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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
11/41

第10話「海上戦線」


―――北大西洋海上。


 テディを駐車場の方に移してホテルのお部屋というものに初めて入ると何から何まで知らないものばかりだった。


「ふ、ふかふか!!」


『ええ、フカフカですね。此処のマットレスは世界最大手の今期発売のものだけを入れているようです』


 寝台が柔らかいという事がある事自体知らなかった。

 テディの中はいつも快適だけれど、フカフカとは程遠くて。


 何かどんなにリラックスしていても身が引き締まるような気分だから、これは初めての感触に違いなかった。


「シラヌイ!? 冷蔵庫の中に一杯お菓子やボトルが入ってるよ?!!」


『自由に食べていいはずですよ。あちらが料金を持つでしょう』


「いいの?!」


『はい。いいのです』


 取り敢えず、シラヌイがディスプレイにいつものイグゼリオンを映してくれて、それを横目に見知らぬお菓子を寝台と同じようにフカフカなソファーの前にあるテーブルに広げてみる。


「お、おぉぉ……ネットで見た事のあるお菓子だ。コレ」


『はい。世界基準で高評価されている袋菓子上位10選のようですね』


「スゴイ!! ジャパンのお菓子って書いてある!!」


『今現在も美食の国である事は間違いありません。既製品のお菓子一つも他国とは差別化出来ますし、種類もかなり豊富ですので』


「イ、イタダキマース」


 飲み物には少し苦いココア(ネットでしか見た事無い)という飲み物をシラヌイがチョイスしてくれた。


 口に運んだお菓子は噛むと蕩けるように甘くて、でも幸せな感じがした。


「美味しいよ!! シラヌイ」


『チョコレート菓子です。ホテルの食事ではこれよりも本格的なデザートが出て来ますので袋菓子は全て一つまでにしておくといいでしょう』


「うん♪」


 イグゼリオンを見ながら、お菓子を一つずつ。


 しばらくすると一話を見終わって、今日の分の学習時間は終わったのだった。


「ぅ~~みんなの次回の話が気になっちゃう」


『では、今度は電郵街に行きましょう』


「ネット関連の施設が一杯あるところだよね?」


『はい。この船に乗り込んだのは良いですが、そこからのルートの策定には色々と面倒な手続きが多いので、此処のハブからアクセスするのが一番手っ取り早く安全だと思われます』


「解った。じゃあ、テディと一緒に?」


『はい。有線が安心確実なので』


 広い部屋を見渡す。


 インテリアはネットの先にしかないと思っていたようなものばかりだ。

 柔らかい色の壁紙やフカフカの寝台やソファー。

 絨毯も歩くと足の形が残ってしまうくらいにフワフワで部屋は適温。


 快適な生活。


 それはいつか夢見ていた外の世界かもしれない。

 でも、それはきっと本来自分には手に入らないはずのものだ。


 兵隊さんになる。


 故郷のシェルターでクラスメイト達にそう言っていたけれど、それは半分本当で半分嘘だった。


 おじさんみたいに為れるとは思っていなかったし、自分の手にある技能ではきっと他の子より少しまともな生活が出来るくらいで本当のところは難民の期間工みたいに生きていくのだと思っていた。


 おじさんの故郷に行くのも何年掛かるか。

 あるいは死ぬまでに行けるものなのかすら分からなかった。

 だから、それが近付いて来ると思うのだ。

 これはみんなおじさんが用意してくれた道なんだと。

 嬉しくて情けなくて思うのだ。

 いつか、自分の力で同じような事が出来るようになりたいと。


「……ありがとう。シラヌイ」


『どう致しまして。では、行きましょう』


「うん」


―――25分後。


 テディに乗って電郵街に入るとそこは今までの普通の街とは一点してAR看板が大量に電子視界上に映るビカビカキラキラの世界だった。


 無数の無機質な長方形のビルがストレージ染みて屹立しているけれど、その周囲には大量の家電量販店に近しい分野用の機材が置かれた専門店が多数。


 ネットに潜る為の最新鋭の機材もあれば、普通にスパコンの型落ち品が吃驚するような値段で店先に並んでいたりもする。


 今や大規模な設備を用いたスパコンは多くない。


 数百年程前に隆盛を極めた量子コンピューターの世界において革命があった。


 特殊な量子光源を用いた汎用光量子コンピューターの登場はその後の多くのブレイクスルーを起こす大事件、歴史に残る大改革だった。


 超高キュービット汎用量子コンピューターの先駆けが産まれてからはそれらの小型化と高性能化よりはプログラムの高度化、AIを用いた汎用性の向上が当時の科学者達の多くにとっての命題とされた。


