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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
21/41

第20話「夏の部活とスペシャル」


「あ、新入りだ」

「?」


 カナン女子は基本的に大学と同じで取りたい講義を取って単位を取得して卒業する方式を取っている。


 講義は基本的に持続性を見る出席日数と内容の理解を図る試験の点数が半々に機械で採点されていて、毎日出席してそこそこの点数で平均点が60点を下回らなければ卒業可能らしい。


「ええと、デンネ=サン?」

「何でちょっとカタコトなんだよ……」


 ジトッとした瞳でこっちを見ていたのはちょっと小さな背丈にヘッドフォンとバイザーを掛けてフィンガーデバイスである手袋を付けている子だった。


 昼前の講義。


 外国人用の一般教養を終えた後、校内にある学食に向かう途中の通路での事だった。


「こんな人気の無いとこで何してんの?」

「えっと、迷っちゃって……」

「学食?」

「うん」

「こっち。付いてくれば、アタシも学食だから」

「ありがとう」

「ッ、別に感謝される程の事じゃないし」


 周囲に人はいない。

 此処にいるのは単純な理由。


 ちょっと道に迷ったからだ。


 学内は広過ぎる程に広くて道も込み入っていて、特定の通路からしか行けないエレベーターなどが在ったりする。


 直観的に繋がってそうと思った道が別のところに繋がっていたりする上に階層も多くて上りと下りのエレベーターの他にも斜め移動するエスカレーターがあったりして校内の地図を見ずに歩くとすぐに迷子だ。


「アンタ、ヘッドみたいにオートバイで登校してるよね」

「うん」

「あのバイク。そんなポンと買えちゃうわけ?」

「妹に貰ったの」

「ふ~ん。プレゼント、か……」

「?」


「何でもない。アンタ此処に来て結構立つけど、何もしてる様子ないよね」


「何もしてる様子?」

「商売だよ。商売」

「でも、して欲しくないんじゃなかったっけ?」


「そりゃ、アタシらのシマでの事じゃん。ジャンル被って無かったり、競合してなかったら何も言わんし」


「そうなの?」


「そうなんだよ……はぁぁ、此処じゃ資産の価値はそいつの価値ってくらい。自分で稼いだ金は重要なんだ。それが信用だからさ」


「信用?」


「金の稼ぎ方がよっぽどに汚くなきゃ、金を稼げるヤツって信用が影響力になる。そして影響力が自分を護ってくれるんだよ。勿論、親だって資産の内さ」


「よく分からないけど、お金稼がないと大変て事?」


「そりゃね。この学校じゃ虐めは無いけど、見下されない為には必須だよ。誰も彼も小さな店舗を経営してたり、あるいは芸術性や技能、知能が高い連中はそれで稼いでる」


「ふむふむ……(・ω・)」

「アンタ、女帝の親類なんだろ? 何か得意な事無いわけ?」

「得意な事……?」


 パッと思い付くのは兵隊さんの技能だ。


 けれど、それは言えないし、他にお金を稼ごうと思ったら今も続けているOPの勉強くらいしか思い付かない。


「OP整備したり作ったり出来る。ちょっとだけ」


「オルガン・パンツァー? はは、こいつは……成程ね。じゃ、あのバイクもアンタが整備してんの?」


「うん。シラヌイが自分用にカスタマイズしてみてって言ってたから」

「他には?」

「スーツも作れる。OPの部品が無いと出来ないけど」


「技師って事か。面白いじゃん。今時のOPは殆ど企業体の独占で旧い技術しか使えない民間じゃ左程の事は出来ないんだろうけど、アンタの背後にいるヤツを考えれば、最新のOPとか触っててもおかしくないし……」


 何か勘違いされている気がするけれど、それを言うと詳しく言わないといけないかもしれないので黙っておく。


「……なら、アンタ。ウチの部でちょっと触ってく?」

「え?」


「カナン女子は結構ハイレベルなOP扱ってるよ。民間クラスのだけど」

「それって……スポーツタイプの戦技とか格闘技大会とかに出るヤツ?」

「そうそれ。【OPST(オプスト)】って知ってるだろ?」


 正式名称はオルガン・パンツァー・スポーツ・タイトルの略称だったはずだ。


「うん」


「OPの民間戦技大会。世界中で民間に一昔前の型落ちでもOPのコックピット周りだけ売られてたりするのは優秀な技能者が必要だから。民間からリクルートするのが目的ってのは有名な話だけど、その中から開発者、戦術や戦技だけじゃなくてドローンも用いれる指揮官クラス用の連中も幾らか選抜されてる」


