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「風と剣と少女」

「オルタナティブ・ブレイク」第1章

「風と剣と少女」


―少女は空を見上げていた。どこまでも続く蒼い空を。だが今、少女が見ているのは偽りの世界の空だ

そう分かっていてもまだ間違ってしまう時がある

これは現実世界(リアル)の空なのではないかと


だがある意味では、この偽りの空も現実だ。この世界で自分は今、剣を手にし戦い、命を掛けて生きているから


少女が立っている場所に風が吹く。風は草木を揺らし、少女の髪をなびかせながら吹き抜ける。


少し離れた場所から話し声が聞こえてくる。男と女の声だ。少女は声がした方向に向かい、歩き出す。


その双眸には何か強い意志が宿っていた。少女は一体、何を思い、何処を見ているのか。それは誰にも分からない。




□ □ □


―森の最深部、ボスフロア

そこには、フレアガルーダとの戦闘が終わり、その戦闘で得たドロップ品の整理が終わった葵と零椰がいた。


「まずはこれを見てください」


そう言って零椰が取り出したのは、先程の戦闘で使用した核防御壁(コアフィールドシステム)のパーツが付いたロングソードだった


葵はそのロングソードを見た瞬間、ある事に気付く


「そのロングソード、何でそんなにボロボロなの?フレアガルーダと戦う前に何回か通常モンスターと戦って、それからフレアガルーダと戦ったから確かに消耗はするけど……」


葵が見たロングソードは刀身に細かな亀裂が幾つも入っており、少し刃が欠けた部分すらあった。


「それでもかなり消耗してる……そのロングソード、もう少し使ったら刀身が折れちゃうじゃない」


武器にはそれぞれ耐久度が設定されており、ゼロになると剣や槍ならば刀身が折れ、銃器類ならば各パーツに分かれ、かなり消耗していると消滅する事もある。


「そうですね……確かにこの状態でもう少し使ったら折れてしまいます。でもこれはまだ試験段階なので使用したらこんな状態になったんです」


「試験段階?」


葵が眉をひそめて聞き返した。


「今回のボス、フレアガルーダの対抗策として考えたこのロングソードはまだ完全な状態では無くて、何とか使える状態にしていたんです。最悪、戦闘中に耐久度が無くなって消滅すると考えていましたから」


「じゃあ今回は運が良くて消滅せずに済んだって事?」


「運の部分もありますが、今回は完全な状態では無かったので使用回数を設けた事で耐久度の消耗を消滅する前までで抑えられたと思います」


「でも、まだ改善すべき点が実際に使ってみて幾つか分かったのでそれは良かったんですけどね……」


零椰が手に持ったロングソードを見ながら呟いた。


「ボロボロの理由は分かったけど、なんであの硬い甲殻を破ることが出来たの?前にも言ったけど核防御壁(コアフィールドシステム)の本来の使用の仕方は、防御用の障壁を展開して、特殊武装やモンスターの範囲攻撃のダメージを軽減する為のものでしょ?」


「はい、確かに、核防御壁(コアフィールドシステム)の使い方は防御に使う物です。今回の核防御壁(コアフィールドシステム)の使い方は、このゲームがまだデスゲームになる前の時に、俺が別の戦闘で核防御壁(コアフィールドシステム)を使った時に考えた方法です。その方法は核防御壁(コアフィールドシステム)を武器に取り付けて使う事が出来るのではないかとその時は思ったんですが……」


そこで零椰は一旦、言葉を区切り


「その時は上手く行きませんでした……それはまだ核防御壁(コアフィールドシステム)の組み込み方や組み込んだ後の使用方法に問題があったので、この方法は今までの間で少しずつ問題を無くしながら改良を進めていました」


葵は感心した様子で


「元々、核防御壁(コアフィールドシステム)を自分で使った時に思いついた方法で、その時から零椰はどんな風に活用出来るかを考えていたのね」


「そうですね……じゃあ、何故硬い甲殻を破ることが出来たかについてですが、簡単に言えば押さえつける力を利用したとでも表現する事が出来ます」


「押さえつける力?」


葵がまだ眉をひそめる。核防御壁(コアフィールドシステム)にそんな力があるのだろうか?


脳内が軽く混乱している葵に零椰が先程の発言について説明する。


「俺が考えた核防御壁(コアフィールドシステム)のパーツを何かの武器に取り付けて使うこの方法で得られる効果は2つ……1つ目は武器の攻撃力をアップさせる事、2つ目は今言った押さえつける力です」


「攻撃力をアップさせるのは分かると思うんですが、押さえつける力というのは、いまいちピンと来てないですよね?」


ロングソードを見せながら説明していた零椰が葵にそう聞く


「そうね、攻撃力アップは分かるけど、押さえつける力って……だって零椰はロングソードを使ってたじゃない、剣だから普通、敵を斬って戦うでしょ?押さえつける動作なんて1度もしてなかったし……」


「確かに俺はロングソードだけで戦っていたから、葵の言う通り、押さえつける動作なんてしてません。ところで話が少し変わりますが、葵は核防御壁(コアフィールドシステム)が展開する時、どんな風に展開するか分かりますか?」


先程の戦闘で使ったので葵は考え込むこと無く答える。


核防御壁(コアフィールドシステム)の障壁の展開の仕方は、自分を中心にして半円型の球状の障壁が展開されるわ」


核防御壁(コアフィールドシステム)を使い、障壁を展開するにはまず、核防御壁(コアフィールドシステム)のパーツを機体に取り付ける。そして、戦闘中に特殊武装や範囲攻撃などを使われた場合、ダメージを軽減する為に機体のエネルギーを消費し障壁が展開出来る。展開の仕方は先程、葵が言った通りである。


