第13話「潜入」
パーカー姿で潜入して港街の時に使ったスタンガンの大きい版。
自動小銃型のソレを使う事になっていた。
全天候量子ステルスは基本的にOP以外に使う事も想定された造りであり、現在は消える兵隊は珍しくない。
「此処かな?」
山の麓から消えたドローンを連れて一緒に山登りしつつ、潜入してみる事にした。
故郷にいた時もちゃんとおじさんの遺してくれた書物は見ていたので、それを大本にしてCQCなどの格闘術は独学で学んだ。
動画サイトや現代での人間同士の近接戦闘シーンなどもちゃんと見ていたのである程度は出来ているとは思う。
「此処ですね」
掛けているサングラスにはシラヌイの姿が映っている。
AR技術によって現実空間の映像に新たな映像をリアルタイム合成する技術は普遍化している普通の代物だ。
スラムなどにすらも、非合法なARによる看板などが多かったりする。
「此処が入り口なんだ……トイレ?」
「はい。そういうものです。昔から……」
シラヌイが人に出会わないように案内してくれた街並みの中に隠し通路があるらしいとイソイソ歩いていたら、汚そうな公衆トイレが一つ。
内部に入ると掃除用具が入っているべきロッカーが丁度階段になっていた。
下の通路の先には非常灯のような赤い電灯が灯っている。
「行きましょう」
「うん」
進んでいくとあちこちに監視カメラがあった。
「カメラは大丈夫なの?」
「ええ、何年前のものか分からない骨董品です。しかも、恐らくは当時の回線をそのまま使っています」
「簡単に騙せるって事?」
「カメラ先のシステムは最新のようですが、10年前の型落ち。その上、電気工事の類はこの山の構造状かなり無理があるのでしていないようです」
「どういう事?」
通路を歩きながら訊ねてみる。
「戦後の混乱期に造られた要塞は言わば素人の手仕事で造られた積み木のようなものです。その中を複雑な配線で電源が通っている為、何処かを切ると機能不全になってしまうようです」
「それって何が何処にあるか整理されてないって事でいいの?」
「はい。タコ足配線したハブのケーブルと電源ケーブルを間違って切り離したりするような光景を想像して下さい」
確かに間違えて電源を切ったら、他のコードが無意味になるのは解った。
「あ、見えて来た」
「この通路の左に曲がって250m進んだ場所にある左の扉を―――」
「あ」
角を曲がった途端に丁度、複数ある扉を開けた人間と出くわした。
「おう。坊主。パーティーのチケ代集め終わったのか?」
「済みません……ごめんなさい」
一応、謝ってみる。
「まだかよっ!? クソが!? 仕事遅いぞ!? もう一回出直して来い!!!」
「す、済みませんでした」
舌打ちされて、そのまま近くにある通路の他のドアに人影が入っていく。
「ふむ。これで色々と捗りますね」
「?」
「今、盗聴用の小型マイクをあちらのスーツにドローンから射出して仕掛けたので。布地に張り付く針型ですので気付かないでしょう」
言っている傍から耳の中の小型のスピーカーに音声が入る。
歩きながら聞いておく事にした。
『おう。どうだ? 大兄の機嫌は?』
『ああ、今、いつもの改造部屋だ。外見を新しい好みに変える為にパーツを選んでるんだと。外見は獣の足や腕にしたいとか何とか』
『医療技術ってのも進み過ぎるとこえーもんだな。たった一日であの数のパーツを接合して縫合痕まで全部治っちまうってんだから』
『オイ。聞かれるぞ。世間じゃ、あーいうのを【キメラ・ファッショ】っつーらしいが、何だかなぁ。普通の女じゃダメなのか?』
『そこは好みだろ。なら、お前が数日で自分の女の顔や体系変えられたりしたらどうする?』
『どうするってそりゃ……楽しむさ』
『はは、オレは気持ち悪くて無理だわ。ちなみに今回は人型に戻すらしい。前は椅子だの箪笥だの便器だの、色々やってたっけなぁ』
