夏休みの冒険
よろしくお願いします。
ココナお嬢さん達の話です。
「ねぇ、夏休みどうするか決めた?」
私は学園の廊下で、同じ冒険者仲間のイサムを呼び止める。
周囲の視線が集まり、遠巻きに耳を澄ませているのを感じる。
私たちは上級生を抑えて2年で実技トップの成績だった。
同級生や下級生からは英雄でも見る様に称えられ、上級生には嫉妬された。
実際に絡んできた人もいたくらいだ。
でも、私からすればミネバは旅の途中で倒れるし、ワイバーンからは逃げ出した。
毒トカゲだって、あの大きな奴は私達だけで倒せたかどうかわからない。
しかも証明部位を自分たちで集める事すらしなかったのだ。
己の思い上がりを打ち砕くには十分な結果だった。
反省こそすれ、胸を張れるような事ではないと思っている。
もっとも、ちゃっかり者の双子は調子に乗り、おバカのイサムは周囲の変化に気づいてないみたいだ。
マシスとケシアはクラスで自分たちの武勇伝を語り、周囲の尊敬を集めてはいるらしい。
イサムは、以前の不思議な魅力が鳴りを潜め、おバカに磨きがかかった。
それでも、ミネバの事は責任を感じているようで、定期的に会いに行っているみたい。
ミネバは街に戻ってきて、すぐに意識は回復したけど、大きな喪失感があるとかなんとかで、冒険者を続けるか悩んでいるらしい。
私は、周囲の視線がうっとうしくなったぐらいにしか思っていない。
あ、でもチコリさんが、あれ以来優しくなった気がする。
魔法の事とかも10回聞くと1回くらい答えてくれるし、たまに笑ってくれるようになったし。
魔術師の立ち回りとか、心構えなんかも聞き出せたりして!あ、教えてもらったりして。
さらには、5回買うと1回くらいおまけしてくれる!
だから、ついつい放課後、行っちゃうんだよね、月の猫屋。
その事だけは、いや、それこ・・・。
「・・・ナ・・・ココナ?大丈夫か?質問してきて、自分の世界に入るなよ。よだれ出てるぞ」
「よだれなんて出てないわよ!」
でも一応、口元をぬぐう。
「それでな、色々考えていたんだよ。ミネバさんの事もあるしボクなりにはん・・・」
なんか色々語りだしたが。
私達は試験のクエスト以降、なにもギルドの依頼を受けていない。
腑抜けたイサムは、その事の理由を言い訳したいみたいだ。
だが私だって、今まで放課後に集まっていた4人が、突然来なくなれば理由が知りたくなる。
だから、普通科の人に聞いたりもする。
結果は?
3人とも実技は最高でも、筆記で赤点を取ったらしい。
追試の為来られなかったのだ。
まぁ、3人とも椅子にじっとしているタイプではない。
マシスとケシアは山が外れたと言っていたが、意味はわからなかった。
「・・・そこで!ボクは改めて考えてみたんだ!やっぱり強い人の実力を知らなきゃならないって!」
いつの間にかよくわからない結論に至ったらしい。
ちなみに、周囲の女子に顔を赤くして聞き入っている人がいるのが、さらによくわからない。
「それで?要するにどうしたいの?」
「だから、ちょうど良い依頼を見つけてきた!」
そう言って取り出したのは、汚い字で書かれた依頼の写しだ。
依頼書は受付の許可が下りれば写しを取ることが出来る。
お金を払えば受付の人が写してくれたりもする。
ただし、依頼書を勝手に持ち出したり、許可なく写すと罰金や最悪処罰が下ることもある。
「大丈夫だ。難易度は高いから、正規参加はできないけど、ポーターとしてなら参加できる。って言ってた」
私がちゃんと受付を通して写したのか心配していると、誤解したようで説明してきた。
「いやよ」
確かに大型依頼なので、夏休みの様な長期の休みがないと参加できないかもしれないが、私はその依頼に何も魅力を感じない。
「なんでだよ?」
「なにが悲しくて、むさいオヤジどもの荷物なんて担がないといけないのよ」
この依頼は北の森への依頼なので、馬車が使えない。
ポーターはほんとに他の人の荷物を担がないといけなくなるだろう。
正直、私はそこまで体力に自信がない。
「紅雀の人達も参加するって」
