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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
22/41

第21話「マーナガルム」


―――夕暮れ時、某県山岳地帯【楽園】。


 トワイライトカルト【真元法】は現在絶賛拡大中の信者121万人の新興宗教だ。


 各都道府県においては選挙活動にこそカルト規制法と俗称される諸法律で参加こそしていないものの、それでも議員当人や周囲の人間を取り込む事で政治にも日増しに食い込み始めている一大勢力でもある。


 不法な資金の流れを国に把握されない為に現物での徴収による資金集めを行っており、それらを用いた更に不正な布教活動が全国で展開され、今や国家にとっても目の上のタンコブという彼らは本日に限り、全ての柵から解放された楽園に赴いていた。


 主に信者ランクA以上の優秀で財力のある者ばかりが飛行ドローンカーゴによる私的な来訪という名目で某県の鬱蒼とした山岳部内部に設置された巨大施設。


 直径2kmはあるだろう街と呼べる施設の数を有する“地域”にやって来ていた。


「おお、此処こそ我らの新天地!! この第六次大戦を生き残る為の楽園か!!?」


「良かった!! 間に合って良かった!! ああ、聖上こそが、この呪われた時代にようやく表れた真の救済者なのだ。やはり、それこそが真実なのだな……っっ、ぅぅ」


 彼らの多くは【真元法】教祖である男。


 牧本翔(まきもと・しょう)聖上という60代の男に帰依している。


 彼らの宗教における根幹的な要素は生き残る事であり、それ以外には儀式をしたりという事は殆ど無く。


 来る末法の世。


 つまり、現代における人類滅亡を見据えての生存戦略としての教えと共同体として動く事で生き残れる確率が上がるという主張に賛同し、個人的に心酔している者が取り立てられて様々な既存の洗脳方法を用いて“教化”を行っていた。


 シンボルマークは白い下地に壊れた黒い銃。

 彼らは信者は身を護る為にこそ。

 そのシンボルを掲げて命の為にこそ教団に奉仕する。


「おお、大型光学迷彩機器がこのように街の外部と内部を隔てているのか」

「知事に投票して良かった。これで家族も救われる……」

「救国のOPたるハバキリがこのように堂々と!! 何と壮観な……」


 無理な献金をさせる事は無いが、非合法な活動の組織主体となったり、使命感を植え付けられて邪魔な人間を社会的に抹殺したりとやるべき事は多岐に渡る。


 だが、その組織的な行動の多くは自組織の保全や成長以外では基本的に地域の見回り活動だとか。


 金が掛けられない地方における勝手な自警団活動だとか。


 そう言った地域の金が無い場所ではあまりされない活動に重点されており、それが地方においては一部支持されていたりする。


『これよりチャリティーコンサート前の世界平和の祈りを捧げる式典が行われます。真なる安寧の地。この【楽園】の旗の下、我らが子供達、我らが家族を護る為、戦うOP達の一部パレードも行われます。皆さんは奮ってご参加下さい』


 終始和やかな地域内部ではようやく集まった2万人近い来訪者を運び終えた彼らの同胞が運営する輸送ドローン企業がカメラ映像すらも切った状態で帰っていく。


 一度に百人以上を運ぶ巨大な輸送ドローンは最新式のフライトシステムを搭載した宇宙開発企業用なのだが、それすらも備えている【真元法】はひょっとしたら地域の権威そのものとすら呼べたかもしれない。


『ご高齢の方達は知っているようにハバキリは長い間、我が国を護る為に仕えて来た護国の象徴です。そのおかげで大陸よりの侵攻は防がれ、多くの国民の命を救った。しかし、今の政府は―――』


 プロパガンダが垂れ流される区域内部の放送。

 それを行うのはカルトに所属する元アナウンサーだったりする。


 此処にいる信者ランクAの者達は違法行為に手を染める事が出来る技能者集団であり、日本各地で教団の拡大に貢献した者達ばかりだ。


 彼らが資金を捻出し、彼らが資材を入手し、彼らが人々を騙した結晶は正しく今いる要塞という形で結実し、嘗て護国の象徴とまで言われた退役済みのOPは奉納された神社や寄贈された博物館、あるいはまだ存在していた予備部品の多くを寄せ集められて、大量に要塞の地下施設において組み上げられ、今や本当の軍隊とすら戦い得る戦力として結実していた。


