「パーティークエスト≪怪鳥討伐≫1」
「オルタナティブ・ブレイク」第1章
「パーティークエスト≪怪鳥討伐≫1」
(ほんとにこいつは不思議な奴ね)
そう思いながら、椅子に座り、珈琲を飲んでいるのは水色の長髪を持つ少女、葵だ。
今、彼女の目の前には、テーブルを挟んで同じように座って珈琲を飲んでいる黒髪の少年がいる。
2人の出会いは偶然だった。狙撃をしていた葵に奇襲を仕掛けたモンスターを倒したのが、機体≪セイバー≫を纏った少年、零椰だった。
零椰の戦闘を見た葵は、そのすば抜けた戦闘のセンスと観察眼に興味を持ち、零椰とコンビを組もうとした。
だが最初からコンビを組めた訳では無く、零椰の固く閉ざしていた心を葵が開き、零椰とコンビを組んだのだった。
こうして2人は零椰が受注していた荷物運びのクエストでツヴァイに行き、クエストを終わらせてチヤの村に戻り、村のカフェで休憩をしていた。
相変わらず零椰は戦闘時以外はオドオドしており、目を合わせて話したりしない。というか零椰から話を振ってこない。
2人の間に気まずい空気が漂う。
せっかくコンビを組んだのだからと思い、葵は自分から話を振ってみた。
「ねぇ零椰、このあとはどうするつもりなの?」
話しかけられた事に驚いた零椰はびくっと身体を震わせて口を開いた。
「えっと、そのこの後の予定について話すのにあなたの……葵さんの機体と俺の機体についてちょっと良いですか」
「あたしと零椰の機体について?何かクエストに関係があるの?」
「はい、これから受けようと思ってるクエストに関係があります」
零椰はそう言うとそのクエストと機体の関係性について説明を始めた
「まず、機体についてですが、葵さんの機体には核防御壁のパーツは付いてますか?」
質問された葵は自らの機体装備を思い出しながら答える。
「いいえ、あたしの機体に核防御壁のパーツは付けていないわ」
「機体に付けていなくても核防御壁がどのような物かはご存知ですよね?」
零椰がまた葵に質問する。
「えぇ。機体のエネルギーを消費して使用する障壁を展開して、特殊武装で受けるダメージを軽減出来るシステムよね?」
「そうです。その核防御壁が今回のクエスト攻略の鍵になります」
葵がふと疑問を覚える。
「ちょっと待って、核防御壁は対特殊武装用でしょ?受けるクエストに真核装機を纏った敵なんかが出てくるの?そんなの聞いた事無いけど」
「いえ、プレイヤーでない限り真核装機は纏う事は出来ません。なのでそうゆう敵は出ませんよ」
その疑問に零椰が答え、説明を続ける。
「核防御壁は特殊武装以外にもモンスターの物理攻撃以外の攻撃、つまりブレス等の範囲攻撃をある程度軽減出来るんです」
「じゃあ、今回受けるクエストのモンスターは範囲攻撃を多用して来るって事なの?」
「確かに今回のモンスターは範囲攻撃を多用して来ますが核防御壁は、防御以外の他の使い方も考えているので」
他の使い方。零椰が口にしたその言葉を聞いた葵は核防御壁の防御以外の使用法を考えてみた。
防御以外に出来そうな事……何があるだろうか?
少し葵は考えてみたが答えは出なかった。目の前の少年は何を考えているのだろう?