『ま、体の殆どは培養してた臓器と血液で殆ど入れ替わってるし、骨や骨髄まであの大兄お手製だ。どれだけ持つやら』
『幾ら【ストーン・アース】時代の遺産つっても限界がある。それが解ってるから大兄も今日潰しちまうんだろうさ』
『ま、中身はまた攫って来ればいいし、あいつの体は全部一式予備が幾らもストックされてるらしいからな。適合者がいれば、同じ外見のが出来上がるだろ』
他愛ない会話らしいが、どうやらサイバネティクスが進み過ぎた時代だからこそ、色々と悪い事にも技術は使われ放題みたいだった。
「お邪魔しま~す……」
そっと目的のドアを開けると通路の先には誰もいない。
「こちらです」
シラヌイに言われた通りに進むと一番奥の硝子張りの部屋に人形が置いてあった。
マネキンのようにも見えるが、どうやら違うらしいと分かるのは瞳が人間のものだったからだ。
「144cm……病的なまでの再現率ですね。完全な球体間接ドールにも見えますが、神経と肉体が内蔵一式と一緒に入っているようです。他は血流を保つモーターや保温用の温度管理機器ですか」
白い性別がよく分からない人形の瞳。
口元は動いていないけれど、口元から音がする。
『誰……?』
キョロリと虹彩が真っ白な瞳がこちらを見ていた。
「初めまして。アズールって言います」
『アズール? ウチの幇に新しく入った人?」
「バン?」
『違うの? 僕は“人形の”エーミールだよ』
「男の子?」
『ううん。女の子。大兄が言ってた。あ、大兄って言うのは僕を造ってる人なんだけど、知ってる?』
「知らないけど、今日パーティーがあるからお仕事で来たの」
『そうなんだ。僕もようやく開放されるんだ。嬉しいな……』
「嬉しいの?」
思わず訊ねると人形のエーミールがちょっとだけカタカタ揺れた。
『お母さんやお父さんは標本になって開放されたんだ。他の人達も一緒に……だから、もう寂しくて……大兄もきっと僕に飽きてくれたんだよね……』
「飽きられたかったの? エーミール」
『だって、そうしたら早く解放されるから。それだけが救いだって、お父さんもお母さんも言ってた』
「そうなんだ。エーミールは開放されたら何処に行きたいところある?」
『行きたいところ……それはよく分からないけど。僕、鳥になってみたいかも』
「鳥さん?」
『うん。今まで鳥にされた事は無かったから。そうしたら、きっと空を飛べてキモチイイんだろうなって』
「じゃあ、開放してあげる。シラヌイ。この子を鳥さんにしてあげられる?」
『勿論です。その筋のプロフェッショナルですから』
端末を出すと3D投影でエーミールにも見えるようにシラヌイが出て来た。
『ええと、誰? それに開放……大兄が怒っちゃうんじゃない?』
「大丈夫だよ。その人、今日此処で死んじゃう予定だから」
『そうなの?』
「うん。だから、エーミールが良ければ、一緒に行く?」
『……昔見た物語みたいだ』
「物語?」
『うん。お人形を抱いて旅に出るとっても可愛い子の物語……大兄が僕に送ってくれた絵本にあったんだ……ねぇ、一緒に行ってもいいの? 大兄に怒られない?』
「その人が怒られる方だから、別にいいと思うよ。ね? シラヌイ」
『はい。今日死ぬ人間には関係の無い事ですから』
エーミールが何故かちょっとだけ苦笑した気がした。
「オイ!! エーミーッ――――」
振り返った時にはドローンに積んでいた無音のオートマチックのホーネット・ライフルが相手の頭を吹き飛ばしていた。
屋内の制圧戦に使われる超低速MVT……つまり、極小規模の近接信管を入れ込んだ弾丸を使う代物だ。
第五次大戦時には屋内戦においては爆破距離を設定出来たり、微小な磁界を自ら発生させて弾道を曲げる事が可能な悪魔の兵器と言われた。
高確率で敵の急所の近く。
