第9話「バカンス」
『このタイタン内部には街が組み込まれており、商業区にも通常の歓楽街の他にも風俗街、金融街、電郵街などが含まれます』
「ええと、電郵街って?」
『ネット端末及び専門電子機器を売買・レンタルして揃えられる区画の事です』
「そんなのもあるんだ……」
『この船の情報伝送システムの中枢が置かれており、タンカー内からの情報制御を一手に取り仕切るハブで海上移動する電子システムとしては恐らく処理能力だけならG9の軍艦並みと言われています』
「へぇ~~~」
出航した3km超にもなる巨大貨物船の上は陸地と変わらぬように見える程、普通の街や公園があちこちに広がっていた。
貨物を入れる港湾区画からテディ形態で内部へと向かうと道路も整備されていて、周囲には森まで見える。
ただ、それも移動するとすぐに途絶え。
あちこちに2階建ての建造物や商業施設が確認出来ると何ら陸の街と変わらないように思えた。
『セレブ御用達のVIP区画には別荘を構える者達もいます。街の最下層には港湾労働者が宛がわれており、船内の労働力として従事しているようです』
「ふむふむ……」
『凡そ3世代程この街に代々住み着く者達もおり、そういった者達は街を支える8つの労働者組合に加入している事から蛸の八本脚に準えて【ポリュプス】と総称される事が多いとか』
説明を聞いている間にもテディがレンタルの長期貸し出しの立体駐車場に入る。
三階に止めると接続されたアンカーからの接触電送で広告が複数ディスプレイに映し出された。
『ようこタイタンへ!! この“海を征く城”とも言われるタイタンは米国の伝統的海運業を支えて来た【バミューダ・テクノロジー】社が設計し、ジャパンの軍艦建造も手掛けている【UJDD】がブラジル共和国現地で製造した最高の―――』
『あなたはタイタンへ何をしに? みんなに聞いてみた!! さぁ、貴方も一夏の甘いバカンスを求めて港湾区のお勧めスポットに出かけよう!!』
『人類の愚かなる時代に今、最強レジャースポットが誕生する!! 世界各地のバリエーション豊かな無汚染料理の数々!! 洗練されたシステムによる快適なネット・サーフィン!! 全てを今、貴方の胸に……タイタン商業組合一同より!!』
「泊まる場所は取らなくていいよね?」
『はい。此処の宿泊は割高です。ホテル住まい出来るものはそう多くありませんし、長旅になる関係上、一定金額以上を持っていない旅行者は港湾の騒音が酷い区画にある最低限の設備を持つ宿で寝泊まりするのが定石です。しかし、治安が悪いのに加えて旅行者間の問題にも巻き込まれ易いとサイトに書いてありました』
シラヌイが大手旅行サイトの旅情報を提示して見せてくれる。
「じゃあ、外に出てゆっくり散策してゴハン食べたら戻って来ればいいかな?」
『それでよろしいかと。移動用にバイクをどうぞ』
「ええと、運転しないヤツだよね?」
『はい。免許が無くても乗れるタイプです』
テディの横に一部のパーツが浮き出て来たかと思うとすぐにバイクの形に形成されていく。
駆動系まで再現しているとなれば、シラヌイはやはりスゴイのだろうと納得するしかない。
「外装を変化させる時みたいに造れるものなの?」
『勿論です。軍事仕様の最高級品なら片手間でこの程度は今の技術でも可能です』
「スゴイんだね。シラヌイって」
何か少し気を良くした様子で電動リニア・バイクの色が白くカラーリングされて、サイドカーまで出された。
誰が運転するのだろうかと思ったが、別に運転する人間がいなくてもいいのだから、サイドカーに乗っているだけでよいのだと気付く。
『では、しばしのバカンスと洒落込みましょう。衣服はこちらで選定します。最初に格安のブティックで怪しまれない恰好を調達する事をお勧めします』
「うん!!」
こうして誰もいないバイクのサイドカーに乗って、シラヌイに運転して貰いつつのタイタンでの日々が始まる事になったのだった。
*
「お、お似合いですよ~~お客様~~」
ブティックで店員の人が目を輝かせてくれていた。
評判の良いお店をシラヌイが選んでくれたのだが、店員さんが親切だった。
外見に似合うものを頼む。
教育AIに偽装した普通のAI口調になったシラヌイから言われた店員はすぐに似合う服装というのを持って来てくれた。
