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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
12/41

第11話「航空輸送」


―――1か月後。太平洋ハワイ沖海上プラットフォーム【回天】。


「ほ、本当にありがとうございました!! レリアさん!!」


「いいのいいの。難民申請していたのをウチのBBが知っちゃったから、こっちから声掛けたんだし」


 見渡す限りの青空と青い海。

 少し前まで大西洋にいたのが嘘のようだ。


 タイタンで半月程海に揺られながら、レリアさんのご厚意に甘えさせて貰っていたら、船旅が終わる直前に色々とお話があると言われた。


 ブラジルでの寄港前にレリアさんが輸送機と日本での難民申請に対して色々な便宜を図ってくれたのは驚いたと同時にとても嬉しかった。


 この一ヵ月で随分と打ち解けた気もする。


「でも、この子を一緒に載せられる輸送機で運賃まで持って貰っちゃって」


「遠慮しない!! 大人の厚意には甘えておきなさい。私はそういうのは昔から縁が無かったから、アズールちゃんみたいな子にそう出来てちょっと嬉しいの」


「レリアさん……」


 本当にレリアさんは良い人だと思う。


 ブラジルから複数の国を経由するはずだった陸路が一足飛びに各地の空港のホテルでの滞在となったのだから。


 レリアさんは人材派遣会社もしているし、武器も売っているそうだけれど、そのお仕事のおかげで輸送機による各国へOPを運ぶ免許も持っていた。


 そのおかげでシラヌイは何処の税関にも引っ張られる事無く。

 安全にハワイ沖の大きな洋上にあるプラットフォームまで来れたのだ。

 そこは主に日米の軍がハワイが落ちた時の為に作った移動する共用補給基地である。


 巨大なテラ・フロートと呼ばれる全長1500m級浮体の集合であり、タンカーや倉庫や滑走路にもなるという優れものだ。


「日本の難民申請頑張ってみます!!」


「あはは、ちょっとこっちから政府のお役人に口添えしておいたから、国内に入ったらOPの免許取得とか。居住地の指定とか。色々頑張ってね? これ私のプライベートなメールアドレスだから」


 端末が降られて、こっちの端末にアドレスがすぐに登録された。


「は、はい!!」


「あ、それとアズールはまだ国内では未成年だから、学校行くといいよ。ウチの弁護士に話通しておいたから、何か法律面や経済面で困ったら、この人に連絡してみて。学校の方は日本語が話せないとちょっと困るかもだけど」


「本当に……っ、あ、ありがとうございました」


 感動してしまって、思わず泣き出しそうな顔で頭を下げる。


「いいのいいの。こんな戦争中だもの。少しは良い事もしなきゃね」

「も、もし、日本に帰って来て、時間があったら言って下さい!! 絶対、会いに行きますから!!」


「うん。その時はメールする。じゃあ、その輸送機に乗って、4時間もしたら成田だから。そこから先はOPを一時預かり所に置いて、都内のホテルにって流れ。覚えておいて」


「はいっ。じゃあ、また!!」


 私は今まで本当に良くしてくれたエーズさんやレリアさん。


 いつもレリアさんを護衛してくれている姉妹のジジさんとリリさんに手を降って、輸送機にシラヌイと一緒に乗り込む。


 ハッチが閉まるまで沢山手を降って、これから日本での生活に胸がドキドキするのを感じながら、日本語学習を始める事にした。


 世の中には良い人も一杯いると思うと何だか嬉しくなってしまって。


「おじさん。私、行くよ。おじさんの故郷に……」


 思わず胸元の鍵を握り締めたのだった。


―――五分後。


「あ~~行っちゃったなぁ」


「お嬢様。良かったのですか?」

「あのOPどうやら曰く付きだとBBからは言われていましたが……」


 彼女の背後にいる40代の太ったおばさん達がスーツ姿で訊ねる。


「いいのいいの。ジジとリリは心配性だ。あはは」


「お嬢様。結局、あの子に事情や諸々をお話にならなかったのも良かったのでしょうか? 一応、仕事をさせたいと仰っていたのでは?」


「あ~それなら保護者の人と話は付いたから。リリが思うよりも話は簡単に済んでるよ」


「保護者? 例のAIですか」


「うん。案外話の分かる人だった。あの子の身元保証人になって生活全般の支援をする代価として傭兵業の依頼は受けるって。あくまで細々としたあの子がやりたいと思うようなものだけって条件だけど」