「知ってる。雑誌とかでやってるよね?」

「そういう事。ウチにもそれ専門の部活があるのさ」

「もしかして……」


「ふふ、気付いた? アタシの家はOP用の制御チップも扱ってるからね。もしも、アタシに付いて来るなら、触らせてやってもいいよ?」


「ぉお……」

「興味あるって顔だ」


 デンネ=サンがニヤリとした。


「じゃあ、ちょっとだけ……」

「昼食は校内なら何処にでもドローンで届けて貰える。付いてきな」


 こうして、ちょっとだけ触らせて貰おうと付いて行く事にしたのだった。


―――10分後。


「オイ!! 起きろオメェら!!」


 ビクッとしたツナギを来た子達が大きな部屋の壁際のソファーから起き出して、慌てて玄関の前で整列していた。


 大きなドーム型の部屋は工場一つ分くらいはあるかもしれない広さだ。


 その奥には大型のフレーム鍛造用のハンマーやら、部品形成用の金型やら多数の旋盤と自動的に部品を形成する工場御用達のマシンアームが数台置かれていて、数台のOPが壁にめり込んだハンガーにガッチリ固定化されていた。


 広い空間内の壁際はOPの部品を積んだ固定ラックが並べられていて、ソファーの近くには冷蔵庫が二つ。


 小さいのは人間用で大きいのはOPに使う特殊な溶剤やオイル冷却材用なのが解った。


「あ、デ、デンネ部長!? これは御足労を……あの、何か御用でしょうか?」


「はぁ、また徹夜してたの? バッカだなぁ。ちゃんと毎日行かないと留年するって言ってるのに……」


「あはは、さすがに留年しないように余裕持ってサボってますんで。な? みんな~」


『うぇーい♪』


 何か楽しそうに七人の女の子達がヨレヨレのツナギ姿で手を挙げた。

 そのOP弄り専用の手袋は真っ黒になっている。


 今までお嬢様校と言われた通りに上品な人達ばっかり見ていたので、こういう人達がいるのは新鮮かもしれない。


 見た目は普通の日本の歩いている人達と比べても標準以上だと思うのだけど、他の子達にはある飾りっ気みたいなものが見えない。


 その分だけ汚れた手袋が映えていて、OPが好きそうなのが解った。


 私もおじさんがいなくなって勉強を始めた頃は色々と機械を弄りながら、手袋を黒くしていたのでよく分かる。


 難しいところで躓いたりはするけれど、動かして楽しくなると止まらなくなったりするのだ。


「ちょっと、コイツに今壊れてんの見せて。OP弄ってるらしいから」

「はぇ~~マジっすか? ウチらの他にもOP弄りたいお嬢様なんているんすねぇ。ビックリだわ」

「つーか、かわええ!? 細い!? 何!? お姫様!? 何百億掛かってんの!? この遺伝子!!?」

「うわ……こ、この見た目で? デンネ部長。マジです?」


 何か周囲にワッと寄って来て、ジロジロ見られた。


「マジだ。タンシャも弄ってるよ。それもフール・ハイテック社製の軍用機【ファルコ】の最新型」


「さ、30万ドル!!?」

「ウチの両親が家宝にするって言ってたヤツ!!」


「マジかよ!? 確か国内のディーラーが扱ってる数ですら数十台でカスタマーサービスが無くて整備はほぼ個人に投げっぱなのに買ったのか!?」


「何か噂では流れて来ていましたが、凄いですわね」

「うわぁ~~憧れの一品てヤツじゃん!!」


 そうして色々と聞かれて答えている内にドローンが今日の昼食のサンドイッチを持って来たのでそれを受け取って、一番奥のハンガーに固定化された機体を見せて貰った。


「あ、ハバキリだ」

「へ~~さすがに解るか。半分フレームだけなのに」

「何処が悪いか分かるかな~~新入りちゃん♪」


 確かにハバキリは上半身がフレームを剥き出しにして人口筋肉もほぼ取られた状態で固定化されていた。


 ちょっとハンガーの昇降機に乗って、肩の部分へ。

 そのまま頭頂部の方に飛び乗って背中を見やる。

 それにちょっと何故か全員が驚いていた。


