死神少女現る
不幸な後輩です
若輩者ですが、楽しく書いていこうと思います
確かに祖父から霊感があるとは聞かされていた。
ただ、今までにそれを実感する機会なんてなかったし、肝試しをしようがお化け屋敷に行こうが人間以外の脅かし役は見たことがない。もちろん、怪奇現象に悩まされたことなんてないし、1人暮らしを始めてから早1年となるが、特に周囲の変化はない。
それこそ、いままで自分が霊感を持っているなどという話は覚えていなかったし、信じてもなかった。単にジジイの与太話だろうとすら思っていた。
なぜ今そんな話を思い出しているのかというと、目の前に脳のキャパシティを越える事態が発生しているからだ。
深夜に目を覚ましたら、自分の部屋に女の子がいた。
いや、待ってくれ。これだとただの痛い妄想野郎だ。
ならばもう少し詳しく、現状を説明しよう。
黒いドレスを纏いフードを被った少女が、禍々しい鎌を構えて俺ににじり寄っている。
さらに胡散臭くなった気もするが、実際に起こっていることなのだから仕方がない。
それならば、なぜこのコスプレ侵入者を追い出さないかというと、何かぶつぶつとつぶやきながらも俺が寝ていると思っているらしいからだ。なんとなく起きるタイミングを逸したため、薄目を開けて少女の様子を観察している。
「ふふ、よく眠っていらっしゃいます。これは仕事がしやすいというもの……」
怪しい、明らかに怪しすぎる。
初めは泥棒かと思ったが、何かを盗む様子も物色すらもせずに部屋の中を歩き回ったと思うと、ゆっくりと俺に近づき鎌を振りかざしたではないか。
「さすがにそれは洒落にならねえ!」
「ひっ!とあっ!っつあ!」
まず飛び起きた俺に驚いてよろけ、そのまま何かを踏みつけ体制を崩し、勢いよく後頭部をタンスに強打していた。
なんなのだろう、この侵入者は。
後頭部を抑えてうずくまっている少女は、キッとこちらを睨むと涙目で人差し指をこちらに向けてきた。
「いきなり起き上がらないでよ!頭ぶつけたじゃない!」
「いきなり鎌で斬ろうとしたお前が悪いだろ!?」
「うるさい!つべこべ言わずにさっさと魂を渡せばいいのよ!」
「お前はどっかの魔女狩り娘か!」
問答無用とばかりに振り回される鎌をベッドから転げ落ちるように躱すが、俺が思っているよりもこの少女の動きが早い。コスプレイヤーはなりきるために身体能力を鍛えている人もいると聞くが、この子はその類なのだろうか。
「てかお前人の寝床に鎌をぶっさすんじゃ……ねえ?」
「なに不思議そうな顔してるのよ」
「いや、だってその鎌ベッド貫通してない?でもベッド切れてなくない?」
「当たり前でしょ。この鎌が刈り取るのは魂だけだもの」
「え?マジに死神なの?」
「だから初めからそうだって言ってるでしょ!」
いや、魂を取るとは言ったが死神だとは言っていない。
ただのコスプレ少女が実は本当に死神でしたなんて、どこぞのラノベでもあるまいしいきなりその発想に行き着くはずもないだろう。そして、勢いよく振り抜かれた鎌を避けることもできず、少女が振り抜いた鎌は俺の胴体を切りさ……
「いてない!助かってる!」
「いやいや、デスサイズに不発とかないから」
少女の手には何か白い透明な餅のようなものが握られているが、あれは一体なんなのだろう。というか、全身が何かに圧迫されているような感覚があるが、これは気のせいだろうか。
そんなことを考えているうちに、意識が遠のき、膝が床に触れるのを感じる。
「まったく、手間取らせないでよね。じゃあ、魂はもらっていくわよ、藤堂辰巳くん」
あぁ、俺はこんなにあっけなく死んでしまうのか。
走馬灯が流れる最中、ぼやけていく視界に見える少女が何か気になることをいった気がした。そうだ、この違和感は……
「……俺は、辰巳じゃなくて辰己だ」
最期になにか気になることを言い残して倒れた青年を、少女は振り返りじっと見つめる。
そして、今放たれた言葉を思い返して、手に握っている魂をじっと見つめる。
少女は懐から取り出した、今回の仕事の依頼書をじっと見つめる。
そこにははっきりと藤堂辰巳と書いてあり、どう読んでも辰己ではなかった。
「……あれ?もしかしなくてもやらかしたかしら?」
いかがだったでしょうか
終始こんな感じの話を書いていきます