魔女狩りの作り方
人によっては不快に感じる表現が含まれます。
抵抗のある方、影響を受けやすい方は、読まない様にお願いいたします。
ワタシは孤児だ。
草原に栄えた、その街は大きく、白くて綺麗な建物が沢山あった。
だが、世の中は綺麗な物だけでできている訳じゃない。
暗く汚い物も当然ある。
ワタシの生まれた区画はそんな場所だ。
だから、生きていくために色々な事をした、ゴミを漁りネズミを食べたりなんでもだ。
ワタシの唯一の取り柄は、体が強かった。
足も速く、力も強い、同い年の男はもちろん、大人にだって負けなかった。
そんなワタシに転機が訪れたのは、たまたまスリをした奴を捕まえた時だ。
別に慈善じゃない。前々から偉そうでムカつく奴だったから、役人に突き出す好機だと思ったのだ。
ワタシから逃げられる奴なんていなかったから、簡単だった。
髪を掴んで、財布の持ち主の所へ持っていってやった。
その持ち主が、白い服を着た神父だった。
神父は財布を取り返すだけで、その男を逃がしやがった。
おいおい、逃がしてどうする。そう思っていると、こう言った。
「あなたにはお礼をしなくてはいけませんね。美味しい物でも食べませんか?」
くれるってもんは貰う主義だったワタシは、その神父に着いて行った。
たしかに、その飯は美味かった。
残飯やネズミよりもな。
だからちょくちょくその神父の教会に行く事にした。
しばらくして、スリの男が5人も連れて復讐に来た。
当然、全員返り討ちにした。
その男に人を集める伝手なんてない、正直になるまで顔に3発必要だった。
聞き取りにくい言葉で、神父の差し金だと言った。
ワタシはその教会に乗り込み、神父に詰め寄った。
だがワタシは知らなかったのだ、所詮ワタシは貧民区の暴れん坊。
ほんとに戦闘訓練を受けた相手には、ただのガキでしかない。
神父を守るように現れた、2人の修道女に手も足もでなかった。
そうして、捕まったワタシは痛めつけられ、加護を受領させられた。
加護。
特定の神から与えられる力だ。
ワタシには背中に特殊な白い印が現れた。
加護のお陰で、ワタシの力は更に強くなり、なんか特殊な力も使えた。
神父が言うには、魔女の特定の魔法を無効化する力らしい。
だが、それと同時に神の監視と洗脳が付いてくる。
それまでは感じなかった、罪等に過敏に反応し、激しい増悪がわく。
教会の正しいとされる行いに、多幸感や、深い充実感を覚える。
感情を外からいじられるのだ。
それからは、その教会の孤児院で暮らすことになった。
だが本能的に逃げようとした事も何度かあった。
しかしその度に、背中が焼ける様に熱くなり、強い喪失感を与えられる。
結局、それに耐えきれず教会に戻ることになる。
加護?
籠か、首輪の間違いだろ?
孤児院では、昼間は兄弟たちと過ごし、夜は同じ加護持ちの修道女達と戦闘訓練をする。
あの神父は、ワタシの力を見て、魔女狩りにしようと思ったらしい。
現にその計画はうまくいった。
ワタシが教会にきて6年、正確な年齢はわからないが12歳ぐらいの時に、初めて魔女を狩った。
魔女というのは、邪な欲望に囚われた者達、と教会では教えていた。
人外の力を得る代わりに、欲望に支配され、それを求めずにはいられなくなるらしい。
最初に狩った魔女は、火を操る女だった。
火の玉を飛ばしてくる攻撃的で危険な魔女だ。
だが、魔女の多くは、接近戦に弱い。
遠くへの攻撃手段があるからかもしれないが、近づいてしまえば脆いのだ。
もちろん、魔女もその事は承知している。
だから障壁という魔法で、相手の攻撃を防ぐ奴が多い。
そして、ワタシはこの障壁を薄い氷でも割るように破壊できた。
他の修道女が障壁に阻まれ苦戦しても、ワタシから見れば裸同然だ。
その魔女には、神父に渡されたメイスを使った。
最初は腹を、倒れたところに足を、泣きながら許しを請う頭を。
魔女へ腕を振るう度に与えられる充実感と、狩った後のご褒美とでもいうように与えられる多幸感に、険悪しつつも逆らえなかった。
そんなワタシが唯一、元の自分を感じれたのは、年の近い兄弟たちと遊んでいる時と、教会の地下で見つけた、古びた壁画を見ている時だけだった。
