12 相談②
ユーゴはレオナルドの肩から膝に移動していて、「今日は洗濯物をして、エヴァのところにおつかいに行って、豆の皮剥きを手伝った!」と本日のお手伝い内容を自慢げに語っている。レオナルドは疲れているだろうに、ユーゴの話を笑顔で聞き、「そうか、偉いな」と髪を撫でてやっている。
(本当に、仲よくなったね……)
親子のような二人のやり取りを微笑ましく見つめ、アマリアはテーブルに茶とケーキの皿を置いた。すかさずユーゴがケーキに狙いを定めたのが視線で分かったので、「ユーゴはさっき食べたでしょう」と釘を刺しておく。
「……それで、話というのは?」
レオナルドが茶を飲み、ケーキを半分ほど食べたところで切り出す。ユーゴは部屋の隅に移動し、いつもの木製パズルで遊んでいた。こちらに背中は向けているが、たぶんちゃんと話は聞いているだろう。
レオナルドはカップを置くと、足元に置いていた荷物に手を突っ込んだ。
「実は、ギルド宛てに手紙が届いていたのです。本部に届いたものを転送してやっとここまでたどり着いたので、結構時間は掛かってしまいましたが……」
そう言ってレオナルドがテーブルに置いたのは、少しくたびれた紙質の封筒だった。宛先はレオナルドだが、気付扱いでレアンドラ王都にあるギルド本部の住所が書かれている。
(……えっ? この字って――)
思わず、さっと手紙を手にとってひっくり返した。もしや、この文字は――と胸が高鳴る中、送り主名を見たアマリアは息を呑む。
「院長先生……!」
「はい、院長先生とはたまに近況報告を取り合っています。これは、先日やっと僕のところに転送されたものです」
「そ、そうなの。院長先生、お元気なのかしら?」
既に封は開いているが、アマリアは慌てて封筒をレオナルドに返す。だがレオナルドは笑顔で首を横に振り、手紙をそっと押し返してきた。
「中を読めば分かりますが、これはアマリアさん宛てでもあります。読んでくれませんか?」
「えっ……いいの?」
「はい。僕が相談したいことも、この手紙の内容についてなので」
レオナルドに言われたので、アマリアは緊張しつつ封筒から手紙を取り出した。アマリアの手元に来るまでにかなりの時間が経過しただろうが、手紙を取り出したとき、孤児院の匂いがした気がして胸がつきんと痛んだ。
院長先生は、全体的に文字が大きくて角張っている。特定の文字だけは妙に小さかったり斜めになったりという特徴があったが、今アマリアが読んでいる手紙にも全く同じ癖があった。
レオナルドは昨年の晩秋、アマリアの消息を知らせる手紙を孤児院に送っている。これはその返事なのだろうが、レアンドラ王国の東の端に位置するこの地域から孤児院のある国の南西まで、往復で一ヶ月以上掛かる。さらに、傭兵として定住しないレオナルド宛ての手紙ということで本人の手元まで転送されるまでにかなりの時間を要し、春になってやっと届いたのだろう。
手紙には、アマリアの無事を聞いて安心する旨のことがびっしりしたためられていた。ところどころ院長先生以外の者の手らしい箇所もあったので、シスターたちが院長先生のデスクに詰め寄って寄せ書き状態になった光景が容易に想像できる。
『アマリアが無事なら、わたくしたちは何も申しません。本人がわたくしたちに会わないという決断をしたのなら、それも致し方ないことでしょう。しかし……もし気が変わったのなら、一度でいいから顔を見せてほしいと思っています。ルフィナの思い出話などもしたいので、よかったらアマリアに相談してくれませんか』
ルフィナ、というのはアマリアの母の名だ。確か母は院長先生よりも十歳ほど若かったと思うが、幼い頃に孤児院入りした母の「担当」になったのが院長先生だったようで、母の死後はアマリアの母親代わりになってくれた。
アマリアは何度も手紙を読み直し、顔を上げた。レオナルドはちびちびと紅茶を飲んでいたようだが、視線を感じてこちらを見てくる。
「……正直、これをアマリアさんに見せていいものか迷う気持ちもありました。あなたは、院長先生たちに会いに行かないと決めた。それなら、その決意を揺るがすようなものは見せるべきではないのかとも思いました」
「……」
「しかし……申し訳ないのですが僕も、できることなら院長先生に会っていただきたい。……あなたが修道院を離れて十一年。院長先生も、あなたのことを恋しがっていることでしょう」
「……もちろん、分かっているわ。でも……」
「見た目のことですか?」
レオナルドに優しく問われ、アマリアは頷いた。
アマリアは、本来なら三十二歳になっている。だがユーゴに連れられて魔界に渡っている間に十年という時間を飛び越えてしまい、二十二歳の見た目のままなのだ。
アマリアは、この姿を見せれば皆に不審がられると思っていた。だが当時子どもだったレオナルドはともかく、アルフォンスやエスメラルダなどは今のアマリアの姿を見ても、「若作りをしている」くらいにしか思っていなかったようだ。
(……ということは、若く見える三十二歳ということでも通じるのかな……?)
通じればありがたいが、同時に妙な虚しさも感じる。とはいえ院長先生たちにこれ以上の心労は掛けたくないので、「幸運にもあまり老けずに済んだ」とでも言い訳をしてしまえばいいのではないだろうか。




