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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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49 記念祭①

 翌日、アマリアは朝食の後、鏡とにらめっこしていた。

 エヴァの選んでくれたドレスを着て、後は髪のセットと化粧をするだけ。やり方はエヴァに教えてもらっているので、その通りに再現すればいい。


(……む、難しい! どうして思い通りに色が乗らないの!?)


 ぷるぷる震える手で一生懸命まぶたに色を乗せようとするが、先ほどからどうにもうまくいかない。付けすぎたり、ムラができてしまったり、睫毛に付いてまばたきができなくなったりするので、何度も顔を拭いてやり直していた。


 最初は近くで観察していたユーゴも、だんだんアマリアが焦ってきたからか途中から気を利かせて退室した。彼はもう子ども用のよそ行き服を着て準備万端なので、アマリアが早く支度をしなければ。


(世の女の子って、こんなに大変なのを毎日やっているの……? 尊敬する……)


 やっと、エヴァがやった通りとまではいかずとも、なんとか似せることはできた。口紅も塗り、爪の先を整え、髪をまとめる。


 アマリアの髪は艶のある栗色で、そのまま流すと肩胛骨あたりまでの長さになる。あまり凝った髪型にはできないので一度一つ括りにしてから髪の隙間にくるっと毛先をねじ込み、編み込み風のヘアスタイルにしてみた。髪紐の部分に布製の花飾りを付けたので、少しはあか抜けた感じになれただろうか。


「ママ、お祭りが始まったみたいだよ!!」

「あ、うん、今行くわ!」


 なんとか様になったところでドアの外からユーゴの声が聞こえたので、散らばった化粧道具やブラシを急いでまとめた。予想以上に時間が掛かったが、掛かることを見越して早めに支度を始めてよかった。


 部屋を出た先の廊下では、ユーゴがそわそわしながら待っていた。彼は背伸びをして窓の外の風景を見ており、そこからは華やかな祭りの風景を一望することができる。


「ママ、いい匂いがする! 食べ物も売っているのかな?」

「ええ、食べ歩きができるように色々なご飯を売っているはずよ。それじゃ、行きましょう」

「うん!」


 ユーゴはアマリアと手を繋ぎ、低い声で呪文を唱えた。すると一瞬だけふわっと体が温かくなり、すぐに収まった。


 ユーゴが今掛けてくれた空間魔法のおかげで、「意図的にアマリアを探そうとする者」以外にはアマリアの存在は気づかれにくくなった。通行人からの注目は浴びないが買い物などは問題なくできるし、仕事の合間に合流する予定のレオナルドもちゃんとアマリアを認識できるはずだ。


 ユーゴと手を繋いで、宿を出る。レオナルドが予約してくれたこの宿は町の中心部付近にあったので、玄関を降りたばかりだというのに人だかりがすごく、人波に揉まれるのが久しぶりのアマリアも思わずきゅっとユーゴの手を握りしめた。


(迷子には絶対に避けないと。ユーゴの魔法が解けるし、人混みに慣れていないユーゴは混乱してしまうかもしれない……)


 ユーゴもまたアマリアの手をしっかり握るが、その金色の目はきらきら輝いていて、あちこちをせわしなく見ていた。

 露店、花飾り、着飾った人々、どこからともなく聞こえてくる音楽に、食べ物の匂い。ユーゴを誘惑するものであふれかえっている。


 今朝は祭りに備えて、朝食をほとんど食べなかった。おかげでアマリアもユーゴも空腹なので、早速露店を探して食事をすることにした。


 食べるのが大好きなユーゴは露店が近づくと歓声を上げ、「これは何?」「あれは何を売ってるの?」ととにかくアマリアに聞きまくった。アマリアの知識で答えられるものは答えたが、中には異国発祥の料理など、アマリアにもよく分からないものがあった。


「おじさん、これは何かの肉料理でしょうか?」

「ん? ああ、これはエディスの伝統料理だ。果実入りのソースをまぶした鶏肉を炙ったものなんだが、たいていはこんな感じに串に刺す。だからエディスでもよく町中で売られていて、買い食いの定番になっているんだ」

「へぇ……甘くておいしそうですね」


 男性の手元には、長い串に刺さった焼き鳥が並べられている。果実のソースを使っているからか、表面はつやつやに照っていて、甘辛そうだ。


「ユーゴ、これ食べてみる? 焼き鳥の一種だけど」

「食べる! ママもいる?」

「そうね。一本ずつ食べましょうか」


 肉に甘みがプラスされた料理と聞いて、ユーゴはすぐに乗ってきた。

 二人分を注文すると男性は焼き鳥を渡しつつ、「可愛い坊ちゃんだな。いっぱい食べて大きくなれよ!」とユーゴにも声を掛けてくれた。ユーゴの正体は小山ほどもある黄金の竜なのだが、もしかするとますます大きくなるのだろうか、とアマリアはぼんやり思った。


 食べながら歩いている者もいるが、うっかりしているとせっかく買ったドレスを汚してしまうかもしれない。そのため二人は一旦人混みからはずれ、冬の花が植えられた花壇の縁に腰掛けて焼き鳥をほおばった。


 焼き鳥は少し冷めてしまっているが、噛むとじゅわっと甘辛い汁が零れた。念のために膝にハンカチを乗せていてよかった。


「ママ、これ甘くておいしい! 家でも作れないかなぁ?」

「材料や分量がはっきりしないと難しいけれど、似たようなものは作れると思うわ」


 口が小さいので少量ずつ食べるアマリアに対し、ユーゴは一瞬で食べ尽くしてしまったようだが、いたく気に入ったらしい。


(この味は……プリネとグワムは入っていそう。普通のソースに刻んだ果実を入れてしばらく置いておけば、焼き鳥用のたれになるかな……?)


 手をベタベタにしてしまったユーゴに新しいハンカチを渡しつつ、アマリアはしげしげと食べかけの焼き鳥を観察してみた。そっくりそのまま再現することは難しいだろうが、似たものを作ることはできそうだ。

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