白いドレス型のワンピース。
肩紐を通しただけで胸元と背中が少しスースーする。
でも、何か毎年異常気象で年々湿気が多くなっている海上を行くなら、丁度良い風通しなのだと店員さんに力説された。
一緒に今の時代は殆ど市場に出回らない希少なUVカット用のローションとやらサーヴィスで塗って貰ったので随分と親切なのは間違いない。
お化粧はしないのかと聞かれたのだけれど、化粧の事がよく分からなかったのでお断りして、リップだけ塗って貰った。
ネックレスやピアスの類も勧められたけれど、金属を身に着けていると何だか身が引き締まる気がしてバカンスというのに向かない気がしたのでお断りを入れた。
結局、格安というのは本当だったらしく。
スシの10分の1以下の値段だった事には驚いてしまった。
「またのご来店をお待ちしております~~うふふ~~」
上機嫌な二十代の店員のおねーさんがお見送りまでしてくれる。
それに手を振って答えるとおねーさんは顔をパァアアッと明るくして何回も手を振り返してくれたのだった。
「ねぇ、シラヌイ」
バイクのサイドカーに乗ったまま、港湾区へのルートを取ってくれているシラヌイに話し掛けて見る。
『何でしょうか?』
大抵のシステムに介入出来るシラヌイは電子端末の類があれば、どこからでも答えられる仕様らしい。
「あのお店、本当に親切だったね」
『はい。一定の客層には評判の店ですから』
「一定の客層?」
『主に美女、美少女ですね。店員の趣味だそうでカワイイは仕事に勝るのだそうです』
「カワイイ? 趣味?」
『何でも気に入った客には勝手に商品を割引してくれるのだとか』
「へ~~~」
『少し個人アーカイヴを覗きましたが、どうやらカワイイ同性が好き過ぎる性的志向のようです。今後もしばらくはより良いものを得るべく通うといいでしょう』
「何だかよく分からないけど、優しい人で良かったね。店員さん」
『……はい』
シラヌイの言葉が終わるより先にバイクの前方の架橋に看板が見えて来た。
「ハーヴェスト・ビーチ?」
『タイタンに4つあるビーチの中で一番人気のビーチだそうです。理由は不埒な輩を遺伝認証で弾いて出入り出来なくして治安を保っているからだとか』
「不埒な輩って?」
『簡単に言うとナンパする男性客です。しつこく女性に言い寄ろうとする男はマークされて、次回から入れません』
「へ~~」
看板を潜るようにして向かった先。
白い砂浜に人が沢山いる様子が見えて来る。
誰も彼もビキニ姿だ。
実際、周辺温度は24℃を越えているので砂浜は程良く熱いらしい。
外気温を知らせる看板の下。
駐車スペースに止まると認証ドローンがやってくる。
『認証パットに指を押し付けて下さい。皮膚などから遺伝認証します。こちらで偽装していますので問題ありません』
「はーい」
人差し指をドラム缶型のドローンの上にある認証パットに付けるとすぐにOKの文字が出た。
『では、行きましょう』
先程のブティックでおねーさんに貰った麦わら帽子というらしい防止を被る。
端末をポケットに仕舞いつつ、サイドカーから降りてビーチに降りていくと。
青い海と砂浜のコントラストがとても綺麗な場所に出た。
良い景色なだけではなく。
大勢の人がビーチのチェアで寝そべっていたり、ビーチ・スポーツを愉しんでいたりする光景は何処か水浴びをしている村のクラスメイトを思い出す。
「何か良い匂いがする?」
『どうやら無汚染のジャンクフードが売っているようです。ああ、此処はジャパン式なのですね』
「ジャパン式?」
首を傾げるとシラヌイが解説してくれる。
『海の家です。簡単な食糧を浜辺で売るロケーションと食事を愉しむところですね。冷たい飲み物や食べ物も置いてあるので火照った躰をクールダウンするのに良さげな施設と言えるでしょう』
「そういうのもあるんだ?」
『はい。売っているのは他国では目にしないようなものばかりですね。たこ焼き、焼きそば、姿焼き、串焼き、少し時間は掛かりますが、出来合いの温めているものよりも出来立てを食べられるとあって人気の様子です』
「じゃあ、ちょっと覗いてみよう。シラヌイ」
遠方に見える人垣の先にある家屋らしい場所まで歩いて行く。
