森の魔物
よろしくお願いします。
「おい、道が塞がれてるぜ」
先頭を進んでいた、革鎧を着たイニクスが指をさす。
そこには、道の真ん中に大きな岩が1つ、ドンっと陣取っている。
ここに来るまでは、大きな木や岩は緩やかに曲がってかわしていたので不自然な感じがした。
と言ってもこの森の道こそが、なにより不自然だが。
「随分デカイな・・・」
確かに大きい。私達は言うに及ばず、背が高めのイニクスと同じくらいの大きさだ。
私達が岩の横を通り抜けようとしたところで、岩がモゾモゾと動き出す。
「何だ!?魔物か!!」
「あ!待っ・・・!!」
だが遅かった。
先に通り抜け、岩陰に危険が無いか確かめていたイニクスが、岩の動きを機敏に察知し、背中の斧を両手に持つ。
私が彼女の挙動に不安を覚え声を出すと同時に、斧で力いっぱい殴りつける。
途端に嫌な臭いを吸い込んだ気がした。
私は慌てて息を止め、固く目を瞑る。
そのまま横っ飛びに、飛び退く。
よかった。体は動く。
幸運に感謝しながら、息を止め、目を瞑ったまま走れるだけ走り、距離を取る。
そして振り返る。
良くない状況が広がっていた。
立っているのはイニクスだけ。
ただ、イサムが倒れこむ様にアルルスを押し倒しているので、もしかしたらアルルスは無事かもしれない。
私達は岩の横を通り抜けようとしていたため、ほぼ全員が岩の近くに居たのだ。
そのタイミングで、毒と麻痺の効果がある、ガスを噴射された。
あの岩の正体は、岩亀虫。
危険性は少ないし、ギルドでも知名度が低い魔物だ。
私だって、チコリさんとの会話で、その名前が出てこなければ知らなかったし、調べもしなかった。
そもそも、もっと森の奥に居るはずの魔物だ、こんな入って一日もかかってない場所に居るなん予想外だ。
岩亀虫が、背中をガチガチならして威嚇している。
イニクスは後退りながら、声で挑発し距離を取ろうとしている。
きっと、動けない人達から岩亀虫を引き離すつもりなんだ。
他の倒れているメンバーはみんな麻痺にやられたんだろう。
私も体のあちこちに痛みを感じるから、麻痺はしなかったが毒は回っているかもしれない。
この状況で最初にすべきは、アルルスの麻痺を回復する事だ。
彼女は僧侶、状態異常を回復する治療術が使える可能性が高い。
もし無理でも、イニクスのサポートに回れば、時間を稼ぎやすくなる。
私は、ローブの隠し衣嚢から麻痺用の回復の薬を取り出す。
実用性の高いアンジュリーナローブにはいくつかの隠し衣嚢が存在し、薬を忍ばせやすい様に、ベルトまでついている。
当然、私も数種類の薬を常時忍ばせている、魔術師の嗜みだ。とチコリさんが教えてくれた。
私が駆け寄ると、アルルスは蠢いていた。
麻痺はかわせたようだが、イサムが重くて動けないらしい。
当然だ、イサムは食料などの詰まった背嚢にブレスプレートにってどうでもいいか。
「我、風に願う、愚かなる者を吹き飛ばせ!ヴィンド」
「助かったわぁ、ココナちゃんー。ナイス」
吹っ飛んだ、イサムは道端の木にぶつかってグベッて言った。
「アルルス!動けるなら・・・」
「はいはいー、イゲドゥクパ。我らを癒せ!」
パァッと周囲が光ったかと思うと、私の体の痛みが治まった。
でも他の面々は相変わらず動く気配が無い。
「・・・それって、全員の毒が回復したのでは?」
「あ、やべ。二つも状態異常になってるのか。これ、しばらく使えないや」
「グハッ」
イニクスが素早い突撃を食らって、大きく後ろに吹き飛ぶ。
「アルルスさん、いったん離れましょう。あの大きさです、ガスが一回とは限りません」
「あーい、イニクスも回復しなきゃだしね」
私の回復薬を誰かに振りかけようと思ったが、虫がこちらを向いたため、回り込む様に二人で、イニクスさんの方へ駆け寄る。
