王国騎士団・北方教導隊 その後4
よろしくお願いします。
「交渉だと?・・・面白い、そちらの要求は何だ?」
おいおいおい、乗ってきたぞ!?
待て待て、落ち着け!冷静になれ!気を持たせて楽しんでいるだけかも知れない。
相手がどうでもいいと思う事で、こちらの最大の利点を提示するんだ。
「・・・どうした?速く言え」
「わっ我が王国の街や村への攻撃行為の禁止をお約束頂きたい!!」
一瞬、飛竜に焼かれた村を思い出したら、そんなことを訴えてしまっていた。
馬鹿なのか俺!馬鹿なのか俺!馬鹿すぎだぞ俺!!
「我らはヒュム共が大地に引いた線などに関知はしない」
ですよね!そりゃそうだ!!クソッ最初のカードを間違った!!
でも!っと瞬時に閃くモノがあった。
「しっしっしばし、お待ちを!!」
俺は全力で輸送馬車へ駆ける。
何度も、足がもつれて転びそうになる。
他の隊員達は、まだ恐怖で固まって動けないようだ。
俺だって、隊を取り囲み、睨みつけてくるワイバーンの前を通り過ぎるのは恐ろしい。
でも、それ以上にこのあり得ない奇跡と、恐怖と痛みからくる、頭が痺れる様な高揚感を止められなかった。
馬車に転がり込み、奥に大事にしまってある。地図やらなんやらの箱を纏めて引っ張り出す、探している暇は無いので全て抱えて超越種の前へ走る。
「はぁはぁ、こっこれだ。いや、これです。この旗の掲げてある、街や村を攻撃しないで頂きたいのです!」
俺は両手に抱えていたモノをぶちまけ、なんとか王国旗を見つけ出す。
基本的に街や村への出入りの時しか掲げないモノだ。
理由?目立って魔物に喰われたら、ただの愚か者だろ?
「なるほど、我の自由を制限すると言うのだな?その見返りは期待できるのであろうな?」
グッ、そうだよ。
ワイバーンの超越種が満足するモノってのは何だ?そんな物、想像もつかない。
クソッそんなことにも頭が回らなかったなんて!!
「たっ食べ物などは・・・?」
「クックックック・・・」
笑い始めた、それに合わせたように周囲のワイバーン達も咽を鳴らし始める。
何が琴線に触れたかわからなかったが、俺も笑おうとした、かなり顔が引き攣っていたかも知れないが。
「ハァーハッハッハッハ、ハァ!?」
最後のハァで、全身の毛が逆立つ。
あ、死ぬって直感する。
「この我が食うにすら、困っているとぬかすか!!キサマ!!無礼にも程があろう!!!」
「ヒィァ!!」
あまりの恐怖に後退ろうとして、先程地面にぶちまけた箱に躓き尻餅を着いてしまう。
すると、その箱の中の物が飛び出す。
変化は劇的だった。
今まで怒り狂ってうねっていた様な空気が嘘のように四散する。
超越種はその毛皮を巨大な手で器用に摘まみ上げ、鼻先へ持っていき匂いを嗅いだ。
それは、グレートライオンの毛皮だ。
そう、俺たちの出世への鍵だ。
「この毛皮とゴブリン、それでその旗の街と村には攻撃しないと約束しよう」
なんだ?なんだ?一気に話がまとまりかけているぞ!?