「フレームの歪みが右に0.4度くらい? ええと、打撃で転ばされた時に背部フレームの右肩が歪んだ?」


「で、できるじゃん。そんな簡単に解るんだ。へ、へぇ~~」


「何で見ただけで傍目じゃ分からないはずの歪みが見えるんだか。検出するのに機材使うだけで半日掛るのに」


 何故かデンネ=サンが呆れている。


「他には背部バランサーのサーボモーターの一部が焼き切れてる? 何か負荷が掛かってフレームの自己矯正が掛かってた時に衝撃を受けた、とか?」


「見ただけで……何で的確に診断出来るんですの?」

「いや、見ただけで解らないはずなんだけど」


 下の方がザワザワしていた。


「あ、解った。倒れ込んで上から抑え付けられてる時に殴られた?」

「はは、此処まで……なるほど……女帝の親類は伊達じゃないわけか」


 ちょっと、下の子達が唖然としていて、デンネ=サンが頬を掻いていた。

 下に降りたら、女の子達に取り囲まれる。


「ねぇねぇねぇ!! どうしてやられた時の状況が解ったの!?」

「えっと、同じような状況のOP見た事があったから」


 本当の事だった。


 故郷の外でOPの事を知る為に映像を撮って、傷の状況から諸々の弱点や使う際の注意点などを洗い出して、OPモドキを造る時かなり参考にした。


 国外の専門の掲示板から同じような傷の写真を見付けて質問したり、内容を翻訳機能を使って読んだりしながら、内部の人間を護りつつも高機動でちゃんと動くように設計するのはかなり苦労したのが今は昔みたいにも思える。


「ハバキリはバランサーと駆動系の足回りが命なのに動きを殺されて、力技でねじ伏せられたみたい……」


 その言葉で部員の子達がウッと詰まっていた。


「仕方なかったんだ。ウチにはOPの機構に詳しい連中はいるんだけど、OPの操縦技能で才能あるヤツいないんだよね。はは……」


「しょうがありませんわ。基本動作以外全て技能者依存が規則ですし、模擬の武装の選択と副兵装の操作が全部一秒単位で相手に遅れを取っては……」


 部員の子達の言葉にデンネ=サンが肩を竦める。


「ま、ウチは装備こそいいが、弱小だから仕方ない」

「そ、それは言わないお約束ですよ。デンネ部長~~」


「私達だって本当はこいつらをこんな風に傷つけたくはないんすよ? でも、大会の連中外からわざわざ編入させた助っ人連れて来るし~~」


「?」


 思わず首を傾げる。

 なら、カナン女子もそうすればいいのにと思ったからだ。


「ああ、探したけど、ウチに入れる最低限の条件をクリア出来て、万年4番手のお嬢様校に入ってくれる奇特な貴重技能者は0だったって事」


「そういう……」


 お金の力でも出来ない事はあるらしい。


「あ、あっちにはシミュレーターもあるから、遊んでく?」


 話題を切り替えたかったらしい子が指差した壁際には大きなシミュレーターがちょっと埃を被ったシートに包まれて置かれていた。


「いいの?」


「勿論勿論!! な、何なら毎日遊びに来て使ってもいいよ~~ひ、久しぶりに話しが出来る新入生だし……」


 どうやら殆ど他の子は此処に来ないらしい。

 そう言えば、此処に来るまでの通路では人が1人もいなかった。


「こいつらが良いって言えば、いいよ。好きにしな」

「じゃあ、お邪魔します」

「どうぞどうぞ~~~」


 何故か手を揉んだ子達がすぐにシートを取ったシミュレーターに電源を入れて、用意してくれた。


「……新しい?」


 内部に入るとほぼ最新型のシミュレーターで高いものなのが解った。


 20年前までのほぼ全ての機体が登録されていて、OPのコックピットはいつもテディで使っていたオペレーティング・カウンターとほぼ同じもの。


 シートはやっぱり、シラヌイの方が丁度良い気がした。


「お、解る? この機材、去年仕入れたんだ。少しでも動かせるようになりたくてさぁ。でも、誰も初心者講習を終了出来なくてAIオンリーの非人間戦の方に注力しようかって話で……今はAI組んでる途中で誰も触ってないんだ」


