屋根裏の天使
天井から落ちてきたのは、全体的に黒い服装のラインディアとは対照的に、白い服装の少女だった。だが、その純白に近い服も埃まみれで台無しである。
「あんた……アンジェ!?どうしてこんなところに」
「どうしてもなにも、あなたが仕事を失敗して人間界から戻れないというので、様子を見に来たのではありませんか。だというのに、あなたはあろうことか天使に対して文句ばかり」
「なに、お前の知り合い?」
料理にホコリが入らないよう両手にトマトパスタを持っていた辰己は、間の抜けた格好でラインディアを見る。そのラインディアはというと、露骨に嫌そうな顔でアンジェと呼ばれた少女を、何とも言えない表情で見ている。
「ええ、そうよ。昔学校で同級生だったのよ。ろくな思い出がないけどね」
「なんてことを言うんですか。数少ない親友に向かって」
「お前、友達少ないのか?」
「うるさいわね、少なくとも目の前のこの天使は友達じゃないわよ」
「ひどいです、よく休みの日は一緒に遊んだではないですか」
「あれは私が行く先々で、あんたが道に迷ってたから案内してあげただけでしょ!」
「授業の時もいつも隣で、相談しながら勉強しましたし」
「あんたがいつも教科書忘れるから、嫌でも席をくっつけないとならなかったんでしょ!」
「私が学校に遅刻しそうな時も、手を引いて走ってくれました」
「あんたが掴んだ手を放してくれないから、無理やり引きずって行って結果遅刻したけどね!」
仲が良さそうで何よりだなあ、と思いつつ辰己は台所に向かい、明日の朝食に使おうと思っていたパスタを温め直し、手早くもう一食分のトマトパスタを用意する。
ついでに自分たちの分も温め直し、レストランのウェイターが運ぶような持ち方で、3人分のパスタを食卓に並べた。
「とりあえず、飯でも食いながら話さないか。ほら、天使の分も作ったし」
「あら、ありがとうございます。そのお心遣いに感謝を」
「あんたなにこいつの分も用意してるわけ!?」
テンションが上がりまくっているラインディアをなだめつつ、ホコリをかぶってしまった食卓を拭いてから、新しいフォークを並べる。天使のアンジェも手を組んで祈りを捧げてから食べ始めてしまったので、納得のいかない表情ながらもラインディアも食事を再開した。
んー、と美味しそうにパスタを頬張る天使も落ち着いたようだしと、辰己は気になっていた本題を切り出した。
「それで、アンジェさんだっけ。どうして俺んちの天井裏に?」
「ああ、そうでした。実は辰己さんの魂をしっかりと切り離そうかと思いまして」
思ってもいなかった答えに、辰己とラインディアは喉をつまらせた。