「ねぇ、核防御壁の防御以外の使用の仕方って何なの?」
零椰に聞いてみたがその答えは
「防御以外の使用法についてはまたクエストの時に言います。まずは核防御壁を機体に装備する為に武器屋に行きましょう」
とだけ言われてしまった。この答えが出るのはもう少しだけ先の話だ。
□ □ □
カフェを出た2人は、武器屋に向かい核防御壁のパーツを購入し、機体に装備しようとしていた。
核防御壁は小さな四角形の機械で、取り付けてもサブスロットの枠を埋めない為、特殊武装を使うプレイヤーも多いが、特殊武装はエネルギーの消耗が激しいので考えて使わなければならない。
それぞれの機体に核防御壁のパーツの取り付けが終わり、2人は武器屋を出て一旦宿屋に戻った。
「核防御壁は付けた事だし、次はクエストを受注するのよね?」
窓から外を見ていた葵はベットに座っている零椰に話しかける。
「はい、今からクエストを受注しようと思ってます。それで、今回受けるクエストの種類はパーティークエストです」
零椰はメニューウィンドウを開きながら答えた。
クエストには、討伐系や運搬系と言った種類の前に大きくクエストの種類を3種類に分ける事が出来る
1つ目は、1人でも受注する事が出来る「フリークエスト」1人からでも受注出来る簡単なクエストなので、難易度はさほど高くない
2つ目は、2人以上から受注出来る「パーティークエスト」このクエストから受注条件が2人以上のパーティーになるので、難易度はフリークエストより上がっている。さらに、ここからストーリー系の長いクエストも登場するようになる。
最後の3つ目は、ギルド単位からでしか受注出来ない「ギルドクエスト」ギルドは最低でもメンバーを7人は集めなければいけないので、難易度は3つの中で最も高い。
パーティークエストから登場するストーリー系のクエストはメニューウィンドウのクエスト選択欄からでなく、特定の場所にいるNPCに話しかけないといけない。
メニューウィンドウからクエスト選択欄へ行き、パーティークエストの欄の画面を操作していた零椰は操作し終えた画面を葵の方に見せながら今回受けるクエストの詳細を説明する。
「今回のクエストのボスは≪フレアガルーダ≫と言って、名前の通り主に火炎ブレスで攻撃してきます。ブレスの他にも範囲攻撃があるのでその為に核防御壁を付けたわけですが、動きが素早く身体は硬い甲殻が覆っているのでライフルの弾やブレードでも場所によっては弾き返されます」
「つまり、あたしはその甲殻が薄い場所や翼なんかを狙えば良いんでしょう?」
フレアガルーダの特徴を聞いていた葵は自分の役割を考えて答える
葵の機体はスナイパーで、機動力はあるが装甲が薄い為、元から長期戦には不利であり、短期戦で決めるならば攻撃手は機体がセイバーの零椰が務め、自分は零椰の援護で相手の動きを止めたりするのが定石だ。
「はい、今回葵さんにはフレアガルーダの動きを狙撃で止めてもらいたいと思ってます」
零椰も同じように定石を考えていたようで、葵に答える
その後、アイテム等の準備を整えた2人はチヤの村を出てフレアガルーダがいる森へと向かった。
□ □ □
―目の前に振りかざされた爪を回避しながら葵は素早く手にしたサブマシンガンの弾丸をモンスターに叩き込む。
弾丸を撃たれたオオカミ型モンスター≪ランドウルフ≫はそのまま消滅した。葵は少し離れた場所で戦闘をしている零椰の方を見た。
零椰の方も決着が着いたらしくロングソードの斬撃を受けたランドウルフがちょうど消滅していた。
「お疲れ様。零椰の方は大丈夫だった?」
戦闘を終えて構えていたロングソードを下ろした零椰に葵は話しかけた。
「こっちの方は大丈夫でした。葵さんの方は?」
零椰はそれに答えながら、ドロップ品の整理をしている。
「こっちも大丈夫だったわ。耐久力も減ってないし弾丸もまだ余裕だわ」
葵も周囲を警戒しながら、自らが倒したモンスターからドロップした品を確認して整理する事にした。
少し時間を使いドロップ品の整理を終えた2人は森のさらに奥を目指して歩き出した。
□ □ □