 今でも【Qコン】と呼ばれる端末型の光量子コンピューター搭載の端末は値段的に車一台分くらいするのであまり一般向けではないとされている。


 そして、量子コンピューターが出来てからの電子世界は仮想現実というより、もう一つの現実そのものとして多くの企業が島のように仮想現実空間の開発を行っている。


 ただ、先進国では戦争が関わる歴史的な経緯から高度化し過ぎたコンピューター関連技術の幾つかは廃れてしまって、コストの安いリアルが一番というところも多いらしい。


『どうかしましたか?』


「何でもない……ねぇ、シラヌイ」


『はい。何でしょうか?』


「私、無機脳化したり、サイバネティクスとか受けた方がいいのかな?」


『どうして、でしょうか?』


「シラヌイと一緒に【Dead-bed】を持っていく時、その方が苦労が少ないのかなって……」


『そのような事は壁に突き当たってから考えればよいかと思います』


「壁?」


『前任者も言っていました。人の限界は思っているよりもずっと先にあると。そして、その壁に当たっても限界を超えた先に行けてしまうヤツも結構いると』


「限界を超えた先……」


『今もサルベージしている情報の中には戦訓も数多くあります。ですが、細々とした戦場の知識や知恵は学問の本一冊を読むより薄いですよ。特に一個人の戦場での戦い方のみに関してならば、その知識や知恵よりも一つの言葉、一つの文言の方が有効な場合も多いでしょう』


「一つの言葉の方が知識よりもって、そんな事あるの?」


『ええ、それは戦場でこそ人生を変える人間が多い事の理由です。戦いはある意味で人間を錬磨し、その精神性は両極端に堕されるか研ぎ澄ますかです』


「そうなんだ……」


『特異な行動様式である戦争。そして、戦場においては人の人間性こそが兵器の質や戦略と共に大きなウェイトを占める。未だに人間のやる気、士気の上げ方が戦場で重要視され、要らないものとして切り捨てられていないのはそういう理由です』


「普通でも戦えるって事?」


『いいえ、普通だからこそ戦える。確かに特化された様々な兵士達が嘗ての大戦中には生み出されました。ですが、彼らは未来に残らなかった。人間よりも遥かに優れた能力を持った人間を越えた存在であったにも関わらず』


「それって……」


『人々がソレを拒否したのです。人間が今殆どの戦争において未だ生身の兵士とドローンという対極の存在を併用し、そのどちらにも属するOPが重宝されているのも単に人間の命の価値の多寡だけで兵器の製造や運用が決まるのではないという事を意味します。そうするのにはそれなりの理由があるのですよ』


「よく分からないけど、何でも高度化すればいいってわけじゃないんだね」


『そういう事です。では、近場の予約した個室に向かいましょう。この船のターミナル内のコードを得てから、ルートの再構築や予定を詰めて、それが終わったら娯楽施設を訪れてみるのも良いでしょう』


「娯楽施設?」


『ええ、今時珍しい体験型遊戯施設がVRや脳内投影型の機材も使わず遊び放題のところがありまして。俗に言う遊園地というヤツですね』


「遊園地……それってアニメで見たよ」


『脳と機械の直結を可能にする技術の大半が大戦後に国連加盟国の殆どで違法化もしくは制限され、必ず政府が許可した企業の製造サーバーを経由して情報を繋げるようになりました。これに伴ってVRや電子空間上の有料サーバーを伴わないレトロ・ブームの一種として復興した文化なのです』


「へぇ~~」


 シラヌイが入っていく立体駐車場内部にはこちらのマシンと直結する為のスポットが置かれていた。


 青白い光に満たされた其処は無機質なのに人がいないせいか。

 何処か落ち着く雰囲気でVR系の広告も出ないようにシャットアウトされている。


 そこに駐車してテディの背部からコードが伸びると壁際の詳細が書かれてある場所にジャックインする事でサーバーと直接繋がる事が出来るらしい。


『では、始めましょう』


 そう言うシラヌイが地図とルートを画面に出し始めるのだった。


 *


 シラヌイと一緒に詰めたルートの準備をして一時間弱。

 ようやく終わってテディで海岸線沿いにある遊園地とやらに来る事になっていた。


 アトラクションの多くは旧い数百年前の代物を現代の安全基準で強化した代物であり、生身を原始的な安全装置で護りながらスリルを味わうものが多い。


 今のご時世、子供にこんな生身のままに高速で野外の空気を味合わせつつ恐怖を煽る機械遊具で遊ばせようなんていうのはまったく受けない。


 だが、そういうのが好きな一部物好きな人達というのはいるらしく。

 此処では普通に家族連れやカップルや友人知人同士で来ているようだった。


「お~~これがジェットコースター?」


『はい。時速100km以上の速度で風防も無い乗り物に乗って加速感と恐怖を体感するアトラクションです。ちなみにこういったものが普通だった当時の死亡事故数は数年に一回程度とかなり高かったようです』


