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【Dead-bed】~アフターマン・ライフ~  作者: TAITAN
~楽園のネズミ達へ~
1/41

プロローグ


 君は覚えているか?


 変わらぬ街並みに人が溢れ。

 変わらぬ田舎には蟲が泣いた。

 寂れた川縁の雑草にも花は咲き。

 夢破れた人々にも世界は在った。


 そうだ。


 誰にも確かな世界は在った。

 哀しみも苦しみも其処には在った。

 同じだけの喜びすらも在った。


 人々は君に手を差し伸べる事は無かったかもしれない。

 だが、夜明け前の陽射しを君は感じていた。


 君にも確かに世界は在った。


 だから………。


 私は何度でも言おう。


 やりたいようにやれ。


 君の世界に手を出した事を後悔させてやれ。


―――君が望む限り、確かに希望はあるのだから。




【Dead-bed】~楽園の鼠達へ~


プロローグ


「おじさん!! お帰りなさい」

「おぅ。ただいま。アズ坊」


 小さな時から時折村にやってくるおじさん。


 ミヤタケおじさんは村の人気者だ。


「あ~帰って来たのかい。ミヤタケ」

「ははは、今回も死に損ねただけだよ!!」


 快活に笑うおじさんは小さな村に来るには立派過ぎる軍人さんなんだとみんなは言う。


 村の広場の中心で太い腕には小さな子達が一杯。


 汗臭いシャツなのにぶら下がって遊んでもらう様子はおじさんが返って来た時の名物かもしれない。


「ミヤタケさん!! 後でパイ持ってくからね」

「おう!! 頼むよ!! 外のレーションはクソマズだからな」


 少し膨れたお腹を見て、軍人さんはやっぱり喰うに困らないんだねぇと笑うおばさん達が村の特産の魚で造ったパイを焼き始める夕暮れ時。


 村はいつものようにツタや樹に覆われた壁の外からの光で絵みたいにキレイだった。


「アズ坊!! ちょっとこっち来い?」

「何? あ、名前ならまだ考えてないよ?」


「それはまぁ、ゆっくりと考えておけ。それよりもお前、この前8歳になったろ? だからプレゼントを幾つか用意したんだ」


「プレゼント?」


「ああ、一番大きいのは村の入り口の先にあるから、まだお前には早いがな」


 おじさんはこの壁の中にある村に自分の家を持っている。


 他の子達にまた明日と言いながら、他の大人の人に笑い掛けながら、奥にある家に戻っていく。


 歩くのが早くて慌てて付いて行くと。

 鍵が掛かった普通の家が一つ。

 壁の中で誰かの帰りを待っているようだった。


「ただいま戻りました……」


 おじさんがいつもそうする事を知っている。

 家の前で手を胸に当てて頭を下げる。


 何故、そうするのかは知らないけれど、大事な事だと言っていた。


 だから、自分も同じようにする。


「さ、入ってくれ。ま、埃っぽいのは勘弁してくれな?」


 おじさんが鍵を回して家に入って明かりを付ける。

 その時、丁度“テンガイ”が閉まり始めた。


 村の明かりが点くのはソレがピッタリ閉じてからと決まっている。


「実は此処、一番奥だから、いつでも明かりが付けられるんだ。スゴイだろ?」


 おじさんは得意げに言いながら、草色のシャツにズボン姿でこっちの頭をポンポンした。


「それ3回は聞いたよ?」

「お、そうか? もうそんなに為るのか」


 おじさんの家の中は寝る場所と食料を入れておくところとトイレ以外は一部屋だけだ。


 テレビもテーブルもソファーも台所も一緒。


 でも、おじさんは気にした様子もなくて、水を少し出しっ放しにしてから一杯だけコップに水を汲んで持って来てくれた。


「さぁ、アズ坊。まだ痩せっぽっちなお前に8歳の誕生日プレゼントをやるわけだが、お前は……筋肉とは無縁そうだよな。何か」


 それにむくれるしかない。


 それは本当の事かもしれないが、世の中には言っていい事と悪い事がある事は知っている。


 そして、ソレは言って悪い事だ……自分にとっては。


「そう膨れるなって。筋肉付いてても今のご時世、死ぬ時きゃ死ぬからな」


 おじさんが言うならそうなのだろう。

 おじさんは兵隊さんだ。


「どっちかというと咄嗟の機転とか、判断力とかの方が必要だ。まぁ、逃げる時に死ぬほど走る以外はそんなもんだ。一応、50m何位だっけ?」


 そう言いながらおじさんがテーブルの上のリモコンでテレビを付ける。