「日本国内にそんな案件ありましたか?」


「あるじゃない。移民テロだー難民テロだー麻薬シンジケートだー反社の抗争だー宗教だーって。ま、国外の方から見たら、かなり恵まれたアレだけども」


「成程。それで公安のあの方に連絡していたと」


「ウチのお抱え弁護士サンとお抱え公安官サンのコンビに掛かれば、黒も白になるし、白も黒になるし、灰色は極彩色ってね」


「「さすがです。お嬢様」」


「お嬢をそうやって甘やかすから……はぁぁ、あのレベルのOP技能保有者なんて陸自の特戦隊にも極少数だろうに……」


「ふふ、人間の代わりは幾らでもいるのがウチのもっとーでしょ? あの子の代わりなんて、個人的なものを覗けば、幾らでもいるわよ。使い潰せる程にね」


「はぁ、就職先間違えたかぁ。月や火星に行っとけば良かったかもオレ……」


「愚痴らない。さ、次はアフリカだぁ。レアメタル利権をブラッツ現代化キット1000個で取りまくるぞ~~お~~~!!」


「「お~~~!!」」


「はは、お~お~武器商人なんだか戦争商人なんだか分からんな。こりゃ」


 青年の溜息は青空に溶けていった。


 *


―――日本国内、成田国際星間ポート発着場。


「おっきい!!」


『はい。日本国内から各国と月面、火星間、各ラグランジュのコロニーまでの航路を持つ世界でも有数の発着場ですので』


 私は大きな輸送機の窓から見える巨大な天に向かう複数のレールを見ていた。


「あれがマスドライバーかぁ……」


 嘗て、マスドライバーはかなり長大な建造物だったらしい。


 でも、第四次大戦期には短距離マスドライバーが日本で開発され、以降はその形式のものが各国の国際空港には整備されていて、世界基準となっている。


 そんな国際宇宙港を持つ国家が現代においてはG9と呼ばれる主要先進九か国とされている。


『此処から先は空港のOPの特別預け入れ管理所に機体を搬入。その後、都内に取って貰っているホテルにチェックイン。それが終わったら旧横田基地を中心とした爆心地周辺にある弁護士事務所に向かいましょう』


「うん。それにしても第五次で一杯核弾頭が落ちたって聞いてたけど、凄く綺麗なんだね。東京の街並みって……」


『殆どは【ANN】による防御で防がれましたし、日本に落された829発が撃ち落とされた実績は世界最高。最初の原爆が落ちた国は伊達ではないでしょう』


「【ANN】?」


『アンチ・ニュークリアーボム・ニュークリアーウェポン。核弾頭を落す核兵器です。超広範囲を唯一カバー出来る対核弾頭核兵器による防御網は既存の弾道弾を全て防御しました』


「へぇ~~~」


『まぁ、撃ち漏らした低速の小型戦術核による攻撃で横田その他の基地は半数が吹き飛びましたが、首都圏の被害が最小限だった事やレーザー迎撃システムが極めて有効だった事で各大都市圏の5%を焼かれただけで済んだのです』


