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【サモナー】罹患の冬

罹患者一人一人の話が終わった時点で、完結表示にさせて頂きます。

 ある年の冬。

 いつもならばニュースを賑わせるのは、インフルエンザという言葉。その年もその筈だった。

 だが、その年はインフルエンザが別に鳴りを潜めた訳ではなく猛威を確かに奮っていた筈だというのに、けれどインフルエンザなどよりも話題を誘ったものがあった。


【サモナー】


 ネット上のゲーム用語でしか無かったその単語が老若男女、普段ゲームなど嗜んだりしない人々にまで浸透し、市民権を得ざるを得ない事態が起こった。





‐『昨晩の夜八時頃、A市において大規模な被害をもたらした事件を起こしたのは、【サモナー】罹患者達であることが判明しました。【サモナー】罹患者達が集まり築いたギルドという集団同士の衝突は全国各地で頻繁に確認される事が多くなっています。例えば…』


 街頭の巨大なモニターに、今まさに放送中のニュース番組が映し出され、それに伴う女性アナウンサーの声が雑踏に響く。昨夜起きたという事件の概要を映像を用いて生々しく語り、それを起こした【サモナー】について説明を始めようとしていた。


『【サモナー】は五年前に初めて確認されてから現在に至るまで、未だに詳しい研究結果も出ていない状況です。罹患すると、伝説上、架空の存在とされていたモンスターを召喚するという、不可思議な現象を引き起こします。ゲーム用語で【サモナー】と呼ばれる召喚術師のような力を発揮することから、インターネット上から端に発し、【サモナー】と呼ばれるようになりました。【サモナー】の出現から五年、彼等による犯罪行為、非社会性行為は年々、その数を増加、そして激化させています。現在、政府が認識している【サモナー】罹患者は約五千人。【サモナー】は罹患者との接触により、0.001%を大きく下回る確率で感染する事が判明しています。その罹患率は非常に低いものなのですが、多くの人々が【サモナー】になる事を期待し、自ら【サモナー】罹患者との接触を図る傾向にあり、過度な接触を図ろうという行動も大きな問題となっています。』


 画面に映し出されているのは、フリップを利用しながら説明する女性アナウンサー。


『…を犯した【サモナー】罹患者の拘留、捕らえる事自体も今なお、同じ【サモナー】罹患者に頼るしか術は無く…』 

 それはもう、この国では当たり前の常識でしかない知識であるが故に、誰一人として足を止めてまで興味を示す姿は無い。


『【サモナー】罹患者にはレベルというものが存在している事が分かっています。そのレベルが上がれば上がる程、彼らは召還出来るモンスターの数や強さを増していくのです。ギルドという集団も、レベルを高める事に成功した罹患者がトップとなり纏めています。このレベルは罹患者同士が確認しあう事が出来るのです』


 だが、右上にLIVEという字を浮かべた画面に、ある一軒家が映し出され、女性アナウンサーの声で説明が始まろうとした時。

 それまで興味など無いと、モニターを見上げることもなく歩いていた人々の中に、明確な興味を含んだ目をモニターへと向ける様子を見せた者が現れた。


『高レベル罹患者の名前は、同じ罹患者によって把握され、SNSなどによって広く知られるところとなっています。今日はその一人、多くが謎に包まれ、ただレベルの高さが全【サモナー】罹患者の中でもトップレベルであると話題となっている人物の元に、何とかお話を頂けないかと来てみたのですが・・・』


 一軒家が映る画面の端に、SNSのやり取りだと思われるものを再現したフリップが割り込みで映された。



‐トップランカー達の中に、全く知らない奴が混ざってるんだけど…。


‐はぁ?お前、成り立て?誰の事よ?


‐【陰遁の仙女】って誰?ギルドとかのリーダーでも無いし、聞いたことない。


‐あぁ。あの人か。あの人ならしょうがないよなぁ。


‐なんのアクションも起こさない事で有名な人だよね。


取締局いぬ共も安全牌扱いだって話だよな、何もしないから。



「うわっ。マジかよ、【仙女】様御光臨って?」


 モニターを見上げた人々は、示し合わせた訳でもないというのに、一斉に自分の使用している端末を手にしていた。





 【サモナー】。


 それは今から五年前、世間に衝撃を与えた、一応は感染症に分類されている現象、症状だ。


 0.001%以下という確率ながら、人から人へと感染するという【サモナー】。ファンタジーとされる世界観を描いたゲームや漫画を読んだことのある老若男女が一度は憧れたことがあるかも知れない、モンスターを召喚して戦い冒険するシチュエーション。これをこの現代社会で現実のものとしてしまえるのが、この【サモナー】罹患者達だ。

