「加速する世界 ~スピードアップ・ザ・ワールド~」
「オルタナティブ・ブレイク」第1章
「加速する世界 ~スピードアップ・ザ・ワールド~」
漆黒のセイバーの真核装機、使う武器はロングソード1本。戦い方はこれまでに見た事の無いような戦いをする。そのプレイヤーは窮地に陥っている他のプレイヤーを助けてくれる。
だが、誰もそのプレイヤーの姿をきちんと見た者はいない。故に幻ではないかとも言われてきた。助けた後、そのプレイヤーは何も言わず、襲わず、奪わずに去って行く。影から影へと移りながら戦う剣士。人はそのプレイヤーをこう呼んだ。
影剣と―
―6月14日午前11時20分
影剣の情報が各3大勢力に伝えられる少し前、零椰と葵、そして瑠華の3人は決闘した≪レーガス≫の街から移動し、≪スカイレイ≫の街に戻って来ていた。
零椰と葵は、瑠華を自分達が泊まっている宿屋に一緒に来ないかと誘った。瑠華はその誘いを受け、一緒に行く事を決めた。
瑠華が取れた部屋が2人が泊まっている部屋から少し離れた場所になったが、瑠華が話したいとこちらの部屋に来てくれたので葵の部屋に3人は集まった。
まずは改めて零椰と葵の2人が瑠華に自己紹介をする。
「俺の名前は綿月零椰。17歳、使っている機体は分かってると思うけどセイバーを使っている」
零椰が終わると次は葵が自己紹介を始めた。
「次はあたしね。あたしの名前は神崎葵。あたしも17歳、使っている機体はスナイパー。零椰とはモンスターの奇襲から守ってくれて以来、一緒に行動するようになったわ」
2人がそれぞれ自己紹介を終えると、次は瑠華が自己紹介を2人に向き直って始めた。
「あたしの名前は優木瑠華。17歳で使っている機体は零椰と同じセイバー。影剣を知ってからは影剣を決闘で倒すのが目標だったけど、今は少しでも零椰に追いつきたいと思ってる」
瑠華が2人に自己紹介をしている時、零椰は瑠華と決闘をした時に思った疑問があり、聞いてみようと思っていた。
「瑠華、俺は君と決闘をした時に感じたんだけど、瑠華の使う剣技は何か流派の物だったりする?」
零椰が思った疑問、それは瑠華が使う剣技は零椰のような独学の剣技では無く、何か流派の物ではないかという事だ。あの時見た剣技は一つの流れる型のように見えた。
零椰がそう聞くと、瑠華は驚いた様子で答えてくれた。
「確かにあたしが使っている剣技は流派の物だけど……あの決闘の時に分かったの?」
そう聞かれた零椰は頷きながら
「決闘の時の瑠華の剣筋を見て分かった。あれは多分、一つの型の流れだと思った。だからあの時全てを見切って回避出来たんだ」
零椰が説明すると瑠華は更に驚いた。剣筋から何かの流派であるという事だけで無く、あれが一つの型である事すらも零椰は見抜いていた。
そして葵と瑠華はこう思った。この少年は侮れないと。たった1回の決闘で剣筋を見ただけでここまで見抜くその恐るべき観察眼。さすがは影剣であると。
「ねぇ、零椰が瑠華の使った剣技は流派の物だって見抜いたけど、どんな流派なの?」
葵は零椰が見抜いた説明をした時から聞きかった質問をした。
葵が質問すると瑠華は答えてくれた。
「まずはお2人に質問しますが、流派がどのような物なのかはご存知ですか?」
瑠華に質問された2人は少し考えて、それぞれ口にした。
「えぇっと……流派は……何か一つの技を磨く物……?」
先に言ったのは葵だ。次に零椰が
「技術を磨く物であり、それぞれ流派がある物……だったけな……」
2人の答えを聞いた瑠華は流派について説明を始めた。
「お2人が言った事も合っています。もう少し詳しく説明をすると、流派―それは、それぞれ異なる流儀を継承する集団であって、流儀、すなわち、ひとつの様式化された技術や技能を、家元・宗家などを頂点として継承する物であるんです」
瑠華が流派について説明をすると、葵と零椰はそれぞれ頷きながら感心した。
「瑠華の家の流派の名前は?」
まだ名前を聞いていなかったので零椰は気になり聞いた
「あたしの家の流派の名前は迅風心月優木流っていう名前で、主に剣術と抜刀術の2つの技があります」
剣術と抜刀術……今まで剣はゲーム内でしか握って振った事は無いが、流派の物と聞くと零椰はとても興味があった。