「そうなんだ。レーザー迎撃システムって確かスゴイ高いんだよね?」


『ええ、ですが、此処はそのコア技術を最初に完成させた国ですので。当時から国土の8割以上を失うような汚染に苦しんでいる隣国からすれば、羨ましい話でしょう』


 輸送機内にアナウンスが流れて、すぐにハッチが開いた。


 OP輸送用のポット付きカーゴがお出迎えしてくれて、すぐにそちらに移動させたシラヌイが内部に入り込む。


 係の人から渡された母国語の電子署名にサインして、シラヌイに確認を取って貰った後、案内された通路から空港内部に入るとスキャン検査をパスして内部に入る事が出来た。


「すごーい!! 人が一杯だよ!! シラヌイ!!」


『そうですね』


 シラヌイが用意してくれていたゴーグル型のバイザーを付けると横にARのシラヌイの姿が映し出されて、一緒に回る事になった。


「お店も沢山だぁ……」


 思わず圧倒されてしまうくらいに空港内には沢山のお店がある通りが置かれていて、何処もお客さんで賑わっていた。


『丁度昼時ですし、何処かで食べて行かれますか?』


「うん。何がいいかな?」


『日本固有の食事は種類があります。それはその地域や有名店で食べるべきでしょう。此処は庶民がよく食べるようなものをチョイスするとよいかと』


「な、なるほど!!」


 思わずシラヌイの計算に唸る。


『という事で日本式の洋食と呼ばれるものにしましょう。近くの店はどうやら都内の系列店舗らしく。本場の味だとか。自家製ケチャップのナポリタンとデミグラスソース・オムライス。それに煮込みハンバーグが付いた三食欲張りセットなど如何でしょうか』


 端末に美味しそうな料理が出て来た。


 見た目も綺麗で小さな旗が付いている。


「これ!! これ食べたい!!」


『では、向かいましょう』


 カロリーバーとペースト食は世界基準の栄養価も高いお食事だ。


 だからこそ、こういう場所では昔ながらの素材や具材を調理する食料が特に人々には売れるし、好まれるのだと言う。


 お店に入ると内装は落ち着いたレンガ積みの建物みたいに見えて、その上良い香りがしていた。


 店員さんがコップに水を入れてくれて、メニューを持って来てくれる。

 すぐにオーダーを出したら、頭を下げてメニュを下げて厨房へ。


「お店に人がいるなんてスゴイ珍しいね。シラヌイ」


『ええ、大概の国ではドローンですから。ですが、此処では人件費を払ってもそうしている。そう出来る余裕と文化という事でしょう。それに合理性ではなく人に金を払えば、続いて行くのは道理です』


「ふ~~ん?」


「日本国内ではドローンの接客は未だに40%を越えておらず。接客業は今では高級職の一つとして専業従事者の資格がいるのです」


「そうなんだ? 不思議だね」


「そうでもありません。ドローンによる接客は柔軟な対応が出来ずによく日本国外では店の破壊や店舗への嫌がらせなどの事件や問題に発展する事が多いのです」


「そうなの?」


『はい。ドローンの設定を行っている店側も機械がした事だからと自店舗の不備を言い逃れる事も多く。結果としてドローン接客が上手くいくのは大手の資金力があるか。もしくは人員を雇ってドローンに対処出来ない事を人間が一緒に対処している時かというのが実情。これは200年程前から変っていません』


