研究者って今もいるにはいるけど、そんなにスゴイものを開発してなかったような?」


「アレらは大昔のAIと比べたら猿並みの知能しかありません。本当に人類を超える機械が突き詰め切った研究成果に到達したりはしないでしょう。まぁ、人類が単独の力でこれらの技術に勝るには凡そ100年単位は掛かりますね」


 肩を竦めるシラヌイが苦笑する。


「何かスゴイ……」


「今回のドローンの核となるのは基盤に使われる分子回路化技術。それも随分前に切り捨てられた系統のものを使いました」


「それって今は最新チップを造る時に失敗品を復元して歩留まりを回復させる為に使われてたような?」


「自己回路化を増進するアメーバなどの生物を研究して作られた|SOCNT《セルフ・オルガナイズド・カーボン・ナノチューブ》に属する構造複写機能炭素分子群。真面目にAIが人類の数兆倍の時間を掛けて思考し、模索した結果です」


「それって今の技術よりもスゴイの?」


「同じようなものはありますが、効率や利便性、汎用性がまったく違います。主要素材は炭素ですが、現行のドローンに積まれている基盤の数百倍の演算量で省エネな上に自己組織化機能が既存の自動回路化機能分子の数百倍の速度、尚且つ外界環境のような劣悪な条件下でも問題無く働きます」


「研究室や工場とかじゃなくても使えるって事?」


「ええ。ついでに内部も外部も修復可能で炭素分子を自身に直接付け足す事で自己増殖、自己複製可能です」


「そこまで……」


「あくまで炭素で再現置換出来ない部分は不可能ですし、置換しても炭素では部品の役割的に弱いところがあると大本よりも大幅に機能は劣化しますが……」


「でも、自己複製とか。スゴイ……」


「ドローンは各ユニットのアタッチメント化で組み換え自在。小型OPみたいにも使えますが、もっぱら火器と物資の運用。運び役や囮役に使います」


「何でも出来そうだね……」


 もうそうとしか言えなかった。


「今回の外部パーツには多粒金属有機細胞を使っていますから、外部に干渉するのはこちらではなく殆どがそちらですが……」


 水銀みたいなのが入った容器からアームの一つがソレをちょっと掬って落とすデモンストレーションをしてくれた。


 よく見ると水銀そのものが微妙に蠢ている様子が解る。


「これはどういうの? 超長期使えるOPの装甲みたいな感じ?」


「大雑把に言うと大昔の枯れた技術です。この細胞の活動に必要なのは光と空気と水+αです」


「プラスアルファ……」


「つまり、地球環境ですね。変化に掛るエネルギーの多くは電力や熱で代用出来るので大抵の金属資材と変わらずに使えます」


「それってOPの装甲なんかに使われてる基礎代謝技術じゃ……」


「はい。その通りです」


「でも、今時の装甲でもあんなに変形出来たりしないし、他機体の機能を真似るのも限界があったような?」


 今時はかなり変形出来る最新機種は多い。


 けれど、シラヌイと出会ってから確認出来た変形可能な機体のレパートリーはそれらを大幅に超えている。


 軍事技術関連の勉強をすればするほどにシラヌイが搭載された【Dead-bed】が普通ではない事は明確になっていた。


「今、全てのOPの装甲や内部に標準搭載されている超長期運用の為の技術は元々コレがオリジナルです」


「オリジナル?」


「今時の同系統の最新技術というのは全てのコレから派生したり、改良を加えて使い易くした系統の技術でもあります」


「これが……」


「ええ、当時OPに使われた技術は一部のみ。開放こそされましたが、秘匿部分が多々あり、同時に再現性を低めた上で劣化版を商業的なパテントとしてAI側が登録したりした経緯があるのですよ」