もし、麻痺している状態で、人の体程もある岩に圧し掛かられたら無事では済まないだろう。
さらに最悪なのは、麻痺の回復手段のある私たちが麻痺してしまう事だ。
岩亀虫は動ける私達3人に的を絞ったらしく、こちらの方を向いてガシガシと威嚇する。
「ココナだったか?さっきオレが攻撃する時に止めたよな?あいつに詳しいのか?」
「そこまでは、詳しくありません。麻痺と毒のガスを出し、外殻が岩の様に固く、空は飛べませんが素早いとしか・・・」
「あぁ、なん発か殴ったけど、オレの斧じゃちっと無理そうだな」
「えー?どうする?ウチだけ、あっちに戻って回復しよっか?」
「いえ、その前に一つ試したいことが。あの虫、岩亀虫というのですが、ガス以外の攻撃手段はあまり多くありません。素早さを生かしての突撃ぐらいです。危険ではありますが、こちらにも付け入るチャンスがあります・・・」
「おっしゃこい!」
作戦を説明し、二人とも賛同してくれたので、イニクスが地面をバンバン叩き挑発する。
斧を寝かし、姿勢も低くして構えている。
アルルスはかなり離れて待機している。
彼女が生命線だからだ。
私は、集中し呪文の用意をする。
今回は詠唱を省略する必要があるため、より明確なイメージが必要だ。
そして、岩亀虫がイニクスに向かって突撃する。
よかった私じゃなくて、私だったら勝算が低かった。
イニクスを吹き飛ばそうとする岩亀虫が迫る。
その時、地面に寝かせていた斧を肩に担ぐ様に持ち上げる。
斧の先は岩亀虫の足の下だ。
岩亀虫のお腹が見えた。
「ヴィンド!!」
その足元で風を破裂し、岩亀虫がひっくり返る。
よし!やった!!
一瞬イニクスと目が合う。
ところがひっくり返った岩亀虫は固い背中をバタつかせて、ガチンガチンと地面を叩き戻ろうとする。
不味い!!
イニクスが走った。
「うぉおおぉ!!」
「我が命に応え!彼の翼は凍てつく!シュロスフリーレン!!」
岩亀虫の背中が凍り付き、イニクスの斧が3連続で穿つ。
頭、胸、腹。
しかし、最後がいけなかった。
最後の攻撃が決まった途端、周囲が一気に臭い匂いに包まれる。
そして、私はその場に崩れ落ちた。
それから、体動かせないのに全身がズキズキと痛む感覚をアルルスが癒してくれるまで味わう事になる。
ただ、イニクスは状態異常に耐性が強いのか、今回も麻痺は受けなかったようだ。
そうして、全員が回復し、紅雀の面々に感謝され、岩亀虫の死体を道の端に動かしてから出発した。
そのころには、だいぶ日も落ちていた。
私達は、どこでキャンプしようかなんて話をしながら、進んでいた時に、森のひらけた場所に出る。
そこは、大地が黒く焦げ、周囲の木々も黒く焼かれた跡が残っている場所だ。
まるで何頭ものワイバーンがブレスでも吐いたような場所だ。
しかし、周囲の警戒もしやすいので、ここでキャンプをする事になった。
でも不思議な事に広間の一カ所だけ、草が無事な場所があった。
丸い円でも書いたかの様なその場所は、今までの道とは違い、膝辺りまで草が生えている。
一瞬、ここで防壁でも使って、周囲を焼き払うなってバカな妄想をしてしまった。
だが、障壁の範囲も広すぎるし、この広場全体を魔法で焼くなんて、不可能だ。
なにより、そんな火力を障壁一つで防ぎきること自体あり得ない。
学園の講師じゃないが、魔法は万能ではないし、出来ない事の方が多いのだ。
その日は、広場に来るまで、臭かった匂いも気にせず眠る事が出来た。
もしかしたら、鼻がバカになってしまったのかもしれない。
読んで頂きありがとうございました。
ココナさんが大活躍しました。
次は、コブン君達の話に戻る予定です。




