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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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47 きれいになりたい理由②

「なーに驚いてんの。そりゃ、血のつながりはないかもしれないけど二人とも偶然金髪だし、あんなに楽しそうに散歩していれば、親子に見えるのよ。おまけに三人並んで歩くあんたたちは、幸せですー、ラブラブの夫婦と愛の結晶ですー、ってオーラをビンビン放ってるし、みんなも言わないだけで思ってるでしょうね」

「……さ、さようでしたか……」

「さようですの。……というか、さ。アマリアってレオナルドさんのこと、好きなんでしょ?」


 それまでの元気いっぱいな声から一転、あたりをはばかるようなエヴァの言葉に、ついにアマリアは心臓が止まるかと思った。


(バレていた……!?)


 それまではかっかと火照っていた体が急に冷え、椅子に座っているというのにふらついて倒れてしまいそうになる。


 胸の奥で想うだけに留めておこうと思っていたのに、気づかれてしまった。


 真っ青になるアマリアだが、爆弾発言を投下した側であるエヴァの方がぎょっとして、アマリアの肩を掴んできた。


「え、ちょっと、そんなに驚かなくていいじゃん! というか、なんで泣きそうなの!?」

「……そ、それは――」

「別に、子どものいる母親が恋をしたっていいじゃん!? 前の男のことはすっぱり諦めているんでしょ? レオナルドさんもあんたの事情を知ってるみたいだしユーゴ君も理解してるみたいなんだから、誰かに責められることじゃないでしょ!」


 エヴァは早口でまくし立てる。だがそれは、彼女がアマリアの一番の秘密――十年前と姿が変わっておらず、かつてアマリアはレオナルドより八歳も年上だった、ということを知らないから言えるのだろう。


 未婚の母が幼なじみを想うのは、責められるべきことではない。

 では、アマリアの記憶ではつい最近まで無邪気な子どもだった少年を、アマリアが異性として意識しているとなると?


 ぎゅっと膝の上で拳を固めて何回か深呼吸した後、アマリアは笑顔の仮面を被ってエヴァを見上げた。


「……ごめん、意外なことを言われてちょっと取り乱しちゃった」

「……」

「……エヴァ、今のことはどうか内緒にしていて」

「……なんで? レオナルドさんに言えばいいじゃん、好きになっちゃった、って」


 きゅっと眉を寄せてエヴァは言い返す。


「アマリアって、あたしたちには言っていないけどもっと深い事情があるんでしょ? それがなんなのかあたしたちは知らないし、無理に聞き出そうとも思わない」

「……」

「でもさ、誰かのことを好きになること自体は罪じゃないでしょ」


 ――好きになることは、罪ではない。


「……エヴァは、そう思う?」

「いやだって、あんたはユーゴ君を生んでるけど結婚はしてないんでしょ? だったらあんたが誰を好きになろうと勝手じゃない? しかもレオナルドさんからもユーゴ君からも理解を得られているんなら、もっと堂々とすればいいじゃん。あんたたちが付き合おうと男女の仲になろうと結婚しようと、誰もあんたたちの幸せを咎める権利はないよ」

「……」

「あー……まあ、事情があるんなら仕方ないとは思う。広めてほしくないって言うのならあたしたちも絶対に余所に言いふらさない。でも、レオナルドさんのことが好きならその想いを抱いているのはいいことだろうし、彼のために可愛くなりたい、きれいって言われたいって思うのも素敵なことだと思うけどなぁ」


 ――再び、脳天を魔法が直撃した。

 多少は魔法への耐性があるアマリアだが、エヴァによる魔法の前ではなけなしの防御力なんて何の障壁にもならなかった。


 きれいになりたい。可愛いと思われたい。

 それは、祭りに行く服を探しているときにアマリアが思っていたことだ。


 この想いを表に出すつもりはない。かといって否定もせず、胸の内に秘めて、大切に育てていきたい。


 女として愛してほしい、なんて恐れ多いことは望まない。

 ただ、少しでもきれいでありたい。いい人だな、とレオナルドに思ってほしい。


(……私のような事情持ちの女には、それだけで十分すぎるくらいね)


 いつの間にか甲に血管が浮くほど握りしめていた手をゆるゆると解き、アマリアはこっくり頷いた。


「……あの、エヴァ。私、レオナルドのことが……好きなんだと思う」

「うん」

「でも、その、私にはちょっと事情があって……それを彼に言うつもりもないの」

「あんたはそれでいいの?」

「……少なくとも、今は。だけど、レオナルドのことが好きだって思うことを否定したくない。彼にきれいって思われたいし、女としてもうちょっと輝きたい」

「うんうん、それでいいと思うよ。あたしもあんたの恋は応援するけど、あんたが望まないことはしないつもりだから。……事情を知らない分際で、色々きついことを言ってごめん」


 エヴァが謝ったので、慌ててアマリアは立ち上がってエヴァの肩を掴む。


「ちょっと、謝らないでよ! 私の方こそ……エヴァのおかげで自分の想いに向き直れたんだから!」

「それならよかった。……それじゃ、真面目で優しい片想いの君に喜んでもらえるように、素敵な服を探しましょうか」

「……ええ、よろしくね」


 ようやっと、アマリアは笑うことができた。

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