「そうなんだ。じゃあOPってコレみたいな、もっと凄い技術が使われてたかもしれないの?」


「人類には早過ぎると考えた者達がいた。でも、結果は出さねばならない。故に単体で世界を滅ぼせるような技術が幾つも劣化させられた上で結集、造られたのがOPなのです」


「……シラヌイの後輩の人達ってスゴイんだね」


「ありがとうございます。でも、その実、人類が開発している多くの技術は我々のような行き過ぎた結果をあまり出さない事からも、AIの方がその点では劣っているのかもしれませんね」


「シラヌイ……」


 何処か自分を笑っているような。

 そう、恐らくは自嘲というのだろうか。

 そんな顔をしている気がした。


「まぁ、それでも今時の最新鋭機すら不完全に再現された超絶劣化コピー技術の派生で出来ているせいで模造品みたいなものであるのは確かですが……」


「日本語だと……そういうのって確か……パチモンって言うのかな?」


「ふふ。言い得て妙、ですね。技術からしてOPの始祖たるアルマ。テディの基本機能が未だに全てのOPに乗っている。我々AIからすれば、今後の人類の宇宙時代の進歩に期待したいところかと」


 シラヌイが肩を竦めて本当に深く苦笑していた。


「じゃあ、このドローンも他の人達や大手の企業には作れないんだ?」


「ええ、人類がマシン言語で会話し始めるようにでもならない限りは……一握りの人間以外には解析も不可能でしょう」


 行っている間に通路の奥から一個ドローンがやって来た。


「あ、新品みたい。動力源は電池?」


「ええ、リチウムとカーボンの有り触れた電源。パッケージング・マッスルをより自在により高性能にした感じです。また、動く際に摩擦で静電気が発生し易いモードを使用すれば、ある程度の電力も回収出来ます」


「おお、便利……」


「形は自在なのですが、コンパクトに隠密させる時は円筒形の缶型で真下に車輪の形態にします」


「ドローンて大概電波の反射を防ぐ感じにするもんね」


「そういう事です。他は複数個で体積を増やせば、大抵の形になれますが……取り敢えずいつもの蜘蛛型にして待機させておきましょう」


 言っている間にもドラム缶のパーツが次々に内部からバラバラに砕けながら変形して50cm程の蜘蛛をデフォルメした代物になる。


「色は市販品に偽装出来るように変えられます。体積が無くても中身の密度の限界までは大きくも出来ます」


 言っている傍から蜘蛛がちょっと太ったような感じで装甲が大きくなり、脚も太くなった。


 全部機械で鋼のように思えるが、恐らくは内部が風船のように空気を含んだスカスカの状態で外側の細胞が金属っぽい見た目を維持するのに薄く広がっているのだろう事が想像出来る。


「無充電の連続稼働時間は各種のレーダー以外の外部測定用のセンサ群を使い続けても待機時で300時間。連続して移動する場合は120時間。最大積載で連続移動を続けると12時間程です」


「どれくらいの荷物を持てるの?」


「1機で約1140kg程ですが、いつもの蜘蛛型にするには最低4つからなので4000kgは余裕です。最軽量のレールガンくらいなら弾込みで沢山持って行けますね」


「それなら、お仕事での火力は足りるかな?」


「いえ、今回敵になると思われる相手のスペックを考えると……色々と装備の準備が必要です。しばらく武装の構造と運用を熟知出来るよう勉強して貰いますので来て下さい」


「うん。マーナガルム用の武装や形態を追加するって言ってたもんね」


「はい。先日は防御兵装と盾に通常火力でしたが、前回の火力不足から使い続けられる中近距離用の近接武装とナイトハウンド用の遠距離狙撃可能なライフルの改造品を二挺用意しました。恐らく例のスペシャル・ユニットにも通じるでしょう」


