20 ユーゴの忠告
その後、存分に魔物たちをモフモフしたアマリアはレオナルドのところに戻ることにした。
だがアマリアが腰を上げると、それまで大人しく背中を撫でられていた子魔物が飛び起き、どこかに走って行った。間もなく戻ってきた魔物は、口にくわえていた小さな木の実をぽとんとアマリアの足元に落とす。
「……これは?」
「お礼のつもりらしい。風属性の力を感じるから、こいつらが普段食べているものなんじゃないかな」
「まあ、そうなの。ありがとう」
木の実をポケットに入れてアマリアが礼を言うと、親子はアマリアの足にすりすり身をすり寄せた後、元気よく飛び出していった。大きさの違う猫型魔物たちの影は草葉に囲まれてすぐに見えなくなり、アマリアは大きく伸びをした。
「それじゃ、レオナルドのところに戻りましょうか」
「うん。……あのさ、ママ」
歩きながら、アマリアはユーゴのつむじを見下ろす。つむじしか見えないのだが、アマリアには彼が難しい顔で考え込んでいるのが分かった。
「今回、ママはあいつらを助けてやったよね。それはどうして?」
「どうして、って……助けを求められて、私にはあの子を助けるだけの力があるのだから、断ることはないと思ったからよ。もしかして、間違っていた?」
「ううん。今回は弱い魔物だったから、別に間違ってはないと思う。……それじゃあさ、助けを求めてきたのがもっとでかくて凶暴な魔物だったら? おれみたいな竜が白魔法を使ってほしいって頼んできたら、どうする?」
「それは……」
どきっとして、言葉に詰まってしまう。
今回は、とても可愛らしい魔物だったし、人間にいじめられて負傷したということだから頼みを聞き入れた。あの魔物程度ならアマリアでも太刀打ちできるから、というのもあるし、ユーゴが通訳兼護衛になってくれたというのも大きい。
では、同じように白魔法を求めてきたのが巨大な竜だったら?
(……どんな相手でも治療をしてあげる、っていうのが模範解答な気がする。でも――)
「……しない、と思う」
「どうして?」
「……今回は、通訳をしてくれるユーゴがいたし、いざとなったらユーゴの力を借りられると思ったから。でも、竜相手だったらもし裏切られたときに、私では勝ち目がない。ユーゴでも勝てないかもしれないなら……きっと、見捨てると思う」
白魔法は、多くの人に求められる才能だ。アマリアの治癒能力を悪用したり、騙して回復後に襲いかかってきたりすることも十分考えられる。
ギルドにいた頃に一度だけ、白魔法使い対象の任意講習を受けたことがあるが、そのときにベテラン白魔法使いが、「治療した患者に殺される白魔法使いはわりと多い」と教えてくれた。
白魔法使いはどちらかというと女性が多く、相手に舐められやすい。殺されたり、金を奪われたり、暴力を振るわれたり、もっと恐ろしい目に遭わされたり。そういうことがたびたび起こるので、女性白魔法使いはなるべくソロではなくパーティーで行動するようにと言われていたのだ。
それは、魔物相手でも同じことが言えるだろう。特に竜は他の魔物よりもずっと知能が高いので、治療を受けるだけ受けてさっさと殺すということも考えられる。
ユーゴは、アマリアの言葉を聞いてこっくり頷いた。
「……おれも、それがいいと思う。ママは優しいから、魔物相手だろうと助けを求められたら治療をしたいって思うかもしれない。でも、おれとしては相手は選んでほしい。さすがのおれでも、成体の竜相手には負けると思う。竜も意地の悪い奴は山ほどいるから、ママを騙して殺そうとする奴もいるはずだ」
「……」
「おれとレオナルドもできる限りのことはするし、ママの優しさは魅力だと思う。ただ、警戒心と疑う心はずっと持っていてもらいたいんだ」
「……分かった。気を付けるわ」
アマリアはしっかり頷いた。
人間相手でも魔物相手でも、油断をしてはならない。
アマリアのように、他人から狙われたとしても戦う術を持たない者ならば、なおさらだ。
ポケットに入っている小さな木の実をぎゅっと握りしめ、アマリアはユーゴの手を引いて前を向いた。