もしくは急所内部で爆破される為、助かる確率はほぼ0という殺傷力が西側諸国においては東側の勢力以外には使ってはならないと国際条約で禁止させているものだ。
使われる時は大抵、敵を脅威度で選定して範囲内の敵を爆殺するオートにするのが定石……というのがネットの評判だったはずだ。
「あ」
『あ』
『あ……オートにしているのを忘れていました。これで大兄という方は死にましたので断る理由も無いと思うのですが?』
シラヌイの言葉でエーミールが太った頭の無いパンツ一枚の下着姿な死体を見て、ちょっとだけ笑みを浮かべた気がした。
『うん……一緒に行ってもいいかな? 僕』
『「勿論」』
思わず一緒の言葉が出たシラヌイが肩を竦めて、エーミールを蜘蛛型の1mはあるだろうドローンの背中に片足で器用に背負う事になったのだった。
*
ドローンへ一緒に載せて貰い。
そのままエーミールの体の一部を回収したいと言い出したシラヌイに連れられて、すぐ近くにあった培養層のある部屋からドローン内部から出て来たサブアームで様々な細胞を硝子越しの臓器から針で採取。
沢山の臓器が浮かぶ部屋から裏道へそのまま入った。
「そう言えば、このドローンどうやってあの細いロッカーを通り抜けたの?」
『ああ、ドローンの足を畳んで転がって貰いました』
「……エーミール載せたまま通れる?」
『問題ありません。別のドアから出ます』
『あ、あの……アズール。僕知ってるよ。大兄が隠してた通路。確かこの通路のB3の真下にあるハッチを暗号で開けるんだって。護衛を通す為にとっても大きく造ったって言ってたと思う』
エーミールの言葉にシラヌイがすぐに場所を割り出して通路を進んでいくと途中で幾つかの扉が開きそうになったが、すぐにロックされた。
その時、通路外や通路内に館内放送が掛かる。
『お前ら、しばらくこっちに来るな。気が散る。通路は禁止だ。表を使え』
『あ、大兄の声……』
『監視カメラ映像に残っていた情報から音声を再現しました』
『うわぁ、おねーちゃん。スゴイんだね』
エーミールが感心した様子になる。
『勿論です。プロフェッショナルですから』
「シラヌイってプロフェッショナルなの?」
『はい。昔からこういった潜入任務は散々やって来ましたので』
「そうなんだ。へぇ~~~」
通路の先の下に続くハッチが見えて来たと同時に油圧のロックが開放される。
『このハッチの下は昔使われてたボークーゴウとか言う場所から街の端に出るんだって』
『旧TKO山の防空壕の地図を入手。なるほど、誰も使わない史跡ですか。要塞の基礎は此処なのですね。面白い事が出来そうです』
「面白い?」
『ええ、そろそろ幹部や部下達も集まって来る頃でしょう。後1時間程は時間が稼げます。その間に準備しましょう』
何だかシラヌイは楽しそうだった。
何故かは分からなかったのだけれど。
そうして、エーミールの言っていた通り、防空壕から出てOPに回収して貰って、エーミールを郊外の隠れていた公安の人達にポットに入れて、荷物として預かって貰った。
「此処で待っててね。エーミール」
『うん。解った。お仕事頑張ってね。アズール。おねーちゃん』
通信機だけは入れて置いたのでエーミールとはお話が出来る状態にもしている。
色々とお話を聞いてみたのだけれど、どうやらエーミールは大兄という人から聞いた事以外はあまり知らないらしい。
その代わり、自分がどんな風に今まで使われていたのかを教えてくれた。
『男の人達も女の人達もどうすれば喜んでくれるのかって、普通のお姉さんが色々と教えてくれたんだ。その人は僕を気味悪がったから大兄が開放しちゃったけど』
「エーミールは誰かに喜んで欲しかったの?」
『うん。そうすれば、エイヨウを貰えたんだ。そうすると気分が良くなるの。でも、エイヨウを取り過ぎると死んじゃうんだって。今まで何度もエイヨウを取らせて来たから、もうモタナイって大兄が言ってた』