『自らの大切な人々を護る。これだけの事を人々に約束出来ない政府から【真元法】は政治を取り返し!! きっと国民に受け入れられる大いなる存在として燦然と歴史に輝く事になるでしょう。さぁ、皆さんも聖上様と共に祈りましょう!!』


 大型の半屋外ホールの舞台の背後にはこれらが数機並んでおり、その異常性を認識していない多くの人々は法律が護られていない事よりも安心感に顔を緩ませ。


 此処に自分達の家族を連れて来られなかった事を残念に思った。


 今回のお披露目は正しく秘密のものであり、彼らの家族を連れて来る前の最終確認という意味もあったのである。


 そこに十代の子供や伴侶を連れて来なかった男女の多くはきっと次はこの地に家族達を連れて来ようと目を輝かせ。


 破滅の未来に輝く希望に胸を躍らせていた。


「……いやぁ、久しぶりに見るな。こういう空気」


 要塞ホール背後の建造物。

 基地機能の地表部分を担う詰め所の奥。

 窓ガラスの無い部屋で外の映像を壁に映して見ていた男が肩を竦めていた。


「イルマ。座れ……」

「へいへい」


 今時珍しい時価4000円の日本製の煙草の煙が室内に充満する。


 イルマと呼ばれた40代の東南アジア系の顔立ちの褐色の肌の男がサングラスを掛けたまま柔らかなソファーに身を沈める。


 彼の手前に座っているのは牧本翔。

 聖上と呼ばれる60代の日本人。

 正しく【真元法】の教祖その人だった。

 細身で上背のある男の顔は少し縦長にも見える。


 その額には左の鼻元を抜けるように顔を両断する縫い傷があり、その筋の人にも見えなくはないが、当人の雰囲気は至って静かだった。


 煙草を一吸いで揉み消した牧本が目の前のサングラスの男を睨む。


「で? 政府への襲撃計画の進捗は?」


「ん~~4割ってところかなぁ。牧本さんとこのが良い仕事してる。でも、結局は力不足って感じか?」


「だろうな。お前は昔から仕事が好きじゃなかった……」

「オイオイ。これでも働いてるんだぜ~~? 残業だってしてるし」


「趣味を残業呼ばわりするな。この20年で散々に東南アジアでお前がゲリラ狩りをしていたのを知らないとでも思ってるのか?」


「あははは。旧友に手厳しいのも昔からだなぁ。たった二十年で此処まで組織を大きくしたってのに使い捨てるなんてもったいねぇ」


「この時の為だ。そもそも日本人名を名乗った時からの計画だ」


「あの熟練教導官が今じゃ日本一のトワイライトカルトの教祖様と聞いたら、部隊の連中も化けて祝福してくれそうだ」


「止せ。これでも信心深い方でな」

「そんなだったか?」

「元々、クリスチャンだぞ。オレは……」

「マジかよ……紛争中に弾庫艦から雨が降って来た時以上の驚きだ」


 イルマと呼ばれた男が今世紀最大に真面目な顔となる。


「真顔になるな。別に信じちゃいない」


「悪い大人だ。ちなみに此処から悠々自適に教祖生活で老後を暮らすって手は?」


「無いな」


「だと思った。でも、今や祖国も無しに政府襲撃。意味なんかあるのか? というか、この計画何処の誰が図面を引いてる?」


「フン。賢しいとまた死に掛けるぞ」


「昔の事は言うの反則だって。ビルマ戦線時代は祖国統一だの何だの部下に最もらしく聞かせてた癖に」


 そこで牧本が僅かに苦笑を顔に浮かべる。


「アレは建前というヤツだ。日本人的な感覚で言えばな」

「建前ねぇ……」

「お前は統一前の祖国の内陸部に行った事はあるか?」

「無い。いや、あるわけも無いと答えとこうか」


「もう80年前になるが、汚染が広がる前にオレは一部の地域で今も封鎖されてる基地に勤めていた」


「え? マジで? もしかしてチャイニーズだったの?」

