37 アマリアの悩み
翌朝、アマリアは落ち込んでいた。
(本当に……情けない)
リビングのソファに座ってずぅん、と落ち込むアマリアを、レオナルドとユーゴはおろおろしつつ励ましてくれた。
「アマリアさんが落ち込む必要はありませんよ。どう考えても、非力な女性の家に乗り込んで暴力を振るった連中が悪いのですから」
「ママ、ママ。泣かないで。ママは悪くないから、元気出して?」
「……ありがとう」
そっと肩を撫でてくるレオナルドの手の平に甘え、抱きついてきたユーゴをぎゅっと抱きしめながら、ようやくアマリアは強張った笑みを浮かべた。
今朝目覚めたアマリアは、一瞬今の状況が分からなかった。だが直後、乱暴に担がれたときの感覚が肌に蘇り、ベッドから飛び起きるなり悲鳴を上げてしまった。
すぐさまレオナルドが飛んできてアマリアを毛布ごと抱きしめ、続いてなぜか窓から飛び込んできたユーゴも眦に涙を浮かべながら、「ママ、もう大丈夫だよ。怖い人はいないよ」と言ってくれたので、やっと状況を把握することができた。
アマリアが気絶している間にかつての仲間たちは追い出され、荒れ果てた一階リビング周辺はポルクの皆の尽力もあって、完璧に元通りとまではいかずともきちんと掃除がされていた。
アマリアはすぐにブルーノたちにお礼を言いに行こうとしたのだが、「今は安静にしてください。皆も分かっています」とレオナルドに優しく叱られたので、リビングで茶を飲みつつ話を聞くことになったのだった。
茶は、レオナルドが淹れてくれた。アマリアの見よう見まねなので、味が薄いわりに渋くて妙にとろみがあったし、当然特別な力も込められていない。
でも、彼が慣れない手つきで一生懸命作ってくれたと聞くだけで愛おしさが溢れるし、少々の薄さや渋さもアクセントでおいしいとさえ思われた。ユーゴも、文句一つ言わずにアマリアと同じ茶を飲んでいた。
「連中は、僕たちの方でも話を聞いた上で、しっかり仕置きをしておきました。相当懲りていたので、もう二度とアマリアさんに危害を加えることも、ポルクに襲来することもないですから、安心してください」
「ええ……ありがとう」
「ママ、あいつらってママをキロスに連れていこうとしたんだよね……?」
おずおずとユーゴに問われると一瞬脳みそがぐらっとしたが、アマリアはきゅっと唇を引き結んで頷いた。
「……ええ。あの三人はどうやら素行が悪くてアルフォンスに見限られたみたいだけれど、私を手土産にしてもう一度仲間に入れてもらおうとしたみたいなの」
今考えてみても、実に無謀な行為だ。彼らがアルフォンスに見限られたのにはそれなりの理由があるはずだというのに、アマリアを献上すれば見直してくれると思いこんでいる。
その上、アマリアという存在はアルフォンスにとって都合が悪いのだから、連れていったからといって喜ばれるとは限らないというのに。
レオナルドはアマリアの肩からずれ落ちかけていたショールを丁寧に掛け直し、向かいの席に座った。
「僕はてっきり、アルフォンスの命令でアマリアさんを連れ戻しに来たのかと思ったのですが、そうではなかったようですね」
「ええ、そうみたい。……三人はギルドでの仕事をしながら私のことも探っていたようだけれど、アルフォンスに見限られたということは、彼と連絡を取り合っていたわけではないはず。それなら、私がここにいるということはアルフォンスにバレていないと思うの」
もし、アマリアが生きていると知ったなら、アルフォンスたちはどう出るだろうか。
(知ってしまったのならきっと――そのままではいさせてくれないよね)
アマリアを置いていっただけならまだよかっただろうが、アマリアはアルフォンスたちのお涙頂戴な英雄譚が嘘っぱちであり、彼が平気で仲間を見捨てる冷血漢であるということを知っている。
エスメラルダはともかく、彼女の父であるキロス王や他の国民たちはアルフォンスの本性を知らないはずだ。王女の婿という自分の地位を脅かしかねないのなら、アマリアを消しに来るのではないか。
(そう思うと、昨日の連中がアルフォンスと繋がっていたわけではないというのは、不幸中の幸いだけど……)
やはり、気は重い。
せっかくユーゴに救ってもらった命なのだ。これからはもう危険な仕事をせず、白魔法と紅茶の才能でのんびり田舎生活を送りたいと思っていたのに。
アマリア本人は、アルフォンスの秘密をばらしてやろうとか、零落させてやろうとか、そんなことは思っていないのに。
「……私、ここにいていいのかしら」
ぽつん、と呟くと、とたんじわじわと胸の奥から虚しさと寂しさが溢れてきて、まぶたが震えてきた。
昨日は、レオナルドが帰ってきてくれたから少々暴力を受けるだけで済んだ。だが、四六時中レオナルドやユーゴが側にいるわけでもないし、今回は後始末を手伝ってくれたポルクの皆にいつ、危害が及ばないとも限らない。




