起きたら地形が変わっていました。 後編
2017年8月15日に修正した5話目の後半です。
よろしくお願いします。
急いで止めないと、レティとターラが戦い始めちゃった。
『ターラやめて』
僕は懸命に思念を送る。
「グルルゥガァー」
・・・ダメだ。
ターラは腕や、畳んだ翼を腕の様に使って、レティを叩き潰そうと、ドスンッドスンッと地面を叩く。
その度に、こちらまで揺れる。
僕が今居る位置は、ターラの横で、レティの所まで走ってもすぐにはいけない。
しかも、ターラがやたらと腕や翼腕を振り回すので、地面の揺れと、巻き起こる突風でなかなか進めない。
僕は、それでも木を伝うように、走る。
地面が揺れた時は屈んで、突風が吹いたら木にしがみつかないと、吹き飛ばされてしまう。
「クーックックック、アーハッハハァ!前よりいい動きするじゃないのさ。楽しくなって来ちまったね。でも攻めが単調だよ!ほらぁ、全然あたらないね!」
近づいてくると、レティのそんな声が聞こえて来た。
レティは空を飛びまわってターラの腕や翼腕の攻撃をかわしている。
しかも、隙あれば「おらぁ」とか言って、あの大きな頭を殴る。
ターラの頭はレティの何倍もある。・・・というよりも、ターラの目の方がレティより大きい。
それだけの、大きさの差があるのに、レティが下から殴れば上に仰け反り、右から殴れば左に頭が動く。
レティの方が優勢の様にすら見えてしまう。
って、それじゃダメなんだ。
「レジィガッデ、ダゲデ」
僕は何とかレティの下までたどり着いて、出来る限りの大声で叫ぶ。
「ん?コブンそんなとこに居たのか。ちょっと下がってな」
レティは僕の横にストンッと降りてくると、そう言って、僕を庇うようにターラと対峙する。
『レティやめて、ターラとは友達になったの』
「・・・グルゥ」
僕は、そのレティをかわして、ターラとレティの間に割り込み両手を広げる。
「・・友達?このトカ、ドラゴンと?」
『そう友達、ターラもやめて。レティは僕の・・・えっと相棒なんだ』
僕はターラを振り返ると、いつの間にか暴れるのをやめていたターラが、ジッと僕を見つめていた。
『・・・いいだろう、コブンの頼みだからな』
グルルゥッと喉を鳴らした後に、ターラは大きな足を動かし、ドスンッドスンッと後ろに下がってくれた。
そして、前屈みになり、頭だけ僕たちの方に近づいてくる。
「あらら、ホントに退いちゃった。すごいねコブン。・・・このドラゴンと話せるの?」
レティはターラの方をジッと見ながらそう聞いてきた。
『あれ?レティは声聞こえない?』
『フン、我がヒュムと馴れ合うなどあり得ぬ。それに、このヒュムは我を殺しかけた怨敵だ。コブンの頼みで無ければ牙を納めはせぬ』
そうだったんだ・・・。
『ありがとう、ターラ』
『・・・よい、死の淵からコブンは救い上げてくれた。なればこそ我は感謝しかない』
『あ!そういえば、体大丈夫?さっき痛かったみたいだから』
さっきターラは焼ける様だって言ってた。
僕はあの綺麗な鱗が採れた場所をみようと・・・。
って体中を走り回ってたから、どこで採れた鱗なのかわからないや。
『もう、大丈夫だ。今は傷もふさがり痛みも消えた。それに体の奥底から力が湧き出してくる様だ』
ターラが首を大きく回し、肩や翼腕をゆっくりとグルグル動かす。
動かしていた居場所がないか、調べているみたいだ。
『だが最初はあまりの激痛に、我を忘れ暴れてしまった。危うく恩人のコブンを潰すところだった。すまぬ』
ターラは申し訳なさそうに目を瞑った。
僕はなんとなく、ターラの鼻先に触れる。
『僕は大丈夫。僕こそ、とっても痛かったんでしょ?ごめんね』
『かまわぬ。もし、あれが無ければ今頃、我は死んでいた。・・・それで、そのぅ、さっきそこのヒュムに言っていた。・・・とっともとち、とっとっトモダチについてだが!』
ターラが思念なのに凄くたどたどしい。
やっぱり、まだ痛む場所があるのかな?