 操縦桿もほぼ同じだったので自分用にカスタマイズしていなければ、こんなものだろうと納得する。


「取り敢えず、一番難しいので……これでいいかな?」


 操縦桿の反応とレスポンス設定をして、視認性入力機能をオン。

 最後に補助AIを起動。


「あ、日本語だ」

「そりゃ、ハバキリっすからね」

「なるほど……」


 日本語で立ち上がったシステムにも勉強中の漢字が使われていた。

 純国産というのはこういう点だと国外の人には扱い難いかもしれない。


 今時の戦場はAIに指示を与えて戦うのが殆どとはいえ。

 今までシラヌイと一緒に戦って来たからこそ。


 人間が未だOPにとって必要不可欠な存在なのがよく分かるようになっていた。

 貴重なAIに頼らずとも強いOP技能者は戦場でも確かに必須だろう。


 だからこそ、今でもシミュレーターは廃れていたりはしないし、AI込みの操縦は敷居がかなり高いと見ていい。


 昔はAIが操作負担を軽減してくれると言われていたらしい。


 だが、今のOPは人間が全てマニュアルで動かすには複雑過ぎて、新しいシステムや装甲、プログラム、兵装が追加される度にAIを使っていてすら色々と動かすのは難しくなっている。


 ある意味でOP乗りというのはAIにすら完全自動化し難いものを使う専業化技能必須なお仕事なのである。


「ちょ、あなたソレ教導官クラスのミッションよ!?」


「オイオイオイ。大丈夫かよ!? 新入り!? シミュレーションて言っても、結構動くんだぞコイツ!?」


 AIの補助機能での判断速度を調整して、更にこちらのコマンド、動きのトレースに掛る思考遅延、ディレイを限界まで短くしつつ、射撃管制を全てオートで特定モーションで発動状態にしておく。


 人間の判断で撃っている時点で機械よりも遅いのだから、撃つタイミングは予め予定の動きをしたら即時発射でいい。


「これでよし……」


「いや、良しじゃないですわ。何ですこの設定? シミュレーターの教本に真っ向から反してるような……」


 全ての動きのトレースでAIの補助は働くが、戦場でのOP搭乗者の初出撃の死亡原因は殆ど搭乗者からのコマンドをAIが精査中の硬直を狙われた撃破だったりする。


 今の軍用の高性能AIは20年以上の差が無ければ、殆ど人間相手ならソレらも致命的な隙でもない。

 とされているが、それでもやはり近年の紛争でもその手の撃破は発生している。


 幾らかOPのデータは故郷の外で取っていたのだが、大昔のOPがどうしても越えられない時間の壁で撃破されていた事を知った時はAIの性能によってはセミオート設定を細かく弄らざるを得なかったりもした。