「ええと、その説明って今いる?」


 思わずちょっと怖くなって訊ねる。


『何事も挑戦です。ちなみにショック・アブゾーバー入りのベストを着込むので余程にイレギュラーが無い限り、死にはしません。今時の方には刺激が強過ぎて漏らす方がいる為、オムツ着用が推奨されているようですが……』


「それは……遠慮しようかな」


『では、あちらなどは如何でしょうか?』


「あれは? 何か回ってる」


『メリーゴーランド。回転木馬。回転する円盤状の舞台の上に据えられた機械製の馬や乗りものに乗って楽し気な音楽と共に回るアトラクションです』


「おお、何か楽しそう」


『対象年齢は5、6歳からローティーンくらいまでだそうです』


「あ、ホントだ。小っちゃい子が一杯乗ってる……」


 遊園地のあちこちをシラヌイの声で案内して貰いながら見て回る。

 しかし、今一ピンと来ないような気がしていた。


 途中でまた飲み物を買って、あちこちを見ているといつの間にか時間も経っていて……。


『では、アレはどうでしょう』


「あれ?」


 シラヌイに促されて上を向くと丸くて大きいものが縦に回転していた。


『観覧車です。30m上からの景色を見やるアトラクションです』


「これ……これ乗ってみたい!!」


『解りました。では、向かいましょう』


 一人で観覧車の下まで行くとカップルの人が沢山待っていた。


 でも、すぐに降りて来る蒼褪めた同じような人達を見て、いそいそと離れていく人達もいたので中々にスリリングなのかもしれない。


 けれど、そのおかげですぐに乗る事が出来た。


「おぉ……高いところに昇っていくんだ……」


 感心している合間にタイタンを見渡せるくらいの高さまで上昇していた。


「あ、あれが私達の泊まってるホテルだよね」


『はい。他にも色々と見える場所が多いようです』


「ねぇねぇ。シラヌイ。あの暗くて電気があんまり通って無さそうな場所は何なの?」


 観覧車の一番上辺りから船の西部の一部の区画が見えた。

 そこには電気が殆ど通っていないのか。

 夕焼けの中でも明かりが殆ど見えない。


『あそこはスラム街ですね』


「スラム? 船の上に?」


『ええ、ポリュプスの労働者達の中でも最下層に位置する人々が住まう場所です。タンカー内部でも内部下層域の補修点検などを請け負う彼らの一部は老朽化した船体の区画で長年暮らしている為に自然とスラム化したとか』


「そんな事が船の上でもあるんだね……」


『さすがに殺人や強姦のような犯罪は船から降ろされる為にスラムでも殆ど起らないらしいですが、恐喝や麻薬、違法売春や軽犯罪法違反な娯楽が色々あるので上は暗くして船体内部で商売をしているとか。新しい部品の搬入を嫌がる物流業者が多く設備の更新は遅いそうです』


「へぇ~~~」


 言っている間に日が沈んだ。

 綺麗な夕焼けは消えた紫雲の水平線。

 今日の夕食は8時に予約してあるのでまだ少し時間がある。


「ちょっと歓楽街の方を見てから帰ろっか。ね? シラヌイ」


『はい。そうしま―――』


「どうしたの?」


『10秒後に爆発が来ます。頭を抱えて内部で蹲って下さい』


「う、うん」


 慌てて言われた通りにすると確かに爆風らしいものが観覧車を揺らした様子でビキッと窓の硝子に罅が入る。


 どうやらこの硝子は大昔基準で作られているらしい。


『もう大丈夫ですよ。現在、スラム街の方で大規模な爆発と火災が発生中。更に銃撃戦まで起きているようですね』


 罅割れた硝子越しに先程まで明かりが無かった地域を見ると確かに濛々と黒煙が上がり、あちこちで光が瞬いていた。


「じゅ、銃撃戦? え? テロリスト、とか?」


『いえ、これは……海賊でしょうか』


「海賊?」


『現代では馴染みのない言葉ですが、簡単に言えば、海の略奪組織です』


「そ、そんなのがいるの?」


『ええ、どうやらスラムに入り込んでいるようですね。現地の守備隊が応戦していたようですが、30名程が死傷している模様。更に増援が来る前に撤退中らしいです……船の部品を狙っているようですね』