サンダルの下の砂は熱くて少し驚いてしまったが、それでも歩く感触が面白くて夢中で歩いていたらすぐに海の家とやらの前に付いた。
出来立ての食糧を抱えた人達が次々に自分が陣取っている場所に向けて掃けていく様子は仕事が早い事を教えてくれる。
「あ、やってる。パフォーマンスって言うのかな?」
スゴイ勢いでジャンクフードが作られていた。
パスタが物凄い速さで材料と混ぜられながら撹拌されていたり、大量の丸い物体がアイスピックみたいな細い尖端を持つ道具でクルクル回されていたり、大量の氷を入れたプラスチック容器にスタンドから次々にフレーバージュースを流し込んでブレンドしている人がいたりした。
出されている品は全て何処かおしゃれな食べられる飾りを付けられ、見た目も珍しいものだった。
綺麗なハーブが掛けられていたり、ジュースがカラフルだったり、そういう“ショー”を鑑賞している間に時間が経つので誰も文句は言わないのだろう。
「へい。お待ち。次の方、どぞー」
「え、えっと、何頼もうかな?」
『(ノンアルコールのホワイト・ジンジャーエールがお勧めです)』
こっそりとシラヌイが教えてくれた。
「ノ、ノンアルコールのホワイト・ジンジャーエールをお願いします」
「はい。よろこんでー」
すぐにお店の店員さんがカップに氷を入れて、ジュース・スタンドから白いシュワシュワした液体を注いで、上からフレーバージュースを足してくれる。
受け取って端末で決済して、その場から逃げ出す。
ああいう場所で何かを頼むのは初めてなので少しびっくりしてしまった。
『ちなみに微炭酸で甘さも控えめですが香りの良い代物です。原液は米国の優良企業製なので安心です』
「そうなんだ。じゃあ、いただきまーす」
ちゅーっとジュースを飲んでみる。
すると、思っていなかったくらいに好みな味だった。
「これ、美味しいかもしれない。ううん。スゴク美味しいよ。シラヌイ」
『それは良かった。容器は後でダストシュートに放り込んで下さい』
「はーい」
使い捨てのプラスチック製容器というのは今では中資源性製品の一つだ。
今では何処でも自身の持ち歩きする容器を使うのが普通なので全て清潔かどうかも含めて自己責任と言われている。
なので、捨てる前提でこれを持っていてもちょっとお高いものを食べている感覚が味わえるのだとかネットでは言っていた。
ストローでジンジャーエールを飲みながら砂浜の後ろから海の方を見つつ散策していると不意に背後からの影が見えた。
「?」
一瞬の出来事だったのだが、ひょいっと横に持たれて口元に布地が当てられる。
『(どうやら誘拐のようです)』
骨振動性のスピーカーを耳の内側に付けているのでシラヌイの声が聞こえるのだが、それにしても安全安心じゃなかったのだろうかと首を傾げてしまう。
『相手は二人組。すぐに手出しをされる事もないでしょう。車に載せられる前にこちらで対処しますので待っていて下さ―――』
ドカッという音と共に砂浜に投げ出されて、思わずジュースが零れるのが見えた。
「あ……」
「オイオイオイ。こんな初めてバカンスしに来ましたみたいなお嬢さんに何してくれとるんじゃオラァ!!」
若い男の人の声と共にドカバキと拳で殴られているらしい音や脚で蹴り付けられている音が響き。
周囲では誘拐だと騒ぎになっているようですぐに警備用ドローンが駆け付けて来る。
「お嬢さん。大丈夫かな?」
そう声を掛けて来たのは20歳くらいだろう若い女の人だった。
東欧じゃなくて北欧当たりの人なのだろうか。
白金のプラチナブロンドに白い肌。
でも、瞳だけは義眼らしくて金色の瞳孔内部にナンバーが見えた。
「え、あ、助けてくれてありがとうございます」
「いえいえ、実はウチの者が偶然発見しまして」
ニッと笑みを浮かべる女性は一言で美人という類の人なのだろう事は解る。
傍には肉付きの良いビキニのおばさんが2人後ろに並んでいて、その奥には数名の男の人達が誘拐犯らしき相手を結束バンドで縛り上げていた。
「このビーチは治安が良いとは言われていても、それは何であれ犯罪を犯していない人物だから、という客の前提に立ちます。なので遺伝登録されていない犯罪者などはすんなり入れてしまうので年に3回くらいはこういう事件があるんですよ」
「そ、そうなんですか……」