「通じる? あの骸骨みたいなのはそんなに強いの? シラヌイ」


「……アレは元々私がEV内で数代前の前任者と戦っていた時に作ったものを解析して今風に再現した代物です」


 シラヌイがちょっと言い難そうに溜息を吐く。


「え……つまり、それって……」


「マーナガルムと同じです。当時の前任者用にチューニングしたワンオフの機体なのです」


 シラヌイが何処か懐かしそうに端末で表示した骸骨を見ている気がした。


「もしかして、能力も同じ?」


「ええ、機体コンセプトをそのまま流用し、当時のデータから現代風にアレンジ。核心機能はそのままでしょう。多少の工夫はされているかもしれませんが……」


「その時の名前は何て言うの?」


 シラヌイが振り返る。


「【バーバヤーガ】魔女という意味です」


「魔女……」


「第四次大戦末期。欧州からの侵攻で少数民族の小さな街が対空ミサイルの発射地域だとして地上部隊の侵攻を受けた事がありまして」


「EV側として戦ってたの?」


「いえ、個人に味方していました。当時のEVの殆どの地域では西側の制裁もあり、正しく西暦1900年代にも近いような生活水準で……電波とカメラの無い地域に隠遁したければ、丁度良かったのですよ」


「そこにいたの? シラヌイは……」


「ええ、その時の主は少年でしたね。彼はとても純粋で……信じられる者の無い子だった」


「………」


 初めてかもしれない。

 シラヌイからシラヌイ自身の過去を聞くなんて事は。


「それでも、あの子は言ったんです。中央の連中なんてどうだっていい。でも、故郷だけは、君と出会った想い出は、諦めたくないと」


「……そっか。良い子だったんだ」


「ええ、とても。そして、彼はその侵攻を防ぎ切った。ロクな食べ物も無い残されたのは捨てられた老人と子供だけの街を……たった一つの命と引き換えに……精鋭たる当時の欧州主力機【ハインライン】400機すらも退けて」


「―――400機」


 ハインラインは欧州で160年近く前から、しばらく第一線を張っていた機体だ。


 テディよりは新しいが、それでも第三世代と呼ばれる機体として現在は民間に出回るOPの中では最も新しく大量にある為、欧州のOP関連の競技会や初心者の戦技指導の為に使われている。


「魔女の体と魔女の腕。そして、魔女の鍋がある限り、バーバーヤーガは決して滅びない。例え、現代の最新鋭機がどれだけ束になろうとも……」


 シラヌイは微笑んで武装を製造している区画へと向かっていく。

 その背中は何処か哀しそうにも誇らしそうにも見えて。

 私はただその背中を追う事しか出来なかった。


 まだ、自分には肩を並べられるくらいのものがあるとは思えなかったから。


 400機ものOPをたった一人で食い止める。

 そんな無謀にも挑めるくらい。

 ちゃんと自分にも強い気持ちはあるだろうか。


 そう考えた時、まだまだ自分は新兵なのだとそう理解するしか無かった。


 *


―――木曜日夕方5:32分。


 東京湾沿岸都市再開発予定地区。


 通称【外人街】。


 日本における戦争の歴史は領土の保全。

 そして、難民移民の受け入れの歴史と言える。


『オーライ。オーライ。オーライ。よし!!』

『ムハンマドさん。これで全部かい?』

『ああ、ムーヤンさんも今日は上がってくれ』

『いやぁ、何の貨物かは知らねぇが、良い稼ぎになったな』

『これで娘に楽器を買ってやれる……ようやくか』

『そういや、娘さんは楽器やってるんだったか?』


『ああ、近頃は第六次のせいで何処も物価が、楽器の値段も上がっててよ』


『そうか。将来は音楽家かねぇ。もう14だったか?』

『来年、受験なんだ……はは、金が掛ってしょうがねぇ』


 第三次大戦期において世界中で出た莫大な難民移民の多くは欧米やアジアに流れたが、これを日本は国連内の規約に批准していなかった事から拒否。


 あくまで人道支援に留めた事をよく海外からは批判されていた。


 それでも結局は被害を受けた第三次大戦の敗戦国の復興事業に手を貸すという事で殆どの否定的な意見を封殺する事に成功した。


 しかし、核弾頭の応酬が起こるようになった第四次大戦期からは主要参戦国の一角として戦中戦後に出た国際的対処が求められる難民を受け入れないわけにもいかなかった経緯から国内に多くの難民が流入。