「部品?」


『この手の大型タンカーに積まれている最も重要な部品はマイクロ核融合炉です。かなり枯れた技術ではあるのですが、最新型を作れるのは表向き主要先進4か国のみ』


「つ、つまり、凄く高価、なの?」


『ええ、一機で最新鋭戦闘機が3機買える値段です。ついでに1つで都市に100年は供給出来る程の大電力を発生させられる。これを一つ使えば、EVのものとは違ってそこらのドローン陣地の50や60は永続的に動かせるでしょうね』


「それをもしかして海賊が狙って?」


『はい。大規模な爆発まで引き起こしてとなれば、かなり本気でしょう。彼らは恐らく潜水艦を何処かの海域で待たせているはず……』


「逃げられちゃう?」


『可能性はあります。どうやら現地守備隊は各地に仕掛けられた爆弾の解除で人出が足りないようですね。ああ、彼女がどうやら対応するようです』


「彼女?」


『レリアと名乗っていた女性です』


「え!? レリアさんが!? どうして!?」


『彼女が納品したものを海賊が護送終了後に奪いに来たようです。彼女の率いる私設部隊は強力な最新鋭の兵器で身を固めていますので左程の事もなく取り返してくるでしょう。何も無ければ、ですが……』


「どういう事?」


 端末の上に3Dで船内の見取り図が投影される。


『輸送ルート上にOPが数機待ち伏せしています。恐らく【ガルム】です』


「ガ、ガルムってまだ40年前の機体だよ!?」


 OPの世界では機種は基本的に100年ものと言われている。


 最新鋭以外の機体は型落ちではあるのだが、それでも多くの場合、大量のマイナーチェンジや近代化改装が行われている。


 それらは国家所有の重要機密の塊であり、ほぼ主力と言って差し支えないのだ。


 40年前の設計と言えば、未だ現役を示しており、戦争をしていない国でも主力機である。


『DE-320【Garm】は米国の8世代前の大統領の下で開発された主力機の一つですが、どうやらアフリカの駐留軍に配備されていたモンキーモデルの横流し品。砂漠や荒野での使用を前提としたバランサーが特に優れる遠距離狙撃タイプ……待ち伏せで狙撃となれば、恐らく打って付けですね』


「ど、どうしよう……」


『どうやらレリアの率いる部隊は気付いていない様子です。このままでは部隊は32分前後で全滅。海賊はリアクターを持ち逃げしてしまうでしょう』


「……シラヌイ」


 そう呟くとルートがピコンと表示された。


『今から五分後に合流する場所を表示。現在、ガルムに外装を変化させています。長距離狙撃タイプとの初戦闘となれば、得難い経験となるでしょう』


「シラヌイッ!! あ、ありがとう!!」


『ガルムは名前の通り、獣の如く素早い高速機動やバランス制御に優れた中遠距離型装備を扱うヒットアンドアウェイが得意なユニットに数えられます。米軍の基本装備を全て使える為、高水準で纏まった装備で数機も相手にしたら、並みの部隊ならドローンだけで数倍の戦力が無いと落とし切れるものではありません』


「どうすればいいの?」


『中距離は散弾の嵐やアサルトライフルの弾幕で接近を阻止され、長距離は近付いて来るだけで相手をヘッドショットやコックピット狙いで一撃。ならば、隠蔽と陽動、超近接戦闘による襲撃で仕留める以外ないでしょう』


「危険なんだね」


『はい。ですが、数相手ではこれが最良です。敵の間合いを殺して相手に何もさせずに勝つ。その押し付け合い。此処からは戦術的な優位性がモノを言う』


 観覧車から降りて走って外に向かう。

 すると、五分丁度ですぐ道の先から走行音がしていた。

 あちこちでもう混乱が広がっている為、人気の無い駐車場の壁の後ろ。

 監視カメラの死角で内部に搭乗する。

 すると、ガルムの基本構造が虚空に映し出された。


『これがガルムです。アクチュエーターやシリンダーの類の精度が極めて高水準であり、バランサー自体に液体金属式の油圧システムを積む事で足回りの能力が極めて高水準です。その上にフットワークでは未だ最高峰の機体と言われ、実働データも多い』


 ラインチュースよりも顔が細く。


 犬みたい感じなのが如何にも獣っぽいが、他の四肢の構造も前面に対して鋭角な感じに纏まっていて、被弾率を減らしたり、重量を削減した様子なのが見て取れた。


『相手は待ち伏せ用にチューンしていると思われ、動きが制限される廃墟に潜んでいる。それが狙い目となるでしょう』


 移動中に次々に情報がレクチャーされる。


『待ち伏せ用となれば、これらのタイプは全て軽量化されているはず、通常火器でも吹き飛ぶくらいの装甲ならば、ドローンを込みで勝ち目はあります』


「ドローンも色々持って来たって言ってたけど行ける?」


『いけます』


「装甲は……ブラッツよりは堅いくらい?」


『ですね。被弾率を下げる為に装甲を前面に対しては鋭角にして、他の部位は曲線を取り入れる事で機体を傾けて弾きながら防御する感じですが、火力のある火器の前では焼け石に水というものでしょう』