「40人で22番……」


「ま、普通だな。それくらいあればいい。あんまり不摂生だと問題だが、その程度は許容範囲だ」


「おじさん。プレゼントは?」

「おお、そうだった。そうだった。ほら」


 おじさんがポケットから小さな鍵を取り出した。


 それはスベスベして、ひんやりして、後、白い翼を二つ十字に重ねたような形で。


「コイツは鍵だ。とってもすげーものの鍵だ」

「……今時、子供でも騙されないよ?」


「ホントだって!! そんな嘘臭そうな目で見るなよ~~ははは」


 おじさんが苦笑していた。


「これがスゴイものの鍵?」


「今のお前には要らないかもしれないが、もしもの時のAI頼みってな」


「御守り?」

「ま、そんなもんだ」


 その時だった。


 テレビの先でニュースキャスターの人が慌てた様子になる。


『り、臨時ニュースをお伝えします!! 臨時ニュースをお伝えします!!』


「はぁぁ……どうやら始まっちまったようだな」


「?」


『全世界標準時18:43!! SEU国境付近に展開していた欧州連合軍による大規模侵攻が開始されました!! SEUの統合幕僚本部広報によりますと、現在時刻よりEV側へ宣戦布告するとの事です。これに対してユーラシア・ビジョン側は―――』


「こ、これって……っ」


 思わず喉が鳴った。

 テレビではいつも言っていた。


 けれども、それを聞く事になるとは思っていなかった。


 まさか、そんな……誰だってそう思うはずだ。


「第六次世界大戦てヤツだな。ま、傭兵稼業には関係ねぇが、ゆっくりは出来なさそうだ」


「お、おじさん……また、行くの?」


「おう。これでも傭兵だからな。部隊の隊長もやってるし、行かないわけにも……」


 おじさんはいつも通りの様子で水を一口。

 そして、大きな手で頭を撫でて来る。


「アズ坊。コイツは悪い大人からの忠告だ」


「え?」


「ここは数年以内に戦場となる。生きたいと思うなら、極東に行け。まだ、あそこはユーラシア程に被害を受けちゃいない。鍵は忘れず持って行けよ?」


「あ、え、ぅ、な、何でそんな……」


 おじさんは今までと同じような顔で天井を仰ぐ。


「何でかなぁ。気に入ったから、かな。それに極東はオレの故郷なんだ。今も平和ボケしてられるくらいには安定してるし、もし興味があるなら、JAPANに行け」


「え? それ、何処?」


「あ~~~そっか。此処20年情報統制してたからお前くらいじゃもう知らないか」


「じょーほー?」


「ははは、いやいや、この国も案外エグイな。マンガもアニメも知らないとは……ま、此処のパソコンは使っていい。使い方はマニュアルがある」


「まにゅ? ぱそ?」


「ああ、今は分からなくていい。この地方の言語で書いといたからな。ゆっくり読め。それと大人や子供には秘密だぞ? それが親友でもな」


「秘密にした方がいいって事?」


「そうだ。この村を出たくなったら、ちゃんと計画を立てて行けよ? 世の中、出だしで躓くと面倒事に巻き込まれるからな」


 頭がポンポンされる。


「あ、それとお前家族いないだろ? 明日から此処使っていいぞ。村長にはこっちから言っておく」


「え……い、家ってそんな!? スゴイ財産なのに?!」


「子供は何も言わず大人の善意は受け取っておけ。それは今だけの特権だ」


『ミヤタケさ~~ん。パイ、持って来たわよ~~』


「おーう。ありがとよ~。今開ける~~」


 片目を1回パチッと閉じて、おじさんはニカッと笑うと扉の方へと向かって行った。


 その夜、おじさんと一緒に食べたパイはちょっとしょっぱくて……水をガブガブ飲んで互いに笑う事になって……いつの間にか朝になっていて……おじさんはその日以降、二度と部屋に帰って来なかった。


 おじさんは知っていたのかもしれない。


 自分がもうこの場所には戻って来れないという事を。


 6年後、軍のデータベースにアクセスした“私”が見たのは……おじさんがいた部隊がこの場所に近い国境でEVの大型ドローン部隊と交戦し、迫撃砲で吹き飛ぶ場面だった。


 大打撃を受けた当時の部隊は撤退。


 しかし、相手側にも相当の被害を出した事で相手側も後退。


 以後、国境周辺から侵攻部隊は動いていない。


 第六次世界大戦は今も静かに燻ぶりながら続いている。

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