「パーティクエスト≪怪鳥討伐≫2:秘策」
「オルタナティブ・ブレイク」第1章
「パーティークエスト≪怪鳥討伐≫2:秘策」
ボス戦に挑む前に2人は最後の打ち合わせと準備を終えて、最深部へ踏み込んだ。
今までの道はあまり広くなく、戦いにくかったが最深部は広々としており、その奥の方にボスが待ち受けているのが入り口からでもひしひしと伝わってきた。
2人はそのまま最深部に入っていき、中央の手前で立ち止まった。2人の目の前に光が集まっていき巨大なモンスターの姿へと形を変えていく。
「「展開・接続!!」」
ボスが成形され始めた瞬間、2人はそれぞれの機体を展開し纏い、武器を身構える。
2人が機体を纏い終えたタイミングでボスの成形が終わり、ついに2人の目の前に姿を現す。
まず目に入ってくるのは巨体な脚だ。その巨体を支える為の筋肉、つま先には鋭い爪、身体を覆う剛毛と硬い甲殻、そして背中に生えている巨大な翼とどのような装甲をも砕きそうな鋭い嘴、殺気とぎらついた光が宿っているその緑色の瞳で2人を見据えた
「キィエァァァァァァァァァ!!!」
フレアガルーダが放った咆哮を合図に戦闘が開始した。
□ □ □
「はぁぁっ!!」
セイバーを纏った零椰がロングソードを構えてフレアガルーダに攻撃を仕掛ける。まだフレアガルーダは動き出してない為、狙いは甲殻の薄い脚にしたようだ。
体重を乗せたその一撃は完全に弾かれてはいないものの、あまりダメージを与えられたようにも見えなかった。
フレアガルーダが嘴を開き、首を大きく動かす。火炎ブレスの攻撃モーション。零椰は素早く後退し、後方にいた葵も核防御壁の障壁を展開する。
直後、フレアガルーダが大きく嘴を開け、火炎ブレスを発射する。
灼熱の火炎に2人は包まれる。
核防御壁を展開しているのでダメージは軽減出来るが、それでも高い威力を誇るブレス攻撃を完全に防ぐ事は不可能だ。
「くっ……」
吹き飛ばされないように踏ん張り耐える。フレアガルーダが火炎ブレスを吐き終えた瞬間、核防御壁を解除し、零椰は再び斬り掛かる。ブレスなどの範囲攻撃の後は他の攻撃より、硬直時間が長いので攻撃のチャンスである。
零椰は素早く接近し、羽の付け根あたりを斬りつけ攻撃した。
しかし、火炎ブレスの攻撃前に距離を取ったのでブレス後の硬直時間でも接近に時間が掛かってしまい、あまり攻撃を加えられない。
硬直の解けたフレアガルーダが零椰を攻撃しようと尻尾を振る。尻尾も甲殻に覆われている部分があるので、まともに当たればブレス程では無いがダメージを喰らう。
だが零椰がダメージを喰らう前にフレアガルーダの身体が揺れた。
「零椰!」
葵だ。尻尾攻撃の前にフレアガルーダにライフルで狙撃したのだ。
「すみません、葵さん!」
零椰は葵に礼を言いながら、距離を置く。
「あたしが攻撃して、アイツの気を反らせるから、零椰はその瞬間に攻撃して」
零椰にそう言いながら、葵はボルトアクションのライフルからフルオートのライフルに持ち替える。
「分かりました!」
零椰は葵に返事をして、移動を開始する。
葵は少し距離を詰めつつ、ライフルで攻撃し始めた。トリガーを引き、一気に弾丸をばら撒く、フレアガルーダの気が零椰に行かないようにする。
何発かフレアガルーダの身体や脚に当たっているが、やはり弾丸でも甲殻に覆われている部分に当たるのが多い為、あまりダメージを与えられない。だが、これでフレアガルーダは葵の方に注意を向けておくだろう。
時間稼ぎは出来るはずだ。葵はフレアガルーダとの距離をさらに詰めながら射撃を続行した。
□ □ □
葵がフレアガルーダへ攻撃を開始した時、零椰はフレアガルーダに気付かれないように背後へと回っていた。
普通の弾丸やブレード等の攻撃では硬い甲殻に覆われた身体や脚などに攻撃は通らない。ならばどのようにしてダメージを与え、フレアガルーダを倒すか
クエストに挑む前、零椰は対策を考えていた。
定石で考えれば攻撃力の高く硬い甲殻にでもダメージを与えられるランサーを中心に戦法を立てるべきであるが、今の零椰達の機体はそれぞれセイバーとスナイパーだ。これでは倒せるとしても長期戦になり勝てる確率は下がってしまう。