「じゃあ、決闘の時に見たあれはどんな剣技?」
瑠華は快く答えてくれて
「あれはもう剣を抜いていたから抜刀術では無くて、剣技を2つ組み合わせた連続剣技なんだけど……」
葵も興味があるらしく、零椰と一緒になって熱心に瑠華の説明を聞いていた。
こうして3人は時間を忘れて、話し込んだ……
―外から鳥のさえずりが聞こえて来て、窓から一筋の朝日が零椰の顔を照らした。
「うーん……」
朝日の眩しさで零椰は目を覚ました。だが、起きたと言ってもまだ半覚醒状態であり、完全に目覚めた訳では無い。
もう少し寝たいと思い、右に寝返りを打った時だった。
零椰の目と鼻の先に綺麗な水色の長髪の美少女が眠っていた。
「うぅん……」
まだ目覚めてはいないのか両目は閉じられており、長く綺麗なまつげが見える。零椰は一瞬、その可愛らしい葵の寝顔に見とれてしまった。
次の瞬間、零椰の眠気は吹き飛び頭の中がパニック状態になった。
(な、何で葵が隣に!?)
葵を起こしてしまわないようにしなければ、そう思い落ち着こうとして葵の顔を見えないようにするため反対側を向き―
再び零椰は固まった。葵の逆、左の方にいたのは桜色の髪を肩口で揃えた少女、瑠華が眠っていた。こちらも眠っているようで可愛らしい寝顔が見える。
右には葵、左には瑠華、左右を美少女に挟まれた零椰は混乱した。何故、自分がこのような状態になったのかを必死に思い出す。
(確か、昨日は瑠華を宿屋に連れて来て、それから瑠華の部屋を取って葵と瑠華と俺の3人で話をしてたんだよな……場所は葵の部屋だったな……えっと、それから……あれ?)
昨日の事を思い出して行くうちに零椰は一つの結論に至る。
(もしかして昨日、葵と一緒に熱心に瑠華の流派の話を聞いていたから時間を忘れて……ここまでしか覚えてないという事は……ここは葵の部屋って事!?じゃあつまり俺は―)
葵の部屋のベットで2人に挟まれて寝ていたという事になる。
(で、でも昨日の記憶が話の場所から無いって事は2人も意図して寝た筈じゃ無いから、これはちょっとしたハプニングだ。うん、そうだ。)
零椰はそう結論づけて自らを納得させた。
とりあえずまずはこの状況から脱出しないと……そう思い、ベットから起き上がろうと2人に当たらないように手をついて立ち上がろうと―
確かに零椰は2人に手が当たらないようにした筈だった。だが今、零椰の手のひらには、むにゅという感触が伝わって来ている。
恐る恐る零椰がそちらを見ると、ちょうど手をつこうとした場所に寝返りを打った葵の胸に自分の手があった。丁度良い大きさ、程よい弾力、温かく女性特有の甘い香りが零椰の鼻腔をくすぐる。すぐに手を離す事は出来ず、少しの間その弾力を楽しんでしまった零椰がいた。
「……うぅん……」
寝ている葵から悩ましげな声が聞こえてきた。その声で零椰ははっと我に返り、慌てて手を離した。
葵が起きていない事を確認して、今度は手を置く位置に気をつけながらベットから降りた。
2人に気付かれる事無く無事にベットを降りた零椰は≪メニュー・ウィンドウ≫を開いた。クエスト欄を開く前に零椰はニュースが載っているページを開いた。
このニュース欄には、様々な情報が掲載されており最初のページにはトップを飾る記事が載っており、零椰はいつも朝起きたら見るのが習慣になっている。
トップニュースの記事を読もうと零椰は目を落として―
そして、目を見開き固まってしまった。
その記事を見た次の瞬間、零椰はベットの方へと早歩きで行き、まだ寝ている葵と瑠華の2人を起こした。
「葵、瑠華、大変です!早く起きて下さい!」
思っていた以上に大きな声が出ていたようですぐに2人は起きた。
「朝からそんな大声出して一体どうしたのよ……」
目を擦りながら葵が零椰に聞いてきた。
「そうですよ零椰……」
のっそりと身を起こした瑠華もそう聞いていた。
2人に零椰は先程見たニュース欄のトップ記事を見せた。≪メニュー・ウィンドウ≫を2人の前に持っていき、それぞれがその記事を見た瞬間、2人は表情は凍りついた。その記事のタイトルは―
幻では無かった!影剣ついに発見!