「いや、インド人だ。片親がクリスチャンだった」

「う~~ん。波乱万丈♪」


「若い頃に色々あって、流れ着いたのが其処だっただけだが、それがオレの運命を変えた」

「それで? それが20年も掛ける計画の発端になったって?」

「まぁ、聞け。当時のオレはしがない民兵に偽装した難民崩れのクズだった」


「フムフム」


「毎日毎日、余興に死に掛けたガキ達に饅頭を恵んで、それを争って手に入れようとする様子を眺めるのが趣味だったな」


「わーお。今と何も変わらないなぁ」

「……当時、荒廃した内陸部の基地には噂があった」


「噂?」


「ああ、核弾頭が山ほど落ちたから大陸は汚染された。そうお前だって歴史で習っただろう?」

「ん? ああ、学校で習ったような? 習わなかったような?」


「で、その当時の兵隊の噂はこうだ。山程の核弾頭なんて実際には落ちていない。だが、放射能汚染は起きてる。その理由は党が核兵器を不発で爆破したからとか、内陸部の原子力発電所の事故を隠蔽したとか。そんな現実にあったような程度の事実じゃぁない」


「違ったのか?」


「ああ、違ったんだ。ユーラシア中央域まで広がる汚染の原因はたった一機のOPのせいだと誰かは言った」


「OP? オルガン・パンツァー?」

「そうだ。オレは馬鹿な話だと笑った。そして、翌日そのOPに出会ったんだ」


「は?」


 牧本が煙草を一本加えて上を向く。


「そいつは一瞬で基地を焼き払った。まるで日本のアニメみたいな射撃兵器でな。光の乱流が荒れ狂う中でOPも人間も基地の周囲の都市さえも一発にしては長過ぎる赤黒い光の中で消えていった」


 牧本の瞳が僅かに過去を見て細められる。


「なら、何で生きてるのさ。牧本さんは」


 とうとうボケたかという顔でイルマが訊ねた。


「オレはその時、丁度都市の外に買い物をしに行くように言われてたんだ。ま、単なる娼婦を拉致って来いってな命令だった」


「で?」


「……その後、周囲の放射能温度が急上昇した。オレは娼婦を撃ち殺して内陸から国境に逃げた。だが、その最中……オレは機密通信を傍受した」


「機密通信?」

「ああ、当時オレのいた基地は通信基地でオレは通信兵だった」

「……内容は?」

「【Dead-bed】49-33抹消完了。短くソレだけだ」

「デッド・ベッド?」


「基地を襲ったOPは空を飛んでた。今思えば、超重元素製のフライト・ユニット。今、最新鋭機のフラッグシップに搭載され始めてる装備だったんだろうな」


「80年前に? オイオイオイ……ボケるのもさすがにそこまでにしといた方が……」


「はは、信じられんだろうな」

「勿論。アンタがボケてる方に100$」


「だが、な。その後、オレが他の基地に潜り込んで知った話だが……140年前くらいに大陸の各地の基地にテスト機が搬入されていたって証言があるんだ」


「テスト機?」


「そう……で、そのテスト機の出所を探ったら、当時の欧州OPの半数を造ってた最大手……今は日本のバイオンに買収されてるところからの品だった」


「ほうほう?」


「調べてみたんだよ。5年程……そうしたら、核弾頭が落ちたとされる地域には必ず、その企業からのテスト機の搬入があった。主にフランス経由で」


「………」


「そして、その機体の形は多少変わってこそいたが、オレのいた基地を焼き払ったOPと殆ど同じだった」


「陰謀論?」


「言うと思った……だが、それからだ。オレがソレを追い掛け始めたのは……」

「え? まさか、出会った時にはもう?」


「そういう事だ。オレは眠ってる機体が無いかどうかを追跡する為に人生を賭けた。何故かって? 惹かれたからさ。一度でもいい。あの圧倒的な何かをもう一度見てみたいと思ったんだ」


