『第八話 リア充』
今日は祝日であり、日も良くピクニックにはぴったりな日であった。
太陽の光がまぶしく、ほのぼのとした雰囲気で隣に学校の制服を着た同級生の女の子がいて、ハクヤはこういう状況を何というのだろうかと、二十世紀初頭に流行った言葉で。
「…たしかリア充だったか、だったかな…?」
空を見上げて、ふと呟くと。
「…何が、リア充なんですか…?」
校庭のベンチに座り、ユリナがハクヤの呟きを聞き取り問いかける。
「昔、流行った言葉でな。同年代の女の子と休日に一緒に出掛けるような状況をリア充と言うそうだ」
「…リア充って何ですか?」
「…なんでも、一度かかったが最後、永久に治らない病気の一つらしい…」
ハクヤの言い分にユリナは驚いたのか目を丸くすると。
「ええ‼ 治らないんですか? ちなみに症状はどんなのですか?」
「…症状はだな。何でも、人から見て頭の痛い事をしでかす病気らしい…?」
ハクヤは昔の本から知識を得たのか、現実の高校生とは違って少々偏っていた。
「頭の痛い事って、例えば、どんな事なんですか?」
「…ウフフな事をしている人達を指しているそうだ…」
「ウフフって、なんですか?」
「さあ、二十一世紀初頭に流行った言語だからな、俺にも分からんが……とにかくウフフだそうだ」
またユリナもお嬢様の為かどこか抜けているために、二人の会話はどこかおかしかった。
そもそも二人が、一緒にいるのはパートナーを組むためにお互いに何ができるのかという確認だった。
(……なのに、この不毛な会話はなんだろうか?)
――これで任務が進むのだろうかと、生産性のない会話を続けながら、ハクヤは頭を抱えたくなった。
隣では、ウフフと笑うユリナがいた。
ハクヤは驚愕した、既にリア充という病魔に侵されている人間がいるではないか。
(…これが、ウフフか…リア充。恐るべし。気づいたら既にかかっているとは…まさか俺も)
ハクヤは自分の表情を確認しようとするが、手鏡なんて化粧道具を彼が持っているはずなく隣にいるユリナの方を向くと。
「…なあ、ユリナさん…間違えた。工藤さん」
ハクヤは欧州での暮らしが長かったために、どうしても、相手を苗字ではなく名前でよんでしまう節がある。
それが悪いというわけではないのだが、ちょっと馴れ馴れしいと感じられないだろうかとハクヤは感じていた。
(…癖が抜けないのは分かっていたが、俺もまだまだ甘いな)
自分の不甲斐なさを実感しつつもユリナを見ると。
「ユリナでかまいませんよ…ハクヤさん」
「…そうか。悪いな…っていいのか?」
「ええ。構いません…だって工藤って苗字多いじゃないですか? だからユリナでいいですよ」
「…そうか、助かる…それで、俺が今、どんな顔をしているか分かるか?」
ユリナはハクヤの顔を真摯に見つめると。
「えーと、なんだかさっき言ってた。ウフフって顔してます」
ハクヤは頭を抱えて。
「……ユリナさん。俺たちは、どうやらリア充になってしまったみたいだ」
「ええ、本当ですか、それはたいへんです…どうしましょう?」
ハクヤも一応医学の知識はあるにはあるが、リア充という二十世紀初頭に流行った精神的な病気の治療方法など分かるはずはなかった。
「…どうしようか?」
ハクヤは本気で困った。
このままでは、任務に支障が出るかもしれない――いや、それ以前にどうやってなおそうかすら分からない、心の病をどうしようかと。
(…リア充。恐るべし…)
年齢二十一歳のハクヤ・ミクストは何処か抜けていた。
そんなこんなで、二人のやり取りが続いていくうちに、暇だから付き合うといったリンカも少し遅れて来ると、ハクヤとユリナの二人は突っ込まれた。
「…アンタたち、何やっているのよ」
彼女はため息を吐いて、呆れと共に呟いた。