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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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46 きれいになりたい理由①

 三人で町の祭りに行くことになったのだが、困ったことがある。


(お祭りに着ていけそうな服がない……)


 アマリアは一人、クローゼットの前に立って悩んでいた。

 今、レオナルドとユーゴは一緒に散歩に出かけているので、アマリアはクローゼットの中を整理しがてら祭り用の衣装を見繕おうとしたのだが。


 クローゼットにあるのはどれも普段着のワンピースで、華やかさを犠牲に丈夫さを追及したものばかり。色も地味で、装飾もほとんどないのでこれらを着て町の祭りに行くのは恥ずかしすぎる。


(ユーゴは子ども服をちょっと工夫すればいいけれど、私の場合はそうもいかなそう……)


 持っている服をベッドに広げたが、どれも茶色やベージュや白ばかり。しかも何度も洗っているので生地はカチカチだし、裾が解れているところもある。アマリア程度の裁縫の腕前でどうにかできる次元ではない。


(こうなったら、新しいのを買うしかないか……)


 生活費や食費は、レオナルドの稼ぎでやりくりしている。以前レオナルドがギルドから持って帰った金はかなりのもので、厨房の奥にある壺の中に貯めていた。アマリアは自分が白魔法で稼いだ金も生活費に充てると言ったのだが、レオナルドにやんわり拒否されてしまった。食い下がろうとしたのだが、「僕にも甲斐性がありますので」とのことだった。


 そのため、アマリアが稼いだ金は自分やユーゴの服や紅茶の素材、その他の雑貨などに使っている。レオナルドは自分の稼いだ金でアマリアが嗜好品を買っても全く構わないようだが、それではこちらが申し訳なくなる。だから今回も、アマリアの貯金から服代を出すつもりだ。


 寝室の小物入れに入れていた財布を取り、アマリアは家を出た。ユーゴは最近剣術にも興味を持ったようで、レオナルドが休みの日には庭で剣を打ち合う姿が見られる。ユーゴ曰く、「やっぱり魔法や体術だけじゃなくて、武器の持ち方も学んでおきたい」とのことだったので、彼の意思を尊重することにした。

 今日も出かける際に木を削って作った模擬剣を持っていっていたので、どこか広い場所で打ち合っているのだろう。


 アマリアの身の安全確保ということで、集落内であってもアマリアは人気のない場所を避け、必ず誰かの目の届く範囲を歩くようにしていた。今日も家を出たところで、井戸端会議をしていた主婦たちに挨拶し、すれ違った農夫が申し出てくれたので雑貨屋までの護衛を頼んだ。


 雑貨屋の前で農夫に礼を言って別れ、入店する。そこには先客がいて、アマリアを見ると嬉しそうに微笑んで手を振ってきた。


「あ、おはようアマリア。今日は一人で買い物?」

「おはよう、エヴァ。ちょっと、ほしいものがあってね」


 カウンターに寄り掛かっていたエヴァも、宿屋の買い出しに来ていたようだ。彼女の足元に置いている大きな籠には、木製の食器や掃除道具、小さな壺や布の塊などが詰められている。


「アマリアじゃないか。今日は何を買いに来たんだ?」

「おはようございます、ブルーノさん。実は……よそ行きの服がほしくて」


 奥から出てきたブルーノに言うと、彼とエヴァはなぜか驚いたように顔を見合わせた。

 そして同時にニッと笑うと、心得たとばかりに大きく頷く。


「そうかそうか。アマリアも母親とはいえ年頃の女性だからな。着飾りたいと思うのも当然のことだろう」

「というかそれって、レオナルドさんのためじゃないの? わざわざ彼がいない間に一人で来るってことは、きれいに着飾った姿を見せてびっくりさせたいとか?」


 ブルーノの方はともかく、エヴァに突っ込まれたアマリアはさっと赤面し、俯いてしまった。


 祭りに着ていく服を買うために店に来た。

 だが――エヴァの言うとおり、わざわざレオナルドがいない間に一人で来たのは――


(……内緒で服を買って、おしゃれをしたところを見せて――きれい、って言ってほしかったから……)


 自分の胸の奥に閉じこめておくつもりだったのに、敏感なエヴァにはお見通しだったようだ。

 アマリアがもじもじしているために図星だと分かったのか、エヴァはふっと悟りきったような笑みを浮かべた後、ブルーノに向き直った。


「ブルーノさん、もしよかったらあたしがアマリアの服を見繕うけれど……任せてもらってもいい?」

「ああ、もちろんだとも。部屋を貸すから、好きに見てくれ」

「ありがとう! よし、行くよ、アマリア!」

「え? あ、うん……」


 なぜかアマリアよりもエヴァの方が乗り気で、彼女に腕を掴まれて引きずられつつアマリアは店の奥に向かった。


 ブルーノの雑貨屋は日用品を主に取り扱っているが、よそ行き用の服も一応備えている。普段は店の奥にしまっておき、買いに来る者がいればその都度奥から持ってくるようにしているそうだ。


「あー、これなんかいいんじゃない?」


 店の奥の小部屋にて、少々いたたまれない気持ちで椅子に座るアマリアにエヴァが見せたのは、小花柄の可愛らしいドレスだった。袖が膨らんでいて、袖口や襟、裾にフリルが付いている。

 確かにとても可愛らしいが――


「あ、あの、ごめん。もうちょっと落ち着いた柄がいいかも……」

「えー? アマリアってばいつも落ち着いた……というか地味な服ばかり着てるじゃない! レオナルドさんとのデートなら、これくらい気合いを入れていかないと!」

「いや、デートってわけじゃなくて……」


 そういえば状況を教えていなかった、とアマリアは急ぎ祭りのことをエヴァに教えた。

 最初はつまらなそうな顔をしていたエヴァだが、次第に興奮したように頬を赤らめ、最後には「それ、デートじゃん」とさくっと断言した。


「子連れだろうと仕事の隙間時間だろうと、同じ年頃の男女が遊びに行くのなら、すなわちデートでしょ。いいじゃん、ユーゴ君もレオナルドさんに懐いているみたいだし、端から見たらあんたたち、ごく普通の幸せな家族なのよ」

「ひえっ……!?」


 エヴァの言葉に、アマリアは脳天から雷魔法を食らったかのような衝撃を受けた。


 ……レオナルドはよくユーゴの面倒を見てくれるし、あのユーゴもレオナルドのことは多少信頼しているらしい。

 アマリアだって、仲よくじゃれている二人を見て「親子みたい」と思い――それではまるで自分とレオナルドが夫婦みたいではないかと気づいて、慌てて妄想を振り払うことがあった。


 しかし、そう思っていたのはアマリアだけではなかったようだ。

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