「まるで少年じゃん。牧本さんがそんなキャラだったとはこのイルマの目を以てしても……」


「茶化すな。自分でも自覚はある」


 テーブルに置かれていたポットから紅茶がカップに注がれて、ミルクが入れられ、掻き混ぜられる。


「取り敢えずはそこから歴史の専門家を当たったりもしたな。欧州のOP開発者の手記なんかを子孫から漁ってもみた」


「結果は?」


「【Dead-bed】は実在する。ついでに当時の大陸を汚染し尽くした兵器の設計図も見付けた」

「マジかよ……いや、本当にマジかよ……」


 イルマが物凄く面倒そうな顔になる。

 だが、更に会話が続く前にAIのアナウンスが響く。


『式典10分前です』


「時間だ。後は終わったら話そう」

「ここに来てお預けとか。そりゃないぜ」


「フン。ガキがいつまでも甘えた事を言うな。だが、こんな与太話を聞いてくれる好奇心だけは信じてやってもいい。十二番倉庫。食料保管庫の裏にいつもの暗号で開く地下施設がある。機体を用意した。くれてやる」


「まるでこれから死にに行くみたいだぞ? あの米陸軍すら畏れさせたアンタが……」


「歳を取り過ぎた。本来なら、自分でやりたいところだが、時間が有るのか無いのか。一つだけ約束しろ」


「約束?」

「その好奇心。忘れるなよ」


 男が初めて自分の本来の笑みで残される男にニヤリとして部屋を出ていく。

 残された男はまるで最初から誰もいなかったかのように静まり返る部屋で自分の顔を剥ぐ。

 中からは欧州系の優男の顔が出て来た。


「馬鹿だな。アンタ程の男が夢を他人に丸投げとは……だが、覚えといてやるよ。昔のよしみで。じゃあな……古き戦友よ……贈り物を頂いてから横浜に帰るとしますかね」


 男は伸びをして、その場から歩いて目的の場所に向かう。

 これから此処で何が起こるのか。

 それを最初から知っていたかのようにひっそりと。


 *


『ねぇねぇ、シラヌイ』

『何でしょうか?』

『これがマイクロ核融合炉の現物?』

『そうですね。設計図とも合致します』

『……シラヌイ設計図持ってるの?』

『重要部分が無い皮だけですが』


『これをシステムから引っこ抜くとミッション・スタートなんだよね?』


『はい。勿体ないですし、ちょっと頂いて行きましょう』

『大丈夫?』


『高々1.5mの1500kgですよ。この躯体の最大積載量は2000kgです。走るのも余裕ですね』


『じゃあ、いっせーのーで』

『いきます』


 ガチンッと巨大な電池のようなものが外れた。


 途端、周囲が全て暗闇になり、同時に非常電源にも切り替わらずに扉が全て開いて行く。


『もしもの時の為に電源が切れると開く設計です』

『じゃあ、行こっか』

『ええ、行きましょう』


 大きなドラム缶とラバースーツのような黒い全身エナメル光沢のスーツとヘルメットに身を包んだ誰かが壁面から引き抜いた巨大な電池のようなものを背中に背負って共に走り出した。


 いや、片方は下の車輪を回しているだけだったが。


 此処まで来るのに五人程、警備の人間を射殺して、システムハックで一部の監視カメラの映像をループさせているのは気が付かれていなかった為、あっさりと言ってよい手際で彼女達は【真元法】の地下電力設備の中枢を盗み出す事が出来ていた。


 敵に一発も撃たせていない時点で大成功と言えるだろう。


 本来、メイン電源設備に何かあった場合の為、非常電源に切り替わるはずだったが、その電源設備にバッチリ細工済みである。


 配電盤には今も手のひらサイズの蜘蛛型のドローンがくっ付いており、電波を拾って指示通りに回路基板の一部を焼き切ったり、コードを自身に繋げたりして、好き勝手に制御を弄っている。