「お嬢さんは1人じゃないようですが、もう一人は傍にいない様子。もし良ければ、我々が泊っているホテルにしばらく落ち着くまで来ませんか?」
「え、あの、いいんですか?」
「ええ、我が祖国では袖振り合うも他生の縁と申しまして」
「よく分かりませんけど、ご迷惑じゃなければ……」
「では、決まり。という事で。オーイ。エーズ!! 引き上げるよー」
「うぇーい。了解あねごー」
さっき、一撃を最初に入れたラテン系のおにーさんが片手を上げて答えていた。
「ええと、その……お名前は?」
「ああ、私はこういうものでして」
どこか慇懃無礼というのだろうか。
背筋を正した彼女がそっと後ろから受け取った白い長方形の小さな紙。
そう、今時普通の印刷した高額な厚手の紙で出来た名刺を渡してくれる。
「【バイオン・インダストリー】ESS部門? 統括人事部長レリア・バークレー?」
「実は海運をやってる人材派遣会社の社員なんです。ハイ」
「え、えっと、アズール、です」
何処か愛嬌がある顔というのだろうか。
ニコニコしているけれど、瞳は何処か冷たい良い人そうなおねーさんはそうして軍人さんを引き連れて、笑顔でこっちの自己紹介を待ってくれるのだった。
*
「バイオン・インダストリーって、えっと……ごめんなさい」
「お嬢さんが知らないのも無理無いですよ。ウチってえーと簡単に言うと現代の奴隷制とか言われてる部門で……あはは、お恥ずかしい限りです」
笑顔のレリアさんがホテルのラウンジでお茶を出してくれていた。
周囲にはビキニ姿だったおばさんがいつの間にかスーツで2人背後の警備をしていて、その周囲にはさっきの軍人さん達がエーズと呼ばれた若い男の人を筆頭にして私服姿でラウンジで思い思いに珈琲を啜ったり、新聞を読んだりしている。
勿論、その懐や腰には小口径の拳銃が入ったホルスターが下げられていて。
「気になりますか?」
「え? さっき、助けてくれた男の人にお礼言って無かったなって」
「ああ、そういう。おーい。エーズ。来い!!」
「はいよ。お嬢」
やって来た爽やかな男の人。
彼がポロシャツ姿でニコリとしてくれた。
「いや~さっきは危なかったね。無事で何よりだ。お嬢さん」
「何子供に粉掛けてんの。はぁぁ、済みません。ウチの社員が……」
「あ、いえ、助けて下さってありがとうございました。ええと、エーズ、さん?」
「あははは、君みたいなカワイイお嬢さんに言われたら、嬉し過ぎてしばらくは正義の人になっちゃうなー♪ エーズ。エーズ・ヒルトンだ。よろしくな」
ニカッと爽やかそうな笑顔で男の人に出された手を自然と取って握手する。
「さ、行った行った。いつまで手握ってんの? カワイイからってちょっかい出したら、警察に突き出すかんね?」
「おーコワイコワイ。お嬢さん、悪いね。オレは雇い主には逆らえないんだ。お嬢とどうか仲良くしてやってくれ。じゃ」
軽い口調でエーズさんが再びお仕事に戻っていく。
「いや、済みません。女なら何でも良いヤツなんで」
「あ、いえ、助けてくれて、嬉しかったですから」
「そう言って貰えると助かります」
ニコリとしたバークレーさんがお茶を一口した。
「実はこの船にも仕事に来たんですが、治安が悪化してる様子はさすがに見過ごせずに介入してしまいました。そちらの後ろにいる方には改めて謝罪を……」
そこでようやくシラヌイが端末から音声をオンにしたのが解った。
「いえ、こちらはこちらで要らぬ手間を掛けさせてしまい。主に代わって深くお礼申し上げます」
「そうですか。では、お互い様という事で」
「はい」
「………」
お茶を飲み終わる頃には英国式らしいお茶用のセットがドローンで持ち込まれて、色々なお菓子が乗ったタワー状の食器に目を奪われていた。
「それにしても、こんなところで自分と同じような方に会うとは思ってもいませんでした」
「同じような?」
思わずバークレーさんの言葉に首を傾げる。
「ああ、その事に関しては我が主は御自覚が無いので。簡単に言えば、同じような遺伝子の下に産まれているという事です」
「そうなの?」
「ええ」
シラヌイが肯定する。
「そうですか。そういうところもあるのですね……」
何故かバークレーさんは何か珍しいものを見たような感じに苦笑気味だった。
