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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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27 アマリアの秘密②

 二人に遅れてアマリアもハーブティーを啜ったが、ほぼ想定したとおりの味になっていた。


(フィフィがちょっとしなびていたからか、本来の甘みが完全には引き出せていない。来年のフィフィの季節になったら早めに買って、新鮮なうちに使えたらいいかも)


 そう考えながら二口目を飲んだアマリアだが、ふと、いつもならすぐに感想を言うはずの少年の声が聞こえないことに気づいた。


 ユーゴは空になったカップを両手に持ち、俯いていた。一瞬、ハーブティーの味覚が合わなくて気分が悪くなったのかと思って肝が冷えたが、覗き込んだ顔は少ししかめられているが、吐きそうというわけではなさそうだった。


「どうしたの、ユーゴ。おいしくなかった?」

「うん? ……あ、いや、違うんだ。甘くておいしかったよ。ただ――」


 ユーゴが顔を上げた。彼はアマリアと、同じように心配そうに自分の方を見つめているレオナルドを見た後、「もう一杯もらうね」と断り、ティーポットからカップ半分ほどの茶を注ぎ、今度はじっくり味わうように時間を掛けて飲んだ。


 アマリアとレオナルドが息を潜めながら待つこと、しばらく。


「……うん、やっぱりそうだ。ああ、なるほど、ママから感じたのは、これだったのか……」

「何かあったの?」


 ぶつぶつと呟くユーゴはなにやら納得したようだが、アマリアにはちっとも分からない。

 急いて身を乗り出しながら尋ねると、ユーゴは真面目な顔でアマリアを見つめた。


「あのね、ママ。おれたちがここに到着した日、おれが話したことを覚えてる? ママから白魔法とはまた別の力を感じるって言ったこと」

「…………そういえば、そんなことも言ってたっけ」


 確かユーゴは、人間であるアマリアが無事に魔界に行くことができたのは、白魔法以外の何らかの能力があるからだと言っていた。その能力の正体やどのようにして発揮するのかなどは分からないが、何か特殊な力はあるはず、とのことだった。


(そのときはちょっと驚いたけれど、それからの日々が忙しくて充実しているから、すっかり忘れていた――)


 アマリアの表情でだいたいのことを悟ったのか、ユーゴは「やっぱり忘れてたね」とあっさり納得した。


「実は、おれはずっと気にしていたんだ。……で、最初に異変を感じたのはママが茶葉を使って茶を淹れてくれたとき。そのときから、ママの茶を飲んだら力が湧いてくるのを感じたんだ」

「え……そう、なの?」

「うん、人間よりずっと魔力に敏感なおれが言うんだから、間違いないよ」


 ユーゴは自信満々に言った後、「それでね」とたたみかけてくる。


「今回、ママは茶葉を使わずに全ての材料を揃えて作ってくれた。……そうしたらもう、茶葉を使った茶のレベルじゃないくらいすごいんだよ。体の魔力の流れがすごくよくなって、内側から力が溢れている感じ」

「ど、どれくらい?」

「ん? うーん……実際にはやらないけれど、あの山くらいなら一瞬で消し飛ばせるよ」


 ユーゴが「あの山」と親指で示すのはもちろん、かつて彼がねぐらにしていた竜の山だ。

 それほど険しいわけではないが登るとなるとそれなりに時間の掛かる山なのに、あれを一瞬で粉砕できるほどの魔力。


(……え? それってもしかしなくても、私のお茶のせい?)


 ぎょっとして、飲みかけの茶を凝視する。見たところ、何の変哲もない自家製ハーブティーだ。長年作ってきたので味や風味には自信があるが、他の者が淹れたものと何ら変わりはないと思うのだが。


 しかし、ユーゴの話を聞いたレオナルドは何かに気づいたように目を丸くし、顎に手をあてがった。


「もしかして……あの、アマリアさん。実は僕も、子どもの頃から気になっていたことがあるんです」

「……紅茶のこと?」

「はい。アマリアさんは孤児院でもしょっちゅう、紅茶を淹れてくれましたね? そして僕たちはそれを飲んで育った。……僕は同じ年頃の男の子と一緒によく遊んでいましたが、たまに高いところから落ちたり、池で溺れそうになったり、ちゃんばらごっこをして殴り合ったりしていました」


(……そういえば、レオナルドは大人しい方だったけど、他のやんちゃな子に引っ張り回されていたっけ)


 そんなこともあったっけ、と懐かしい気持ちで聞いていたアマリアだが、レオナルドの表情は昔の出来事を懐かしむものではなかったので、背筋を伸ばして彼の言葉に耳を傾ける。


「でも、不思議と大怪我に繋がることはなかった。……僕たちはたびたびアマリアさんの白魔法のお世話になっていましたが、それでも大出血とかひどい骨折とか、そういうのは一度もなかったですよね?」

「……そうね。擦り傷と打ち身が多いくらいだったかしら」

「はい。……しかし、アマリアさんがいなくなってから、僕たちはやたら怪我をするようになったんです。……いえ、今思えば僕たちが怪我をしやすくなったわけではなく、それまでの僕たちがアマリアさんの力に守られていたんじゃないかと思うんです」


 レオナルド曰く。

 アマリアがいなくなってからレオナルドはふさぎ込みがちだったが、そんな彼を少年たちが外に引っ張り出した。そしていつものように遊ぼうと誘い、孤児院の屋根に登ったりした。


 ――そして、屋根から落ちた子が一人、生死の境を彷徨うほどの怪我を負った。レオナルドたちは、屋根から落ちたらこれほどまでの怪我をするものだと知らなかった。


「なぜなら僕たちはアマリアさんがいらっしゃる間にも、同じように屋根から落ちたことがあるんです。……むしろ、本来ならばもっとひどい怪我を負ったり死んだりしていたかもしれなかったけれど、アマリアさんがいる間はどれも軽傷で済んでいたのです」

「……そ、それってもしかして、レオナルドたちが無茶をしても軽傷で済んだのは、私が――私の紅茶を飲んでいたからってこと!?」

「ママ、十分あり得るよ」


 思わず声を上げたアマリアだが、話を聞いていたユーゴが冷静に頷いた。


「ママはきっと、自分が紅茶を淹れることで力を発揮できるんだ。ママは料理もしたけれど、そのときには何の力も感じなかった。普通の水を汲むだけでも、効果はない。店で売られていた茶葉を使ったときは、効果がかなり薄くなった。……レオナルドたちはきっと、ママの力で守られていたんだ。これまでにママの紅茶を飲んだことがある人は、きっと同じなんじゃないかな?」

「そう言われても――」


 しどろもどろになってしまうが、ふと、アマリアは目を瞬かせた。

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