 罹患直後はレベル一。そのレベルで召喚し使役出来るモンスターは『すねこすり』や『ピクシー』程度。だが、レベルを上げれば上げる程、モンスターの強さや権能が高まっていく。下位とはいえ神と呼ばれるモンスターを召喚出来るようになるのは、レベルが六十を越えたあたりだということが判明している。このレベル上げ、ゲームなどのように【サモナー】同士で戦って経験値を貯め、レベルアップ、というわけでは別に無かった。これが世間に向けて公表された時、経験値を貯めようとがむしゃらに戦いを繰り返そうとしていた【サモナー】罹患者達を愕然と、そして絶望させた。



 この情報を世間にもたらしたのは、連日、官房長官による会見を行い、全国民に向けて全く進展の見えない政府見解を垂れ流しにしていた国では無かった。

 常日頃、注目を集めたいと動画サイトに投稿をし続けていたのだという、本人自身も【サモナー】に罹患したという青年だった。

 青年は自分自身、周囲に居た【サモナー】罹患者、そして同じ動画投稿者達を実験台として、レベル上げの方法だけでなく、様々な【サモナー】についての事実を見つけ出していった。


 一つ、召還出来るもの。

 この現実世界で架空、伝説、UMAと呼ばれている存在。その定義に入るなら、どんなにマイナーな存在でも召還可能だった。和中洋問わず、世界各国のモンスターというモンスターが、条件さえ整っていれば召喚可能だった。


 一つ、召還出来るモンスターは適応可能な環境と召喚主マスターのレベルによるもの。

 例えば、水の中に住むというモンスターは水辺が無ければ召喚出来ないなど。その環境がモンスターにとって不適応な場合、召喚は失敗に終わる。レベルが達していない場合も同じで、召喚は失敗に終わり、その旨が脳裏で宣言される。面白いことに、現実への影響力が高まれば高まる程、召喚に必要なレベルが高くなっている。まだ仮定とされているものだが、これを支持している者達は多い。神に定義されるモンスターはどんなに力の弱くとも、レベルが高くなければ召喚出来ない。

 また、これに関して【サモナー】達を愕然とさせた、もう一つの発表があった。中々、治癒の力を持つとされるモンスターが召喚出来ないと、それは冬も春も終わって、夏に入ろうかという時の事だった。

 治癒の力を持つモンスターが、切り傷を治す程度の力のモンスターでも、召喚可能となるのはレベル四十台だと、動画サイトにて発表されたのだ。【サモナー】に対して過度な期待を寄せていた、重病を患う人々やその家族もまた、この発表に悲観したという。


 そして、レベルを上げる方法について。

 それは人それぞれなのだと、発表された。それも「どうしたらいい」と脳裏に尋ねると答えが浮かんでくる訳ではなく、自分で見つけ出さないといけないという面倒臭さ。動画を投稿した青年が見つけ出した彼の方法は、何故それを思い付いたというコメントが殺到した、「牛乳を十リットル飲む毎に一レベル。ただし、レベルがある程度あがってくると飲む牛乳が増していく」というものだった。

 これには逸って経験値を貯めようと戦闘を繰り広げていた【サモナー】達を茫然とさせたのだが、それも仕方ないことだろう。こんな方法だと気づけただけでも称賛ものだったし、「レベルをあげる為ならば、お腹を下し続けようと俺はやる」と画面上で宣言していた彼の、青白くげっそりとやつれた姿を見てしまえば、ただ盛大な賞賛の声がかけるしか無かった。また、青年に続いて動画を投稿した【サモナー】達によると、青年のそれが際立って可笑しなものという訳では無く、他にもジョギングの距離の合算百キロ、納豆一キロ、純文学を十冊熟読、人を殴る、など。なんだそれ、というレベルアップの方法ばかりが目についた。

 これを受けて【サモナー】達は皆、まずはとあれやこれやと自分のレベルをあげる方法を躍起になって探し始めたのだった。



 現在、日本国内における【サモナー】罹患者は五千人。

 自ら感染する事を望む人々ばかりという状況が、その数をこれから益々大きなものにしていくのだと言われている。

 その中で、トップランカー達と一括りにされ、ネット上で「個人情報?何それ、美味しいの?」と言わんばかりに名前やら何やらが露呈されてしまっている、レベル八十後半以上の罹患者はたったの十人。彼等は神とされるモンスターを自在に召喚するのだが、まだ創造神、世界の根底を自在に造り変えてしまえる存在には至ってはいない。



 では、そんな存在を召喚出来るようになったら?

 大地を造り、空を造り、世界の基となる理さえも造り出せる存在を操れるようになったら?


 召喚主マスターは何を望むのだろうか。

 トップランカー達は皆、特異な条件を成し遂げて高いレベルをいち早く手に入れた者達だ。それぞれが非常に個性的な性格の持ち主でもある。

 そんな彼等が一番、それに近いと目されている。

 何を望むのか。何を仕出かすのか。



 国も人も、彼等の動向に注目を集めている。


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