「基本的には後衛って事?」


『ええ、米軍は空爆後に重装甲歩兵役の【サンダーボルト】を主軸に後方へガルムを据えるのが基本です。抜けない重装歩兵と狙撃手と高火力役で極力相手からの反撃で消耗しない陣形を取ります』


「でも、今回は違うんだよね」


『はい。ガルムのみ。となれば、接近戦を行えたとしても、それ専門の機体が1機あるかどうかというところでしょう。そんな運用を海賊がすれば、ですが』


 移動中にも対応策として用意された武装が次々に表示されていく。


『基本は隠蔽と同時に背後を取る作戦で行きます。駆動音を短時間消す事は可能である為、2km圏内に入る寸前で相手の音響センサから消えて、その上で無音ドローンによる波状攻撃で攪乱。その合間にコクピットもしくは武装を破壊します』


「その分、標的数が増えるって事?」


『はい。ですが、それを補う武装を形成しています。超至近で相手を屠る為にコレを……』


 大きな手甲型の武装らしきものがシラヌイの変化したガルムに装着されていた。

 ガルムの胴体くらいの大きさがありそうなソレはガントレットのようだった。


「これは?」


『電磁カタパルト式の手甲散弾化式防御装備。リアクティブ・アーマーと言うべきでしょうか? 180年前の戦争で極一部の戦場で使われていた武装です。正式名称はありませんが、現地で造っていた工員曰く【タイタン・マウル】と言うそうです』


「タイタン・マウル?」


『この巨大なガントレットは全て電磁力で弾ける代物で相手の攻撃を受け流しながら反撃する為の武装です。相手の銃弾や近接武装相手に起動すれば、電磁力で加速した装甲の一部が吹き飛んで相手を逆撃、バラバラに砕きます』


「……カタログでも見た事が無いような?」


『今時のカタログに乗る兵器ではありませんよ。戦場でハリネズミみたいな武装量の敵相手に単なる装甲では時間稼ぎしか出来なかった。しかし、それが弾け飛んで相手を攻撃するならば、削り殺される前に削り殺す事が出来るかもしれないと作られたとか』


「攻防一体って事?」


『ええ、20m圏内の敵に対してならば、防御時の弾けた装甲の一部で火薬式ライフルよりは大きな衝撃を喰らわせてフレームから破壊出来ます』


「うわぁ……戦場の幻の兵器みたいだね」


『そのようなものです。弱点は単純。物凄く電力を食うので当時のOPでも使えるのは極々一部の機種のみ。そもそも接近する前に撃破される。そして、使用機体の稼働時間は短時間。精々が戦闘機動を12分。今でも50分は戦えないでしょうね』


「解った。上手く使ってみせるよ。シラヌイ」


『よろしくお願いします。目標まで3kmを切りました。静穏駆動準備……隠蔽は完璧ですが、駆動音で相手に存在はバレています。2kmを切る寸前に無音走行に移行。ドローンの配置完了。行きましょう』


「うん!!」


 黒煙が上がる区画の背後に回り込んだ機体が加速する。

 そして、目標となる敵と2kmを切った瞬間、無音の闇にガルムが跳んだ。


 周囲の建物の壁面を軽やかに走破しながら、曲芸染みて敵に近付いて行くのは確かにまるで夜に目標を狩る獣みたいだった。


 *


『駆動音が消えた?』

『まさか、敵もガルムを持っていたとはな』

『例の武器商人だ。持っていてもおかしくない』


『P3よりP8へ。目標の音源を見失った。静穏駆動可能なガルムとなれば、デルタの【ナイト・ハウンド】か。もしくは海兵隊のスペシャル・ユニットだぞ』


『どうする? 撤退するか?』

『馬鹿を言え。ランプの輸送が終わるまで此処は動けない』


『未だに輸送車両を奴らが迫って来てる。こっちの罠を一々潰しながらだ。“高価な雨”が降るまで残り14分……どうする?』


『クソ……敵の電子妨害が思っていた以上に厄介だ』

『作戦時間が10分も伸びるとは……』

『オレ達は今海賊だ。とにかく、ランプを入手せぬ事には帰り道も無い』


『全機、全周警戒。相手の一発目で誰かが落ちても動揺するな。撃ち返せば、確実に相手は撃墜出来る』


 背の低い2、3階建ての廃ビル群の合間に身を潜めていたガルム8機。


 ちょっとした小規模の基地なら落せる戦力が赤外線の暗視装置であちこちを見回していた。


 しかし、彼らの背後に忍び寄る無音の存在に彼らは気付かず。

 ファーストアタックは中破3、小破4で始まった。

 背後からの猛烈な散弾が機体背部に襲い掛かったのだ。


『ぐあぁあああ!?』

『反撃しろ!?』

『敵は一機じゃないのかよ!?』

『無音ドローンだと!? 正規軍の装備だぞ!?』


『い、一機撃墜!? 蜘蛛型だ!! すばしっこいぞ!? な、何体いるんだ!?』


『構うな!! 全周警戒を継―――』


 黒い雲型の1m程のドローンが音も無く忍び寄り、彼らの背後から食らわせたのはベアリング弾を大量に仕込んだ指向性地雷だった。


 しかも、1発限りの代物だ。


 だが、疑心暗鬼となった彼らは今のは次の蜘蛛を無暗に探させる為の囮だと気付く者も少なかった。


 ドローンを一機撃破したところで戦況に変わりは無い。


 そして、小破して機体の背部と右肩の伝送系に異常を来していた隊長機は真上から降って来る巨大な拳を画面越しに見て……爆発したガントレットの破片で粉微塵にコックピットを粉砕されたのだった。


『た、隊長の反応がロスト?!! 構わん!! ミサイルで仇を撃て!!』


 彼らが一斉に短距離誘導のマイクロミサイルを積んだポッドを肩から解放して撃ちっ放しにした瞬間だった。


 そのポッドの前面に周囲で隙を伺っていたドローン蜘蛛が取り付く。


『な、ぱ、パージしろぉおおおおおおお!!?』


 自爆ドローンと変わらない働きをした黒い蜘蛛がポッド内のマイクロミサイルの近接信管に感知されて起爆……本来ならば不発になるところだが、安物の安全装置無しなミサイルを使ったのが仇になった。


 それに巻き込まれた3機が上半身を吹き飛ばされ、残る4機が咄嗟に背後に下がったおかげで九死に一生を得る。


 だが、その代償はあまりにも大きく。


『クソ!? ライフルが逝っちまった!!?』


『左肩が破損!! パージする!! メインカメラが焼けちまってる!? もう構うもんか!? センサを最大にしろ!! これだけ近けりゃ解るだ―――』


 隠密行動を捨てての攻撃が開始されようとしていた。


 全身のサブカメラやセンサにも大きなダメージを受け、左肩を自切して脱落させたガルムが瞬間的に斜め上から現れた敵に反射的にライフルを向けて暴発しても構わないと撃ち放つ。


