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『第六話 アナログと『アーリア『魔術師』

六科学院の窓ガラスに夕日が差し込み、ハクヤの在籍するクラスにも下校時刻が迫っており、簡易的な用件だけを伝えようと、担任のレイナが教壇の上に手を置いて自室の生徒に言伝をする。


「さて。もうすぐ表芸大会の選考会になりますが、皆さん準備はしていますか?」


 表芸大会と言うのは学院での魔術師、呪術師等が競い合い、自らの魔術、呪術をいかに使えるようになったかを競い合い高めるという物だった。


 一種のお祭りのようなものであり、そこでの選考会というのはクラスの代表を決めるものであり、優勝したものには学院からの援助、今年度の授業料免除など、様々な確約が約束されている。


 表芸大会は基本的には二人一組で出場するものであり、自身の教室の中では、仲の良い友達や同志がペアを組もうという話になっている。

 そして、表芸大会で優勝した男女は結ばれるなどと、噂されているがハクヤには関係のない事だった。


 教師のレイナが用件だけを伝えて教室を出ていき、扉が閉まると同時にクラスの生徒たちは騒ぎ出した。

 ハクヤは机に肘を乗っけて、顎に手をやって横目でユリナの方を見ると彼女は友人のリンカと笑顔で囁きあっていた。


(……こいつは駄目だな)


 ハクヤには親しい友達などいない、いや作れないと言った方が正しいのだろうか、一定以上の距離を持ち学校から離れたら他人同士という線引きをハクヤはしており、学校では常にある程度の線引きをして振る舞っていた。


 ハクヤはリンカがユリナを誘っているのを見ると彼女に言うまでもなく諦めて、覚悟を決めて一人で出る事を決める。

 表芸大会は半年に一回しかなく、優勝者は理事長直々に賞賛を贈られると聞いていた。


 この機会を逃せば後はないとの考えが彼の脳裏に過ぎり。

教師のレイナを追おうとすると――ハクヤの目にユリナに迫っている男子が一人いたので、ハクヤは歩みを止めた。

 彼は、サンタと呼ばれハクヤの事をアナログと呼び、侮蔑した人物だった。

 少し赤みがかかった茶髪で、挫折をしらないのか、少し顔に甘えが残っているようだった。

 体は鍛えているのか――腕から見える、二の腕の筋肉が彼の態度を才能だけではないことを物語っていた。

 確か、マナの量もBランクという高い評価を得ており炎系統の魔術を操ることだけはハクヤも認知していた。


 しかも親が学院に多大な寄付をしている有力者でもあり、彼の傲慢な態度もある程度は許されており、前回の選考会では、ギリギリ選ばれなかったという人間だった。


「いいじゃん、ユリナさん俺と組もうよ」


 サンタは顔をユリナに近づけると、ユリナはあまりいい表情をしておらず遠慮がちだった。


「…私はリンカちゃんと組んでいますから…」


「いいじゃん。いいじゃん」


 サンタはユリナの腕を掴もうとすると、学生服の背広の首筋をハクヤに掴まれて、グエッとカエルのような鳴き声を上げて後ろに仰け反った。


「去ね」

 ハクヤはサンタを後ろに仰け反らせて、サンタを見下ろすと彼は突然の出来事に怒声を上げた。


「テメエ‼ なにしやがる」


「なに、彼女が嫌がっているんでな、少し止めただけだ」


 ハクヤは平然と言い放ち、サンタはハクヤの挑発を受けたのか。


「…いいぜ。こいつは正当防衛だ。 何が起こっても事故ってことにしてやらあ」

 

サンタが魔術の媒体を取り出す。

 魔術というのは媒体というのを非常に大事にする。

 魔術師にとって、媒体というのは魔術を簡略化して行えるものであり、その媒体に埋め込んだ術式や魔方陣によって、魔術を即座に発動、詠唱できると言った優れものであるからだ。


