2人目の住人
ふわふわと部屋の中で浮いている辰己を見た天使は慌てて辰己に近寄ろうとするが、天井近くまで飛ばれるとなかなか捕まえられない。飛んでいる辰己を追いかけているアンジェの姿を見て、ラインディアは床を叩いて笑っている。
「返してくださいよぉ、それがないと天使としての威厳がぁ」
さすがにかわいそうになってきたので地上に降りた辰己が天使の輪を渡そうとすると、アンジェが手を滑らせその輪はラインディアの頭の上に浮き始めた。
「え、死神なのに天使の輪乗っても大丈夫なの?」
「別に大丈夫だけど。この輪っかが毒になるわけでもないし」
「みんな基本は天界人なので、種族が違うわけではないのですよ」
「死神って、生まれた時から死神じゃないのか?」
「違うわよ、私は学院で死神専攻科にいただけで、アンジェとは同じ種族なの」
「私は天使専攻科でした」
「あ、天使とか死神ってそういう感じなのか」
天使の輪は天使に配布されるもので、デスサイズは死神用といった感じだろうか。
だから同級生だなんだと言っていたのかと納得していると、いつの間にかパスタを食べ終わっていたアンジェが、いそいそと天井裏に戻ろうとしている。逃がすまいとアンジェの足を掴むと、アンジェは慌ててスカートを抑えて抵抗し始めた。
「やめてください!このふわふわしてるのスカートのようなものなんですよ!」
「天使のパンツなんて興味ないから、とりあえず降りて来い」
抵抗を諦めて素直に床の上に座り込んだアンジェは、不服そうに頬を膨らませていた。
少し可愛いと思ってしまったが、それとこれとは話が別だ。
「なんてことをするんですか。天使に対して不敬ですよ」
「不敬もなにもあるか。なんでお前らは、自然に人の家に住もうとするんだ」
「私はもう許可もらったじゃない」
「ラインディアはまあ、今後押入れを整理して生活区画を作るとしてだ。お前も帰る場所がないのか」
「辰己さんの魂を持って、今日中には天界に帰る予定でしたので」
どうして天界人というのは、こうも計画性がないのだろう。
せめて一泊する用意くらいはしてくるべきだとは思う。
そして、辰己はなんとなくラインディアより抜けているかもしれないと思われるアンジェを、街に放つのはどうにも気が引けてしまった。
「あー、屋根裏ほこりっぽくないか?1晩だけなら下で寝ていいぞ」
「ちょっと、私の時と随分対応が違うじゃない。はあん、あんたこういうのが好みなんだ」
「いや、もう1人いるならもう1人増えても変わらんし。そもそも、押入れなら布団なりなんなりあるが、屋根裏の環境はあんまりよくないからな」
「自分の魂を切り取ろうとした私に対して、なんと慈悲深いお方なのでしょう……!私感動したしました、必ずや辰己さんを幸せにしてみせます」
天使として幸運をって意味なんだろうが、言葉だけみるとプロポーズされているようだ。
本人にその気はないのだろうが、こういうところが街に放り出せない理由の一つだ。
また死神と天使が喧嘩を始めてしまったので、辰己は食器を洗いに台所に向かいながら、1人暮らしをしていた頃には考えられなかった喧騒に、悪い気分ではなかった。