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月灯りのフルート  作者: 海南 陽
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春、そして出会い。

私が中学2年生のとき実際に体験したことを基にして、再編・脚色しています。


大好きな彼氏がいる今も、先生は私にとって特別な人。


きっと一生忘れることなんてできない。

忘れる必要もない。


毎日先生に恋をしていた中学生の私は、私の宝物です。

 高校を出て大学へ進んでも、サークルを引退して就職が決まっても、あと1年で学生を終えようという今になっても思い出すことがある。



 あの頃の私は、子どもだった。


 大人が抱える責任も、運命がもたらす奇跡や残酷さも何も知らない、まだ14の誕生日も迎えていない中学2年生だった。


 だけど、あの頃の私は、その後の人生におけるどんな私よりも真っ直ぐだった。


 ただ真っ直ぐに、がむしゃらに、先生に恋をしていた―。



 ――――――――――――――――――――



「2年3組…」


 校門をくぐってから校舎まで続く長い登り坂。いつもはその横手にある階段を利用する生徒たちが、この日ばかりは坂の途中に立ち止まって、皆後頭部が肩甲骨に付かんばかりに一様に天を仰いでいた。


 その目に止まるのはクラス発表の張り紙。



「山田先生のクラスじゃない…」


 昨年度の担任で、慕っていた山田先生のクラスになれなかったことは、詩織をひどく落胆させた。


 学年主任である山田先生は、決まって1組を掛け持つ。中学最初の一年間を1年1組で過ごした詩織は、きっと自分は3年間このお父さんのような先生のクラスで過ごすのだろうと、根拠のない自信を持っていたのだ。


 隣で一段と後頭部が肩甲骨に付きそうにしていた可奈が、自分も3組だと嬉しそうにはしゃぐ。そのこともなんとなく予見していた詩織は、クラスメイトの名前よりも担任の名前から目が離さずにいた。


「うちらの担任の先生、見たことない名前だね。新任かなぁ?」

「伊東涼平…」


 山田先生でないなら、誰だって同じ。


 その人が新任がどうかなど特に気に留めることもなく、詩織は可奈と共に2年3組の教室へと向かった。



 ――――――――――――――――――



「詩織が同じで良かった〜!」


 小学校で仲の良かった彩花は、1年で同じクラスだった友達がいないと半ベソをかきながら席に座っていた。


 中学生にとって、新年度の始業式の日は戦いだ。

 これから一年間を過ごすグループはこの日に形成される。


 可奈に彩花を紹介し、3人でクラスを見渡す。


 別のクラスから様子を見に来ている人。居場所が無くて自分の席から動かない人。春休みの宿題を必死に写させてもらう人。


 新学期初日の過ごし方は人それぞれだ。



 ――キーンコーン、カーンコーン。



 チャイムが鳴ると、皆どんな先生が来るのかとソワソワしだす。鳴り終わると同時、まるでタイミングを図ったかのように教室のドアが開かれた。


「おはようございまーす!」


 浴びせられる視線をよそに、人一倍大きな声で挨拶をしながら教室に入ってきたこの人こそ、この2年3組の担任である。


 クラスの生徒33名を席に着かせた後、話し始めた。


「今日からこのクラスの担任を務めます、伊東涼平です!教師一年目の僕ですが、仲良くしてくだしゃい!!あ、、、」


 フレッシュかつ盛大な噛み方をしたその先生のおかげで、教室中は笑いに包まれた。


「伊東涼平…」

「ん?何か言った?」


 聞き返す可奈に何でもないと答えながら、詩織は何故か胸がざわつくのを感じた。


 何かが、変わり始める…。


 何故かと言われればわからないが、そんな気がしたのだ。

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