「それにしてもバイオン・インダストリーのエッセンシャルワーカー部門と言えば、場末の派遣労働者から軍人まで幅広い人材を揃えていると聞いていましたが、優秀な部下の方達をお持ちなのですね」
「いやぁ~~それ程でもありませんよ」
あははと笑うバークレーさんは今までで一番嬉しそうだった。
「さっきから、こちらの回線の防壁にこっそりとアタックが3千回くらいあるのですが、随分と優秀なようです。もう四枚目を抜かれました」
「ッッ、あ~もうBBのやつッ!! おーい!! エーズ!! ジェドと一緒にBBを此処のレストランで食い物漬けにして来て!!? いい!!?」
思わず顔を蒼褪めさせたバークレーさんが『あ、あいつ……』と怒った様子で後ろに指示を出す。
「お、おーう。了解だー」
エーズさんが四十代くらいの今時珍しいナチュラルな煙草を吸っていたおじさんと一緒にホテルのエレベーターに向かって行った。
「いや、すみません。本当に……ウチの連中ってアクが強くて」
「いえ、バイオン・インダストリーの海上輸送部隊。武器商人の方ともなれば、信頼出来るハッカーは大金に勝る宝でしょう」
「あはは……どうも本当にウチのが迷惑を……」
バークレーさんが改めて謝罪してくれた。
「詮索する気は無いのですが、もしかして此処で大規模な戦闘があったりは?」
「今のところそういうのはありません。今日は仕事ですが、内容は単なる保守点検部品の納入ですし」
あははと指で頬を掻くバークレーさんがお茶を啜る。
「近頃は政情不安の上に東側も慌しい為、保安上はどうしても確認はせねばならず。気分を害したなら申し訳ありません」
「い、いえ~~ウチのがスゴイ、シツレーな事をしたのでさすがに謝られる程の事じゃありません。ええ、本当に気にしないで下さい」
「では、お言葉に甘えて……」
2人が話している間にメニューのお菓子をそろーっと取ってフォークで食べていたのだが、感動していて何も耳に入っていなかった。
「それにしてもこのような場所にアズールさんのような方が来るとは驚きです。VIP区画の方がよろしかったのでは?」
「今はテディに乗って旅行中なんです」
現在、カバーストーリーはそういう事になっている。
「テディですか? スゴイですね。アレに乗って旅行なんて、普通のティーンには真似出来ない青春です。あ~ウチもそれくらい奔放に育ててくれてたらなー」
「?」
「ああ、実は結構厳格な家でして。ハイスクールに入るくらいの頃にはもう家業の手伝いをしていて、そういう一人旅みたいな事はした事が無いんです。何なら今の彼らが来てからは一人でいる事も殆どありませんし」
「そうなんですか。でも、傍に誰かがいてくれるって、嬉しいですよね」
「ええ、それは間違いありませんが、時々は1人にしてくれという気持ちになる事もあるんですよ」
そういう事も確かにあるのかもしれない。
「アズールさんはそう言えば、何処のホテルに?」
「ええと、実はお金を節約するのにテディに寝泊まりしていて」
「は~~それは大変でしょう。こうやって出会ったのも何かの縁です。このホテル実はウチの系列でして。上層階は貸し切っているんですが、空き室もあるので泊まりに来ませんか?」
「え?」
「構いませんよ。我が主が良いなら」
「良いの? シラヌイ」
「ええ、こうして誰かの好意を受ける事は今の世の中、多い事ではありませんから。こうして受けた好意は素直に受け取って置くのが良いでしょう」
「じゃ、じゃあ、よ、よろしくお願いします」
「ふふ、任されました!! 暴漢や不審者はオールカット!! ウチの警備担当者は優秀ですから、何ならルームサーヴィス代わりにこき使って大人しくさせてやって下さっても構いませんよ!!」
「あ、あはは……機会があれば……」
「ええ、勿論です。しばらくは此処に滞在していますし、商談が無い時間の方が多いでしょうから、最上階のロイヤルスイートに遊びに来て下さい。私がいない時でも誰かしらが対応してくれると思うので」
「あ、はい。ご厚意に甘えさせて貰いますね。バークレーさん」
「いやいや、そう他人行儀にせずとも。歳もそう離れていませんし、レリアと呼んで下さい。アズールさん」
「あ、はい。レリアさん」
こうして初めて外で知り合いが出来た一日になったのだった。