 無論、素人なのでAIのチューニングまでは出来なかったのだが……。

 現代でもその遅延傾向は真っ新なAI程に長い。


 故に最新型であっても、他の熟練した乗り手のAIと比べれば、かなりの差があったりするのは知られた事実でもある。


 AIの性能差は新しさだけでは決まらないという事だ。


「あ、いや、その設定弄ったら、いやダメだって!? その反射速度出せるの!? 出せないよね? え? 出せたり……する?」


 運用者のダメなコマンドに対しての思考時間が勿体ないのでAIによる制止が不可能なように調節しておけば、即死するか生き残るかだ。


 戦場での最善の機動選択は常に考えたら遅延し過ぎて意味が無い。


 考えている最中に死ぬのがほぼ全てなら、事前準備段階で要らない思考時間のロスを省いておくべきなのだ。


「え、えぇ……その設定そうしちゃうの? 本当に? 一回も試した事無いよ。そんなの……」


 AIのサポートを信じて反射的に避けられるように特定機動中の動作の遅延は無い方が良いとAI当人であるシラヌイも言っていた。


 まぁ、シラヌイはどんな動きにも間違っているからこうした方が良いとは言わないどころか。


 100の動きを150にしてくれるようなところがあるので、本来避けられない弾も無理やり避けてくれたりするので普通のAIの参考にはならないのだけれど。


「これ……AIを信用してるんだか、貶してるんだか訳分からん設定っすよ? デンネ部長。いいんすか?」


「まぁ、見てろ」


 これは死んだら終わりの実戦でない以上、必要なのは速度だ。

 それはAIの領域であり、人間の得意領域ではない。

 その性質を上手く使って自分流に戦う。


 恐らく、OPを扱うのが巧い人程にAI任せの部分は0か1かに近い設定のはずだと思っているが今度シラヌイに聞いてみようと決める。


「あ、ご飯の時間もあるからリトライ回数は一回で……」


 ミッションは敵OP全機撃破。

 単純な戦力の殲滅。

 その数は4機で敵は全機スタンダードな歩兵装備。

 熟練兵が四人と考えても理不尽な難易度には見えなかった。


 毎日、シラヌイにシミュレーターで稽古を付けて貰っていたりするものの、特化戦力による連携攻撃が一番死亡率は高いので、この傾向の敵ならば勝率は4割を超えるくらいだろう。


 操縦桿を握って、ミッションスタートと同時に相手を廻り込むように突撃する事にして、初撃の敵一斉射で片腕を持って行かれつつ、戦いはスタートしたのだった。


 *


「マヲー」


 出迎えてくれたマヲンの頬が大きく膨らんでいた。

 どうやら何かを口の中に詰め込んでいるようだ。


「お帰りなさい。アズール」

「マヲン。何咥えてるの?」


 エーミールが玄関までやってきて、ヒョイッとマヲンを持ち上げる。

 ビローンと伸びた体はまるで日本伝統の料理であるおモチみたいだ。


「マヲンがオヤツ気に入ったからって、二つ一緒に口へ入れてるの」


「オヤツ?」


「ダイフクです。今日は日本固有の甘味をネットで取り寄せてみたのですが、酷く気に入ったようで」


「そんなに美味しいの?」


「当人。当猫にとってはそうらしいです。今口に入っているので9個目。クリーム・イチゴ・ダイフクとアンコ・アイス・ダイフクですね」


「まぅ~~~」

「食べても啼けるんだ」


「口にモノを入れたまま口笛を吹く程度の芸当ですね」


 シラヌイがいつもの全裸に仮面姿でヒョイッとマヲンを摘まんでソファーにポイッと放り投げる。


 スタッと降り立った猫的生物兵器はまだゴクリしたくないようでイソイソと自分の定位置になりつつあるゲーミング・チェアに戻っていった。


「アレ? シラヌイ……体が……」


「あ、そうそう。そうだよ!! おねーちゃんね。ようやく体が出来たの!! 生身の方!!」


「あ、そうなんだ。どう? 生身の体?」


「はい。これはこれで良いかと思います。まさか、躯体の方が遅くなるとは思いませんでした。どうやら大戦の為に部品の類がかなり欧州へ流れているらしく。納期が遅れた分は少し値下げしてくれるとか部品を発注した先方から言われまして」