『では、此処で目的地に着いたら自爆を』

『うん。じゃあ、シラヌイはそのまま離脱だね』

『タイミングは躯体が監視カメラの範囲圏外になった瞬間からで』


『了解』


 次々に開いていたドアを通り抜けたドラム缶が人影とは別方向に向かっていく。


 それは要塞内部の地下ハンガーだ。

 ハンガー内には弾薬庫が隣接している。


 数十機以上ものOPが横にズラリと並んで人の気配も大量にする場所をそのドラム缶型のドローンは如何にも作業用ドローンですと言いたげに進んで行き。


 弾薬庫と隣接する壁際にピタリと止まった。


『オイ!! 何が起きてる!! 電源が止まってんぞ!!』

『非常用はどうしたぁ!! 全部同時に止まるわけねぇだろ!!』

『配電盤を見に行きたいので誰か暗視ゴーグルを!!?』


 要塞内部は実に騒がしい声に溢れている。


 そして、暗闇の中で行き交う男の1人が自分の背丈より少し低い程度のドラム缶にブチ当たって思わず叫ぶ。


『誰だ!? こんなとこに塗装用のドラム缶置いたのはぁ!! 殺すぞボケぇ!!?』


 そして、声の主はそのまま帰らぬ人となり―――。


 広大な敷地面積を誇る楽園。


 その基地機能の8割が消し飛んだのは会場に人間が詰め掛け終わった時だった。


 最初に明かりが消えて、ざわついていた運営者達が一部、基地機能のある地表の建造物内部に侵入しようとした時。


 最初に人々が感じたのは猛烈な衝撃と光の乱舞。

 ソレが誘爆した弾薬庫から放出されたナパームの光だとも知らず。


 信者達の六割がその瞬間に近場にあった壁の瓦礫に押し潰されながら地表へと人間の残骸としてばら撒かれ。


 燃え上がる噴煙の最中で猛烈な炎が周囲に拡散。

 一瞬で辺りの人間を高温高圧のガスと共に嘗め尽した。

 不運だったのは要塞内部の設計だ。

 政府から隠蔽する為に弾薬庫をハンガーと隣接させていたのだ。


 内部でハンガーと完全に一体化した弾薬庫はオートメーション式の弾薬補給を可能としており、効率的に無人機を運用する手筈だったのである。


『何だコレは……』

『な、んだ……よ……これ……』

『何なんだよォおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?』


 爆発に巻き込まれた会場の舞台後ろに屹立していたハバキリの中でも瓦礫の直撃に耐えた3機がもう動く者も無い高温の炎が通り過ぎた大地の最中に消し炭となった人の影を無数に見ながら、罅割れたカメラで辺りを見回す。


 先程まで第六次大戦を生き抜く為に彼らが作り上げた誇らしい程の楽園が広がっていた。


 が、今や其処には躯と巨大な瓦礫の山と背後の今も炎上し続け、有害な噴煙に覆い隠されている大穴があるだけだった。


 大地は罅割れ。

 多くの施設の硝子と屋根は吹き飛び。

 まだ内部にいたであろう者達の呻き声は瓦礫に遮られて届かない。


『地獄だ……』


 だが、あまりにも残酷な事に……大規模光学迷彩の機器は自立可動式な上に要塞の最も外に配置されていた為、未だに噴煙を上げ続ける大穴も地獄となった要塞内部も全てを覆い隠していた。


