七行詩 571.~580.
『七行詩』
571.
思い出が美化されるものなら
かつては これほど 美しいものではなかったのか
自ら手を加え 作り物へと変えてしまったのか
この手は 欲しいものだけを
求め 生み出すためのもので
運命よりも 願いを信じ
愛しさや愚かさに 溺れる心を救えなかったのか
572.
風邪をひいても 明日の予定は変わらない
風邪が治っても 心まで晴れることはない
海の側 工場が吐き出す煙や
ビルの下 人が吐き出す溜め息や
雨上がり 山が吐き出す雲が
目につくせいで 気が滅入ると
吐き出す私も 誰かを害しているのでしょう
573.
私はなんと 愚かで 身の程知らずなのか
神が与えた美しさを
絵画のような止まった時を
見つめ ひとり 愛で続けた
それは誰に 許されたことなのか
光のように降り注ぐ波動を
追いかけるように 手を伸ばす
574.
嫌な人間になったとき
面倒な奴だと思われたとき
ロープを離すのは どちらだろう
先に受話器を置くのは どちらだろう
私もきっと そう思うから
それすら気にもならないから
いつまでも 調和することはない
575.
貴方が放つ 花束で
次の誰かのために 幸せを繋ぐというのなら
私は歌を書くでしょう
ステンドグラスに 鐘の音に
白いドレスに 緑の庭に
誰よりも喜び 誰よりも涙をこらえたのは
私であったと 叫ぶために
576.
新しい貴方を知る度に
私は変わってゆくでしょう
そこに貴方が居なかった頃を
私は忘れてゆくでしょう
全てを捨てて 選んだのだから
まっさらな両手で 貴方を包むことができる
さあこの口を塞いで 言葉にするほど 嘘になるから
577.
夜の雪道を歩くには
ランプが必要になるでしょう
明かりには 燃料が必要であるのに
貴方の光は 何を燃やして得るのでしょう
足跡には 行き先が必要になるのに
貴方は 私の前で 足を止めた
貴方の光で 私を照らしてくださるために
578.
行方をくらますことにしましょう
誰も私を知らない場所へ
けれど荷物のない 孤独な旅ではありません
如何なる場所で 如何なる暮らしをしていようと
貴方への便りは 絶やすことはないでしょう
同じように 行方の分からぬ貴方への
便りは欠かさず 書くでしょう
579.
いつか 荷物を抱える腕さえも
すっかり痩せてしまったら
私の旅は そこで終わりになるのでしょうか
その時私に 帰る家はあるのでしょうか
誰も居なくても構わない
せめてもう少しの間 私が眠りにつくための
場所がどこかにあってほしい
580.
私はこの壁を越えて
見知らぬ国へと 逃げ込むでしょう
言葉も通じない場所で
薄い布を 頭から被り
かごを携え パンを買うでしょう
通りの花屋を 少し離れて 覗いては
心の部屋に飾るため 救いの花を探すでしょう