 更に魔術師は三つのタイプに分かれている。

 炎や冷気、稲妻などを飛ばして、敵を攻撃するタイプ。

 自身の体にマナをみなぎらせて、身体能力を強化するタイプ。

 最後に催眠、思考の伝達などを伝える相手の精神や思考に干渉するタイプ。

 基本的には、この三種類のどれかに分かれるが、身体能力の強化だけは、誰もが覚えさせられる必修要項の一つである。


 そして媒体の一番のメリットは武器の携帯化であり、懐にしまえるほどのサイズの武器であり携行性としては拳銃を上回る便利性を持っているという事である。


 サンタがハクヤを目の前にして自身の魔術の媒体。通称『M,A』を起動する。

 『M,A』とは『magic,arms』を意味し文字通り魔術師の腕、武器と呼ばれている。


 サンタのM,Aは儀式模様が描かれたナイフであり全長十センチほどぐらいの刃渡りの刃物だった。


 彼はM,Aから炎を生み出す。サンタの周りが熱によって歪み、教室に残っている生徒は被害を恐れてか、教室の端の方に避難していた。


「ちょっと。ハクヤ君。いくら貴方が強いといってもアナログがアーリアに勝てると思ってんの‼?」


 後ろから、リンカの声が聞こえるが、ハクヤは頑としてユリナとリンカの前に立ち、リンカが前に出ようとするのを手で遮り拒んだ。


「もう‼ どうなっても知らないわよ‼」


 リンカが諦めたのか――叫び声が響き渡る。


 魔術の使えない物をアナログと呼び、魔術の使えるものをアーリアと呼ぶようになったのはいつからかはハクヤにも分からない。


 但しアーリアには高貴なという意味が込められているという事で魔術師が好んで自分たちをそう呼んで表現している。


 高揚しているのか、サンタが昂奮して叫ぶ。


「一度やってみたかったんだ‼ アナログ相手に魔術の行使をよ‼」


 当たり前ではあるが、一般人相手での魔術の行使は禁止されている。

 だが、禁止されているにも関わらず、魔術を行使する者はいる。


 サンタもそのうちの一人であり、魔術をハクヤに放とうとするが、ハクヤの姿が一瞬、陽炎のように揺らめき、サンタの顔面が苦痛に歪み、ハクヤが人を食ったように笑い。


「どうした? 魔術をアナログの俺に向けるんじゃなかったのか?」


 ハクヤがサンタをあざ笑い挑発をする。


「テメエ‼」


 プライドを刺激されたのか彼は、激怒し炎を生み出そうとするが、魔術を行使しようとする瞬間に彼は顔面に衝撃を覚える。


 しかし、サンタが顔面に痛みを感じた瞬間にハクヤは元の場所に戻っていた。


「…テメエ? 何をした?」


 サンタは、大きな痛みはないが彼の顔面が腫れ上がっていた。


「…何って、ただのジャブだろ…まあ、手首を撓らせて顔面に拳を当ててるだけだからな、アンタの使っている魔術みたいに、大きな威力はないがな…でも魔術の中断をするぐらいならちょうどいい代物さ」


 ハクヤの言い分に教室の全員がコロンブスの卵を割ったような顔で見る

「ちなみに俺のジャブは時速60キロ以上は出るかな? まあ計ったことはないが本気を出せば、もう少しいくだろうよ」


 ハクヤが左足を前に出して、左拳をサンタの目線に合わせて構える、二人の距離は三メートルだから、単純に計算すれば、約0.18秒でハクヤの拳はサンタに届くことになる。

 これなら、いくらサンタが魔術を詠唱するのを早くしても、間に合わない。


 それでもサンタは依怙地になったのか魔術を行使しようとするが、ハクヤは容赦なくサンタの顔面に拳を叩き込む。


 『ハッ』とハクヤは顔面を腫らしているサンタを鼻で笑うと、サンタは耐え切れなくなったのか、なりふり構わずハクヤに猪の如く突進してきた。


「畜生おおお‼」


 ハクヤは、サンタが冷静さを失うのを待っていたかのように彼の懐に入ると、片手でサンタを背負い投げて教室の床にたたき落した。

 地響きにも似た揺れが教室全体に響き渡り、サンタは息をするのも苦しいのか、仰向けになりハクヤを忌々しげに見つめていた。


「…テ…メエ…覚えてろよ」


「借りを、返したければ。選考会に出ればいいだろ。 俺も一人で出るしな」


「その言葉、覚えておくぜ」


 サンタはそう言い残して、意識を失った。

 少しタイミングが遅いのか、騒ぎを聞きつけたのか風紀委員と呼ばれる連中が教室へ向かってきていた。

 その足音を聞きつけたのか、ハクヤは面倒事だとは御免だと、何食わぬ顔で教室を出ていった。


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