 スーツは生身でも普段は着ないらしい。


「まだ、届かなそう?」


「後、数日の辛抱ですね。恐らく次の仕事までには間に合うでしょう」

「そう言えば、今回は企業の方にお仕事の部品を頼んでたような? 大丈夫? 間に合う?」


「ええ、それは問題無く。UJDDより必要な部品は届きましたので」

「えっと、確か……日本の船の……」


「はい。先日、マヲンが入っていた資材を用いて特殊装備をと思い……」


「特殊装備?」

「あの白い玉の事は覚えていますか?」

「うん。超重元素なんだよね?」


「ええ、アレは生物兵器が内部から流出しないように内側からは開かないように分子構造を完結させた強度の高い密封容器なのです。


「強度の高い……それを装備に使うの?」

「こちらへどうぞ」


 ソファーに座ると目の前に地下の工作室の映像が出た。


 そこには船の竜骨のような二等辺三角形型の中心に大きな芯が通って周囲にあばら骨のような骨組みを組み合わせた巨大な盾がある。


 恐らくOPが乗れてしまうくらいの大きさなので4mはあるだろうか。


「大き過ぎない?」


「いえ、これ自体は盾と乗物を両立させる代物ですので」


「盾と乗物? えっと、確か米軍の……」


「はい、エアボーン。空挺部隊のOPが使っている短距離推進型の滑空式積載盾。要は現代【エア・サーファー】と呼ばれる彼らの必需品。【ペイル・ブースター】です」


 ペイル・ブースター。


 元々はOPを空挺部隊が使う時に撃破率が高かった頃、作られた代物だ。


 落下中の攻撃に耐える為の盾である。

 自然落下ではなく。


 回避機動を取りながら安全に着地出来る事を求められた為、その滑空と簡易ブースターによる機動によってミサイルなどの誘導兵器に対して僅かながらも抵抗したのだ。


 殆どはミサイルの攻撃を受ける為の下向きの盾として使い捨てられる。


 ミサイルに当てて使うのでタイミングがズレると機体毎吹き飛ぶ。


 なのでペイル。


 蒼褪めたと呼称されているとも言われるし、盾の表面に二本線が引かれていたので昔からの呼び方で紋章に掛けてペイルとも言われているが、真偽は不明だ。


 ただ、今回の装備は今までとは違って使い捨てではないらしい。


 普通にシラヌイは情報があれば、武装を造れると言っていたのでシラヌイ単体では作れないようなものを此処で造っているという事になる。


「今回は空からって言ってたけど、敵の迎撃ミサイルシステムや対空弾幕の対処方法ってこれ?」


「はい」


 頷いたシラヌイがドローンが溶接したり、塗料を塗ったりして製造中のブースターの構造を教えてくれる。


「あの超重元素は特定の加工方法で物体をコーティングすると分子構造からして、恐ろしい強度になるので潜水艦の素材や地下都市の建材として使われているのですが、例に漏れず高いので」


「どれくらい?」

「1g120$くらいですね」

「うわ……あれたぶん、数百kgはあったような……」


「ええ、なのでOPのコックピットブロックと関節、装甲表面と同時にペイルブースターにも使用しています。一応、弾性限界を超えるメタルジェットすら防ぐ仕様なので従来のRPG-40なども利きません」


「えぇ……それ無敵なんじゃ」


「いえ、そうでもなく。戦場で殆ど使われていないのは単純に現代のG9の最新鋭機が現場にいないからです」


「今の最新鋭機には使われてるけど、ドローンと昔のしかいないから見ないって事?」


「はい。レーザー兵器、プラズマ兵器の極端な温度やレールガンなどの衝撃を受けるとコーティングが剥げるので一定の分厚さが無いとコックピットに使っても1発耐えるかどうかですし」


「それを盾に?」


「はい。いつもの機体のコックピット周りは全て部材で再加工が終わりましたが、盾の方は更に各種の攻撃に耐える為に対電磁コートやら衝撃相殺用のアブゾーバーやら再使用可能なブースターやらと多機能にしている最中です」


「何かスゴイ……」

「後3年もOPの技術を学べば、理解出来るようになるかと」

「うん……頑張るね。私……」


 映像が途切れると今回使う事になるシラヌイの機体が見えた。


「あ、ガルムだ。でも、普通のガルムじゃない?」


 顔が細長で機体の装甲も左程ではない高機動の足回りを強化されたガルムは中遠距離の狙撃手として優秀なのだが、全身が白い装甲で覆われている上に背後には可変する細い骨組みを大量に組み合わせたような翼が装着されていた。


「ガルムのカスタム機であるナイト・ハウンド。漆黒に塗られた装甲が特徴で隠密性と機動性を更に高めて中近距離仕様だったモノを更に改造した機体です」


「スペシャル・ユニットって事?」


「はい。昔に戦った事のある強い機体のデータは全て揃っています。今は使われなくなったもの。もう忘れ去られたもの。他にも世界を滅ぼせたもの。国を滅ぼしたもの。色々いましたが、今のアズール・フェクトならば、これがいいと思った機体の要素を抽出しました」


