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『第四話 学園生活』

初日の学校が終わるとハクヤは教会から提供されたアパートの階段を上っていく。

築何十年も経っているのか階段を昇るごとに軋む音が、年数を物語っていた。

二十世紀の映画に出てきそうな鍵をはめ込み、古びた音を上げながらドアを開いた。

ハクヤはさすがに疲れたのか力尽きたようにぐったりと、畳の上に倒れこんだ。


「…ようやく解放された…さすがに疲れたな」


 二十一歳いう自分の年齢をひた隠しにして、色々な質問に矛盾がでないように答えて。

 とにかく考えることが多すぎて疲れたというのが彼の本音だった。


「まずは缶コーