13 相談③
(……念のため、聞いておこう)
「えっと、レオナルド。あなたからすると、私はどのように見えている?」
「えっ? とてもお美しくて可愛らしいですよ」
……ちょっと違う方向から、猛烈なパンチを食らった。
これは、アマリアの質問の仕方が悪かったのか、レオナルドの解釈が失敗したのか、どちらなのだろうか。
(えっ、嬉しい……って、今の質問はそういうことを聞きたかったんじゃないのに……!)
手紙を持ったままアマリアが硬直すると、遅れて自分の失敗に気づいたらしいレオナルドはさあっと赤面し、片手で顔を覆ってしまった。
「……す、すみません! そういうことを聞いたんじゃないんですね!?」
「う、うん。あの、でも、褒めてくれて、嬉しいよ?」
「そ、そうですか。……えーっとですね、アマリアさんはやっぱり三十歳過ぎには見えません。でも、服装とか化粧とかを工夫すれば、十歳くらいの差は誤魔化せると思います!」
「服と、化粧ね……」
すんっと冷静になり、アマリアはレオナルドの助言を熟考してみる。
今のアマリアはブルーノの雑貨屋で買った若い娘用の服を着ている。服のセンスはエヴァがとても素晴らしいので、今着ている薄緑と白のワンピースも彼女が選んでくれたものだ。
この服はとても可愛らしいが、三十二歳が着るものではない。それなら、年相応の女性向けの服を着て、化粧も落ち着いたものにすれば少しは年を取って見えるのかもしれない。
「なるほど……大人の女性っぽい服を着てみるというのは有効そうね」
「では、院長先生たちに会いに行かれますか……?」
レオナルドに問われ、アマリアはしばし唇を引き結んで黙った後、ゆっくり頷いた。
「……ええ。私が心配していたほど見た目年齢のことは問題にならないみたいだし……それにやっぱり、院長先生にご挨拶に伺いたいから」
「それがいいですね」
「ごめんなさい、会いに行かないって言ったのに言っていることを変えて」
「謝ることじゃないですよ。ただ……ここから孤児院までとなると、往復でも一ヶ月以上掛かります」
アマリアは頷いた。当然、それだけの期間ポルクから離れ、この家を留守にすることになる。旅用の道具や食料、馬車の手配なども必要だから、今すぐに出発というわけにもいかないだろう。
「もちろん、僕も同行します。僕も院長先生に会いたいですし……幸い僕は傭兵なので、いざというときも魔物相手でも人間相手でも戦えます。アマリアさんの旅の安全を約束します」
「あ、ありがとう。でも、仕事の方は大丈夫なの?」
「きちんと理由を申請すれば大丈夫です。それに、僕にとっても里帰りになりますからね。ギルドって、傭兵の里帰りとか家族のための休暇というのには非常に寛大なのです。危険な仕事なのだから、その分家族との時間を大切にしろ、という方針らしいので」
「なるほど……」
確か、冒険者にはそういった制度はなかった。冒険者よりも様々な厳しいルールが設けられる傭兵だが、その分福利厚生はしっかりしているようだ。
そこへ、それまでずっと黙ってパズル遊びをしていたユーゴが立ち上がり、アマリアのスカートの裾をきゅっと掴んだ。
「ママ。おれもいんちょうせんせいに会いに行きたい」
「ユーゴも?」
「うん。ママもレオナルドもいないのにここにいても暇だし、おれもいんちょうせんせいって人が気になっていたんだ。それに、おれだって戦えるし、おれがいれば魔物に襲われることもない。ママもレオナルドも安全に旅ができるはずだよ」
(……そういえば、さっきそんなことを言っていたっけ)
ユーゴの言うことが本当なら、彼が一緒にいるだけで滅多に魔物が現れなくなる。もし戦闘になっても、アマリアの側には剣術が得意なレオナルドと、魔法と腕力が自慢のユーゴがいる。
それに、ユーゴ一人をポルクに残していくというのも不安が大きい。ブルーノたちはユーゴの正体を知っていながらいつも通り接してくれるし、たまにエヴァのところにお泊まりに行くこともある。だが、一ヶ月以上も面倒を見ろと言われたら困るだろうし、ユーゴだって落ち着かないだろう。
アマリアは、レオナルドへと視線を移す。
「……レオナルドはどう思う? 私は、ユーゴを連れていく方がいいと思うけれど」
「僕も賛成です。アマリアさんの身の安全ということしかり、ユーゴの気持ちしかり、連れて行くことの負担より恩恵の方がずっと大きいでしょう」
レオナルドは真面目に頷いた後、アマリアの隣に立っているユーゴを見た。
「……院長先生に、君のことは教えていない。だから、君のことはアマリアさんの養子として紹介するだろうし、当然竜の力も孤児院周辺では使用禁止だ。かなりの我慢を強いることになるだろうけれど、それでもいいか?」
「もちろんだよ。いんちょうせんせいは、ママの恩人なんでしょ? だったらおれも気を付けるし、ずっとお利口にしている。……あ、でも、おれが人間じゃないってバレたらまずいかな?」
「どうして?」
アマリアとレオナルドの声が被った。
アマリアはレオナルドと顔を見合わせた後、彼も自分と同じようなことを考えているのだと察する。
「ユーゴ、私たちは家族なんだから、種族は関係ないでしょう?」
「そうだよ。それとも……人間の子どもよりも成長が遅いのが気になるのか?」
レオナルドの問いにユーゴがこっくり頷いたので、アマリアはユーゴの柔らかい髪をそっと撫でた。
「大丈夫よ。あなたが私の子どもなのは確かだし、成長が遅いことはそれほど関係ないわ」
「たとえ十年ほど経ってユーゴがほとんど成長しなくても、わざわざ院長先生に教える必要はないでしょう。『ユーゴは元気にやっています』で十分分かってくださる」
「……そっか。分かった」
アマリアたちの話を聞いて安心できたようで、ユーゴはアマリアの膝にすりすりと体をすり寄せてきた。
「ママ、道中はおれに任せてね。ママを守るし、絶対にママたちの迷惑にはならないから」
「ありがとう、ユーゴ。あなたなら大丈夫だと思っているわ。一緒に院長先生に会いに行きましょう」
「うん!」
抱き上げて頬にキスをすると、ユーゴはふにゃりと笑い、「おれからも、きーす!」とキスを返してくれた。