 そう、誰も助けには来ない。

 しかし、それでも隠し切れないのは巨大なキノコ雲だろう。

 直に地方の警察か消防が偵察ドローンを派遣してくるのは確実。

 ハバキリが見付かれば、彼らは犯罪者として取り締まられる。

 だが、無慈悲なる現実はそれを許しすらしない。


『レ、レーダーに感有りだと!?』


 ハッと残ったハバキリの一機が上空を見上げた時。


 猛烈な速度で光学迷彩の上から次々に黒い物体が各施設の上へと降り注ぐ。


 そして、彼らの前で更に炎が吹き上がった。

 残っていた生存者の全滅が確定する。


『ナ、ナパーム!? 敵機だ!? クソゥ!!? お前ら準備しろ!! 指揮官だろう!! まだ、各地の地下のドローンの反応はある!! 行くぞ!?』


 有人機に乗っていた者達の中でも40代の男が叫ぶ。

 だが、他の二機はそれに追随しなかった。


『何をしている!? 機体を起こせ!! 死にたいのか!!?』


『お母さんお父さんお母さんお父さんお母さんお父さ―――』


 ブツブツと呟く20代の若者の声は完全に壊れていた。


『ひ、ひ、し、死ぬんか!? わい死ぬんか!? 死にたくねぇ!? 死にたくねぇ!!?』


 もう一人の30代の男は炎から逃れるように彼らに背を向けて走り出した。


『馬鹿野郎!!? 動体センサの的にな―――』


 角在りの有人機ハバキリを指揮する総隊長たる男の声は途中で空しく掃射音に掻き消された。


 上空から猛烈な火線が襲い掛かり、走っていたハバキリの胴体を薙いで瞬間的に吹き飛ばす。


 レールガンの速射だ。


『ッッ、全機起動!! 対空迎撃用意!! 撃てぇえええええええええええええ!!!』


 ナパームで焼かれ続ける要塞の都市機能だった建造物の残骸の幾つか。

 その横にある基地内移動用車両を置く駐車場がスライドし、地下格納庫が開いた瞬間。

 猛烈な対空火器の応射が弾幕を張った。


 敵の姿が見えないので当てずっぽうになっているが、それでも何もしないよりはマシだろう。


 だが、上空では僅かに盾に弾かれた火花しか散らない。

 次に応酬として地表に送られたのは観測用のドローンらしき丸い球体。


 総隊長機は大盾を使うC形だった為、咄嗟に上空へと向けて両手の盾をクロスさせるよう二重に展開する。


 ミサイルの入ったポッドは式典という事で付けていなかった為、攻撃手段の持ち合わせが無かったのは不運だろう。


 途端、ガガガガガガガガガガッと盾を貫通する勢いで猛烈なレールガンの速射が地表へと再び襲い掛かり、溜まらず大穴の方へと機体が退避していく。


 だが、最後まで壊れた呟きを零していたスナイパータイプのハバキリは火線に呑まれて爆発炎上した。


『このぉ!? 弾幕を予測座標に集中させろ!!』


 次々に各地のドローンによる弾幕が総隊長機のAI予測を元に敵の機動予測ポイントに偏差射撃で撃ち込まれていく。


『やったか!?』


 総隊長たる男がヘルメット越しの血に半分塗れた視界で見たのはようやく姿を現した滑空中の敵の姿だった。


『白い翼の、ガルム、だと?! アレは!!?』


 対空迎撃中の火線の束が水平になり、現れたガルムに殺到する。


 だが、その火線が金属製の骨組みを組み合わせたような翼のパーツから瞬時に伸びる無数の光の線によって掻き消されるかのように失われていた。


『レーザー式の自動防御兵装!!? G9の最新兵器か!? クソゥ!!?』


 現行の最新機種においては特に指揮官機を失わないように高額の防御兵装がアタッチメント方式で積まれる事がある。


 そして、その内実は殆ど民間には漏れ聞こえてこないが、中には猛烈なレールガンの弾幕すらも防ぎ切る事が出来る代物すらあるというのは軍事関係者なら知っていて当然の知識だった。


