「状況」
「オルタナティブ・ブレイク」第1章 「状況」
窓から射し込む朝の陽射しが部屋の中を照らす。
――6月11日 午前8時30分
ベットで寝ていた俺は、自然と目を覚ました。
……あれは夢じゃ無いか……。
自分が寝ていたベットが自宅の部屋にあるのと違うのを確認し、身体を起こしつつ、俺はそう思った。
メニューウィンドウを開き、昨日送られてきたあのメールの文章にもう一度目を通す。
やはり、このゲームを攻略しなければ、脱出は出来ないのだ。その証拠に昨日、メールが届く前までメニュータブの一番下にあったログアウトボタンが無くなっている。
そして昨日の出来事を思い出す――
□ □ □
昨日、あの悪夢のようなメールがプレイヤー全員に届き、皆が死ぬ事に恐怖し、脱出出来ない状況に絶望した。
俺もその中の1人だ。部屋の中でメールを読み、死ぬのが怖くなりしばらく動けなかった。
死にたくない。そう思うだけなら部屋から一歩も外に出ずに、ただひたすらこのゲームがクリアされるのを待っていれば良かった。
だが、俺は死ぬ恐怖と戦いながら必死に考えた。生き残る為にはどうするべきか?と。
考えた末俺は昨日、街を出た。
昨日、出た街≪スカイレイ≫は7つあるフィールドの中でも最も栄えており、プレイヤーも多い。そして、ある1つの大きなギルドの活動拠点でもある。
何故、俺が≪スカイレイ≫を出たか、その理由、そして俺自身の状況と今現在のゲーム全体の状況を説明しつつ整理しよう。
まず、ゲーム全体の状況から。
昨日、このゲーム「オルタナティブ・ブレイク」に閉じ込められたプレイヤーの総人数は1万人。
閉じ込められて1日がたった現在。
昨日で2000人のプレイヤーが命を落とし、死亡となっている。
メニューウィンドウの下の部分には親切に、8000/10000と残りのプレイヤーの総数が表示されている。
残りの生存者は8000人。その半数の4000人は3大勢力の内、どこかに所属している。
3大勢力というのは、このゲームに前から存在している3つの大きなギルドの事だ。
まず1つ目のギルドは≪小星の剣≫ 「オルタナティブ・ブレイク」が稼働してすぐに出来たギルドだ。
ギルドマスターは剣崎という優しく頼りがいのある男でメンバーから慕われている。
使用機体はセイバー
最古参のギルドだけあって、構成人数、資金は3つのギルドの中でトップを誇っている。
活動拠点は昨日、俺がいた街≪スカイレイ≫に本部を置いている。
2つ目のギルドは≪零度の狼≫ アスタブレイドが出来た少し後に設立したギルドであり、構成人数、資金は二番目となっている。
ギルドマスターは、神坂という女性でどんな時でも慌てない冷静沈着なマスターとして知られている。使用機体はランサー
活動拠点は≪ザイチク≫という街に本部を置いている。
3つ目のギルドは≪太陽の光子≫は3大勢力の中では1番新しく出来たギルドであり、構成人数、資金はまだ少ないが、他の2つのギルドに負けないスピードでギルドを大きくしている。
ギルドマスターは朝日奈という女性で、マスターとしてはまだ未熟だが明るく元気に頑張っている。使用機体はスナイパー
活動拠点は≪カラスナ≫という街に本部を置いている。
この3つのギルドはそれぞれ競うように攻略を進めていたが、昨日のデスゲームの開始を知らせるメールがプレイヤー全員に届き、メールを読んだ各マスター達は集まり、緊急の幹部会議を開き現状と今後の方針について話し合った。
その結果、ギルド間の垣根を越えて協力してゲームクリアを目指そうという事になった。
次に、3大勢力に属さない他のプレイヤーについて
3大勢力のどこにも所属してない場合、プレイヤーは2つに分かれる
1つ目は小・中規模ギルドを作ったり、所属しているプレイヤー。
これは、そのままの意味で自分達でギルドを作り、メンバーを集めて、活動している。
2つ目はどのギルドにも属さないソロプレイヤー。
1人が好きや、ソロの方が効率的などの理由で、ソロを好むプレイヤーもいる。俺もその中の1人だ。ギルドはどうしても合わない。
さらに、もう一つ分類が存在する。
それは、≪PK≫すなわちプレイヤーキル。昨日、死亡した者の何割かは、PKプレイヤーの手によって殺されている。
何故、他にプレイヤーを殺すのかは分からない。脱出する為なのかあるいは、他に理由があるのか……
この部類のプレイヤーは現在、700人程確認されている。PKプレイヤーが増えずに減らしていくのが今後の課題の一つだ。
以上が、ゲームに閉じ込められたプレイヤー全員の割り振りだ。
そして、俺自身の状況の整理と昨日街を出た理由について。
俺の名前は綿月零椰。16歳、高校2年。現実世界では上手くいっていないぼっちだ。
このゲームではソロプレイヤーであり、使用機体はセイバー
俺は昨日、いつも通りこの「オルタナティブ・ブレイク」にログインし、そして閉じ込められた。
今、俺がいる場所は街から東の方に行き、さらにその先にある細い道をしばらく歩いた所にある小さな村、名前は≪チヤの村≫
この村はマップに表示されず、この村を知っているプレイヤーも限られてる。
俺がこの村に来た理由は幾つかあるがまず、資材と資金を効率的集める為だ。