まず最初に考えたのが、ランサーがいないなら、ライフルの弾丸やバスターソードなら硬い甲殻を破れるかだ。
通常のフルオートのライフルの弾丸やロングソードなどと違い、一撃が重く強力なこれらの武器ならば攻撃力不足を解消出来るのでは無いかと考えた。
だが、この策の欠点は動きのスピードが落ち、動きが鈍くなる事だ。相手も動きが鈍いならば良いのだが、今回のクエストでは鳥型モンスターであり、動きが素早いのでこの策は使えない。
次に考えた策は、手数で勝負する事だ。これは、そのまま単純に手数で相手を圧倒して攻撃の隙を与えないようにするものだ。この場合の武器は、零椰はロングソードになり、葵はフルオートのライフルとなる。
だがやはり、この策では攻撃力は低く、長期戦になってしまい意味が無くなってしまうので使えない。
零椰はもう一度、フレアガルーダに対する策を1から考え直した。そして零椰は一つの結論に至った。それはー
硬い甲殻を切り裂けるように攻撃力が高く、かつフレアガルーダにスピードで負けないような武器
このような武器で相手の手数を圧倒する事が出来ればと零椰は考えていた。だがこんな武器はあるはずが無い。
しかし、零椰は至極簡単に結論を見つけ出した。
ーそんな武器が無いならば、自分で作ってしまえば良いと
□ □ □
零椰はフレアガルーダの背後に回り込む事に成功し、気付かれないうちに奇襲を掛けようとする。
今、零椰が手にしている武器はロングソードである。見た目は何の変哲のないように見えるが、零椰はこのロングソードに核防御壁を付けている。そして、この改造こそがフレアガルーダ攻略の鍵として準備したものだからだ。
今回、葵には射撃でフレアガルーダの注意を引き付けてもらうように頼んでいる。その理由は零椰が今から行おうとしている攻撃に回数の制限があるからだ。
この回数制限付き攻撃の約半数が、もしフレアガルーダに回避され当たらなければ、零椰達の勝利は無くなってしまう可能性がかなり高くなる。その為、この攻撃を確実にフレアガルーダに当てる為には葵に注意を引き付けてもらう必要があった。
零椰はロングソードを握りなおす。この攻撃を確実に当てフレアガルーダを倒さなければ敗北するだろう。呼吸を整え零椰はフレアガルーダを見据える。
「オオオッ!」
次の瞬間、雄叫びをあげながら零椰は飛び出し、フレアガルーダの背に斬りかかった。
□ □ □
フルオートのライフルで射撃をしていた葵はフレアガルーダの背後から零椰が飛び出して来たのを見た
(零椰……!)
零椰はロングソードを構え、上段に振り上げている
戦闘が始まる前にあのロングソードに攻略の鍵があると言われ、それが核防御壁だと教えてもらった。ただし回数の制限があるため、葵にはフレアガルーダの注意を引き付けて欲しいと言われた。
今、ロングソードを見ても特に何も変化は……
そう思った時、葵はロングソードに異変がある事に気付いた。
今、零椰が持っているロングソードの刀身が紫色の光に包まれているのだ。あれはまさか……
「核防御壁……?」
あの時、零椰が見せてくれたロングソードには確かに核防御壁のパーツは付いていた。だが葵はその使い方までは分からず、零椰に質問したら答えるより実際に使っているのを見た方が早いと言われただけだった。
(零椰、あんたは一体何をしようと言うの……?)
その葵の疑問は、直後の零椰の攻撃を見て解決されるのであった。
□ □ □
射撃をしていた葵の眼が一瞬見開かれたのが見えた。それはそうだろう本来の使い方では無く、零椰が考えた使い方をしているのだから。
零椰はフレアガルーダに斬り掛かる前にロングソードに取り付けた核防御壁のスイッチを入れていた。だから刀身が光っていたのだ。
光り輝くロングソードを零椰は、フレアガルーダの背に斬りつけた。刀身が背に吸い込まれていきー
そのままフレアガルーダの背中の甲殻を砕き、その下の柔らかな部分に刃がくい込み、零椰の手に確かな手応えを教えてくれた。
背中から、血のように真っ赤なエフェクトの光を撒き散らしながらフレアガルーダが悲痛の鳴き声を上げる。
(……やった!)