『なるほど。ならば心配ありません。これでも【ドッペル・ラウンド】の頃から、その手のものは幾らでも取り扱って来ましたので』
「そうなの? シラヌイ」
『はい。そもそもDNAシーケンサから始まって現代に存在する全ての遺伝子操作機器や遺伝子資源の大半は取得済みです。運用者保護の為に脳の蘇生や改造は命題の一つでしたので』
「何か大丈夫だって。シラヌイが」
『そうなんだ。スゴイんだね。おねーちゃん』
何だかシラヌイは褒められてちょっと嬉しそうだった。
『最後の車両を検知。これより仕事を始めましょう』
シラヌイが今日持って来た武装を全て提示してくれる。
『主武装はドイツ、ゲッター社製の広域制圧用グレネードランチャー【ゲーテⅡ】秒間10発の速度でグレネードをばら撒くOP用の傑作です』
「おおぉ、マガジンがでっかい……」
OPの下半身程もあるだろう大きさのドラムマガジンを備えたグレネードランチャーは砲身が3つも付いた大型のものだった。
『700発入ります。対地制圧兵器としては米軍も正式採用していますし、基地制圧ならこんなものでしょう。まぁ、値段に目を瞑れば、使い易さも相まって1分で小さな街なら更地に出来ます』
「他には?」
『米国の純正品【ストライカーBE02】アタッチメント・レールガン。短距離用の腕に付けられる代物です。加速用の砲身が分かれて円筒形に沿って三つ並んでいる事から俗称はトライデント。弾速に極振りした本当のレールガンと言って良いでしょう。射程距離は凡そ500m。それ以上は弾丸が溶けてしまうので』
「腕に二つ……これなら他の武器も持てる?」
『はい。近接用には超硬タングステン合金製【ハイテン・ブレード】。日本の越島重工製です。越島重工は世界初の常温超電導製品で有名な会社ですね。合金の削り出しと研ぎの技術は未だに他者の追随を許しません。まぁ、使わないでしょうが』
「有名な奴だ!! アニメでやってたよ!!」
『ええ、最後に中東の戦車メーカーとしても名高いイムラーク工業から【バールベックEE10】……戦車の装甲を用いた多層型の大型盾です』
「でっかい……テディの頭がちょっと出るくらい? 褐色で本当に装甲みたいだね」
『今回はグレネードで制圧爆撃を加えた後、残敵のOPを全て掃討しつつ、地下防空壕内部から爆破。要塞を崩した後、生き埋めにした人員を背部に搭載したナパームで焼きます』
「うん。解った。この盾は反撃を防御する用?」
『はい。恐らく要塞及び周辺の基地機能をコレで半壊させられますが、複数の敵がこちらに接敵してくると思われます。それまでにレールガンで敵の数を減らし、掃討しつつ前進。盾は途中で捨てて、最後は高機動戦で敵の防衛戦力を吹き飛ばし、ナパームは最後にしましょう』
「了解」
カタログでしか知らないものばかりだった。
巨大なドラムマガジンを三脚で固定して旋回しつつ撃つゲーテ。
二の腕に長方形のマガジンと共に増加装甲のように装着して使うガイドレール三本のストライカー。
大ぶりなマチェーテ・タイプで現役OPの半数以上の標準装甲を一撃で半分割るハイテン・ブレード。
戦車砲の直撃に何度か耐え、OPの携行火器ではレールガン20発、火薬式の火器ならば迫撃砲の雨にも耐えるバールベック。
どれもこれもOP乗りならば、一度は聞いた事のあるものばかりだ。
「行くよ。シラヌイ」
『了解です』
『頑張って……アズール』
「うん」
私はエーミールに返事をしてから、ゆっくりと引き金を引く。
街と基地の間にある無人の地域が凡そ250m程。
その先には駐車場があり、多数の車両が止まっていた。
そこに光学迷彩をそのままにトリガーを引き続ける。
大量のグレネードがポポポポポポッと大量に上空からばら撒かれ、要塞と周囲の施設と大量の車両を全て吹き飛ばしていく。
巨大な炎の柱が幾本も上がるのはリチウムイオン系や水素バッテリーを使っている車両が多いからだろう。