『うん、よかったら友達になって。ターラ』
『うっうむ、よろしくな。コブン』
僕は嬉しくて、両手でターラに抱き着いた。
といっても、岩にペトッと寄り掛かったような感じだけど。
『ありがとう、ターラ。よろしくね』
「なーんか、コブンの声しか聞こえなくて、すごい除け者だなー、アタイ」
いつの間に僕の横に立ってたレティが、体を横に曲げて僕の顔を覗き込んでた。
『ごめん、レティ。え・・・と、ターラはその、にんげ、ヒュムと話すのはその・・・』
「そっか、まぁいいわ。でもなんでこい・・・ターラだっけ?こんな森の浅い所に居たの?確か、超越種みたいなのは、他の地域へは行かないんだよね?」
『ターラと呼んで良いのはコブンだけだ。ターラッサと呼ばせてくれ。それにここは森のかなり深い場所だ。この前そのヒュムと我がやり合った場所からそう遠くない所だ』
あれ?なんかターラとレティの言ってる事が違う。
『レティ、ターラッサって呼んでって。あと、ここは森の深層で、前にレティと戦った場所の近くだって』
「え!?あれ?・・・そっそうなんだ」
レティが明後日の方向を見ながら頬を掻く。
『・・・レティ、迷子?』
そういえば、ここに来るまで、レティは地図を見たり、地形を確認したりせずに、迷いなく進んでいた。
僕も洞窟の外の事はわからないから、何も言わなかったけど・・・。
「え!いや!ちっちがうよ。ほら、ほら!そう!コブンがキラキラ集めてたし!?深層の方が珍しいもの採れていいのかなって!?」
うん、きっと、迷いなく迷ってたんだね。
『・・・レティ、いつも進む方向とか、どうしてたの?』
「えっと・・・空飛んでるから関係ないと言うか・・・あ!ちがうちがう!そう!それにそう!そのドラゴンに地図とか全部燃やされたから・・・」
そう言って、レティがターラを指さす。
『・・・コブン、我のせいで困っていると言うのであれば、我が森の外まで案内しよう』
ターラが見かねたように、提案してくれた。
『いいの?ターラ?』
『無論だ。だが、そのヒュムに触れるつもりは無い』
ターラがレティにチラッと視線を移してそう言う。
『レティ、ターラが森の外まで案内するって、ただレティは自分で飛んでって』
「・・・そうかい、じゃあ頼むかな。あ!じゃあコブン抱っこしてあげるね」
レティが、胸を張ってターラを見返してる。
『・・・コブン、先ほど我の体から色々と、古い鱗や血肉など採っていただろ?あれはコブンのものだ、好きに使うといい』
『いいの?』
『もちろんかまわぬ。すでに、傷も塞がっているしな、返されても困ると言うものだ。それにヒュムの国では、金が無くては生きていけぬそうだが、我らの体は中々価値があるらしい。もし何か困ったときは金に換えるとよい』
『わかった、ありがとう。ターラ』
ターラが上体を起こして、首を巡らせて、広場のあちこちに散らばった色々を集めてくれる。
『レティ、ターラが、ドラゴンの素材を持って行って良いって』
「えっ!?それは・・・ありがたいけど・・・でも、ドラゴンってそういう事言うモノなの?なんか、宝とか貯め込んでるって話はよく聞くけど・・・」
『お金に困ったら変えなさいって』
「えっ!?そんな事まで?・・・なんかアタイの思ってたのと、だいぶ違うね」
『・・・こんなところか。それでは、これは我が持っていこう』
そう言った、ターラの前には小山になったドラゴンの素材、なんか僕が採った覚えのないものまで沢山ある。
『レティ、荷物沢山で大変そうだから持って行ってあげるって、ターラが』
「・・・そっか、それはありがたい。ならお願いしよう。あ、そうだコブン。悪いけどハンモック片付けて、あれいいね。森の中なのに、こんなに魔力回復したの初めてだよ。かなり気に入ったよ」
『わかった』
僕は、離れた所にあるハンモックの方まで走る。
ターラが近くで暴れたのに、特に壊れた様子はなかった。
僕が木に登り、縛った紐などを外して、寝床を片付け荷物をまとめている間、レティとターラは黙って見つめ合ってた。
睨み合っていた訳じゃないと思う。・・・たぶん。
全部の荷物をまとめてレティ達のところへ持っていく。
「ありがとう、コブン荷造りしてくれて」
『大丈夫、毛皮も持ったし、忘れ物無い』
僕がそう言うと、レティはじゃってターラの方を見る。
「場所は東の都ハルシュレックの外れよ。近くに来たら認識阻害をかけてアタイが先導するわ。それまで案内お願いねターラッサさん?」
「グルルルル・・・」
ターラは集めた素材を持ちながら、そう喉を鳴らした。
『コブン、我の掌の中へ、荷物と一緒で悪いが風が強く当たる。あまり我の手から出るなよ』
そう言って、ボクの前に手の平を出してくれる。
でも手の上に登るのも段差があって、大変だ。
そう思っていると、レティが僕を持ち上げて、ひょいっと投げてくれた。
『ありがとう、レティ』
レティは片手を上げて、応えると飛び上がる。
僕は大きなターラの手の真ん中へ移動する。
『では行くぞ』
ターラの声が聞こえたと思ったら、胸の辺りを上から押さえつけられるような、違和感を感じた。
そこからのことは、よく覚えてない。
僕はめまいがして、そのまま気を失った。
目が覚めると、空が良く見える場所で、すぐ近くにターラの顔があった。
『コブンすまなかったな、高い所が苦手だとは思わなかった』
僕が上体を起こすと、ターラがそう言った。
『大丈夫。僕も知らなかった。ありがとう』
僕は立ち上がりながら、そう伝える。
『フフッそうか、では我は森へ帰るとする』
そう言って、ターラが前屈みになっていた体を起こす。
そういえば、ターラの体が薄っすら、光って見える。
これがレティの言ってた魔法なのかな?
