「激突!影の剣と小星の剣!中編」
「オルタナティブ・ブレイク」第1章
「激突!影の剣と小星の剣!中編」
―6月16日 午前8時26分
≪チヤの村≫の一角、宿屋の横にある開けたスペースで瑠華は朝の稽古を行っていた。街や村の中では機体に搭載している武器は使えないので稽古の時は木剣を使っている。機体制御などの機体を使っての練習をする時はフィールドに出なければならないが、フィールドには練習をするのに良い場所が幾つか存在し、その場所には上級モンスターは出現せずにもし出現しても下級に分類されるモンスターが2~3匹出現する程度であり、対処もそれほど難しくない。
木剣を握り、瑠華は構えた。基本の型から始まり次に基本の型に技を混ぜての混合の型、そして複数の技を混ぜた連続技と瑠華はこなしていった。
一通り型や素振りなどの朝の稽古を終えた瑠華は、隅に置いておいたタオルを手に取り汗を拭いていき、そして水筒を取り水を飲む。ひんやりとした水が瑠華の渇いていた喉を潤す。瑠華がそうして休憩を取っているとそこに1人の少女が歩いて来た。
朝日を浴びて艶やかに輝く水色の長髪、力強い瞳を持った少女、葵が瑠華の方へと歩いて来た。葵の手にもタオルが持たれておりどうやら葵も朝から何か練習をしていたらしい。
瑠華は歩いて来た葵に挨拶をした。
「おはようございます。葵」
葵も瑠華に朝の挨拶をした。
「おはよう。瑠華、朝から稽古?」
「はい。基本の型と幾つか技の練習を。そうゆう葵の方も何か練習をやっていたんですか?」
「えぇ。元々あたしはスナイパーだから銃しか使ってなかったけど最近は遠距離戦だけでこれまでは戦ってきたけど近距離戦も少しは出来たらまた変わるかなって思ってね。今はこれを使って練習してるの」
そう言って葵が取り出したのは近距離戦用のダガーだ。これも練習用なので木製である。
「流石にロングソードとかは無理だけど、これなら銃を持ってても邪魔にならずに素早く取り出して使えるし」
それを見た瑠華は自らの木剣と葵の持っているダガーを見比べながら
「ダガーですか……あたしは元から機体がセイバーなのでずっと長剣を使ってますから実際に短剣の部類は使った事はありませんね。やはり長剣に慣れきっているという事もありますが」
「まぁ、近距離戦だと基本は長剣か槍を持っているプレイヤーが多いし……そういえば零椰は?」
「零椰ならここから少し離れた場所でバスタードソードの練習をしていますよ。あたしが起きる時にはもう部屋にはいなかったみたいですし」
「そう、ありがと。零椰の所に行ってダガーでの戦い方についてちょっと教わって来ようと思うわ」
「はい。葵、頑張ってください」
「瑠華の方もね」
互いに挨拶を交わし、葵は零椰が練習をしている場所がある方に歩き出した。
□ □ □
瑠華が朝の稽古をしていた場所から少し離れた森に近い場所で零椰は1人静かにバスタードソードを構え、集中していた。勿論このバスタードソードも木製であるが、ロングソードに比べ刀身が少しばかり長く、重さも増している。そのため片手では扱えず、両手で持つ必要がある。
「……」
両眼を閉じ、呼吸を整える。風が吹き、零椰の頭上に木の葉が1枚落ちて来る。更に木の葉は落ちていき零椰の胸の高さまで来たその瞬間―
「……はっ!」
零椰はバスタードソードを横に一閃させた。 落ちてきていた木の葉は綺麗に真っ二つに斬れていた。零椰はそのままバスタードソードを振るった。上段、斬りあげ、突き、薙ぎ払いと一通り振るい次に動作を繋げて振るう。
バスタードソードが様々な軌道を描きながら振るわれる。剣先から鋭い風が起こり、木の葉が飛ぶ。最後に上段斬りを決めて零椰はバスタードソードを下ろした。
「ふぅ……」
基本動作を振り終わった零椰は休憩をとる事にした。持ってきた水筒とタオルを手に手頃な木陰に腰を下ろした。休憩を取りながら零椰は昨日の剣崎の事について考えていた。
「オルタナティブ・ブレイク」最古参にして最強のギルド≪小星の剣≫。そのギルドマスター剣崎朔夜。何故彼が今このタイミングで来たのか?それについてはすぐに考えられる。≪レーガス≫での瑠華との決闘の際、離れた場所にいた≪小星の剣≫所属のメンバーに見つかっていたのだろう。これは狙った訳では無くたまたまだったのだろう。そして零椰が自分の真核装機を展開したのを見て、剣崎に連絡を入れたものだと思われる。影剣の情報を流したのも剣崎の指示だろう。だから他のギルドやプレイヤーに影剣の情報が広がったのだ。
剣崎がこちらに接触して来たのは彼が言った通り強力な戦力として勧誘をしに来た。これは間違いないだろう。だが何故零椰が剣崎と決闘をしなければならない?影剣の情報は稼動初期から色々な所で噂となっていた。ならば零椰の技量は剣崎ならば大体の検討はつく筈なのだが……。自分の目で確かめたいのか?それならば先に幹部プレイヤーと戦わせてこちらを分析した上で決闘を申し込んでくると思っていたが……何か他に狙いが……。
そこまで考えた時、誰かがこちらに接近してくるのを感じた零椰は少し警戒し、いつでもバスタードソードを構えられるようにした。木製だが相手を気絶させる程度は可能だろう。そう考えながら零椰は接近する気配のある方へと視線を向ける。もしかしたら剣崎の部下の可能性もある。決闘前にこちらを捕らえ拘束する。街や村の中では決闘以外ではダメージを与える事は出来たいためフィールドに出ているのを狙うとしたら自分達もモンスターの対処をしなければならない。だが街や村の中で奇襲し拘束する方がモンスターの対処も無く成功する可能性は高い。