猛烈な爆風で基地化されていた領域にあったセンサー類や土塁、鉄条網、OPの待機場所や武器倉庫、全てが脅威度順に爆発炎上していく。
左右に三脚を振りながら高度を高くしつつ、飛距離を稼ぎ、至近から遠方に向けて制圧爆撃を加え続けると弾数の半分くらいで要塞の下部まで辿り着いた。
此処からは山の斜面を何度も撫でるようにグレネードを降らせる事に専念する。
その時、ドカッと周囲に激震が奔り、蜘蛛型のドローンが運び込んでいた爆薬が要塞下部の防空壕を内部から崩して要塞の一部が地下に崩落した。
『これで反撃は最小限になるはずです』
「ありがとう。このまま前進しよっか?」
『ええ、そうしましょう』
内部が露わになった場所へグレネードを集中させつつ、ゆっくりとグレネードを保つ三脚下のローラーを押し出し、移動を開始する。
要塞があちこちで凹んで各区画が内部から崩落しているのが分かった。
どうやら要塞を支えていた基礎の一部にはシラヌイが推測していた通り、防空壕が含まれていたようだ。
ドラムマガジンが空になるまで何とか打ち終える事が出来た。
「よし。グレネードを破棄。盾を持ってっと」
背後から大きな盾を引き出して前に起てる。
そのまま濛々と上がる噴煙と炎の最中を盾を構えながら光学迷彩を切って前進すると当然のように撃ち漏らした幾つかの領域から銃撃が盾に当たった。
土煙や噴煙、炎の中からの射撃は命中精度が落ちる。
しかし、こちらの位置はもう筒抜けだろう。
だが、盾に当たる攻撃の幾つかから弾道予測したシラヌイがマーキングした地点に盾の後ろからサっとレールガンを早打ちしていく。
すると残っていたOPの兵器をトーチカ化した場所や半壊してオートで反撃していたと思われる機体の反応が次々に消えていく。
恐らく、内部の人間は最初の攻撃で機体内部で衝撃や熱で死んでいる。
残っているAIが自動で判断して攻撃しているのは弾道が最初からこちらに迷いなく向けられていた事からも明らかだ。
複数のレールガンと火薬式の自動小銃の攻撃が盾に当たっていたが、周辺の残敵を腕のレールガンで掃討するまでは持ってくれた。
凡そ10機のトーチカと半壊したOPの攻撃はそれでも盾一つを潰す程なのだから、最初の制圧爆撃が如何に重要だったかが分かる。
「敵前衛を排除したよ」
『このまま進みましょう』
相手の通信の傍受などは全てシラヌイに任せているので今は作業をしている状態。
此処から本格的に要塞内部にナパームを投擲しなければならない。
いきなり攻撃を受けた敵はシェルターなどに入ろうとするだろうが、そのシェルターは地下の防空壕と隣接している作りだったらしく。
恐らく崩壊しているだろう。
つまり、建物内部の頑健な部分に取り残された敵は此処から逃げ出すか。
もしくは迎え撃つしかない。
「あ、盾もうダメみたい。捨てるよ」
『はい。此処からは高速機動で行きましょう』
盾の限界が来た事をアラートが鳴ってお知らせされたので盾を倒して、前方に加速する。
要塞付近からオートによるOPのレールガンの攻撃が次々にこちらを狙い撃とうとしていたが、爆炎、噴煙が多過ぎて、ロクな弾道計算が出来ていない為、コックピットを片手で庇いつつでも相手の居場所を片方のレールガンで狙い撃てた。
普通のものよりも飛距離で劣るが、威力と命中率で勝るこちらの弾丸が相手の半壊したコックピットを吹き飛ばす。
一撃だけ左脚の一部に被弾したけれど、損傷は軽微だったので任務を続行。
進む途中に小口径の対OP用の高収束レーザーらしき反応があった。
「これって……」
『索敵。周囲に人間が4人から5人いるようです。対人攻撃を推奨』
すぐに残っていた人員による反撃だと分かったのでナパームの一つを起動して足元にブツける。
瞬間、周囲から低温で高速燃焼する炎が吹き上がり、半径30m圏内が一気に酸欠状態になる。
