第1章 1-18 母の死と原因と慟哭と
この投稿の前半は、主人公の回想シーンがあります。
前半~中盤はかなり重い展開になりますので、ご注意ください。
1-18 母の死と原因と慟哭と
俺の母親が重い病気に罹った事を知ったのは小学校の頃だ。
初めて家族で海外に行き、魚料理を出す露店に入って、料理を食べたのだけど、母親が食べる魚だけ生物濃縮されて高濃度の重金属汚染に罹った魚だったのだ。
生物濃縮というのは、工場などで製品の洗浄などをする工程があるのだが、その際に剥げた金属が洗浄液に溜まり洗浄液に溶け出してしまうことがある。この状態を水溶液と呼び、洗浄工程で出た水は汚染水と呼ばれる。
この汚染水が排水として河川などに流されるのだが、当時は排水を化学反応を用いて無害化する浄化や繊維などに溶けた金属をくっつけて水溶液から金属を除去する吸着を行うのだが、何も対策をせずに河川に流してしまうと、その水中にいるプランクトンが溶けた金属ごと食べ、そのプランクトンを小魚が、その小魚を魚が食べていく中で、魚の体内に金属が蓄積されていくことを指す。
旅行中はなんともなかった母親が、帰国後に腹痛を起こし入院したのだ。当時子供だった俺は親父に理由を聞こうとしたが、そのときは聞くことが出来なかった。
なぜなら親父が憤怒の顔で真っ赤にし唇から出血しているのも構わずに拳を握りしめ必死に耐えていたのだ、普段から温厚で怒ることがなかった親父の顔を見た瞬間怖くなってしまったのだ。
後になって知ったことだが、その時には親父は病名を知り、原因は海外旅行中に食べた魚だと考えていたらしい、母親が魚を食べたのは旅行中で一度だけ、そう、露店で食べたあのときだけだったからだ。
母親の方は致死量まで食べていなかったそうだが、腎臓と肝臓に重い障害が残り、少し動けば体が悲鳴を上げる為満足に歩くことすら出来なくなり、残りの一生を病院で過ごさなければならない体になってしまったのだ
親父はお見舞いに来た叔父と叔母に俺の面倒をしばらく頼むとすぐに警察署に向かい、その後旅行に行った国へ行き、露天商を調べ、両国の警察と共にその露天商を逮捕したようだ。その旅行中に行った施設やレシートなどを母親が持っていたので、そこから関係性を立証し、提出された書類だけで逮捕出来ると警察も踏んだのだろう。
その露天商の証言では川で釣った魚を料理して出していたそうだが、その川の上流では大きな工場が建ち並び、そこで製品を洗浄した後に出てきた排水を川に垂れ流していたそうだ。
露天商はその排水が魚を釣った川に流れていることを知っていたが、自分が毎日食べているから検査に回さなくても大丈夫と勝手に解釈をして専門の機関に検査の依頼を出していなかったそうだ
本来であれば全ての工場は排水前に無害化してから河川に流すよう本社と国から何度も警告されていたが無視し続けて操業していたのもあり、工場は取り壊し、本社を含めた企業は破産することになったそうだ。
母親は病院で過ごし快方にむかっていたが、1年後の夏に突然容態が急変し帰らぬ人になってしまった。
原因は、工場に勤務していた人間が工場が倒産したのは親父のせいだと逆恨みをし、排水から採取した重金属を母親の食べ物に混入させたそうだ
そいつは監視カメラがきっかけで逮捕され、証言台では身勝手な言い分を繰り返して、反省のハの字もせず当たり散らしたそうで、結局は死刑にされたそうだ。
そのことを知ったのは高校1年の冬だった。
親父は今も仕事を続けているが、ときどき遠い目をしているところを同僚に見られて注意されているそうだ。
―――俺はその話を聞き、進路を経済学部から生物学部に変える決意をしたのだ。
俺が高校の時には重金属汚染の言葉を聞かなくなったが、世界ではそれに罹る患者は増え続けているそうだ。
ある国では垂れ流されているその川は聖なる川だから大丈夫と主張し、ある国ではそんなものに金をかける余裕がないと主張しているしまつだ。
だから俺は重金属を排水から浄化・または吸着する製品をもっと安価にする技術を開発する為進路を変えたのだ。
時間があれば全て勉強に充て、なんとか生物と化学に特化した大学に受かり、同学部の友人と協力しながら大学を謳歌しつつも勉強を両立していた矢先の異世界召喚だからな
―――――このスキルがあれば母親を治せたかもしれないのに
――――普段からスキルを使用していた俺はこうなるとわかっていなかった