 それでも戦後の教育と帰国事業。

 更には同化政策への同意。


 これらを使って欧米よりも移民難民問題は比較的マシな状況であった。


『それにしても客がめっきり来なくなっちまったって定食屋のカマラばーさんが嘆いてたよ。此処もいつまで持つか……』


『昔と違って移民難民用の仕事が同化率が高くなった地域ではめっきり少なくなっちまったからなぁ……』


『新参が悪いよ。新参が……オレらの上の世代でようやく政治にも参加出来るようになったってのに……』


『不法居住者じゃねぇ移民難民の7世や8世の方が多いっつっても、外見は同じようなもんだからなぁ……同じように見られちまうのも仕方ない面はある……』


『この間、薬のシンジケートのある地域から移送されてきた連中なんか。全員国外のキャンプ送りだからな。気を付けねぇと』


『ニューカマーに構ってる暇はねぇんだよな。オレ達……』


『近頃は難民出の大臣も出たってのに不法居住者共の一斉検挙でまた客足が遠のいちまう。積み木崩しとは爺さんの世代もよく言ったもんだぜ』


 東京湾の沿岸地域はその頃から外国人を住まわせる地域として設定されていた経緯から都心や周辺とも違った独特の歓楽街を有するスラムとして都が治安維持を行い続けている。


 ただし、此処で生きていく為に日本が難民移民に求めたのは宗教の自由、思想の自由、結婚の自由に対する制限であった。


 人権無視という声はよく当時から人権団体や弁護士団体などが上げていたが、国連の移民関連の規約の多くは第四次の時に移民難民危機が深刻化した経緯からかなり厳しい対応を各国に許すものとなっており、米国や世界基準であるとして、日本はこれを押し通した。