『うん、今日はありがとう。ターラ』
『おぉ、そうだコブン。これをそなたにやろう』
そう言ってターラが僕の前に爪の先を持ってくる。
そこには一見すると、ただの黒い石ころがあった。
それは、僕の掌に収まるくらいで、集中すると『竜角の欠片』って言うらしい。
『角の欠片?』
『そうだよくわかったな、御守りのような物だ。1度使えば砕けてしまうだろうが、強く念じれば我に声が届く。もし何かあれば森へ帰っておいで、我を呼んでくれれば迎えに来よう』
『ありがとう、ターラ』
僕は目の前のターラの爪と握手した。
握手と言うより、僕がただ触っただけなんだけど。
『さらばだ、友よ』
最後にそう言って、ターラは静かに飛んでいった。
そしてターラに踏まれていた木が、グッググッグって音を出しながら元の形に戻る。
そこは、周囲を森に囲まれた家だった。
というより、森を切り開いて家を建てたって言った方があってるかもしれない。
でも家なんて初めて見るのに何でわかるんだろ?
・・・まぁいいか。
この辺りの木は、僕のいた洞窟の辺りの木から見たら、半分ぐらいの高さもない。
だからなのか、とても明るく感じる。
そんな明るい場所にある家は、ツタの葉っぱに覆われた二階建ての建物だ。
家の周囲には、短い草に覆われたひらけた場所があるみたい。
家の奥に小屋と、透き通った小屋まである。
僕が寝ていたのは、家の前の庭先だ。
庭と言っても、綺麗に草が刈り込まれてるだけの場所で、特に何か植物を植えている訳では無いみたい。
それでも、白や紫の小さい花が咲いていた。
僕は玄関に続く石畳を通って、家の方へ行く。
「お別れは終わった?」
そう声をかけて来たのはレティだ。
家の前に置いてある白塗りの丸い机に、なにかのお茶を用意して、椅子に腰掛け一人でまったりしてる。
ちなみに、僕がその椅子に座ろうとすると、足がプラプラしてしまう。
『うん、また会えるかな?』
僕はターラが飛んで行った方を見ながら、なんとなくそう言った。
「・・・どうかしら?」
胸に手を当てる。ドッドッドッド、人間よりずっと速い音がした。
「・・・そんなことより!飛んで魔力使ったからお腹ペコペコ!コブン、なんか食べよ!」
いや、一人でお茶飲んでたじゃんと少し思ったけど、黙ってうなずいた。
考えてみれば、勝手に倒れたのは僕だしね。
『そういえばターラからもらった中に、お肉もあったよ』
ターラからもらったモノは、庭先で小山になっている。
「えっ!?それって?」
レティの目が輝く。
『シンプルにステーキがいいかな?』
「いいね!じゃあ、我が家を案内するわ。まずは台所ね」
読んで頂きありがとうございました。
思いつくままに書いていたら、増えてしまいました。
主に意識して修正したのは、ターラやレティ達の動きの描写でしょうか。
あと今さらなのですが、レティの家の外観なども加えています。
話数がずれてしまったので、混乱されるかもしれません。
申し訳ありません。ご了承いただければと思います。
よろしくお願いします。