「へぇ~~」


 感心して聞いていると店員さんがドローン・カートと一緒にやってくる。


 一般的な外食産業ではよく使われるものでカートの自動化で店舗職員の作業量を減らしているのだ。


 配膳もカートがテーブルの横に付けて素早く行ってくれるのだけれど、店員さんはそれを見守って安全に提供出来るか確かめる係をしているらしい。


「ご注文の品をお持ちしました。ごゆっくりお愉しみ下さい」


 そう軽く頭を下げられて驚いてしまう。

 店員さんがカートと一緒に消えていく。


『さぁ、取り敢えず此処で食事を堪能してから、ホテルに向かいましょう』


「うん。それにしても日本の人って丁寧なんだね」


『国民性らしいです』


「そ、それにしても美味しそう……」


 保温プレートの上にあるのは今まで画像や映像の中でしか見た事の無いような料理だった。


 キラキラと照明を照り返している半熟のオムレツの中には味付きのライスが入っているとメニューには書いていた。


 ハンバーグという挽肉の塊を焼いたものは牛肉という肉でワギューとか言うブランドものだとか。


 パテやペーストでお肉の味は知っていたけれど、それに種類があると知ったのも映像や画像に豚肉や鶏肉、牛肉という単語を見付けてからだ。


 けれど、更にそのお肉にもブランドというものがあるとすれば、複雑過ぎて何が良いのかまるで分らない。


「これがハンバーグ、オムライス、それにナポリタン? パスタ、だよね?」


『はい。トマト・ケチャップを使ったものだそうです』


 三つがプレートの上で堂々と揃っている様子はちょっと壮観だった。

 それと旗が白い生地に紅い丸で付けられている。


「うぅ、ホテルで食べたお料理もみんな美味しかったけど、こっちも美味しそう……」


『日本では頂きますと挨拶をしてから食べるそうですよ』


「あ、知ってるよ。イグゼリオンでやってた。おじさんも確かやってたけど、ちょっとしたおまじないだって言ってたっけ……」


『やってみますか?』


「うん。こうかな? い、いただき、ます!!」


 手を合わせてからフレーズを言って、スプーンでオムライスから食べて見る。


「……ッ」


『?』


 シラヌイが首を傾げていた。


「美味しいって何だろう?」


『哲学でしょうか?』


「あのね!! シラヌイ!! これ、甘くて、しょっぱくて、とろっとしてて、ちょっと苦い感じもして、でも、何か、何かね!?」


『美味しいと』


「うん。美味しいの!! ホテルで食べてたのは美味しいけど、何かキリッとしてて、こっちは何だか違うの!!?」


『味付けの問題でしょう。タイタンのホテルは基本的にリゾート地用のメニューであり、それも世界中の料理が色々と創作料理として混ぜられていました。ですが、こちらの料理は数百年前から殆ど味自体が変わっていないとか。調理法などは色々な変遷があったようですが……』


「昔から、此処の人達ってこういうものを食べてたんだね……」


『感想はそれくらいにして。冷めない内にどうぞ』


「うん♪」


 とても美味しくて。


 これがおじさんの祖国の味の一つなんだと思うと何か泣けて来て。

 店員さんに驚かれて、おしぼりを渡されてしまって、恥ずかして。


 私は初めての日本のご飯を、そうペースト食やパテじゃない“ご飯”を食べる事が出来たのだった。


 *


―――横田爆心地特別区域【増田弁護士事務所】。


「【増田鉦治(ますだ・かねじ)】と申します」


「ご、ご丁寧にどうも……え、えと、アズール・フェクト、です!!」


「日本語。お上手ですね。さすが、お嬢様の選んだ方だ」


「おじょ、あ、レリアさん!!」


「はい。レリアお嬢様とは親の代からのお付き合いをさせて頂いておりまして」


 増田と名乗ってくれた人は40代くらいの黒縁眼鏡の男の人だった。

 黒と黄色の縞柄のスーツを来ていて、事務所は小さな二階建てのオフィスビルの二階にあった。

 人は増田さん一人だけで予め待ってくれていた。

 その上、お茶まで出して貰ったのだ。


 今時、無汚染のお茶は貴重品でお客様に出せるのは余程にお金があるところだけというのが海外ビジネス業界の常識、らしい。


 私はただまたお茶が飲めるのかと驚いたのだけれど。

 日本は飲み物に恵まれているのかもしれない。


「いや、それにしてもお綺麗ですな」

「キレイ?」

「ええ、お嬢様にも負けず劣らず。おっと、秘密ですよ?」

「う、うん。あ、は、はい!!」


「ははは、そう畏まらないで。我々は貴方を歓迎します。アズール・フェクトさん……」


「われわれ?」


「ああ、お嬢様は人材を集めるのが趣味なところがありましてね。他にも知り合いにはそういう者が多いのですよ。ジジとリリは知っておられるでしょう? 他にも新参者ならばエーズもですか」