―――その召喚先で原因が同じ患者に会うのはどうなんだろうか
――母さんがこのことを知ったら、なんて言ってくれるのだろうか
―俺は今後もこのことを考えながら生きていくのかもな
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「ということがあって、この病気は知っていたんだ。まさか≪変金≫で治せるとは思わなかったけどな」
少女の体内に残された過剰な金属を除去し、少女の容態が治ったか確認をした後、精霊達にこの症状とどういった事が起こるのかを教えていったのだ。
教える前にサラマンダーも顕現してもらい説明をしていった
『そんな症状がありましたのね…それならばご主人様のあの慌てようも納得できますわね』
『自分たちで作り出した毒で他人を殺すなんて…許せない』
『あぁ、許せないな。』
「許せないけど、金属は吸着や浄化、化学反応させると無害になるものもあるからね、適切な処理をするのも人間だから、言うなれば命と手間のどっちを優先するかで奴らは誤ったんだ。
ソイツらを俺は許す気は無い」
人間は欲深い。適切な処理には金がかかる、それも莫大な金が。ソレを手間とみて無視するか、道徳に反していると考えて利益よりも周りの安全をとるかで未来は簡単に変わってしまうからだ
「でも、スキルが上がっていて助かった…おかげで助けれたのだし」
数日前に≪変金≫レベルが上がり、ステータスを見たときは歓喜したからな。今の≪変金≫レベルは8で扱える金属はこんな感じだ
レベル1:物質を鉄・銅・銀に変化
レベル2:物質をマグネシウム・亜鉛に変化
レベル3:物質を蓄熱鉄鉱・鉄鉱石に変化
レベル4:物質を純鉄・純銀・ミスリルに変化
レベル5:素材の移動・混合が可能になる
レベル6:物質をダイヤモンド・金・水銀に変化
レベル7:物質をフレアメタル・亜鉛・ダマスカス鋼に変化
レベル8:物質をタングステン・カドミウム・クロムに変化
レベル9:物質を???に変化
レベル10:物質を???に変化
レベル5の移動と混合は、対象指定した金属を直接触れていなくてもその場から移動させる事ができ、扱える物質同士を混ぜ合わせて、合金にすることが出来るようになった。
たとえば、鉄とクロムを合金させるとステンレスができるわけだ
「でも、なんでカドミウムがこの子の体に入ったのだろう?
この国の土壌を調べたが、アルカリ性の土地が多い為、溶け出すことはないはずだが…
「こりゃ、国王様に報告するしかないかな」
俺が結論づけて、思考の波から戻ってきたとき、少女を見守っていたウンディーネに反応が起こった
『ご主人様、彼女が目覚めますわ』
ウンディーネの声で少女のそばに近づくと、ちょうど目を開けたところだった
「んん…あれ、わたしは…」
『目が覚めましたわね。体の調子はいかがかしら?』
いや。少女は精霊視を持ってないからみんなを見れないんじゃないかな
「ふぇあ!! なんで精霊様がここに!!!」
え?この子ウンディーネを見れるの?
『主、この子≪精霊視≫スキルを持ってるからボクらを見れるんだよ?』
『まさか、知らなかったとか言うつもりか?』
あ、いやすみません。病気のことで精一杯でそんなところ見なかったです
『まぁ、ご主人様らしいと言えばらしいですわね。それで?貴女、体の調子はいかがかしら?』
「え?ええ?からだのちょうし…あれ?今までワタクシの体を蝕んでいた、刺すような痛みとか、息苦しさが…ない?」
『それは良かったわね。治せたのは、わたし達と契約をかわした主様よ』
「え?治った?帝国ですら治すことは出来ないと言われたあの病を?」
『そして、ボクたちの主でもあるからね~』
「精霊様がたくさんいるっ!!そんな話聞いたことないのですけど!!!」
『まぁ、ご主人様ですしね、さもありなんですわ。』
いや。何でもかんでも俺だったら何でも出来る!みたいな誤情報を流さないでください。
「えっと…私の病を治してくださった方…ですか?」
「っと、勝手に部屋に入ってしまい申し訳ないです。俺は扇 江星です」
『ご主人様、なに慌ててるんですか?ステータスを忘れてますわよ』
「そうだった! ≪ステータスオープン≫」
ふつ~にテンパってて、ステータス開くの忘れてたよ
「えっと、ご丁寧にありがとうございます。ですが…
治さなくても良かったんですよ?どうせ私はもう生きたくありませんので」
―――――は?
