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捨てられ白魔法使いの紅茶生活  作者: 瀬尾優梨
第1部 秋から冬
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10 生きるための方法②

 ブルーノは椅子に深く座り、「なるほどな」と呟いた。


「正直、白魔法使いがいてくれれば助かる。だが、こんな新興のちっぽけな集落にいるより、隣町に行く方が稼げると思うんだがなぁ」

「……ええ、それは分かっています。でも実は、あまり人の多いところには行くことができなくて――」

「……。……そうか、アマリアにも色々事情があるんだな」


 アマリアが年若くして息子と二人旅をしているということで、色々といいように察してくれたようだ。騙していることには変わりないが、今はこの勘違いをありがたく受け入れるしかないだろう。


(人の多い場所に行くと、私の過去を知る人と会う可能性も高くなる――修道院や孤児院の人ならともかく、ギルド関連者だと厄介なことになるだろうな……)


 となれば、少々生活が苦しくなろうとも田舎で慎ましく暮らすべきだろう。幸いユーゴは食費に関しては金がかからないし聞き分けもいいので、彼のために大金が必要になるということはないだろう。

 ひとまず、母子二人が生活できるだけの金と環境があれば御の字だ。


 ブルーノは頷き、少しいかつめの顔の表情を和らげた。


「……実のところ、皆もアマリアのことを気に入っていてな。もし母子で行くあてに困っているようなら、ここで暮らせばいいのではないかという話も上がっていたのだ」

「えっ、そうなのですか?」

「ああ。さらにあんたに白魔法の適性があるとなれば、皆助かる。怪我や病気の治療をしてくれるのならそれなりの謝礼は払うつもりだし、同じポルクで暮らす仲間になるのなら生活用品なども工面する。……悪い話ではないと思うが、どうだ?」


 問われ、アマリアはごくっと唾を呑んだ。


(これなら、白魔法を仕事にできる。謝礼ももらえるのなら、お金も手に入るし……)


 アマリアにとって嬉しい条件だが、まずは一旦持ち帰り、ユーゴと相談するべきだろう。

 ちなみに今、ユーゴも一緒にいるが彼は子どもらしさの演出のため、アマリアたちの会話には一切加わらず部屋の隅で木馬に乗ってゆらゆら揺れている。それでもちゃんとこちらの会話は聞いているはずだから、宿に戻ったらすぐに打ち合わせができるだろう。


 予想通り、宿の部屋に戻るとユーゴはそれまでのお子様モードから一転してきりっと表情を改め、「いい話ができたな」と言った。


「白魔法の能力を生かして、治療活動か……人間は自然治癒能力が低いようだし、ここのような開拓途中のポルクであれば需要もあるんじゃないかな」

「そうね。……ユーゴは個人的には、どう思う?」

「おれは構わない。そもそも、おれはママに養ってもらっている身だから、文句なんて言えない」

「あら、そんなに遠慮しなくていいのよ。ユーゴは私を助けてくれたのだから、私はその恩返しとして、あなたが人間界の探検ができるよう補助をしているだけ。それに、年長者が年少者の面倒を見るのは当たり前のことじゃない?」

「……おれはあまり時間の流れに詳しくないのだけれど、たぶんおれはママが思っている以上に年を取っているよ」


 確かに、基本的に竜族は長生きだと言われている。研究報告によると、竜族でも体の大きさによって寿命は大きく異なるが、人間とほぼ同じ大きさの小型竜でも、人間の倍以上の年月を生きられるという。


(ユーゴが黄金の竜だったときは、この宿くらいの大きさはあったはず。ということは、子どもの姿をしているけど何百年も生きているとか……?)


「うーん……といっても、ユーゴは人間生活一年目じゃない? だったら二十一年生きてきた私が色々教えてあげるのは、当然のことでしょう」

「……確かにそうだね。おれも、ママがいなくなったら人間に混じって生きていける自信がない」


 そう言ってユーゴはぎゅっとアマリアの腰に抱きついてきた。何百年生きていようと彼は竜族の中では若い方らしいし、感情や知能も未熟なところがある。


(ああ、もう、可愛いなぁ!)


 ぎゅっと抱きしめ返すと、「苦しいよ」と言いつつ喉を鳴らして胸に擦り寄ってきた。


「それじゃあ、あのお話を受けてもいい? ユーゴには退屈をさせてしまうかもしれないけれど」

「全然構わないよ。人間の生活を見るのも楽しいし、暇だったら一人でどこかに遊びに行くから」


 えっへん、と胸を張るユーゴの姿は、「もう一人でお留守番できるもん!」と主張する孤児院の子どもたちにそっくり。


(……ああ。あの子たちにも、もう会えないのかな。せめて消息だけは知らせたいけれど……手紙を送るのも難しいな)


 ユーゴの髪を撫でながら、アマリアの意識は棚に置いている小物入れに向けられる。その箱には、レオナルドからもらった押し花のお守りが入っていた。


(レオナルドも、もう二十三歳そこらになっているはず――まさか、年齢が逆転することになるなんて)


 孤児院にいた子どもは軒並み幼いので、アマリアの顔をしっかり覚えている子はほとんどいないだろう。レオナルドくらいの年齢となると覚えているかもしれないが、当時十歳くらいだった彼らは今や、アマリアより年上になっている。


(レオナルド……約束を守りたかったけれど――)


 もし彼がアマリアとの約束を覚えていて、アマリアの生存を信じてくれていたとしても、彼が思い描くアマリアは三十歳過ぎの女性であるはず。十年以上前に別れたときとほとんど見目の変わらない女が目の前に現れたら――どんな反応をするだろうか。


 気味が悪い、おかしい、なんてことを言われたら、立ち直れる気がしない。


(……だとしたらやっぱり、「アマリア」は死んだ身であるべきなのかな……たとえ相手がレオナルドであっても)

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