全てのプレイヤーの機体・武装が初期状態に戻ってしまった現在の状況で皆、最初は自分の機体・武装を強化しようとするだろう。
その場合、フィールドはプレイヤーでいっぱいになり、モンスターの取り合いが始まってしまう。ギルドは協力すると言ったが、それはあくまでもゲームクリアをする為であり、全てに置いて協力するとは言ってないからだ。
3大勢力程の大きなギルドならば運営資金、資材からギルドメンバーに資材と資金を少しずつ分配する事が出来るだろうが、他のギルドはそうは行かない
もしそんな事をしたら、そのギルドは運営が難しくなってしまうからだ。
≪スカイレイ≫は、さっき言ったように最も栄えている街なので、かなりの数のプレイヤーがいるのだ
≪スカイレイ≫をはじめとする他の街の外にあるフィールドも、プレイヤーが殺到するだろう。そうなると全員が資材や資金を集めるのが難しくなる。
故に俺は、このあまり知られておらず、ソロプレイで効率的に戦闘が可能で村に必要な店が揃っているこの村を選んだ訳だ。
□ □ □
昨日、俺は街を出てこの村に来て宿屋を取るとそのまま寝てしまった。
そして、今日の朝こうして目を覚まし、メニューウィンドウを見ていた所である。
2階の部屋から1階の食堂がある場所に行き、黒パンとスープの朝食を取りながら、今後の予定を考えていた。
しばらくは、この村を拠点として幾つかクエストをこなし、強化に必要な資材と資金を集める。
機体・武装の強化を終えたら、武装を1つ追加する予定。
それと、回復アイテム等のアイテムも少しずつ買い揃えておく。
ソロプレイなので、効率的に行きたいが、生き残るのが最優先事項だ。周りへの警戒は怠らないようにしなければならない。
この周辺に出現するモンスターは、大体記憶しているし、下級モンスターばかりだが、もう一度、周辺のフィールドを確かめ、危険な場所などの確認はしておくべきだろう。
今、このゲームは本物の命を掛けた状況なのだから
今後の予定を考え、朝食を食べ終えた俺は部屋に戻り、メニューウィンドウのクエスト選択欄を見ていた。
先程考えた通り、まずは簡単なクエストで資材と資金を集める。その為に、今クエストを探している所だ。
今はまだ機体も武装も強化してないので、慎重にクエストを選ばなければ、今の状態だと下級モンスターでも囲まれてしまえばかなり危険だ。
俺は、特定のモンスターを何体か討伐するクエストを選んだ。
今回、選んだクエストの標的のモンスターは、≪ヘリオトローズ≫という下級の植物型モンスターだ。
準備を整えた俺は、村の外へ向かい、歩き出した。
□ □ □
緑色の太いツルが、俺に向かって鋭く振り下ろされる。
それを左に飛んでかわし、目の前にあるツル目掛けてロングソードで斬り付ける。
見事にツルに命中したソードは、そのまま片方のツルを切断する。
片方のツルを斬られたヘリオトローズは怒り狂い、その大きな口から溶解液をこちらに向かって発射しようとしている。
溶解液の射程は4メートルとなかなかの距離がある為、後ろに下がっただけでは喰らってしまう恐れがある。
俺は、溶解液の発射のタイミングを見計らい、今度は右方向に飛んでかわす。
溶解液を発射した直後はすぐに動けないので、その隙に素早く接近し、連続して胴体を斬りつけた。
体力を削り取られたヘリオトローズは消滅した。
周囲を確認し、他にモンスターがいない事を確かめてから俺は村に戻る。
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一度村に戻り、休憩を取った俺はその後幾つかのクエストをこなしていった。
クエストを終え、強化に必要な資材と資金が溜まったので武器屋に行き、機体を2段階、武装を1段階強化して新しく副武装に拳銃を1丁購入し追加した
そしてまたクエストをこなし、入手した資金で消耗した回復アイテムを補充する
そんな事をしている内に辺りは暗くなり、時間帯もすっかり夜になった頃、今日の予定を終えた俺は宿屋に戻り夕食を食べ、部屋に戻るとすぐにベットに横になり1日の疲れを癒す様に寝りに入る。
先程、確認はしたがまだこの村に俺以外のプレイヤーはいない様だ。ここまで来るとしたら、単独行動では危険だからだろう。
ギルドもまだ本格的な攻略には出てないらしく、こちらも見かけなかった。
明日からは、3大勢力を中心に少しずつ攻略が始まるだろう。
幾つかのダンジョンを捜索し、しばらくしてからボスの居場所が分かる事だろう。
このゲームのボスはランダム配置となっており、どのダンジョン内にいるかは誰にも分からないからだ
そう簡単に見つかりはしない
俺はまだこの村を拠点に活動する事にしている。攻略に参加するのはもう少し先になるかも知れない。
こうして、1日目が終わりを告げた。
第1章がスタートしました。序章は1部ずつの文章が短かったので
1章からより長く文章を書くようにしています。前の投稿から時間がたってしまいました。すみません
これからの投稿ですが、4月から忙しくなるのでかなり間が空いたりする場合が出てきます。その時はご了承ください。
投稿は出来れば週2が理想ですが、それが出来ないので頑張って週1で投稿したいと考えております。