「この病が治らなければ、すぐに女神の元へ行くことが出来ましたのに。
治ったとしても、父の後を継ぐものと政略結婚をさせられるか、帝国に連れて行かれ、あのスキルを利用する以外は監禁されるだけの人生を送ることになる訳なのですから。
治してくださったことはお礼を申し上げます。しかし、見ず知らずの私を治す必要はあったのでしょうか?」
『ちょっと!ご主人がどんな思いで治したのか知ってるの!』
「私は言った覚えはありませんでしょう!ならなんでもっと早く私を治してくださらなかったの!生まれたときから、食べ物は固形物が一切食えない!歩こうにも足が細すぎて満足に立つこともままならない!!物を持とうにもフォークですら満足に持てないのですよ!!ましてや普段から呼吸が満足に出来ず、感情が揺れ動くだけで呼吸もままならないのにですよ!!これが生きてると言うのなら、ここは地獄ですよ!!だから早く死にたかったのに!!!どうしてくれるのよ!!!」
―――――んだよ
『あなた…』
「わかったでしょう?これが私なのよ?治ったら治ったで、利用されるだけ利用されて、使い終わればポイされるだけの道具なのよ…道具としてつかわれるぐらいなら死を選ぶわよ」
―――――いい加減にしろよ
「わかったでしょう!だからこの部屋からでt『いい加減にしろ!!!』―――っ!!!」
「さっきから道具だの利用だの知らないけどな…これだけは言わして貰うぜ、なにが早く死にたかっただ!! っざっけんじゃねぇ!!!」
俺の言葉で驚いたのか、少女は身をすくませたが、俺に言い返してきた
「な、なによ、あんたにワタシの苦しみがわかる訳ないでしょうが!」
「あぁ、病気に罹ってない俺にはなんっにもわっかんねぇよ! だがなぁ、同じ重金属汚染で母親を亡くした俺が同じ病で苦しんでるヤツを治せるなら治そうとするのは当たり前だろうが! 同じ病気で死んでいくヤツを見殺しに出来る訳ないだろうが!!あのときには治せる方法がなかった!治したくても治せなかった!! だが、今の俺には治せる方法がある!≪変金≫があれば治せる! それを見ず知らずのヤツに治すべきかと躊躇する暇があるなら一歩を踏み出して一刻でも早く刹那でも早く治すのが俺だ!」
俺の怒りの声に目の前にいる少女はベッドの上で小さくなってしまったが、堪忍袋の緒が切れた俺にはそれ以上に言わなければいけないことで頭がいっぱいになっていて考える事を放棄していた
「ソレをあんたはなんて言った?道具だの利用だのと言っていたがな、そうならないように対策をしたのかよ!道具のように為らずに済むように動けば良いだろうが!
俺からすりゃぁ、あんたはただソレを言い訳にして諦めてるだけだろうが!そうならないようにするにはどうすれば良いか!目の前の未来がわかってるならいくらでも未来を変えることだって出来るだろうが!ソレをしない今のあんたはただ駄々をこねるだけで何もしないガキといっしょなんだよ!!!」
俺が言いたいことを出し切って、息を整えている間に、目の前の泣いている少女に国王様が背中をさすっていた。どうやらサラマンダーが国王様を呼んでいたらしい。
「オウギ殿、途中から話を聞かせて貰ったが…娘の病を治してくれただけでなく、心から叱ってくれてありがとうなのじゃ」
娘?目の前の少女って、国王様の娘さんなのか!
「大丈夫じゃ。初めて娘の本心を聞けたこともあるが、娘が未来だけしかみておらず、道を踏む外してしまうところをオウギ殿に文字通り叩き戻されたのじゃ。むしろお礼を言うのはこちらの方じゃよ。」
い、いや。それはそうなんですが…なんでグレンさんもいるんですか?帰ったんじゃ…
「あ?俺は今日の分が終わっただけで明日済まさなきゃいけない用件を済ましてたんだぞ?誰かさんがあした急な用事をぶっ込んでくれやがったしな~しかも相手は逆撫でしたらやべぇのが相手だしよぉ」
え?明日って、カレンさん?
「そうだぞ~俺以上に強いんだから、警備もそうだし、アホなことしそうなヤツを配置しないように計画してたのに、オウギ殿がココでやらかしてるって精霊様に教えられてここに来たんだぜ?」
あ~えっと…ごめんなさい?
