第15話「学校」
「此処は日本国内企業体所属のトップ層。俗に言う社長とかCEOと呼ばれる人々が首都圏で子女を通わせる事を目的に創設した学校。世間一般で言うところのお嬢様校というヤツですわね」
「お嬢様校……」
生徒会は体育館のあった場所から少し離れた場所にあるエレベーターから直通の場所にあった。
降りたらすぐ部屋に為っていて、今は他の眼鏡の子達は講義を受けているらしく、傍にはいない。
広い室内には壁際にビッシリと書籍らしいものが並べられていて、オフィスビルみたいな感じで広々とした場所にソファーやテーブル。
他にも一番奥の壁際には大きなデスクと椅子が置かれていた。
電子業務は今時はAR空間内で行うものだし、キーボードなどを使う玄人向けのシステムは収納内に置かれていたりするのが普通なのでデスクの上に書類とかが載っている事もなく。
ソファーで対面になって座って説明を受ける事になっていた。
「何処の国でもそうだけれど、各地域には名士や上流階級のグループがあるの。此処カナンの地もそうよ。この周辺を仕切る商業母体を後ろ盾にしたグループがこの学校にもある。それが彼らの一部の家から出されている子女達が表向き名乗っているバックヤードっていうグループ名なの」
「マフィア?」
「ああ、少しニュアンスが違うのよ。グループはあくまで表の顔。彼女達の後ろにいる大人達には名前なんて無いし、組織化されてもいない。ただ、外部からの商業的な侵入には占有分野での抗争も辞さないという非合法性もあるのよ」
「ええと、別の分野のお仕事なら邪魔されない?」
「ええ、合ってるわ。嘗て、このカナンの地には女帝と呼ばれる人がいたの」
「それってレリアさん?」
「そう。その方よ。あの方は国内最大級のコングロマリット。その中枢であるバイオン・インダストリーで重要なポジションにいる一人。彼女単体で東京の3分の1以上をシマ……つまり、自身の分野に限った意味での支配者でもあった」
「レリアさん。昔から凄かった?」
「ええ。でも、特に日本は重火器規制が厳しいから、あの方の背後にいる企業体の兵器関連での売上なんて高が知れていたでしょう。けれど、人材系の事業だけで個人的に立ち上げた私企業が最終的に数兆稼いでいたとされるわ」
「おぉ……数兆?」
「今時、数兆なんて国外から見たら左程でもないでしょうけれど、大戦期に一度円が切り下げられたから、今も日本の数兆は数百年前と同じだけの価値がある。だから、国外で言うところの数兆よりは多いと考えて」
「お金一杯……」
「ふふ、そんな風に表現されたのは初めてね。結局、人材供給を握ったあの方はカナン女子の地位を飛躍的に引き上げた。此処を去った後はカナン女子に入って来るお金も少なくなったと聞くけれど、バックヤードが地盤を引き継いだの」
「ジバン?」
「支配領域の事ね。まぁ、彼らには人材派遣業なんて出来なかったから、カナン女子の権威を利用して手広く商売をしているのよ」
「色んな業種をやってるって事?」
「ええ、そうね。そして、各企業体の分野毎にその代表者として送り込まれてくる子女達は誰も彼も英才教育を受けた曲者よ」
「クセモノ?」
「そう。商業的に成功したグループの代表者達。その才覚者が此処を仕切るのが伝統よ。彼女達は其々に荻弁護士事務所互助会、鹿島総合電子グループ、四方遺伝子病院会、倉田アミューズメント事務所会。そのトップの子達なの」
「それってスゴイ?」
「ええ、恐らく年間の売り上げだけで全部足したら14兆円規模よ。弁護士事務所としては恐らく国内の2番、3番手の集まりの纏め役でもある荻。最新の回路技術でチップ生産の下請けとして国内5割を寡占する鹿島。系列の病院だけで220以上を誇る政財界お抱えの四方。芸能人事務所を数十所有し、娯楽産業全般も受け持つ倉田。どれも大物ね」
「へ~~~」
「まぁ、あの方は文字通り政財界にも太いパイプを持つ超大物だったわけだけれど、引き継いだ彼女達のグループはカナンを中心に影響力だけなら首都圏全域に広がっているわ。完全に支配出来る程の領域は縮小しているけれどね」
「メルさんのお家は?」
「……そう、知らないのね。ウチはクロイツフェルト証券。証券会社をしてるわ。系列企業を幾つか持ってるけど、時価総額で2兆円もない弱小よ」