最初の一撃がフレアガルーダにダメージを負わせる事で零椰の中に確信が広がり、その勢いでさらに斬りつけていく。
初撃で体制が崩れたフレアガルーダは零椰の斬撃を回避出来ずにいる。
「ギェァァァァァァァ!!」
斬撃を受けてばかりだったフレアガルーダが怒り、翼を使い突風を巻き起こした。
「うわっ!?」
斬撃を繰り出していた零椰はいきなりの突風攻撃を受け、体制が崩れる。
その隙にフレアガルーダは後退し、体制を立て直す
吹き飛ばされ、後ろに戻って来た零椰に葵は近づき、先程見た光景について説明を求めた。
「零椰、さっきのは一体……?」
だが零椰は申し訳なさそうに
「すみません葵さん、まだ説明出来る暇は無いみたいです。またフレアガルーダがこちらに接近して来たので」
そう言われ葵はフレアガルーダの方を見た。フレアガルーダは体制を立て直し、こちらに向かって突進して来てくる。
「葵さん、次の攻撃で決着を着けようと思います。フレアガルーダの脚を止める事は出来ますか?」
零椰はロングソードを構え直しながら葵にそう言ってきた。
今の彼の眼には、普段は無い鋭い光がある。この戦闘前にも言われたのだ。自分を信じてくださいと
零椰は葵を信用してくれている。まだパーティを組んだばかりの自分を。だからこそ今、こうして一緒に戦っているのだから。
相手が信用してくれているのに自分が相手を信用しなければ連携を取ることも、勝利する事も出来ない
葵だってあの時の零椰の剣技を見て、思ったのだ。零椰なら絶対自分を勝利に導いてくれると。
「あいつの脚を止めれば良いのよね?そのぐらい簡単よ!やってみせるわ」
葵はボルトアクションのライフルに持ち替え、フレアガルーダの脚に狙いを定める。
「葵さんが狙撃したタイミングで俺がフレアガルーダにとどめをさします。」
零椰は葵の隣でタイミングを見計らう。
スコープを覗きながら葵は集中し始める。ここできっちりフレアガルーダの脚に当てるのが自分の役割、零椰を信用する事なのだから
フレアガルーダはこちらに向かって突進して来ている。狙いは右脚
スコープに映るフレアガルーダの姿が徐々に大きくなっていく。
地響きの音と振動が近くなる。右脚、左脚、右脚……
それでも葵は落ち着きながら狙いを定める。
そして―
(……そこ!)
ちょうど右脚が前に出るタイミングで葵はライフルのトリガーを引く、制退器から巨大な炎が迸り、弾丸が放たれた。
怒りで周りへの注意が薄かったフレアガルーダの右脚に弾丸が命中し、転倒する。
「零椰―!」
葵は隣にいた零椰に向かって叫びながらそちらの方を見る。その時にはもう、零椰は転倒したフレアガルーダに肉薄しているのだった。
「うぉぉぉぉっっっ!!」
再びロングソードの核防御壁を起動させながら零椰は剣を振りかぶる。突き、上段斬り、斬りあげ、紫色に光った刀身がフレアガルーダにどんどんダメージを与えていく。
「はぁぁぁぁっっっ!!」
大上段に振り上げ、全てのエネルギーを乗せた一撃、刀身が一層輝きを増しフレアガルーダに叩き付けられ―
それまで暴れ回っていたフレアガルーダがピタリと不自然な体制で止まり、体内から光を放ちながら消滅した。
ロングソードを振り下ろした体制のまま、零椰の動きは止まっていた。
「終わった……のか……?」
まだ実感が沸かない零椰は少々混乱している。
「やったのよ、零椰!あたし達2人でフレアガルーダを倒したんだから!」
こちらに走り寄ってきた葵が零椰にそう言った。
そこでようやく実感が沸いてきた零椰は葵に穏やかな笑みを向けながら
「やりましたね、葵さん」
「そうね……ところで、さっきのロングソードの事も気になるけど、あんた、何であたしの事をずっと葵「さん」って呼ぶの?同じパーティ何だからさん付けなんていらないのに」
いきなりそう聞かれた零椰はまたいつものようにオドオドし始めてしまう。
「えっ、それはその……やっぱり女の人を呼ぶ時って~さんみたいになっちゃいますから……これはしょうがないんじゃ……」
そんな言い訳を零椰がしていると
「これからは葵って、呼び捨てで呼んでよね。いつまでもさん付けじゃパーティなのに他人みたいじゃない、分かった?」
零椰の言い訳を遮り、葵がそう言ってくる。
「わ、分かりました……葵さ……」
「だから葵でしょ!?ちゃんと呼んでよ!」
葵がこちらを睨みながら近付いてくる。零椰は後ずさりながら謝った。
「すっ、すみません!」
「何よ?」
「えっと、その、ゴメン……葵」
零椰が何とか呼び捨てで葵の事を言うと葵は少し顔を赤くしながら
「それで良いのよ、それで」
葵は笑いながら零椰に質問してくる。
「ところでさ零椰、さっきのロングソードは一体……?」
「さっき俺が使っていたロングソードに取り付けた核防御壁ですが……」
零椰が戦利品の整理をしながら説明を始める。そんな2人を遠くからこっそりと様子を伺う人影が1人いた。その人影は小さく呟いた。
「……やっぱりあの人だ……。」
久しぶりの更新です。今回はついに、フレアガルーダとの戦闘に決着が着きました!ロングソードの核防御壁の説明は次回に……入らなかった(´・・`)
少しの間、投稿を休んでおりました。前回のお知らせについてですが、本格的な休載はもう少し先です。今は週一での投稿ですが、先程言いました本格的な休載までの間は週二程の投稿となります。最近は忙しくなって来て書く時間があまり取れません。もう少しの間は週二で頑張って行きたいと思っています。どうかこれからもよろしくお願いします。