あれから更に森の奥に進んでいった2人はついに、フレアガルーダがいる最深部までやって来た。
最深部の少し手前で2人は一旦止まって装備、作戦の確認をする。
「基本的にはあたしがフレアガルーダの動きを止めて、その隙に零椰が接近戦でダメージを与える。これで間違ってないわよね?」
「そうですね。でも近づき過ぎるとフレアガルーダは身体に火炎を纏っているので遠距離型の葵さんが接近したら、火炎のダメージで耐久力が削れて他の攻撃をくらってしまったら危ないので気を付けて下さい」
零椰は葵にフレアガルーダの特性を伝えて注意するように言った。
「分かったわ。
でも前に話した時も言ってたけど今回の敵の身体は硬い甲殻に覆われている部分が多くて攻撃を当てにくいんでしょ?だったらあたしが狙撃で甲殻が薄い場所を狙う方が良いんじゃないの?」
葵はあの時は定石を考えたが、今考え直してみると遠距離・近距離型のどちらにせよ攻撃が甲殻に防がれてしまう。さらに、相手は飛んで移動し攻撃する鳥型モンスターだ。機体の性能で考えれば、機動力のある遠距離型の方で攻撃をした方がより当てられるのではないかと思ったからだ。
そんな葵の疑問を聞いた零椰は今回の作戦を立てた理由を答え始めた。
「確かに、機体の性能で考えれば機動力があるのは遠距離型のスナイパーの方です。今回のボスのフレアガルーダの素早い移動と攻撃を回避しながら甲殻の薄い場所に攻撃を当てるならばスナイパーが良いでしょう。しかし」
零椰はそこで一旦言葉を区切り、機体に装備されているロングソードを取り出し、葵の方に向けて見せる。
「葵さん、俺達が武器屋で核防御壁のパーツを買いましたよね?」
「えぇ、確かにあの時、武器屋で核防御壁を買って機体に取り付けたじゃない」
もっともな質問に葵は思い出しながら答える。
「実はあの時、俺は核防御壁のパーツを2つ買って1つを機体に、もう1つはこのロングソードに取り付けてあります」
「えっ……?」
いきなり零椰から言われた言葉を聞いて驚いた葵は目を見開いた。
確かにあの時、核防御壁のパーツを買って機体に取り付けた。零椰が2つ買った事にあたしは気づかなかった……?
「どうゆう事?あの時、零椰はパーツを1つしか持って無かったはず。いつ、もう1つのパーツを買ったの?それに核防御壁は本来防御用のパーツ。武装なんかに取り付けて一体どうやって使うのよ?」
零椰はロングソードをしまいながら葵に
「俺は言いましたよね?核防御壁が攻略の鍵になると」
葵はこくりと頷く
「あのロングソードに取り付けてあった核防御壁がフレアガルーダを攻略する鍵です」
葵の頭の中はちょっとした混乱が起きていた
「本当に……あの核防御壁付きのロングソードでフレアガルーダの甲殻に対抗出来るの?」
「はい、これでフレアガルーダを倒そうと思ってます。説明するより実際に使って見せた方が分かりやすいので行きましょう葵さん」
そう言って零椰は最深部に入ろうと歩き出す。
だが、葵は踏み出せないでいた。まだ葵の中には不安が残っていた。本当にフレアガルーダを倒せるのかと……
「葵さん」
いきなり呼ばれたのでびっくりしながら零椰の方を見る。
すると零椰は真っ直ぐにこちらの瞳を見て
「俺を信じて下さい」
そう言った零椰の瞳の中には、戦闘の時と同じような力強い光が灯っていた。
トクン……その力強い瞳を見た葵は胸が少し高まった。自分の頬が熱くなるのを感じる。
「葵さん?」
再び名前を呼ばれた葵は慌てて顔を見られまいと背ける。零椰はそれには気づいておらず不思議そうにこちらを見ている。
深呼吸をして落ち着いた葵は零椰の方を見て
「分かったわ。零椰、あたしはあんたを信じる。だから絶対にフレアガルーダを倒すわよ!」
「はい!」
零椰も小さく笑って答えた。
2人は頷き合い、最深部へと踏み込んでいった。
今回はクエストに挑む準備、移動までのお話でした。
次回はフレアガルーダとの戦闘回です!
零椰はどのように核防御壁を使い、攻略するのか……
今回の投稿を最後にしばらくの間、投稿をお休みします。投稿の再開はまたお知らせします。