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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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35 招かざる客①

 本当は、即刻お帰りいただきたかった。だが、ドアを閉めようとしても身を乗り出すようにして隙間に足を挟まれたし、大きな手がドアを掴んでいた。

 このままだとドアを破壊されるし、そもそも特技が白魔法と紅茶淹れという非戦闘系のものばかりのアマリアでは、彼らを拒むことができない。


(こうなったら、誰かを呼んで――)


「っと、勝手な真似はすんなよ」


 ――吸った息はそのまま、か細い吐息となって細く吐き出されてしまった。

 声を上げようとしたアマリアの喉には、安っぽそうなダガーの刃があてがわれている。暴れれば、声を上げれば、誰かが助けに来る前にアマリアの首の血管が切り裂かれるかもしれない。

 ごくっと呑んだ唾は苦く、アマリアはにたにた笑う男たちを歯ぎしりしながら睨み付けた。


(レオナルドもユーゴもいないときに限って――!)


 かといって、仕事に行っているレオナルドや、彼のために狩りに出かけたユーゴを恨むことはできない。こうなったら、早々にお帰りいただくよう説得しなければ。


 渋々リビングに上げると、男たちは「おー、狭いわりに洒落てんな」「案外金があるのか?」「あー、まじだりぃわ」と言いながら勝手に椅子やソファを占領した。

 家主たるアマリアの許可もない行為に早速いらっとするし、この前エヴァが譲ってくれた特製の可愛らしいクッションが旅の汚れにまみれた尻に敷かれたので、思わずぴくっと唇の端を吊り上げてしまった。


「……それで? 今さら何のご用です?」

「おまえ、なんで生きてるんだ? 竜に食われて死んだんじゃなかったのか?」


 アマリアの話は聞かず、あくまでも自分たちのペースで話を持っていくつもりのようだ。


(……そうだ。この三人は昔から、こういう人間だった)


 彼らはアルフォンスと同世代なので、当時は十七、八そこらだった。戦闘能力はそれなりだったがとにかく品がないし礼儀もなっていなくて、アマリアの淹れた茶をまるで酒でも飲むようにガバガバと呷るものだから、アマリアだけでなく、エスメラルダやアルフォンスにも少々煙たがられていたものだ。


 自分の座る場所がないので、アマリアは壁に寄り掛かってむっとしつつ答える。


「……運良く生き延びました。それからはこのポルクの白魔法使いとして慎ましく生計を立てて――」

「おい、これってガキ用のおもちゃじゃねぇか!」

「なんだ、おまえ、ガキを生んだのか?」


 男の一人が、ソファの裏に置いていたユーゴのおもちゃ箱を発見したようだ。中に入っていた知育パズルを乱暴に掴んだとたん、ぷつん、とアマリアの中で何かが切れた。


 許可もなしにソファを占領したことも、クッションを潰したことも、こちらの話を聞かないことも、非常に腹立たしい。

 だが――ユーゴがとても大切にしているおもちゃに勝手に触れ、ポンポンと手の中で転がしているのを見ると、我慢ならなかった。


「……それに触らないで!」

「は? おまえ、そんなでかい声が出たんだな」

「なんだっていい! ユーゴのおもちゃに触らないでよ!」


 アマリアが声を上げてもなおパズルをカチカチ打ち付けたりするので、とうとうアマリアは踏み出すと彼の手からおもちゃを奪い取り、おもちゃ箱ごと回収して廊下に避難させた。


(ごめん、ユーゴ! ちゃんと後で洗うからね……!)


 ユーゴはアマリアが買い与えたパズルで遊んだ後は、布で丁寧に磨いてからおもちゃ箱に入れていた。それなのに今見ると泥が付いているし、馬鹿力の男にぶつけられたからか繊細な木のパズルの角が少しへこんでいた。


 悔しさで目が潤みそうになるがぐいっと目元を拭い、アマリアはリビングに戻り、腕を組んで男たちを睨み付けた。


「……それで、いったい何をしに来たの? 私のことなら、死んだことにしてくれればいい! 私はここで幸せに暮らしているのだから、これ以上関わらないで!」

「はー? おまえ、いつの間にそんなに態度まででかくなったんだ?」

「せっかく俺たちがあんたをアルフォンスに会わせてやろうとしたのに、相変わらず年上ぶりやがって」


 今は既にアマリアの方が年下になっているのだが、それを丁寧に説明するつもりはないので、放っておいた。


 それよりも問題は、「アルフォンスに会わせてやろうとした」の方だ。


(……アルフォンスに?)


 いい思い出が全くない名前を聞き、アマリアは唇を曲げた。


「……私、別にアルフォンスに会いたくないのだけれど。むしろ一生再会したくない」

「何言ってんだ。おまえ、今のアルフォンスの立場が分かってるのか?」

「……エスメラルダ様と結婚して、キロス王国の王女の婿として悠々自適に暮らしているんでしょう?」


 あくまでもレオナルドから聞いた情報なので少々自信はないものの、彼らの言い方からしてアルフォンスがここ数年で一気に零落したわけではないだろうと思い、答える。


「ああ、そうだ。アルフォンスはおまえを救えなかったことをずっと悔やんでいた」

「は? 竜の餌にして置き去りにしたくせに?」

「うるせぇな。そういうことになってるんだ。黙って聞いてろ」


 ドスを利かした声で脅されたので、アマリアは渋々口を閉ざした。

 体力勝負になった場合、アマリアに勝ち目はない。レオナルドかユーゴが帰ってくるまで、心身無事な状態で持ちこたえるべきだ。


「この前、旅の商人から話を聞いてよ。できて間もない集落に、凄腕の白魔法使いの女がいるということで、もしかしたらおまえが生きていたのかもしれないと思ったんだ」

「…………もしかしてあなたたちはここ何年も、私を捜していたの?」


 白魔法使いの女がいる、という情報だけで遥々ここまでやって来るとは思えない。

 ということは、元々彼らはアマリアが生きているなら回収してアルフォンスのところに連れていこうと考えていたのではないか。


 アマリアの指摘に、男たちは不快そうな顔になりつつ頷いた。


「あー、そうだよ。ま、ギルドの仕事をしながらの片手間だったし、生きていれば御の字、くらいの気持ちだったがな。まさかあの竜の山の麓に隠れていたとは思わなかったな」

「おまえは、アルフォンスの竜討伐で姿を消した悲劇の白魔法使いとして有名になっている。おまえを連れていけば、アルフォンスは褒美に俺たちを雇ってくれるはずだからな」


 その言葉に、アマリアは引っかかりを覚えた。

 てっきり、彼らはギルドの依頼を受けながらアルフォンスの命令でアマリアの捜索をしているのだと思っていた。だが、今の言い分だとそうではなさそうだ。


「あなたたち、アルフォンスに仕えているわけじゃないの?」

「……あいつがエスメラルダ様の婿になる直前に、追い出された」


 歯ぎしりをしながら男が言うので、なんとなくの事情を察することができた。

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