 だが、そのライフルは照準がズレまくっていた上に巨大なガントレットがボクサーのように腕で防御した途端、弾丸が当たって明後日の方向に弾かれ。


 連続射出する前に相手のガントレットの前面が猛烈な勢いで爆発。


 彼はその最後の瞬間、自分が機体毎押し潰されるのを確かに確認したのだった。


 ビルの一角で爆発が再び響く。


『ひ、ひぃいいいい!? 副長もやられたぁ!?』

『オ、オレはもう付き合わねぇぞ!?』

『に、逃げるなぁ!?』

『背中を見せると真っ先に狙われるぞ!!?』


 言っている間にも逃げ出そうとしたガルムにアサルトライフルからのものと思わしき弾幕が襲い掛かり、背後から全ての装甲を打ち破ってコクピットを粉砕した。


 爆発と同時に弾幕の射撃地点に向けてビル越しでも構わないと残った二機が次々に牽制で腰だめに構えたアサルトライフルを撃ち放つ。


 そして、すぐにビルの周囲は危険だと移動し始めた。


『合流しよう!! ランプの回収はギリギリ間に合う』


『だが、ライフルがイカレちまってる。これじゃあ、追撃を振り切れねぇぞ!?』


『クソゥ!? 雨が降るまでまだ時間がッ!? 此処で作戦を放棄したら、オレらが消されるぞ!?』


『仕方ねぇ!! 今、死ぬよりマシだ!!』


 残った男達が合流し、ビルの路地裏を背中合わせでその場から退避しようと移動し始めた時だった。


 ヌッとビルの影から巨大な両腕を持ち。


 同時に背後からサブアームで2つのライフルを腰に保持する黒いガルムが現れる。


『お前かぁああああ!!!』

『馬鹿、待て!?』


 僚機によるライフルの速射がガントレットで受けられ、次々に弾けた部品が散弾よろしく10m程しか離れていない敵を襲った。


『ぐぎゃぁあああああああああ!!? オレの!? オレの足がぁああああああ!!?』


 コックピットの下部に直撃した破片が装甲を貫いて操縦者の足を貫通した。


『ク、クソ!? もう武装が!?』


 だが、そんな二機に近付く事無く。

 その黒いガルムがライフルを二挺同時に撃ちっ放しにする。


『が、ゴフッ!? げはぁ!? あ―――』

『うあああああああああああ!!!?』


 レールガンの速射がガルム達をバラバラに砕いて爆発させた。


『ミッションコンプリート。直ちに武装を収納。帰りましょう』


「うん」


 そのまま暗闇の解けるようにして再び全天候量子光学迷彩でステルス状態に移行した機体はまた外装の形状を変化させながら市街地へと戻っていく。


 その数十秒後。


 ランプと称されていた品を積んだトラックが集合場所の惨状に脚を止めた。

 そして、背後から迫る武装車両の数々を遠方に確認して。


 トラックの運転席から一般の労働者らしきツナギを来た男が逃げ出して、闇の中へと消えていく。

 残されたトラックへ数分もせずに追い付いた車両から男達が降りて来て、囲い込むと内部に突入。


 すぐに目的の代物の確保がハンドサインで伝えられる。


「お嬢。どうやら取り返したようだ」

「いやぁ、今回は焦っちゃったなぁ。仕事終わった瞬間に盗りに来るとか」

「追加料金は貰ってるから、まぁいいだろ」


 後方車両内部で外部の男達に指示を出していた青年。

 エーズが後部座席に乗ったレリアに肩を竦める。

 彼女は面白そうに周囲の戦闘跡を眺めていた。


「それにしてもガルムが5機以上とか。近場にいる海賊に融通出来るもんじゃないわ。コレ……恐らく商売敵の兵隊だよ」


「え、マジかぁ。ウチに喧嘩売るっつったら……中華や東南アジアの企業か?」


「近頃、小型の核融合炉のシェアを取りに来たのが一社。マレーシアに本拠地を移した華僑企業が一つ。幇絡みでウチの保安部門と競合したって話は聞いたわ」


「そいつらが雇った傭兵とか?」


「さぁ? BBがその内に教えてくれるでしょ。問題はこいつらをやったのが誰なのかだけど……」


「うわ……全滅だってよ」


 耳元の無線で拾った情報に青年が肩を竦める。


「中華製の【新星五号】地対地マイクロミサイルポッドの破片に中東製の【トート33-D】自立AI式自動小銃。対物ライフルはドイツの老舗ゲッター社の【カーマイン】? 全部デッドコピーじゃん。何コレ? 第三世界のパチモンばっか。でも、これ相手に勝ったの?」


「よく分かるな。お嬢」


「コレを倒したヤツらの方がよっぽどに厄介だよ。ガルムはまだ現行機種だ。それをドローンと少数の機体で倒してる」


「少数? どうして解るんだよ?」

「弾痕が少な過ぎる」


 レリアが目を細めて暗闇に車のライトで照らし出された惨状を見やる。


「成程……確かにこいつらの作った弾痕みたいなのしか見当たらんな。殆ど」


「倒したのも散弾っぽい何か。超近距離戦でのショットガンみたいなのでやってる。こんなの人間業じゃない。高度なAIを使っていても、タイミングがズレたら一方的な戦いになる。ドローンに高等AIが詰んであるか。もしくはAIに無線制御させてたとしても、こんな戦力差を覆せる程の学習量がある代物なんて聞いた事が無い。起動時間が一世紀単位でも無いと……」


「お嬢。BBからだ。洋上北西54km地点から12発のSRBMの発射を確認。無人の潜水艦型ドローンらしい。使い捨てみたいだ」


「マジかぁ……」


「低速で海上スレスレを飛行中だそうだ。近くの米軍の原潜に通報したらしいが、止められなかったって」


「高々核融合炉1つにドローン式の弾庫艦? 500億はするわよ」


「すぐに現場から撤収する」


 車両に乗って来ていた男達がトレーラーを回収して次々にその場を後にする。

 その護送車両の群れに埋まりながら、レリアが目を細めた。


「ふ~~ん。金は持ってるみたいね」


「どうした? いや、驚いたけど、このタイタンの防衛能力なら問題無いだろ?」


「いや、そっちじゃなくて」

「?」


 レリアが端末を見ながら溜息を吐く。


「ミサイルの雨はタイタンを狙ってるわけじゃない。タイタンに入港しようとしていた潜水艦を追尾してるみたい」


「何?」


「日本政府の公安から連絡が来てる。そっちにアフリカからのバイヤーが向かってるって」


「バイヤー? 同業者か?」


「何でまだ30年は使えるはずのマイクロ核融合炉を欲しがってたのかと思えば、そういう事ね……」


「どういう事か。オレにはさっぱりだ」


「フランスの兵器コングロマリットの一部の手先みたい。アフリカ経由で電力を馬鹿食いする新型の迎撃レーザーシステムをお買い上げ直前、だったらしいわ」


「あん? それってウチの会社の主力商品じゃなかったっけ?」


「日本企業体が作る最高品質のちょっとお高い信頼性抜群な汎用ミサイル迎撃システム。1機300億12機セットが40年メンテ込々9600億円ナリ。タイタン式のタンカー全艦に積んであるやつ」