ナパームの中でも酸欠を造り出す事に特化した商品というのが実はあったりする。
国際条約だと使うのは禁止とされているが、米国は堂々とその条約に批准していないからと使っていたりする。
OP用の対人ナパーム装備の多くは世界各地に駐留する米軍の横流し品だ。
これで対ナパーム用のスーツを着ていなければ、助かる可能性は無かった。
接近を試みた人間が運よくガスマスクを付けているとしても炎で焼かれてしまうので問題無い。
『反応消失。時限式兵器の類も周囲の電波状況を見る限り、見当たりません』
これらの対人兵器の類というのは基本OPの装甲を少し炙るくらいのものが大半であり、OPにはまったく効果がない。
そのままダッシュすると今度は人が扱う口径の火器での反撃が要塞側から来る。
やはり、撃ち漏らした者がいるらしい。
崩れた要塞内部から小銃による反撃を行っているのは解ったのでナパームを起動して投擲する。
剛速球で目標がいると思われる地点で炸裂したナパームが今度は粘着質で長時間燃焼するジェルの燃焼材と共に周囲を炎で焼いて行く。
シラヌイの話では3日は低温でじっくり燃えるそうだ。
近付きながら二度、三度、投擲して、山の半ば程まである要塞の最上階付近まで投げ込む事が出来た。
『残ったナパームを時限式にして要塞周囲に配置します。目標地点に投擲を』
「うん」
最後のナパームを5つ程目標地点に分散して投げた。
「これでいい?」
『はい。もし地図に無い通路があったとしても、これで問題ありません』
「どうして?」
『あの要塞の構造状、山の斜面の反対側に抜ける道は作れないと判断しました。元々が山に開いた大穴に造られた要塞です。防空壕の上に作ったのも斜面が建物を建てるには脆弱だったからでしょう。ですが、此処でもしも通路を一つでも山の反対側に伸ばしてしまうと……』
「もしかして山が崩れちゃう?」
『はい。もしくは山肌の地滑りや崩落すら考えられます。つまり、要塞からの脱出口は要塞のある側の何処か。そして、先程の崩落と爆破の衝撃で崩れるような浅い場所にある通路は全て潰せたと仮定すると……』
「後は深いところだけ?」
『はい。ですが、其処から更に逃げ出そうとすれば、周囲を囲む公安に見付かる。という事は厳しい時間制限を受けながら逃げなければならない』
「ふむふむ。夜とか?」
『ええ、そうです。そして、炎が消える時間を何とか計算して逃げ出そうとしても朝から夕方までは無理になる。通路がありそうな場所は今の投擲したナパームの範囲にあり、可能性は全て潰しました』
「時限式だから、燃える時間を調節出来るって事?」
『ようやく逃げられる瞬間が来ても、これで再び出口を塞げる。ナパームが燃え続けているとしたら? 相手はどうなるでしょうか?』
「出られなくなる?」
『その通りです。大規模なシェルターは潰したので相手は例え水と食料があっても狭い空間に糞尿を垂れ流すか。小型トイレと共に籠る事になる』
「おぉ、シラヌイ。賢い……」
『公安には6日程張っていて貰いましょう。恐らく怪我や熱によっても弱っているので炎が消えた後に捜索すれば、あっさり投降してくれるでしょう』
「スゴイ。やっぱりシラヌイって高性能AIだ」
『それほどでもありません。プロフェッショナルですから……』
いつの間にかシラヌイのお面には眼鏡が書き込まれていた。
褒められるのが気に入ったのかもしれない。
『アズール。おねーちゃん。大丈夫?』
「うん。じゃあ、エーミールと一緒に帰ろっか」
『そうしましょう。今回の報酬は9桁ですか……エーミールの体を造るのにしばらく掛かりそうなのでネットで買い物をして受取りつつ帰りましょう』
その日、OPにエーミールを積載して帰る途中。
大型の黒いトレーラーが並走して旧道で渡してくれた大きな鋼の5mはありそうなバックを抱えてお家に帰る事になったのだった。