「まぁ、いいんだがな。病を完治させるどころか性根も叩いて直したっぽいからな。≪フローリア様≫にゃぁ、ちょうどいい薬だ」
「グレンもそれ以上責めるでない。≪フローリア≫の教育を間違えたのは儂でもあるからのぅ」
国王様がそう言うと、胸の中で泣いていた少女…≪フローリア≫さん…が顔を上げた
「いえ!お父様のせいではありません!むしろ私が遠慮する程に愛情を持って接してくださったではありませんか!ソレに甘えて私が増長していたのが悪いのです!」
「なにをいうか、お主が苦しんでいたのに、儂が病を治す方法を模索してやれなかったのだ。オウギ殿に事情を話そうとしたが、ついぞ踏ん切りがつかなかったのじゃしな」
え?国王様、ソレは初耳なんですが、そんな風にみえたことなかったんですが
「単純に国王が普段から内心をださないように隠すのが巧いからな、気付けって方がムリだろ」
「うっ...それは申し訳もないのじゃ」
「それで?≪フローリア様≫、オウギ殿になにか言わなきゃいけないことがありますよね?こういうのはその場で言わないと、今後言う機会が訪れなくなりますので、今以上に言う勇気が必要になりますよ?」
なんか、実体験だったのかイヤに実感がこもってるような…?
「オウギ殿は知らないじゃろうな、グレンは≪リース≫と付き合う前に不注意で彼女を怪我させての、その場で謝ることが出来ず、そのことを切り出すのに時間がかかってしまったのじゃよ」
「そういうことだ、だから、謝ることが出来る状況なら、その場でできるようにした方がいいんだよ。そのほうが両方とも後腐れなく会話が出来るだろうからな」
そんなことがあったのか…だから頭が上がらない…ってこれは違うか
「ぜってぇちげぇからな? それで、≪フローリア様≫?もし言いたいことがあるのであれば、今がチャンスですよ?」
グレンさんから話を向けられて、≪フローリア≫さんは口をもごもごしつつ、深呼吸していたが、顔を上げた時には、言うべきことが決まったのか、赤く腫れ上がった目には1本の芯がスッと立っているように思えるのは、流石国王様と親娘なんだな~と思えてしまった
「オウギさん、先ほどは相手のことも一切聞かず、大変失礼な言い方をしてしまい、申し訳ありません。先ほどのオウギさんの本気のお叱りは今まで人生を諦めていたワタシが初めて受けた教鞭だと思い、少しずつではありますが目の前にある未来を変えていきたいと思います。
重ねてではありますが、私が間違った道に歩もうとするのを止めてくださり、本当にありがとうございました」
ベッドの上で≪フローリア≫さんは丁寧に土下座をした…って、土下座!!
「いやいや!土下座しなくて良いですから!むしろ、こちらも自分本位で怒鳴っていまい申し訳ないです! ですから頭を上げてください!」
「いえ!こちらの人生を正して頂いたのですから土下座を辞めません!」
「いや!こっちが困るから土下座は辞めてくれって!」
「辞めません!」「辞めろって!!」
これより先は後から聞いた話だったのだが、俺と≪フローリア≫さんが土下座をするかしないかで言い争っている間、この部屋にいた他の人たちはこんな会話をしていたらしい
『なんか、わたくしたちって、先ほどから完全に蚊帳の外ですわよね…』
『だねぇ~』
『まぁ、良いんじゃねぇの?なんて言うんだっけ?[雨降って地固まる]だっけ?』
「精霊様、言いたいことはわかるけど、多分違うと思います」
「ホッホッホ、ワシら親娘ともども、オウギ殿に足を向けて寝ることはせぬようにせねばな」
「国王も、あの痴話げんかを止めた方がいいんじゃね?周りが騒がしくなってきたし」
「儂はむしろオウギ殿の味方をすることになるのぅ、それだとさらに混沌になると思うのじゃが?」
「あ、そうだったな…てことは俺が止めなきゃいけないのかよ・・・帰って寝たい…」
『心中お察ししますわ。わたし達も手伝いますわ』
「…助かるわ」
「…ふむ、もしかしら、オウギ殿になら、我が娘を任せられるかもしれぬのぅ」
「おい、まさか国王様、あの件のことを言ってないだろうな?」
「その件でじゃよ。一番ぴったりじゃろう」
「いや。まぁ、そうかもしれんが、本人達に話して了承してからにしろよ?」
「それはもちろんじゃよ」
「はぁ、俺今日寝れんのかねぇ」
「ホッホッホッホ」
『『『…なんか嫌な予感がするな』するね~』しますわ』
現代においては聞かれることがほぼなくなった重金属汚染
ですがほんの数十年前には実際に生活を脅かしていた病気でもあります
筆者は歴史で知り、大学時代に実際にどういったことがあったのかを知ることになりました。
今回のはごく一部のところを書くことになりましたが、これでも実際の1割りにも満たないくらいしか話題に出せていません。
風化させるワケには行かないと思い、あえて今回の話に入れさせて頂きました。
次回は6/8(土曜)の14時を予定しています