「何で……」
零椰はそう呟いた。今までこの最悪の状況にならないようにして来た筈だった。一体どこからこの情報が……。
更に読み進めると情報が流出した原因は≪レーガス≫での瑠華との決闘である事が分かり、最初にその情報を入手したのは3大勢力の≪小星の剣≫である事も判明した。
「ごめんなさい……」
突然瑠華が零椰に謝ってきた。
「あたしが≪レーガス≫で決闘なんてしなければ……こんな事にはならなかった筈なのに……」
俯き、瑠華は落ち込んだ様子でそう言った。
葵と零椰は瑠華を慰めた。
「瑠華、君が謝る事じゃ無いよ。こうゆう状況にはいつかなるだろうって思ってたから、だから瑠華は何も悪くないよ」
「そうよ、零椰の言う通りだわ。あそこでそんな誰かが見ているなんて思わなかったから」
2人が慰めたからか、瑠華は少し気が楽になったように見えた。
「ありがとうございます……葵、零椰……」
「それで、どうするの零椰?記事にはあたし達の名前は載ってはいないから、すぐに場所を特定される事は無いと思うけど……」
落ち込んでいる場合では無いと葵が今からの行動をどうするかを零椰に聞いてきた。
それを聞いた零椰もすぐに頭を切り替え、考え始めた。
目を閉じ、少し考えた後、零椰はニュース記事を指しながら説明をし始めた。
「この記事には俺たちの名前は載ってはいませんが、多分、もう俺たちの名前は知られていると考えるべきでしょう。情報を入手したのが3大勢力……ましてあの≪小星の剣≫ですからね……。でも、名前を特定しているのは3大勢力だけだと思います。どのギルドにも知られてしまったら、勧誘するのが大変になってしまいますから」
「勧誘って……」
「自分の力がそんなに大きいものだとは思わないんですが、3大勢力は影剣としての力を欲しがってますから……。でも名前も時間と共に少しずつ広まっていくでしょう。そしたら大変な事になってしまいます」
「どうするの、零椰……」
葵と瑠華が零椰の方を見て、答えを待っている。
「今すぐにこの事態を収める事は出来ないでしょう。だからまず、状況を整理してから対応を考えようと思います。でも、ここに居るのはまずいと思うので移動します」
零椰の考えに葵も賛成を様子で
「そうね、≪スカイレイ≫は最大の都市だし、移動しておいた方が良いわね。零椰、ここからどこに移動するの?」
「俺が最初にいた≪チヤの村≫に行こうと思います」
「分かったわ……瑠華も大丈夫?」
今まで黙っていた瑠華はいきなり振られたが、話は聞いていたようですぐに答えた。
「うん、大丈夫。あたしも何か役に立つように頑張るから」
「よし……他のプレイヤーに見つからないようにする為の準備をして、移動を開始しよう」
3人は準備を整え、≪スカイレイ≫を出発した。だが、すぐに問題は発生する……
出発した零椰たちを少し離れた場所から見ている人影が2つあった。
「……あれが影剣とその仲間か……」
「間違いありません。どこか他の街に移動するようですね……追跡しますか?」
「勿論だ。だが、勧誘は俺が出る。何せ相手はあの影剣だからな……」
そう言いながらその人影は遠くにいる零椰たちの背中を見つめた。その斜め後ろに控えている人影は返事をした。
「了解しました。剣崎さん」
皆様、こんにちはこんばんは。作者です。
今回のお話は前回のお話から少し時間を遡った零椰たちサイドのお話です!零椰たちは一体どうなるのか、そして、剣崎は……?
ついに、夏休み入りました……!朝の起床時間がいつもより遅くなっております……リズムは崩さないように頑張ります。それではまた次回!