 二十機近い無人機の火力が集中しているにも関わらず。

 まったく衝撃一つ受けた様子もないガルムが悠々と盾から降り立ち。

 ソレを片手にして周囲を頭部センサーで見回す。


『あの量の弾幕を防ぐのか!!? 何だ!? どうして弾幕が止んだ?!!』


 全てのドローンと繋がっていたはずのハバキリのAIからはネットワークからドローンが遮断されたとの報告。


『ハッキング能力まで?!! 防御系の電子戦機か?!!』


 総隊長機に乗る彼にとって最悪だったのは相手は盾持ちな上に片手の火器を捨てて、腰の火器に切り替えた事。


 相手の火力はまだ尽きていない。

 咄嗟に噴煙に隠れるようにして横合に全力で角在りのハバキリが飛ぶ。


 だが、レールガンによって左膝が撃ち抜かれ、その衝撃で吹き飛んだ機体が穴の奥底へと落下していく。


『ぐぉおおおおおおおおお!!? まだだ!! まだ落ちるなぁあああああああああ!!!?』


 落下でバラバラにならないようハバキリの片腕に用意されているワイヤーアンカーが地表の穴の縁に引っ掛かり、落下速度を殺していく。


 そこに追撃を掛けようと白い翼のガルムが走り出そうとした時。

 周囲に声が響いた。


『オイ。そこの自意識過剰な天使犬』


 瞬時に音声の発生元にレールガンが速射される。

 だが、その攻撃は盾に防がれていた。


『お前のせいで旧友が死んだ。警察が来るまで時間もあるだろう。ちょっと付き合え。ああ、ちなみにオレは此処に知り合いはいるが、信者連中とは無関係だ』


 僅かに戸惑うようなガルムの仕草。

 炎の中から現れたのは紅いハバキリだった。

 だが、全体的なフォルムがそもそも違う。


 ハバキリよりも肉厚な装甲を纏ったソレは全体的に重装甲ではあったが、機体の腰、肩、背中、膝裏から生えた計8本のサブアームに紅い装甲と同じ材質の盾を保持しており、その盾の裏からはチラリと重火器の銃口が見えている。


 その様子に白い翼付きガルム内のコックピットには呟きが零れる。


「防御型のスペシャル・ユニット?」

「どうやらあちらの切り札のようですね」

「え? でも、宗教とは関係ないって」


「それが真実でも彼はやる気ですよ。とても人間らしい感情に従う者。その決意は決して侮れない」


『じゃあ、行くぜ。ちょっとは遊んでくれよ!!』


 紅い機体が突撃してくる様子に咄嗟に向けたレールガンが発射される。

 だが、同時に白いガルムが背後に跳躍していた。


 盾がレールガンを受け流す間に別の盾が向けられて内部に備えられた2連装のレールガンを速射したからだ。


 この距離ならば、当たるのは必至。

 しかし、翼のレーザー防御がレールガンの弾を蒸発させた。


『って、事はぁ!! こうだろ!!』


 盾の裏側から両手で大振りのナイフを抜いたハバキリが跳んだ。


 猛烈な加速で砲弾のように迫る敵のナイフが片方、白と蒼のストライプな盾に防がれて弾かれ、もう片方がレールガンを弾き飛ばした。


 そのまま密着状態でレールガンの速射に移行しようとしたハバキリがしかし盾のシールドバッシュで反対方向に20m近く浮いた状態で猛烈な勢いのままに弾き飛ばされる。


『クッソ!? 密着から此処まで!? 馬力差があるのか!?』


 地表を削るように前のめりで着地したハバキリに再度拾われたレールガンの速射が襲い掛かり、複数の盾に弾かれていく。


 AIが互いの位置と姿勢を理解し、盾を効果的に使って自動防御しているのだ。


『はっはぁ!! 燃えて来たぜ!! 密着は不可能。レールガンじゃ殺せねぇ。近接は馬力が違う。不利だなぁ。あははは♪』


「あの人楽しそうだね。シラヌイ」

「戦闘狂という奴でしょう」


 未だに外部音声をオンにして戦う男の声は愉悦に染まっている。


『なら、コレは!!』


 今まで使われていなかった背部の盾が脇の下から展開して猛烈な銃撃を見舞う。

 咄嗟にガルムが横に飛びながら、レーザーが弾丸を撃ち落とし―――。


「ッ」


 レーザーによって蒸発したはずの弾丸が彼らの背後にあった建造物の壁を一撃で打ち崩した。


「超重元素をコーティングしたフルメタルジャケット弾です。通常弾とは意味が違って、本当に文字通り弾丸を保護した代物です。運動量によってはこちらの装甲も貫通するでしょう」


「どうして解ったの? シラヌイ」

「盾と矛は常に矛が優勢というのが人類史だからですよ」


 言っている傍からガルムが相手から距離を取り、まだ燃えている建築物を威力を殺す壁に使って退避していく。


 レールガンの弾が尽きてガルムに投げ捨てられる。


「あの弾丸相手では部が悪いです。残存火力は腰の追加ナパームと手榴弾くらいですが、無誘導。更に言えば、空からの強襲を選択した為、追加の武装は持って来ていません。周辺ドローンから武器を得るには後3分掛かります」