 シラヌイの言葉にちょっと胸が熱くなった。


「あ、ありがとう。シラヌイ」

「いえ、運用者を護るのはAIの使命ですので」


 喋っていると後ろからひょっこりとマヲンのところから戻って来たエーミールがいた。


「うわぁ~~翼だ~~ねぇねぇ、飛べる? 飛べる?」

「いえ、この翼は飛ぶものではないので」

「そうなんだ。あ、そう言えばね。アズール」


「うん?」


「今日、お空を一回飛んだよ♪ 短い間で高度は3mくらいだけど」

「え? じゃあ、訓練終わったんだ。良かったねっ。エーミール」

「うんっ。とっても空が綺麗で嬉しかった♪」

「今度、飛んでるところ直に見せてね?」


「うん♪」


 エーミールが単独飛行する為の機材は高圧ガスを噴射する方式のバックパックを背負う形に似せているが、事実上は宇宙船のフライト・システムの超小型簡易版だ。


 今までしっかりと基礎的な知識や技術を学ばせていたシラヌイが地下で安全な訓練を施していたのだが、どうやらようやく本当に空を飛ぶ事が出来たらしい。


「まだ、ちょっとしか飛べないけど、上手くなってもっと遠くまで飛んでみたりしたいなぁ……」


「出来るよ。エーミールなら、ね?」

「えへへ……アズールも立派な兵隊さんになれるよ。絶対」

「ありがとう……」


 頭をナデナデしておく。


「ああ、そう言えば、例の部活の事ですが……」


 シラヌイが途中で切り出してきたのでそう言えばと思い出す。


「ちょっとお手伝いしてもいいかな?」


「ええ、問題ありません。あの競技の選手達にも実戦で通用するだけの実力ある者達は大勢います。射撃戦でも近距離戦でも装備の差を覆し得る者すらいるので」


「じゃあ、毎日ちょっとお昼の時間だけ。それと今度の大会に助っ人で行ってもいい?」


「勿論です。予定は調整しておきましょう。エーミールやマヲンと一緒に応援がてら観戦しに行くというのでどうでしょうか?」


「うん!! ありがとう。シラヌイ」

「どう致しまして……では、説明の続きを……」


 夏の大会。


 カナン女子OP技術部でちょっと手伝いながら、学校生活をする事がこうして決まったのだった。


 案外、あのシミュレーターの歯応えが無かった事は残念ではあったのだけれど、毎日普通のOPに乗る時の補習をしていると思えば、楽しいのは間違いなかった。


 *


―――カナン女子放課後。


 バックヤードの幹部会は不定期で行われるが、基本的にはヘッドであるオギによる一声で集まる事が決まっている。


 ドローン廃材の山に彼女達が集まっていた。

 他の生徒の姿はなく。

 周囲にはドローンによる防衛陣地が敷かれている。


「で? どうだった? デンネ。あの新入り……」

「あ、はい。ヘッド。あいつ化け物ですよ」

「化け物? 機械弄りだけじゃなかったか? 今回測定する技能」

「いえ、それが……」


 デンネ部長。


 そう呼ばれている少女はバイザーを外して案外可愛らしい目元を困惑させながら、他の仲間達に今日の昼あった事を話していく。


「OPの操縦技能か。なるほど、レアなわけか」

「いえ、それが……普通とは程遠いというか」

「程遠い?」


 オギにデンネが頷く。


「アレは戦場行ってたと思います」


「ま、今の女帝の仕事を考えれば、考えられない事じゃないな。そんなにヤバイのか?」

「ヤバイというか。ヤバくないところを探す方が難しいというか」


 その言葉にビコが珍しいなという顔になる。


「デンネがそこまで言うなんて……素質あり?」


 その言葉にデンネが溜息を吐く。


「素質というか。死神というか。詳しい事は省きますけど、ヘッドが思ってる10倍ヤバイです。アレ、下手すると日本代表クラスですよ」


「そこまでかよ……」


 オギがさすがに驚いた表情になる。


「何がヤバイって、片腕最初に落されて最難関ミッションを一発クリアしたんですよ。その戦い方がもう……ヘッドは自分が死ぬか生きるかの時に自分の足吹っ飛ばして軽くして相手の攻撃で吹き飛んだ際の衝撃で相手の頭上取ろうとか考えます?」