さっきまでの威圧感が和らいだおかげで、恐怖から解放されたのか、後ろから物音が聞こえる。
もっともこの状況で目立った動きが出来る者などいないだろうが。
思考が冷静になる助けにはなった。
俺は隊長の方を見る。
最終的な決定は彼がした事にしなければならない。
確かに、頷いたのを確認する。
俺は向き直り、地面に深く伏す
「お許しください!」
「なんだと!?」
「違うのです!我々ヒュムは愚かで疑り深いのです。なにか証になるものが必要なのです!」
「・・・我の言葉を疑うというのか?」
「そうではございません!ですが、ワタクシが我が王に問われた時。猊下のお言葉を証明する物が無くては、ワタクシが信用されないのです」
「・・・愚かな事とだな」
そう言うと、超越種は腕かどこかから、一枚の鱗を取り俺の前に投げる。
俺の前に落ちた美しい紫色のそれは、両手で抱えるほどの大きさがあった。
さらに超越種は、横にいたワイバーンに目で指示を出すと、そのワイバーンが飛び立つ。
「その鱗を我が言葉の証とせよ」
「はっ!ははぁ!」
俺が深く伏す限界に挑戦していると、翼をブワッと広げ、飛び立つ。
飛び立つといっても、周囲に風を発生させたりはしなかった。
四肢の力で一気に上昇し、遥か上空で風に乗るようだ。
超越種が飛び立っても、俺たちは動けないでいた。
周囲を取り囲んだワイバーンがいつまでも動こうとしないためだ。
相変わらず俺たちを睨みつけている。
どれだけそうしていたか、突然、俺の目の前に傷だらけのグレートライオンが降ってくる。
そして先ほど超越種の前に飛び立ったワイバーンが降り立つ。
腕に青紫色の鱗があるワイバーンで、周囲のワイバーンより大きい。
「こちらを、あの毛皮の代わりとせよ」
「なっなんと!ここまでごは・・・」
「言葉は無用だ。約定がなったならば、早々に立ち去れ。この辺りにはもう来ぬことだ」
そう言うと、縛り上げていた、ゴブリンを掴み飛び立つ。
周囲のワイバーンも、残ったゴブリンを掴まえ飛び立っていく。
縛られていたゴブリンが必死に暴れる様を眺めながら、なんだろう?ゴブリンの踊り食いが好物なんだろうか?
そんな馬鹿な事を考えていた。
恐怖が去ったことで、座り込みたい気持ちをグッと堪え、隊長の元へ向かう。
「隊長、申し訳ありません。出過ぎたことを致しました」
隊長は、まだ動けない馬から降りて、俺の肩を叩き。
「なにを言う!君は隊全ての者の命を救ったのだ。私も生き残れるとは思わなかったさ」
「ありがとうございます。ですがあの時、毛皮を取引の材料とせよという隊長の指示があったればこそです。あれこそまさにご英断でした」
おれは、まだろくに動けない周囲にも聞こえる様に、大きめの声で応じる。
隊長が真っ直ぐに俺を見つめ、視線が交錯する。
「その話はあとにしよう。今は隊を立て直し早く村へ戻るべきだ」
隊長は俺の肩をもう一度、ポンっと叩きそう応じた。
俺は周囲に視線を巡らせ、目算する。
「はっ!では、半時以内に出発できるように致します」
それから半時、動けぬ隊員も回復し、鱗とグレートライオンをなんとか輸送馬車に積み込んで出発した。
俺と副長の馬は先に村へ帰し、応援と馬車を呼びに行かせている。
というのも、前回はグレートライオンを2台の馬車で運んだが、今回は一台しかないので、馬車から半分ぐらい体が出ている。
それを、馬車の一部を分解し、板を渡して隊員が交代に担ぐことで、なんとかしているが、いつ車輪が壊れるかもわからない状態だからだ。
ちなみに、俺は担いでいない。
肩を負傷しているからだ。
目が良い奴が、俺の近くに寄って来た。
馬を使ってしまったので、こいつも歩きだ。
「参謀役殿!先ほどはすごかったです!私、感動しました」
俺は周囲に視線を巡らせる。
幸い、先行隊の面々しか近くにいない。
「お前が、どう思うかは自由だ。だが、二度と俺の手柄の様に言うな。あれは隊長の指示だった。いいな?」
「ひぅ、ごめんなさいぃ」
なんでこいつは、いちいち涙目になって、びくつくんだ?
「すまないな、まだ肩が痛くて、当たってしまった。そんな、かしこまるな。お前の働きには期待している。今襲われるのが一番危険だからな」
「はっはい!」
やれやれ、泣くのも早いが笑うのも早いな。
そんな事を思いながらも、とんでもない成果に、俺も頬が緩むのを止められなかった。
読んで頂きありがとうございます。
猊下、本来は、宗教的な敬語らしいですが、猊には獅子という意味があるようなので、強い生き物という事で、あえて使わせていただきました。
けっして正しい用法ではありません。
参謀役殿は、いったんここまでで、次は別の話にしようかと思っています。
ちなみに、クルトさんが毛皮に執着したのは、あの毛皮を捌いた人の着ていた服に原因があります。
匂いが残っていたのかもしれませんね。
クルトさん変態ですね。




