23 竜の子はモテる
もう少しゆっくり話をしたかったが、来客があるとのことなので一旦挨拶は切り上げ、アマリアたちは客室に通されることになった。
応接間を出たアマリアたちはまず、シスターたちに面倒を見てもらっているユーゴを引き取りに行った。どうやら彼は孤児院のプレイルームに連れて行かれたようなので、レオナルドと二人、懐かしい廊下を歩いていく。
「孤児院も、全然変わっていないのね」
「きっと、アマリアさんがここを離れたのは大人になってからだからですね。僕は戻ってくるのは久しぶりですが……なんだか建物も部屋も、小さくなったように感じられます」
「ああ、そういうことあるある! 子どもの頃は大きく見えたけれど、大人になって同じものを見たら小さく見えるものなのよね」
アマリアも、子どもの頃は院長先生がとても大きくて頼もしく感じられた。だがアマリアが大人になって身長が伸びると、院長先生の印象も変わっていった。院長先生は年を取ってもそれほど背が縮んでいないようだったが、やけに小さく見えるようになったものだ。
男性であるレオナルドの場合、それがより顕著に表れるのだろう。彼と一緒に廊下を歩きながら、「あ、この傷、懐かしい!」「ここにあった置物、なくなりましたね」などと思い出話に花を咲かせながら、プレイルームに向かうと――
「あっ、ママ! レオナルド!」
「あー、ユーゴくん、まだおめかしのとちゅー!」
「たったら、だめーだめー!」
孤児院の子どもたちがめいめい遊んでいるプレイルームに入るなり、アマリアたちは情けないユーゴの声に迎えられた。
彼は最初椅子に座ってアマリアたちに背を向けていたが、気配を感じたのかすぐ振り返り、珍しくも焦ったような困ったような表情を向けてきた。
……そんなユーゴの金髪はあちこち雑に結ばれ、服には紙がベタベタ貼られ、色つきの紐が顔の横から垂れ下がっている。
彼の周りには、五歳くらいの女の子たちが集まっている。それぞれのふくふくとした手には色紙や紐などが握られていて、ユーゴを包囲していた。
(こ、これはもしかして……女の子たちの遊びに付き合わされた?)
人間離れした天使のような美貌のユーゴが、髪や服に色々なものをくっつけられ、ぷるぷる震えている。その姿の、なんとも可愛らしく癒されることか。
「……どうやら女の子たちに気に入られたようですね」
「そうね……ユーゴ、みんなにお化粧してもらったの?」
もみくちゃにされるユーゴの精神状態も気になるが、まずは女の子たちのことを気遣ってそう問うと、ユーゴは虚ろな目になりながら頷いた。
「……うん。おれ、男の子たちとおいかけっことかしたかったけど……なんかこっちに引っ張られていった……」
「ユーゴくん、まだおけしょうしてるの!」
「こんどはね、イヤリングしてあげる!」
「も、もういいよ! おれ、もう十分可愛くなれたから、ね!?」
ユーゴも女の子たちを泣かせる趣味はないようで、困りつつも紳士的に対応している。
だがそれがまた幼女たちの創作意欲とユーゴへの好意を募らせることになったようで、皆顔を赤らめてユーゴに迫っていた。
「だめ! ユーゴくん、もっとかわいくなるの!」
「こんどはエレンがやる!」
「えー、あたしもユーゴくんにおけしょうするの!」
今度は、女の子の中で「誰がユーゴを飾るか」で内乱が勃発したようだ。わけが分かっていない様子のユーゴは、半分魂が抜けたような顔で女の子たちに囲まれている。
(……この後客間に通してもらうし、そろそろ引き際かな)
ふうっと息をつき、アマリアはパンパンと手を叩いた。
「はい、それじゃあユーゴはこれから私たちと一緒に行くところがあるから、そろそろおしまい!」
「やだ! まだいっしょにいるの!」
「おばちゃん、ユーゴをつれてかないでよ!」
……女の子たちの無邪気な言葉が、地味にアマリアの胸を切りつけてきた。
(お、おばちゃん……ま、まあそういうメイクをしているし、三十二歳に見えるってことで喜べばいい……のかな?)
内心ショックを受けつつ、アマリアは笑顔で首を横に振った。
「おばちゃんは、ユーゴのママなの。ユーゴはママと一緒にやることがあるから、ユーゴと一緒に遊ぶのは一旦終わりにしてほしいのよ」
「そういうこと。悪いけどママの方が大切だから、おれはもう行くね」
ユーゴはきりっとして言うと、アマリアの手を取った。そしてぽかんとする女の子たちに手を振ると、アマリアの手を引いてさっさとプレイルームから出てしまった。
女の子たちは大丈夫だろうか、と不安になるアマリアだが、レオナルドがドアを閉める瞬間、「……くーるでかっこいい!」という黄色い声が聞こえたので、きっと大丈夫だろう。
「……モテてたわね、ユーゴ」
「……全然嬉しくない」
ユーゴはげっそりとして言い、レオナルドに抱っこをねだった。そしてレオナルドに抱き上げてもらうと、自分の髪や服に付いているものを渋い顔で取り外し始める。剥がすのはプレイルームを出てからであり、そして丁寧な手つきで剥がしているあたりから、ユーゴの優しさが表れていた。
「ママ、おれ頑張ったよね? おれ、ちゃんとあの子たちの相手をしたよ」
「ええ、とても立派だったわ。好かれているというのはつまり、あなたが大人の対応をして頑張れたという証だものね」
アマリアはユーゴから色紙や糸を受け取り、よしよしと頭を撫でた。するとユーゴは嬉しそうにふにゃりと笑い、レオナルドからも「君は立派だよ。僕ならあそこまでうまく立ち回れなかっただろう」と褒められると、えっへんと胸を反らしていた。