何処か苦笑した様子でメルさんが肩を竦めた。
「彼女達が貴女にちょっかいを出したのはね。背後に女帝レリアがいると知って、お金を要求されないかと怯えたからなの」
「お金?」
「ええ、日本ではシノギと言うのだけれど、彼女達も自分達の為にバックヤード単体で非合法スレスレの商売をして税金も払わず貯め込んでたりするわけね。そこに女帝の縁戚が来るとなれば、売り上げを寄越せと言われないかビクビクするのも無理ないわ」
「お金には困ってないけど……」
シラヌイもお金に困ったりはしていないと言っていたし、間違いない。
「ふふ、そう……じゃあ、学校ではゆっくり学んでいってね。あの子達がまた何か言って来たら、この公務用のアドレスに連絡を頂戴」
端末が出されたので自分の端末を近づけるとすぐに連絡先が交換出来た。
「ありがとうございます。メルさん」
「どう致しまして。それにしても綺麗な顔ですわね」
スッと顔の横に手が当てられた。
「もしも良ければ、お友達になってくれないかしら?」
「お友達……はい。じゃあ、メルさん。お友達になって下さい」
「ええ、喜んで♪」
顔の横の手で差し出したを握ってくれたのだけれど、何故か指と指を絡ませる握り方だった。
日本ではこういう握手があるのかもしれない。
「それじゃあ、これで説明は終わりにしますわ。次の講義には遅れないよう。もう行って下さい。また、お会いしましょうね? アズールさん」
「はい。メルさん」
こうして初めての学校は色々あったけれど、初めて友達も出来たのだった。
*
「ただいまー。シラヌイ。エーミールいる~?」
「お帰りなさい。アズール」
エーミールがすぐに出迎えてくれた。
どうやら今まで3Dホログラムで投影されたシラヌイと一緒にお勉強していたらしい。
周囲には沢山の映像や情報がホログラムのウィンドウで虚空に並べられていた。
「どうでしたか? 学校は」
「うん。とっても面白かったよ。でも、シラヌイ見てたんじゃなかった?」
「ええ、ですが、分割思考は苦手で見ているだけだったので」
「そうなんだ。エーミールに何を教えてたの?」
「基本的な事を色々と。物覚えが良いのですぐ色々出来るようになるでしょう」
「エーミール。お勉強楽しい?」
「うん。楽しいよ。アズールは?」
「うん。楽しかった。日本語はまだちょっと難しいけど」
「今日の夕食は日本伝統のソーメンと呼ばれる麺料理です。夕方までは訓練場の方にどうぞ」
「うん。エーミール。頑張ってね」
「僕頑張る。アズールも頑張って」
頭を撫でてから一人で訓練場の方に向かう。
元々はトレーニングルームだったそうなのだが、トレーニングは要らないから実戦形式でOPを乗り捨てた後などの戦闘をイメージしての格闘技術を磨くようにとシラヌイに言われていた。
エレベーターで最下層に向かう。
訓練場内部からはトレーニング機器が殆ど撤去され、ランニングマシンと柔らかい床とトレーニング用にシラヌイが作ってくれた格闘戦用のドローンが10台程壁際に止まっている。
高機動型の人型ドローン。
蜘蛛型や各種の蟲型ドローン。
更に飛行ドローンもある。
ARを更に用いて周辺環境を再現するゴーグル。
床の硬度を変化させ、障害物を自在に形成する流体金属床を用いた仮想訓練は現実に軍隊の精鋭部隊が使っているものらしい。
入り口の壁に備えられているゴーグルを被って大昔のグロッグとか言う拳銃の外観の訓練銃を取る。
内部に入るとシラヌイが予め設定してくれていた戦場が再現されていく。
30m四方の空間内部で使う銃は様々な重量と反動を再現出来る代物で、今回は最も威力が無い拳銃を使った訓練らしい。
さっそく市街地戦を始める事にした。
―――1時間後。
「あぅー」
結構痛かった訓練でフラフラしながら最上階に戻って来ていた。
「死亡回数12回。新兵卒業は遠そうですね」
シラヌイが肩を竦めて待っていた。
汗などは掻いていないけれど、痛みはあるので痛み止めのついでに物覚えが良くなるお薬をカプセルで貰って呑み込む。
記憶が生々しい間に使う事で学習効果が高まって、次からは同じ敵に対しては少しずつ対応出来るように反射的な速度が速まるらしい。