「展開の仕方がどう関係してるのよ?」


押さえつける力と言い、核防御壁(コアフィールドシステム)の障壁の展開の仕方と言い、何の関係があるのかが全く分からない。一体どう繋がりがあるのかを葵は早く説明して欲しかった。


零椰は、障壁の展開の仕方を葵が答えるのを聞き、満足したように頷くと葵に向かい、少しずつ2つの効果について説明を始める。


「まず、最初に攻撃力のアップについてですが、これは核防御壁(コアフィールドシステム)の障壁の展開エネルギーをロングソードの刀身に流して、威力を上げています。これだけでも強化出来ますが、硬い甲殻などは破る事は無理です」


そこでと言いながら、零椰はロングソードに取り付けられた小さな四角形のパーツ―核防御壁(コアフィールドシステム)を指差しながら


「硬い甲殻を破る為に、俺はこの核防御壁(コアフィールドシステム)の押さえつける力を使おうと思いました。それを使うには核防御壁(コアフィールドシステム)が2つ必要だったのであの時、俺は武器屋で核防御壁(コアフィールドシステム)を2つ購入したんです」


それを聞いて葵はあの時、何故零椰が核防御壁(コアフィールドシステム)を2つ購入していたかの疑問が解消した。


「2つの核防御壁(コアフィールドシステム)をどのように使うかと言うと、機体と武器にそれぞれ核防御壁(コアフィールドシステム)を取り付け、戦闘時に機体、武器それぞれの核防御壁(コアフィールドシステム)のスイッチを入れて起動させ、攻撃するタイミングでまず機体の方の障壁を展開して、相手にその状態で接近します。展開した障壁が相手に当たるとダメージを与える事が出来るんです」


そこまで零椰が説明すると葵は驚き、目を見開いた。


核防御壁(コアフィールドシステム)にそんな機能があったなんて……今までそんな事、聞いた事も無かったし、知らなかったわ……」


「いや、俺も最初から知ってたわけじゃなくて、戦闘中にたまたま敵が展開していた核防御壁(コアフィールドシステム)の障壁に当たってその時にダメージを受けていたから分かったんです」


葵に褒められ、ちょっと嬉しい零椰は照れ隠しに少し笑ってみせた。


「この方法は硬い甲殻の内部にもダメージを与えられるので、この上に更に核防御壁(コアフィールドシステム)で強化したロングソードで攻撃を加えれば、甲殻を破る事が可能になったんです」


機体のダメージチェックを終えた零椰がメニューウィンドウを閉じながら、葵の方を向いた。


「以上が今回の戦闘で使った核防御壁(コアフィールドシステム)を用いた攻撃方法です。この方法は他のモンスターにも有効ですが、さっき言った通りまだ試作段階で、使えるエネルギーにも限りがあるので使うタイミングなんかも考えなきゃいけません」


零椰が説明をし終えると葵も残弾数を確認してから、メニューウィンドウを閉じた。


「良い所もあり、悪い所もある。まさに一長一短ね」


零椰もその発言に頷く


「そうですね……そろそろ街に戻りましょう。消耗した機体や武装のメンテをしなくちゃいけませんから」


「そうね、じゃあ行きましょう」


葵と零椰が帰ろうと歩き出す。その時、零椰は背後に視線らしきものを感じた。


「……ん?」


立ち止まり零椰は視線を感じた方へ振り向く、しかしその先には誰もいなかった。


「どうしたの?」


零椰が立ち止まった事に気付き、葵がそちらを向く


「いえ、誰火の視線を感じたような気がしたんですけど……」


零椰の言葉に葵は、周囲を見渡してみる。だが見る限り、自分と零椰以外には誰もいなかった


「何かの間違いじゃないの?見た限りは他に人もモンスターもいないけど」


もう一度周囲を見渡したが、やはり誰もいなかった やはり何かの間違いか……零椰はそう結論付けた


「すみません、やっぱり間違いみたいでした。改めて帰りますか、葵」


「ねぇ、さっきも言ったけど、呼び捨てで呼んでくれるのは良いけど……あたしに話す時のその丁寧語も止めなさいよね。何か堅苦しいし」


「えぇっ!?いや、下の名前でしかも呼び捨てまで頑張ってるのに……」


「ごちゃごちゃ言わないの!あんた男でしょ。……それにあんたともっと仲良くなりたいし……」


怒鳴られたが、後半は俯いたせいか何を言ってるか声が小さく零椰には分からなかった。


「は、はい!出来るだけ頑張ります……えっ?後の方、何て言ったんですか?」


びくっとした零椰だったが、後の言葉が聞き取れずもう一度言って貰おうとする。


「葵?」


俯いた葵の顔に覗き込むように零椰の顔が近付けられる。葵は顔を赤くしながら叫んだ。


「な、なんでもない!」


赤くなった顔をぶんぶんと振って、勢いよく顔を起こして誤魔化した。


「ほ、ほら行くわよ!」


そう言って葵はすたすたと歩き始める。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


足早に歩き始めた葵を零椰は慌てて追いかけていく


―2人が去った後の最深部は静かになった。その場所の脇の場所から、1人の少女が出てきた。少女は最深部の中心に行き、入り口付近へと視線を向ける


「……」


その双眸(そうぼう)は空を見ていた時と同じ、鋭い光と強い意志が宿っていた。少女が見る先に黒髪の少年が映っているように見えた


―最深部に一筋の強い風が吹き、少女を髪を揺らした。


今回は、前回の話で登場した核防御壁(コアフィールドシステム)付きのロングソードについての説明回となってしまいました。本当ならば、新しく2人目のヒロインを登場させる予定でしたが……思った以上に説明が長くなり次回から登場させようと思います。

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