特に年の近い、兄とは仲が良かったが、しばらくして貴族へ養子に出された。
古い壁画には、虎から人に変わる巫女の話が描かれていた、もしかしたらこの地に教会が建つ以前のモノなのかもしれない。
しかし、それも神父にその場所が見つかって封鎖されてしまった。
そうして自分を見失ったワタシは、神に従順な魔女狩りになったのだ。
派閥争いで神父が殺され、教会と孤児院が灰になっても、ワタシが加護の鎖から解放される事はなかった。
ただ魔女を憎み、魔女を狩るそれだけだった。
そんな時、一匹の天使が隣街に魔女がいると言って来た。
神父を殺した教派の天使だった。
だが、誘いに乗ってやった。
他の修道女は知らないが、ワタシは神父の事に恨みなんて感じてはいなかった。
ただ自分の為に魔女を狩れればいいのだ。
しかし、その魔女を取り逃がしてしまう。
しかもその天使がその事をグチグチ言って来たので、黙らせた。
元々、教派が違えば、魔女と大差はない。
今回はたまたま利害が一致しただけだ、それを理解していなかった。
しかし、その天使はギフトの宝玉を持っていた。
ギフトは加護とは違い、生まれた時から神に与えられる特殊な力だ。
加護の様な強力な洗脳は無い代わりに、最初は力も弱い。
しかしその効果は本人の成長と共に強力になっていく。
そのため、神の思惑通り導くよう天使が監視につけられる。
ところが、ギフトをどこかの魔女が奪う方法を見つけてしまう。
奪ったそれをラオベンと呼ぶらしい。
そうなると、神はその力に干渉できなくなる。
だから魔女に奪われる前に、天使が取り上げる事があると聞いた事がある。
ワタシがギフトの宝玉を持った途端、今まで感じていた加護の強制力が弱まる。
と同時に、このギフトを与えた神の意識が流れ込んでくる。
その時に初めて分かった。
加護を持つとは神の傀儡になる事なのだ。
ギフトにも神はある程度、干渉出来る。
そして加護により操りやすいこの体は、その影響を大きく受けるのだ。
二つの神の意思が口喧嘩の様にワタシの頭に響くのがその証拠だろう。
おかげで、ワタシへの支配が緩んだのかもしれないが、こんな状態ではすぐに耐え切れず狂ってしまう。
急いでこのギフトを返さなくては。
今思えば、それこそがギフトの神に操られた思考だったのかもしれない。
赤毛の魔女を見つけ、ギフトの事を聞き出そうとしたが、気付いた時には魔女に拘束されていた。
ギフトも奪われ、加護も封印された。
ははははは、ならば今こそが本来の自分なのだ。
自然と笑い出したくなる気持ちを抑える。
それは後だ。
魔女がワタシの加護をどう理解していたかは知らないが、ワタシの加護は、魔女の能力を無効化するのが主で力が強いのはほとんど生まれつきだ。
脱走の障害になるとすれば、裸である事と、あの赤毛の魔女だ。
あの魔女はやばい、今までのどの魔女より危険だ。
最初は幻を操る魔女なのかと思ったが、あれは別物だ。
つい意識を失う直前思い出し、首を動かす。
幸い、痛みなどの後遺症はない。
もしそこまで分かっててやっていたのなら、まさにバケモノだ。
ワタシだって戦闘訓練で、どこまでやれば体が壊れるかは知っている。
だがどこまでやれば首の骨が砕けるかなんて知らない。
ワタシは、見張りの隙をつき脱走する。
しかし、外は明るくなっていた。
なんとか、服を奪い街から逃げ出さなくては。
奪うという発想が出来た事に喜びが込み上げる。
あの多幸感とは比べるべくもないが、これこそがワタシだ。
しかしその一瞬の油断で、すぐ近くまで人が来ていることに気づかなかった。
ワタシは、慌てて鍵のかかっていないドアを探し中に飛び込む。
幸い物置の様で誰もいなかった。
部屋の中で息を潜める。
2人、いや。3人が部屋の前で立ち止まる。
呼吸を合わせたのがわかった。
気絶させる。
なぜか、殺すという選択肢はなかった。
そして、その日ワタシは運命の出会いをした。
読んで頂きありがとうございます。
レティシアさん達と合流するまでの、オルスバンの話です。
最初は、オルスバン中の彼女の話を書こうと思っていたのですが、生い立ちをサクッと書くつもりが長くなり、続きは次回サイドでいいかな?って思ってます。