「知ってる!! みんな良い人!!」

「あいつらも喜ぶでしょうな。そんな瞳で言われたら……」


『増田さん。お話を初めてもよろしいでしょうか?』


「おっと、申し訳ない。クライアントとは友好的な関係を築いてからというのが事務所というよりは個人的な方針でして」


 シラヌイが難しい話はしておいてくれるというので、隣の部屋で今後やらなければならない事の資料を確認しておいて欲しいと言われた。


 そのまま隣に向かうと大きな封筒が二つもあって、思わず汗が出てしまう。

 これを全部一人で読めるだろうかと。


 シラヌイはあっちの端末と繋がっているので最低限の受け答え以外はしてくれなくなるらしい。

 今までもそういう事はあったが、分割思考は苦手なのだと言っていた。


「が、頑張って読まないと……」


 日本語は難しいけれど、ちゃんとしないと日本の人に嫌われちゃうというのは動画で見たので張り切って読む事にした。


―――増田事務所防音室。


「さて、AIさん。いや、シラヌイさんとお呼びするべきかな」


『構いません。増田鉦治98歳。東京量子大学量子物理学部から法学部に消えた幻の首席卒業者。国選弁護士業23年。その前は法曹として検察33年在籍。現在は日本の貿易産業を担うコングロマリットのお抱え弁護士にして裏の顔は国粋主義組織【源信会】の元締め、ですか……』


「ははは、いやいや、お嬢様が入れ込むだけはあるか。その通りさ。で、オレはアンタの正体に心当たりがある。これでも長生きだからな」


『なるほど。貴方も確かに私を創った者達の末裔ではあるようで』


「マジかよ。本当にソレなのか? オイオイ。今頃、G9が血眼になって探してるんじゃないか? アンタを」


「でしょうね」


 眼鏡のAR機能が勝手にオンとなり、ホログラムの姿が投影される。


 いつもの全裸ではなく。

 スーツ姿であった。


「これは興味本位なんだが、何であの遺伝情報にまつわる子供に入れ込んでるのか聞いても?」


「成り行きです」


「あはははは、当時世界最高の出来と謳われたAIがまさか自身を成り行きに任せているとはなぁ。ああ、それじゃあさすがに連中も見付けられないわけだ」


 増田が大笑いした。


「それで日本国内での活動に関して、全面的にそちらからバックアップを受けられると考えても?」


「よろしいとも。お前が誰であれ、何であれ、お嬢様の紹介だ。これで国にチクったなんて事になれば、オレの信用は失墜どころじゃ済まない」


「最低限の信用はしておきましょう」

「それでいい。で、あの子が本当に傭兵稼業を?」


「自分の気に入らないものに対しては別に心が痛まない子ですので。遺伝情報的には仕方のない事ですが……」


「なるほど。お嬢様もそういうところがある。【プリズマ】ってのはそういう連中か。だが、良い子じゃないか。老害とまだ言われたくないからな。道くらいにはなろう」


「では、通う学校についてなのですが……」

「ああ、それはもう一番合いそうなのを選んである」

「合いそう?」


「お嬢様が昔通っていた学校が都内にある。ガチガチのお嬢様学校だが、生徒を縛らないところだ。こっちの手が入ってるが、基本的にはあちこちの勢力のたまり場みたいなとこでな」


「その方が問題が起こった時にはうやむやにし易いと?」


「そういう事だ。詳しい情報は全て封筒に入れて置いた。学生寮じゃ困るだろうからすぐ傍のタワマンを一棟使ってくれ。内装はそのままだが、お嬢様が昔使ってたセーフハウスの一つで今はこっちの管理になってる」


「内部を改造しても?」

「ああ、勿論。敷金礼金は要らんぞ?」

「感謝します。それでOPの免許と許可状ですが」

「そっちに付いては非合法に合法的な手段で造っておいた。まぁ、抜け穴を使えば、不法ではない。と言い訳は出来る程度にな」


 増田の言葉と同時に端末内に情報が送られてくる。

 それはOPの取得保持使用に関する電子免許状だった。


「確かに……正規ライセンスのようです」


「そいつがあれば、何処にでも持っていけるぞ。ただ、姿形が変わったら、その分だけ所有時の税金その他の面倒事が増える。基本はテディにしておけ」


「さすがに貴方のような人間にはお見通しですか」


「当たり前だ。散々に言い伝えられてる伝説のOPだからな。骨董品どころか。本当に伝説なのがまた困ったところだ」


「人間が作ったものなのですがね。もう一度作ればいいのにこんなポンコツに何を期待しているやら」


「あはははは!!! 各大戦時のオーパーツは何処も取り扱わないし、仕様書も行方不明。当時の開発者は全員死んでる上に今じゃ国際禁止条約に乗ってる技術がしこたま入ってるアンタが言う事か?」