零椰の視線の先に人影が映った。相手を確認しようとしてこちらに近付いてくるのが誰か分かった零椰は警戒を解き、バスタードソードを少し構えた状態から片手に持ち替える。そして相手に対して零椰は挨拶をした。
「おはようございます、葵」
零椰が挨拶をすると葵は笑顔で答えてくれた。
「おはよう、零椰。瑠華に聞いたんだけど朝から練習してたんだって?練習にバスタードソードを使っていたみたいだけどそれが剣崎攻略の鍵になるの?」
「鍵って程じゃないですが確かにこのバスタードソードは剣崎相手に少しでも勝算が上がるようにと考えてこうやって今、練習していたんですけど」
「零椰って剣は大体使った事があると思ってけどそうじゃないの?」
使用機体がセイバー、更にあの影剣ならば剣類は一通り使用した事があると葵は思っていた。独学で編みだした強力な剣技を使う零椰なのだから様々な剣を使いこなしていると。
「俺が使える剣類は実はロングソードだけなんですよ。銃器類と槍類は銃はまぁまぁ扱えますが槍は使った事が無いので無理です。本当なら剣類だけでも一通り使えるようにしておけば状況に合わせて変えたり出来るんですけどね……」
それを聞いた葵は意外そうな顔をして
「零椰って銃器類も扱えたんだ……剣類もロングソードだけってのは意外だったわ」
「でも銃器類も拳銃やアサルトライフルだけでスナイパーとかは無理ですよ。それにしても葵がこの時間帯に訪ねて来るなんて珍しいですね。何かありましたか?」
零椰が葵にそう聞いてきたのでうっかり話し込んでしまい忘れてしまう所だった用件を零椰に伝える。
「零椰、あたしって今まで銃器類しか使ってなかったでしょ?」
「機体がスナイパーですからね」
「これからの事を考えて接近戦にも少しでも対応が出来るようにしたいと思ってロングソードとかバスタードソードは無理だけどダガーなら使えると思ってね。それで零椰に接近戦について色々教えて貰いたくてね」
そう言いながら瑠華にも見せた木製のダガーを取り出して零椰に渡す。
受け取った零椰はダガーを見ながらその特徴について説明をしてくれた。
「ダガーはロングソードやバスタードソードと違って小さく軽いです。剣類を扱った事が無いプレイヤーが扱えるようになろうとするのには良い選択です。ダガーなどの短剣類は斬る事より突き刺す事や投擲などに向いている武器であり、他の剣類と違い遠距離からの攻撃も可能になっています。その場合、投擲用に数本のダガーを必要になります。ですがダガーは攻撃力が低く、決定打にはなりにくいです。ダガーなどの使い方としては他の武器に織り交ぜて使う事です。機体の隙間を狙って突き刺すという戦法もありますね。素早く振れる事が出来るので手数を稼ぐ方法なんかも使うプレイヤーはいますね」
すらすらと零椰がダガーについての説明をしていく。やはり戦闘や武器の使用方法などになると人が変わったように喋るな……説明を聞きながらそう思う葵だった。
「それで葵のような遠距離主体のプレイヤーがダガー等の接近戦を使おうと思うなら最初は銃器類の遠距離攻撃で近づいてダガーで攻撃する。という感じになりますね」
「流石にいきなりダガーで攻撃なんて事は無いわよね。それじゃ相手も銃器類を装備していて使ってきたら近づけないし、耐久力がもたない。だからダガーは単品では使わないって事ね」
「そういう事です。それじゃあ早速、まずは素振りからいきましょう」
「分かったわ。よろしくね」
□ □ □
葵が零椰にダガーを織り交ぜた戦法を教わっている頃、≪スカイレイ≫の≪小星の剣≫本部では剣崎が影剣についての情報を集めて対策を考えていた。
「やはり影剣に関しての情報はあまり無いか……まぁ、彼の目撃情報すらかなり少ないのだからどのような戦法を使っていたなんて分かるはずは無いな」
部下に頼み、出来る限り影剣についての情報を集めて貰ったがやはり戦法、弱点などについては全く分からない状態である。情報が書かれた資料を机に置き、剣崎は脇の方に置いていたコーヒーを1口飲んだ。
「実際に彼に会ってみたが、やはり噂通り只者では無い事は確かだった。だが、こちらはあちらの機体のデータを持っている。あちらはこちらの機体のデータは持っていない。ここから何か突破口を見つけ出せるか……?」
先程まで見ていた資料とは、別に影剣を発見した時に機体のデータを取らせておいた資料に手を伸ばす。完全では無いがそれなりに情報は揃っているだろう。そう思い剣崎は目を通し始めた。
(……ん?)
機体のデータ資料を読んでいくうちに剣崎はある1つの策を思い付く。
「これならば……」
そう思いながら剣崎はその策に必要な準備を考え始めた。
皆様、お久しぶりです。作者です。テストがようやく終わり何とか投稿する事が出来ました……。本当なら今回で剣崎との手合わせを書く予定でしたが、思った以上に前部分が長くなり急遽中編という形にしました。次回こそはちゃんと剣崎との決着を書きます。また、投稿を暫くお休みするかもしれません。理由はこれからが一番忙しくなる時期だからです。後編まで投稿してからお休みにしたかったのですが正直な所、分かりません。なので後編を投稿はかなり遅れるかもしれませんがよろしくお願いします。それではまた次回!