「大丈夫。まだ弾ならあるよ」

「?」

「これ、使えるよね?」

「―――勿論です!!」


『出て来い!!? 逃げ回ってるだけじゃジリ貧だぜ!!』


 壁の背後から通常火器で打ち据えて、敵に回避させつつ、本命の弾でズドン。

 そんなハバキリからの攻撃が相手を捉えるかと思われた。

 しかし、それよりも早く重火器による応射がハバキリの盾を削る。


『まだ火器を残して―――』


 防いでいた盾を使うサブアームに異常が発生し、慌ててハバキリが受ける位置と盾を代えて回避行動を取る。


『何だこの威力!?』


 炎と煙の壁から出て来た相手を見てハバキリが距離を取った。

 ガルムの腰に構えられていたのはドローンが使っていた火器。

 40mm対空機関砲だった。

 根本から引き千切った部分にはコードがジャックインされている。


『オイオイ!? それは反則だろ!!』


 殆どのOPの火力は基本的にはレールガンへ依存している。

 火薬式の銃よりも軽量で弾が小さくても威力が出るからだ。


 だが、だからこそ、その取り回し易さから扱える火器の重量は低くても良いという事で従来の自走式やドローンに搭載された火器の運用は専門のサーボモーターを入れ込んだ駆動系が無いとパワーが足りずロクに持てない。


 しかし、その常識を覆すように白いガルムは悠々とドローンから奪った対空兵器を水平に射撃し続け、圧倒的とは言えずともハバキリとの間合いを突き放す事に徹していた。


『今時有線かよ?!!』


 一定以上の距離さえあれば、レールガンによる攻撃も本命以外は怖くない。

 避ける事も可能だからだ。


 例え、相手が兵器そのものを狙っても、切り離して次のものを使えばいい。

 その上、最初の位置取りで敵を建物から遠くに押しやった為、追加で武装を得る時間すらある。


『ダメだな。はぁぁ……此処は負けとくぜ。あばよ』


 戦況が複雑化し、一手違いで撃破されると見てか。

 すぐにハバキリが盾を全てガルムに向けた状態で山間部へと撤退していった。


「……後退した?」


「ええ、そのようです。周囲のドローンのセンサに感有り。警察のドローンです。一機穴の底に逃しましたが、基地機能は破壊済みです。生命反応は戦闘中のレコードを精査しても検知出来ず。ミッションはほぼ完了。帰投しましょう」


「うん。あんなに強い機体や人もいるんだね……シラヌイ」


「世の中は広いので。今日の戦利品は小型核融合炉ですね。本来なら数百億円から一千億円以上するので儲けました」


「あはは……そうだね。秘密にしておかないと」


「ええ、生存者がいても政府の方が捕らえるなり、追うなりしてくれるでしょう。周辺に警察だけではなく公安の機動部隊も来ているようですし、問題ありません」


「そう言えば……」

「?」

「このガルムって何て名前?」


「ナイト・ハウンドの改良型なのでホワイト・ハウンドとでも呼ぶべきでしょうか?」


「白いワンちゃん? でも翼の要素は?」

「では……【マーナガルム】でどうでしょう?」


 雑談をしながら、全天候量子ステルスによってガルム。

 いや、マーナガルムと命名されたソレがその場から消えていく。

 残された噴煙と炎の地獄の底。


 大穴の内部に辛うじて未だ開いていた緊急脱出用の通路に体を引きずる総隊長機のパイロットの姿があった。


 もうヘルメットは脱いでいる。


 その顔はドイツ系らしくアッシュ・ブロンドのあちこちからは血が滴っていた。


「ようやく手に入れたはずのものを……こうも簡単に失うとは、な……許さんぞ……白いガルム……」


 ズルズルと足と体を引きずりながら、彼は辛うじて1機だけ残っている自立AI搭載型の運搬用ドローンを見付ける。


「まだ、運は尽きてないようだ……ぅ……この、先へ……」


 通路の先は未だ見えない。

 しかし、その車輪の回る音は闇の奥へと消えていくのだった。

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