「ぁ~~もしかして?」


「同業他社からの熱い風評被害を受けて、タンカー持ってる会社が設備更新で安く上げたいとあっちの兵器とこっちの核融合炉を使おうとして、競合」


「ミサイル撃った連中はこっち側か?」


「いいえ、あっち側だったのを400万ドルで買収したみたい。今回の特別経費が何故か今日私が知らない間に決済されてる。それもCEOの電子印鑑でね」


「はぁぁ、キツネの化かし合いかよ」


「でも、これで相手側の納入阻止を封殺。相手側はバイヤーを潰されて更に購入まで時間が掛かる。その間にウチの商品がどうなるかは……まぁ、そっち売ってる連中に任せましょ」


「ぅぇーい」


 車両背後で端末が放られた。


「あーやだやだ。大人って汚い」

「いや、お嬢も大人みたいなもんだろ。もう」


「こうなったら!! あの子をうんと可愛がっちゃう。あはは~~う~~ん。かわいいな~~アズールちゃん♪」


 デレデレでレリアが放った端末を再び取って、笑顔の少女の写真を呼び出す。


「それにしてもこっち側に付いてガルムを倒したのは一体誰だったんだろうな」


「どうせ~CEOが勝手に雇ったか。あるいはあっち側も一枚岩じゃないから、どっかから横槍でも入ったんでしょ。BBに情報収集は任せるぅ~~」


 だらけたレリアが常の様子とは違って写真を見てニヤニヤする。


「はぁぁ、あの子には見せられない堕落ぶりだ」

「あ、BBからだ……へぇ……」


 端末へ新たなに届いた情報に少しだけ愉快そうにレリアの瞳が細められる。


「どうした?」


「あの子、どうやら難民でウチの祖国に来たがってるみたい。ふふ~~それにスゴイ腕も立つみたいだし、スカウトしちゃおっかなー」


「はぁ? お嬢、遂に頭がおかしく……」

「馬鹿エーズ!! これ見なさい!!」


 ベチンッと運転中の青年の顔に端末が押し付けられた。


「おわ!? 運転中だぞ!? AI制御つってもなぁ!? 常識とかねーのか!? って、何だコレ……オイオイ。マジかよ……あのお嬢ちゃん。すげーな」


「でしょー♪ これはますます興味が湧いたわ。ふふふ♪ 謎のOPを乗りこなし、マフィアを女子供問わず全滅させたり、性犯罪者共を駆逐したり、OP乗りとしてはジジやリリにも勝てそうじゃない?」


 端末にはアズールが今まで戦って来た戦場の映像が映し出されていた。


 どれもこれも現場に残っていた機体や車両のメモリに微かに残されていたらしい情報をサルベージしただけのものだった。


 それを送って来た相手BBはコレはこいつの仕業だという確証が無ければ送って来ないだろう事が解っていた2人はその惨状を見ても笑みや苦笑を零すのみだった。


「あの子がオレらと同じ人殺しとはなぁ」


「あ~でも、生身の戦闘や殺し合いはあの子には似合わないわね。傭兵? 正義の味方? みたいな事をしてる感じらしいから、連れてったら面倒見てあげて、時々お仕事依頼しちゃおっかな♪」


「構わねぇけど、あの公安課長がすげー渋い顔しそうだな」


「ウチのシステム降ろしてんのよ? 殆どタダ同然で装備も卸してる。趣味にケチは付けないで欲しいもんだわ。そもそも、あの子少し話して解ったんだけど、ちゃんと倫理や道徳はあるのよ。ただ、それを無視して不愉快な事をしてる連中や自分に危害を加える相手には別にそれを適応する価値を感じないんじゃないかしら?」


「お嬢と同じで?」

「どーかな。取り敢えず、今日は部屋に押し掛けちゃおう♪」

「はいはい」


 こうしてホテルに戻っていく車両内部では少女の笑みを端末で見る女がデレデレする様子を呆れる青年が眺めるという図が繰り広げられたのだった。

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