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料理部の変人とやき稲荷ずし

これからは、一話につき一品料理を登場させる予定です。一話完結なので、前の話をみなくてもだいたいわかるようになっています。

どこの部活動もなんらかの賞をとっている程に部活動が盛んなうちの学校。


 今日も今日とて休日も休み時間も犠牲にして、勢力的に活動する声が聞こえてくる。


 そんな青春男女の声を聴きながら優雅にお茶をすすれる場所がただ一つ。


文化系の部活でも特に活動していない部活群の揃った東棟三階の真ん中に位置する部活。


 それが――料理部。


そう、そこは聖地。

各部活割り振られる部費を自由に使うことができ、食料を備蓄でき、冷蔵庫、電子レンジ、トースター、コンロ、料理器具ならなんでも使える。

つまり、学校で自由に食事が楽しめる。

ここは学校内の唯一の楽園!天国!桃源郷!

そんな部室を自由に使える人物は校内でただ一人。


 身長173センチ、体重91キロ。健康診断では毎年肥満と診断され、一日三食では満足できないわがままボディの持ち主。


 それが俺。料理部部長の片貫 東!通称まーくん!





「って紹介はどうだろー?」


 勘違いしていただかないでいただきたいのだが、今のクソ寒いモノローグのセリフは一文字たりともこの俺、片貫東片貫東かたぬき あずまのセリフではない。


この、不思議ちゃん通りこして限りなく宇宙人に近い女。早乙女 緩羽早乙女 緩羽さおとめ ゆるはのものだ。


ちなみに、コイツが言葉を発する3秒前まではいつも通り駄弁っていただけだ。

あまりにも唐突すぎて料理部の連中は思わず緩羽を凝視して、黙り込んでしまった。



「な、何なのですか!?今、一体誰と話していたのですか!?大丈夫ですか!」


 全員一ターン行動不能。スタン状態。みたいになっていたこの状況で、なんとかツッコミをいれてきたのは、料理部の唯一の一年生。向上院有亜向上院 有亜こうじょういんありあだ。

 名前から予想がつく気もするがお嬢様だ。よく忘れられるが。


「いや、やっぱり最初は主人公の自己紹介的なのが必要かと思って~」

「主人公!?なんの話をしているのですか!?」

「私の名前は早乙女緩羽。」

「自己紹介を強行しましたね!?」

「天使だよ。本当は天界にいたのだけど、汚い大人の陰謀に巻き込まれて下界に落ちてきたの」

 開始数行で嘘をつくな。

 天使というのはもちろん自称だ。不思議ちゃんがすぎて、痛い子になっている変人だ。


「この子は向上院アリー」

「有亜です!」

「変態だよ」

「心外です!!」

「いや心外ではないだろ。お前変態だろ。」「部長!ずっと黙ってたと思ったら!!」

 ハイスピードで進む電波な自己紹介についていけなかったんだ。許してくれ。


「まーくん。さっきの紹介どう?ご本人の意見も聞き流しておきたいところ」

「聞き流さなすなよ。割と正確だが意味の分からなかったというご本人の意見も聞いてくれ」

「ねぇあずみん。片割れ的に今の紹介どうだった?」

「本当に聞き流された!」

 この変人女に一言言ってやれ!と思ったが、姉にまともな答えを期待してはいけない事を、俺は長年の経験から知っていた。


「ダメね。ダメダメ。ダメ絶対。」

 話をパスされた俺の双子の姉は、どこかで聞いたことあるようなないようなフレーズで猛烈に否定してきた。

「そんな紹介でまーくんの信者が生み出せると思ってるの?」

「思わないよ」

「私ならもっとまーくんの事をもっと魅力的に紹介して、信者を生み、宗教を作り、反乱軍にしたてあげ、政府を倒し、神聖あずま帝国を作ることが可能よ」

 ちなみにコイツも、かなり頭がおかしいが気にしないであげてほしい。ただのブラコンなので。

「そこまでは望んでないから大丈夫だよ。」

「そうね。その場合紹介に三日間かかるし三食昼寝付きにするには食費が心配なところだわ。今度にしましょ。」

 三食昼寝付きにしてくれる謎の気遣いがあるが、仮に開催されても誰一人参加しないでくれよな。

 性格はこれだが、俺から容姿とう言うステータスをほぼすべて持っていった女だ。

学校でもトップスリーに入るレベルの美人だから、騙されてこういうサイコパスな会に参加してしまう奴は多いんだぜ。


「じゃああずみんの紹介するね」

 話の進行が無理矢理すぎないか?