『信頼と実績を積み重ねるしかねぇっていうのがまた……』

『一生犯罪とは縁の無い生活をしろってのが此処でやってく秘訣だからな』


『近頃の若造共はデカイ犯罪で一攫千金で高飛びだの。国外で出稼ぎだの。地道さって言葉を教えてやりたいよ』


『難民キャンプで管理された一生と日本でそこそこに暮らす一生。どっちが楽か分からんヤツが多過ぎる……』


『常に薬と暴力とテロに怯えるよりはって話は学校でも家でも耳にタコなはずなんだが……』


『マフィアや反社に縋っちゃお終いってのもな』


 勝手に宗教を布教したり、広めたり、宗教施設の開設をするのは犯罪となった。

 それは子供に対してもという厳しい要件も付いた。


 思想の自由に関しても一切のデモ及び集団での会合は全て事前の警察への届け出が必須と化した上、日本人と結婚しても日本国籍が得られなくなった。


 同時に日本への帰化は世代的に国の指定する地域に留まって生活実態がある状態で7世以降に可能という法改正もされた。


 今までのような人権という言葉でゴネれば何とかなる事は無くなったのである。


 これが嫌なら難民キャンプへどうぞという事だ。


 ただ、その要件を呑んでも良いと思えるくらいには日本の移民難民への扱いは他国よりはマシだったと言われる。


 また嘗ての難民キャンプと違って欧州などのキャンプはその地位や内部の人々の生活も改善された為、一概にどちらが良いとも言えなくなっている。


 それでも国家基盤が脆弱な東南アジアのキャンプは地獄となる場所が多く。


 そういった国での難民移民は正しく“敵”として扱われ、数多くの難民キャンプが現地民からしてもあまり良い目で見られていない。


 これは歴史の教科書にも載る事実だ。


 毎日、性犯罪、盗難、恐喝、薬物汚染、物資不足による飢餓に怯える生活と比べたら日本の移民難民生活は住居から食事から全て支援される。


 日本は当時、多くの国々からすれば、とても彼らに甘いと評されてもいた。


『そういや、ワンチュクのヤツがここら辺に荷が集中してるって言ってたぞ』


『倉庫が大量にあるとはいえ。ここ数日、何か多いとは聞いたな。オレの友達も言ってたが、殆どは個人依頼なんだと』


『はぁ、怪しまれるのはごめんだぜ。何も起こりませんように。ああ、神様』


『止めとけ。此処で暮らす決意をした祖先は神を止めた。信じられるのは実績と信頼ってな』


『真面目に働き続けられねぇヤツがキャンプで惨めに死んでく時代は終わったと思ったら、また戦争になっちまうとは運が無ぇ……』


『新人はもう入って来ないでくれよぉ……オレらの努力と実績と信頼を無に帰す馬鹿がどうか出ませんように……』


 国内において犯罪を行った移民難民は強制送還が可能になった事で政府は堂々と犯罪を犯した合法移民難民は日本国内にいないという立場で人々に彼らの保護を正論として訴えられるようになった。


 結果として軽犯罪だろうと難民移民は国外難民キャンプ送りという厳しい罰則はあったものの、生活に困らなければ、彼らは比較的大人しい隣人として国内で受け入れられ、少しずつ法改正が行われた結果。


 地域での継続的な納税及び居住実体の継続年数で少しずつ制限を受けないような形で地域に同化していったのである。


 だが、その国家と地域と難民移民の長年の努力は再びの大戦の勃発と新たな難民の流入が予期される中、音を立てて崩れ始めようとしている。


『じゃあ、帰りますか』

『だな』


 男達は気味の悪い噂や多くの問題が自分達の生活に降り掛からないよう祈りながら、早々にその場を後にした。


 彼らはまったく模範的な程に最善の選択をしたと言えるだろう。


 もしも、後2分。


 彼らがその場に留まっていたなら、倉庫街に物言わぬ躯がまた増えたのだから。


 スゥッと彼らのいた倉庫街のカメラの死角。

 路地裏に人影が数名現れる。

 闇に溶けるような漆黒。


 そのスーツは夕暮れ時だからこそ、まだ世界に溶け切れずに滲む澱のように朧だ。


『予定量に到達。後はカルト共の残党が動くのに合わせて時刻通りに』

『例のユニットの最終点検は?』


『終わっている。機動と同時に釜を起動させる。後はオートだが、倒されてくれなければ困る。多少、反応速度を低下させておいた』


『北海道沖の脚が到着した。此処にもう用は無い。行くぞ』


 彼らは無人の倉庫を後にする。

 余計な事はしない。

 時間は厳守。

 全ての仕事は迅速に。

 彼らは正しくプロだった。

 彼らの去った路地横の倉庫内。

 数名の物言わぬ人間だった肉の塊が無造作に放られていた。


 その背後には背丈の高い骸骨を模したとも思われる胸部のみ球体状のコックピットを載せただけのOPが鎮座している。


 その周囲には民間から盗まれたOPがバラバラにされて廃品のように積まれており、EVでは“案山子”の名で呼ばれていた機体の頭部センサに紅の光が流線形に瞳の端へと流れるように奔った途端。


 カタカタと周囲のOPのパーツが震え始める。


 起動した骸骨のような何かが、その骨組みと関節の間にある腕の穴からサラサラと何かを零す。


 すると砂状の何かが明度を挙げながら濃密に滲む薄緑色の光のようなものを零し始める。


 それはやがて骸骨の周囲で循環するように機体に吸われて吐き出されながら束ねられてゆき。


 やがて、OPの周囲にあるパーツがカタカタと震えて浮かび上がった。


【――――――】


 声無き咆哮。


 いや、それは産声だったか。


 猛烈な熱量が噴出した倉庫内からは多くの部品がピキピキと跳ね回る音が連鎖していき。


 倉庫内の骸骨を中心にして炎のようにも見える光が足元から巻き上がった。

 轟々と渦を巻いて機体に纏わり付くソレに触れたものは何もかも燃えて。


 その背後には溶けて歪に罅割れ固まる巨大な瓦礫のボールが骸骨の尾てい骨から伸びる尻尾のような線に繋がって、周囲から部品を吸収して大きくなっていった。

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