魂の治し方
「はい、ラインディアです。……はい、今回の藤堂辰巳の魂の件ですが、手違いで藤堂辰己の魂を切り離してしまいまして……」
なにかものすごく事務的な会話が聞こえるが、死神も縦社会で大変なのだろうか。
電話をしている様子を眺めていた辰己は、そんな益体もないことを考えつつ体の違和感に注意を向ける。若干体から意識が浮くような気分を感じつつ、上手く力を入れると魂を体に保持できることに気づいた辰己は、徐々にコツを掴んで魂を体に押さえ込んでいた。
「え?それは難しい?だってトラブルシューティングに、誤って魂を切り離した場合って……それは切り離しかけた際の対処?あ、確かに切り離す際には一度確認を……ってことはもう治らないってこと……」
話が不穏な方向に進んでいる気がするけど、気のせいだろうか。
魂を体に留めるコツがわかった辰己は、力を抜いても魂が抜けない方法を模索しながら電話をしている死神を眺める。
「魂の定着術式……はい、基礎実習なら終わってます。……はい、わかりました、こちらでも色々試してみます。……え?それまで帰還はできない?えっ、ちょっ……うそぉ」
無機質な音を鳴らすスマホをじっと見ていた死神少女は、こちらに向き直ると笑顔を咲かせて歩み寄ってきた。
「大丈夫、あなたの魂は必ず治りますよ」
「医者が余命宣告できずに、本音を言わないみないな笑顔やめてくれます?」
「だ、大丈夫よ。治す方法はあるみたいだし!」
「それは?」
「……魂が定着するのを待つだけよ」
言いづらそうにしている時点で察していたというか、電話の断片からうっすら気づいていたというか、まあこんなことだろうと思っていた。しかし、覚悟ができていたからといって、溜飲が下がるわけではない。
「ってことは、魂が俺の体とくっつくまでは、この微妙に浮いた感覚のままってことか」
「そうよ、それよりあんた、よく魂抜けずに維持できるわね」
「なんかコツ掴んだわ。でだ、どれくらいで魂はくっつくんだ」
「……1年くらいかかるみたい」
「無理だろ!このふわふわ状態で1年維持とか無理だから!寝たら即幽体離脱だよ!」
「わかってるわよ、だから私もあんたの魂が定着するまで帰れなくなってるんでしょ!」
お互いに額がくっつくかというような距離で口論を始めるが、少し気を抜くと魂が抜けそうになるので口論ばかりもしていられない。この死神は自分の魂が定着するまでこっちの世界に居着くらしいが、なにか応急措置でもあるのだろうか。
「そんな顔で見ないでも悪かったって思ってるわよ。一応私の魔力を定期的にあんたに分けるから、それを切らさないこと。そうすればある程度は、魂の固定ができるはずよ」
「なるほどな。って、いきなり手を握ってどうした?」
「これで魔力が流せるのよ」
確かに手を伝って体に何かが流れ込んで来るのを感じる。それと同時に、魂が力を入れなくても体内に留まり、いつもどおりに体を動かせるのを確認する。
「これを毎日やるから。とりあえず今日のところはお暇するわ」
「おう、頼むわ。一応知ってるだろうが、俺は藤堂辰己だ」
「私は死神のライン・デア・トートよ。みんなからはラインディアって呼ばれてる」
自己紹介を終え、辰己がラインディアの手を差し出すと、ラインディアは怪訝そうな顔で辰己の顔を見た。
「なによ、まだ魔力がほしいわけ?」
「違うっての、これはとりあえずよろしくの握手だ」
なるほどね、と2人は握手を交わし、今日のところはお開きとなった。