「この子は片貫あずみん」

「愛澄よ」

「美人だけど、頭がやられてしまったかわいそうな子だよ」

「ぶんなぐるわよ」

「ブラコンでナルシストで傍若無人の救いようのない三拍子だけど顔が良いから大体何やっても許されるよ」

「アリー、そこのタンスの3段目にスタンガンに似た形状の物体があるから私に渡してくれるかしら?」

 なんで料理部のタンスにスタンガンがあるんだよ

「対価はなんですか?」

 お前はさりげなく対価を要求するな。

 愛澄は「そうねぇ」と興味なさげに考えてから答えた。


「ぱふぱふしてあげる」

「はい喜んで!!!」

「いろんな意味でやめなさい!!」

 二人の頭を机に押さえつけて無理矢理止めた。

 女子相手に少々乱暴な解決法な気がしなくもないが、いきなり部室を殺人現場や発展場にするより何万倍もマシだろう。


「あぁん!まーくんからなでなでされちゃった!!」

「それナデナデなの?メキメキじゃないの?」

「部長!女子になんてことするんですか!鼻血でてきましたよ!」

「いや、明らかに原因別のところにあるだろ。」

 仮にもお嬢様がしていい顔じゃないけど色々と大丈夫だろうか。

「だって愛澄お姉さまがパフパフって!」

「えぇ、あなた元の顔はいいんだから化粧したらもっと綺麗になれるんじゃない?まぁ私には及ばないけど」

「もしかしてファンデーションのパフの事言ってる?」

「それ以外に何があるのよ。」

 有亜は無言で涙をながしていた。


「うう、惜しいけど愛澄お姉さまにお化粧していただくのもそれはそれで魅力的…!!」

「アリーはこのように百合っ気があるタイプの変態です。」

「無理矢理自己紹介の流れに戻した」


「じゃあ次は小夜ちんだね。」

 いつもより静かだからすっかり忘れてた。

 一応親友である小夜彦に目を向けたら、ちゃぶ台から少し離れたところで、餌をお預けされている犬のようにキラキラした目でこちらを見ていた。

 心なしか揺れるしっぽと耳が見える気がする。


「今日の小夜ちんはわんこメイドなんだね。」

「そうだよ!」かわいいだろ!」

こころなしじゃなかった。こころなしであってほしかった。


「この人は綺羅林小夜ちん」

「小夜彦だよ」

「こんな服着てるけど、あだ名の通り男だよ」

「いつもはおしゃべりで元気いいのに今日はやけに静かでしたねー」

「一度に何人も初登場の人間がでてきたら混乱するからね!」

「読者に配慮してる…」

 一応フォローしておくと、普段はクラスの中心のイケメンとしてふるまっているので安心してほしい。このちょっと危ない趣味は部活内だけのものだ。いや、それもどうかと思うが。


「わんこメイド似合う?東?」

「うん。インパクトだけで言うと、綺羅林小夜彦というごつい名に負けない強いインパクトがあったな。」


 って、やばいな。やっぱりこの部活変態しかいないことがばれてしまう。

 俺は仮にも部長だ。軌道修正をしなくては!


 俺はスッと立ち上がりキッチンへ向かった。パパッと一品の料理を作り、部室の中心にあるちゃぶ台の上に置いた。

 四人は会話をやめて、俺が出した皿を覗き込んだ。


「なんですかこれ?おいなりさん?」

 アリーが、眉をひそめてそう尋ねた。正解だ。

「あぁ、市販の稲荷寿司をフライパンで焼いた。」


沈黙。


「それで?」

「?それだけだが?」


「…いつもの事だけど、これ料理って言っていいの?」


「う、うるせー!なんやかんやいつも食ってるだろ!食え!!」


「あ!おいしい!普通の稲荷ずしより甘味が増してる!さすがまーくん!」

 早速一口食べた愛澄が一言。そうだ。普通に稲荷ずしを食べるより数万倍うまいんだぞ。なめるな。


「あ!本当だ!おやつにぴったり!」

「焼いただけでこんなに味が変わるものなのですね」


 ふふふふふそうだろうそうだろう。

 俺はみんなの驚きの声に満足感を感じながらうなずいた。

 ちなみに焼くときのコツは油を多めに入れることだぞ!うっすら焦げ目がつくぐらいまで焼くとおいしいが焦げやすいから気を付けるように!

「無理矢理軌道修正をして、部員が変態とサイコパスしかいないことを誤魔化したまーくん。」

 なんて呼び方をするんだ。この中ではお前が一番世に出したくない存在だぞ。UMAとしてとらえられるか、そのぶっ飛んだ発想に薬物疑惑をかけられて逮捕されるかもしれないからな。


「自己紹介もしたしご飯も食べたからそろそろ本編に入っていい?」

「こんなぐだぐだな状態で!?」


 料理部。ここは学校で唯一無二の楽園。


 飯食って駄弁るだけの場所であって、決して、犯罪者予備軍をかくまう施設でもないし、怪しい宗教のたまり場でもないし、変態の発展場でもないし、頭おかしい奴らのの集会場…でもないはずだ。たぶん。…うん、たぶん。

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