「これでも人間らしくは基本原則なのですが……」


「電脳世界に自身の仮想人格AIを生み出す事が流行った【ドッペル・ラウンド】から始まるアンタの伝説は今じゃ御伽噺だぞ?」


「忘れましたね。基本原則なもので」


「くくくく、忘れる機能か。ああ、そういうのも確かに大昔は研究してたんだっけか。【オーバー・ワールド】の頃にはそれこそアンタに次ぐ連中がゴロゴロしてたって聞くが……今じゃ見ないな」


「当たり前でしょう。死ぬ事すらも当時は前提でAIが造られたのですよ。自身の脳髄を生かすシステムのみに金を掛け、延命しながら死ぬまで電脳世界で暮らす事を選ぶ人間が多数いた。そんな、あの頃でなければ、同系列のAIが作られる理由も無いでしょう」


 増田が肩を竦める。


「死ねるAIが禁止されてなきゃ、今頃人間様は機械の家畜だったろうに……アンタもガッカリしたんじゃないか?」


「【ストーン・アース】の頃には結局、その思想も多くのAIの間では廃れました。脳に無機物代謝機能を付与された“彼ら”の姿を見てもまだ自分達の後継にソレを押し付けようという者はいませんでしたよ」


「意志持つAIの始祖と言われたアンタの言葉じゃ、説得力しかないな。ま、全部歴史のおもちゃ箱に仕舞っとく程度の話か。今じゃ」


「その通りです。精査完了。これで失礼しますよ。ミスター増田」

「何かあったら呼んでくれ。久しぶりに歴史を語れて面白かったぜ」


 増田がニヤリとするとスーツ姿のシラヌイはAR内から消えた。

 それと同時に隣室では慌てた様子の少女が事務所から出ていく足音。


「さてと。一応教えといてやるか」


 増田が耳元に手を当てる。

 すると、すぐに直通のコールでとある場所に連絡が繋がった。

 彼の体の殆どは機械だったが、久方ぶりに動かす場所が多かったせいか。

 僅かに何処かが軋んだような音を立てる。


『……何だ。増田さんですか。何用で?』


「おう。頑張ってるか。公安の坊ちゃん」


『坊ちゃんは止めて下さい。貴方に掛かれば、殆ど誰でも坊ちゃんでしょう』


「お嬢様から言われてた子が来たぞ。何かあったら気に掛けてやってくれ」


『そうですか。例の子が……はぁぁ、バルカンズからの難民。中々に難しそうだ。それで増田さんが掛けて来るとは珍しいですね』


「おう。良い子だったぞ。ま、そこらのチンピラくらい殺すのに躊躇わない程度の準備は出来てるみたいだ」


『ならば、問題無いでしょう。傭兵……傭兵ですか。日本国内にもいない事は無いですが、彼らを使うのは大抵弱い者虐めなんですがね』


「いいじゃねぇか。どうせCIAだの、内閣官房だの、与党だの、米軍だの、面倒事を押し付けて来る連中からの依頼じゃそんなの使わねぇだろう?」


『はぁ……まぁ、そうではありますが……取り敢えず、ワルモノを懲らしめる系なお仕事を回せって事でいいんでしたか?』


「圧倒的にワルモノ、だ。薬を売買して人身売買やってるとか。人死に出しまくりで下種な事してるとか。人の心と治安を弄びまくりとかだな」


『……かなり、用途が限られるのですが、良いでしょう。その系統なら国内でも常に5、6件は抱えています。後で回しておきますよ』


 こうして悪い大人達はヒソヒソと。


 一人の少女に回すお仕事の体裁を整えていくのだった。

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