「うぅ、相手がレールガン式の自動小銃と各種グレネードや対人兵装全部使って最新鋭の軍事随行用ドローンと連携して波状攻撃してくるんだもん。先進国の精鋭部隊強過ぎるよぅ」
「ですが、前と違って今日は2人も撃破した事は評価に値します。今後も研鑽し続ければ、いつか前任者くらいにはなるでしょう」
「おじさんもこういう訓練してたの?」
「ええ、案外強かったと復元したデータにありました」
「ぅぅ……私、が、頑張るからね。おじさん……」
「その意気です」
ソファーに全身の痛みが引くまで寝そべっておく。
「大丈夫? アズール」
「うん。でも、まだ痛い……」
「あ、慰めた方がいい? いい?」
「なでなでしてくれたら、嬉しいかも……」
「う、うん!! ナデナデ、ナデナデ」
エーミールが何か嬉しそうに背中をナデナデしてくれた。
ふとネットニュースが目に入る。
『本日未明EV側からの大規模攻勢が開始される兆しがあるとNATOの報道官から発表があり、東欧よりも西部戦線に戦力を充填している事から、近々戦域全体での膠着状態が解かれ―――』
他のニュースを見るとTKO山のニュースがあった。
『こちら現名称TKO山上空です。先日よりお伝えしていた通り、全国各地で各地を不法占拠していた犯罪組織の一斉検挙が行われておりますが、此処TKO山では先日の大規模抗争によって当該組織が持ち込んでいた火薬が誘爆してほぼ全滅した模様です。未だその時に使われたナパームの延焼が収まっておらず。周囲からは不法移民、不法難民の検挙も行われており、現地が司法の手に戻れば、これは数十年ぶりの事であり、今後の各地域の活用方法が活発に地方自治体では議論され―――』
どうやらあちこちで公安の人達が不法に占拠されていた地域の一斉捜索、一斉検挙をしていたらしい。
捕まえられた不法居住者や無国籍の人々はそれ専用の大陸側に置かれた無戸籍自治区と呼ばれる国連管理下の難民キャンプに移送される事が決まっていて、国籍のある人物の大半は強制送還されるのだという。
「ねぇねぇ、シラヌイ」
「何でしょうか?」
「エーミールや私の国籍ってどうなってるの? そう言えば」
「ああ、そちらはレリアさんから日本国籍を頂きました。公式のものですので日本人固有の福祉政策は使えませんが、日本国籍取得者扱いされるそうです」
「なるほどー」
「エーミールはこちらで安い国籍を途上国から買って、国籍を乗り換えながらお金で出来るところまで良い国籍に変更している途中ですね」
「今、何国籍?」
「徴兵義務の無い東南アジアの日本と関係の深い国のものにしてあります。しばらくしたら、日本国籍取得まで漕ぎ付けるので。ゆっくりお待ち下さい」
「良かったね。エーミール」
「ナデナデ、ナデナデ」
エーミールはナデナデに夢中だった。
「あはは、くすぐったいよ。エーミール」
「そろそろ夕飯が出来ます。夕飯を食べたら、読書の時間にしましょう。日本の娯楽の王様であるMANGAは色々揃えてありますので、まずは少年漫画から」
「「うん!!」」
近頃、夜になるとシラヌイが読書の時間で漫画を見せてくれるのだが、それは2人でとっても夢中になれるくらい面白いものばかりだ。
紙の本というのは今時けっこう貴重なのだけれど、シラヌイは何処からか取り寄せてくれて、2人で読むのがとても楽しみになっていたりする。
「ソーメンには薬味も乗せましょう。味も色々用意しました。食べられないのが残念ですね」
「あ、そう言えば、シラヌイの体はどうなってるの?」
「はい。そちらは現在、各地の企業体から部品をオーダーメイドで造って頂いている最中です。重要部分は全てこちらで製造可能ですが、最新の技術成果は取り入れたいと思っていまして」
「シラヌイが体を手に入れたら、みんなでご飯食べられるよ。エーミール」
「僕、楽しみだな……おねーちゃん頑張って」
「はい。いいえ。頑張る必要もないのですが、その気持ちだけ頂いておきます」
こうして、その日はソーメンを食べた。
甘かったり、辛かったり、酸っぱかったり、しょっぱかったりする薬味は刺激的で2人で変な味と笑いながら色々な味を覚える事が出来たのだった。