「んだそりゃぁ……狂人かよ……」


「そういうのの連続だったので。躊躇なく最善を選んで、躊躇なく実行出来るって相当ですよ。覚悟決まり過ぎっつーか」


「うわ。やっぱり遺伝子見て見たい」


 ノバラが思わず喋っていた。


「興味惹かれたか? お前も」

「ヘッドが先に興味持ってたような?」


「そりゃそうだろ。あのお姫様みたいな顔して、相当修羅場潜ってるウチらの気配に怯まないなんざ。何処の超人だよ」


「アレは殺しも経験してるような気がするなぁ……」


 デンネが呟く。


「ま、取り敢えず面倒は見とけ。女帝の親類だ。そういうのだったとしても驚かねぇよ。ウチらだって抗争で死人出してるしな」


「用心棒とかどうです?」


 デンネの言葉に肩が竦められた。


「あっち次第だろ。今は大戦中で何処の組織も気が立ってる。あんま、刺激しないに越した事はねぇが、兵隊は必要だ。ただ、ウチのガッコで囲ってる限りは恐らく問題無ねぇ……問題は……」


 ビコの方をオギが見る。


「な、なんですか?」


「オメェんとこの若手がウチ以外のドラッグ売ってるってタレコミがあったんだが?」


「い、いやぁ~~それはその~~~」


「オイ。ゲロれ」


「ちょ、ちょっと待ってください!? ヘッド!? し、知ってますか!? 今、国内の麻薬シンジケートの大勢力が潰れたんですよ!?」


「TKO山の事なら知ってんぞ」


「そ、それで、ですね? 国外から噛ませろって勢力が台頭する前に首都圏全域の確保へ動いてたら、連中の隠し倉庫見付けちゃって……」


「それで?」


「若手の一部がそれで馬鹿な商売思い付きまして……」


「殺っといたんだろうな?」


「あ、はい。それはもうさすがに……ウチは無依存無害がウリでしたし、寡占状態になれば、安泰ですし……半グレにいつもの方法で金掴ませて湾に沈めさせました。残ってたブツも勿論焼きました」


「なら良し。気を付けろよ?」

「あ、はい。ごめんなさい……」


「依存性を上げちまうと公安に目ぇ付けられるだけじゃ済まねぇんだよ」


「はい。今後は再発防止策と人員教育徹底しますから、ゆ、許して下さい。うぅ……」


 ビコが涙目になる。


「解りゃいい。この世は悪党だらけだ。だからこそ、善人の皮と善人らしい遠回りが一番安定すんだよ。トワイライトカルトなんて見本みてぇなもんだろ?」


「ヘッドが言うと何かアレですけど」


 ビコがボソリと漏らした。


「あぁん? 怒られた先から喧嘩売ってっか?」


 ニコリとされてブルブルとビコが首を慌てて横に振った。


「まぁ、いい。益々カルト連中が勢力伸ばして来てんだ。気合入れてシマ護れよ。後、人事部の連中は必ず定期的に裏を取れ」


「連中のやり口ですか?」


「ああ、何処で引き込まれるか知れたもんじゃねぇからな。クソ……潰れてくんねぇかな。あのクソ共……人のシマで思想ばら撒いてんじゃねぇよ……」


 ブツブツ言いながらイライラしたオギが爪を噛み始める。


「あ、ダウナーモードになっちゃった。そんなヘッドも素敵♪」


 ノバラがその背中を優しく撫でる。


「あ、先に上がりまーす」


 デンネが宣言して去っていく。


「ちょっと監査してみます。家の方で……」


 怒られたビコはイソイソと自分達の部下にトワイライトカルトの影が無いか調べる為に帰途に就いた。


「ノバラ。オメェのとこに出した遺伝子調査の結果は?」

「それが父に関わるなって釘刺されました」

「ハッ? 何でオメェの親父が此処で出てくる?」

「いえ、それが理由を聞いたら、バックヤードにも言えない事はある。だそうで」

「んだそりゃ? 協定違反でもか?」


「この業界で長くやっていく為の秘訣だとか。情報は全て消しておいたから、それでも知りたいなら、覚悟して自力で調べろと」


「覚悟ねぇ……」


「病院は更に公的システムに繋がってるからマズイそうで。ビコんとこに調べさせるのも止めた方がいいって」


「……アズール・フェクト。女帝の親類は伊達じゃねぇ闇の塊って事か……」


「う~ん?」


「顔が良ければ、ビコんとこの遺伝子バンクで引っ掛かるかと思ったが、大人連中が引き下がるとか……あいつ、一体何の血を引いてやがんだ?」


 呟きは虚空に消えて、やがて廃材の山には誰もいなくなった。

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