「あんな頭真っ赤な女たちに、興味なんてないわよ。それにマシスとケシアはなんて言ったの?」
「もちろん、行くって言ったよ。最近二人が追っかけてる、暁の獅子も参加するみたいだからね」
「ほんと、あの二人は・・・」
前は、イサムにべったりだった双子だが、最近は髪がゴワゴワした冒険者がお気に入りらしい。
「な!ミネバさんもまだ回復しきれてないし、4人じゃ活動しにくいだろ?」
イサムはミネバがまた復帰するって信じているみたいだ。
私は冒険者なんて危ない仕事、覚悟が揺らいだならやめた方がいいと思うけど。
「・・・少し考えさせて、申し訳ないけど、私、他人の荷物を持って森を走破する自信ないもの」
「大丈夫だって、いざとなったらボクがココナの分も持つから」
「そんな、足引っ張るぐらいなら、余計行きたくないわよ」
私は取り合えず、その話を切り上げて、帰る事にする。
イサムはもう一度ギルドに行くそうだ。
私も街へ行く、当然目的の場所はひとつだ。
「・・・って事があったんです」
月の猫屋で今日の事を話す。
このお店は、頻繁にお客さんが来るわけではないので、長居してもそこまで邪魔にはならない。
・・・と思う。
「あら、そうなの。私もその依頼受ける予定よ」
チコリさんはお店の時と、冒険に出た時では口調が全然違う。
お店の時は、事務的であまり感情がわからないけど丁寧だ。
対して、冒険者としての時は、きついし、強い言い方だけど、優しさを感じる。
「え!?チコリさんもですか!?」
「えぇ、ギルドからの要請でね」
チコリさんはこの街でもトップクラスの。
いや、最高の魔術師なので、他の冒険者と違いギルドの方から求められる立場だ。
「でも、連携とかの事を考えて、パーティでの参加って」
ただし、依頼の内容を曲げるほど特別扱いというわけでは無い。
それでは、ギルドの沽券に関わるからだろう。
どんな組織だって、特定の個人に特別扱いをすれば、周囲が納得しない。
「そうね。ギルドの方で用意するって言ってたんだけど。母が知り合い頼むからって断ったわ。私は誰でもいいんだけどね」
そっそうか、誰でもいいなら!
「・・・えっと、じっじゃぁ、そっその・・・わっわた・・・」
言え!言ってしまえ!私!!
「実力が釣り合うならね。ある程度の立ち回りはできるもの」
「あぁー、ですよねぇー。実力、大事ですよね」
「え?」
「あ!いえ!私も!もしかしたら参加しようかなって!!ポーターとして、その・・・イサムが心配ですし!」
私は慌てて、身振り手振りを交えて言い訳する。
「あぁ、仲いいのね」
「いえ!ぜん!ぜん!そんなんじゃ!ないんです!!」
あぁ!何かとんでもない誤解を受けた気がして、つい強い口調になってしまった。
「そうなの?」
いたずらっぽく笑ったその顔を見れて、嬉しいはずなのに喜べない。
「あ!いえ、じゃあ!ちょっと手続きしてきます!また買い物に来ますね!!」
私は誤解を解くのを一時諦め、戦略的撤退をする。
「えぇ、毎度ありがとう。またお待ちしてます」
私はチコリさんの声を背に受けながら、頬が緩むのを止められなかった。
チコリさんの声には、どこか笑った時の様な柔らかさを感じたからだ。
「イサム!ポーター!やるわよ!」
次の日の朝、イサムを教室の前で捕まえて宣言する。
「え!?でも荷物持つの嫌だって」
魔法科と違い、こちらは生徒が多いので、見物人も多いが関係ない。
周囲の人と同じようにイサムも驚いた顔をしているが、知った事か。
この溢れんばかりのやる気を止めることなど出来ない。
「当り前よ、いざって時は頼りにしてるわよ!二人捕まえといてね。放課後すぐに登録に行くわよ」
「おう!」
こうして、私の夏休みの予定の一部が決まった。
しかし、私はイサムのバカさを甘く見ていたのだ。
いや、字の汚さをだろうか。
もっとも、登録する時にもう一度、依頼内容を確認し忘れるほど浮かれていた私が一番バカなのだ。
読んで頂きありがとうございます。
次こそは、コブン君たちの話に戻りたいと思います。




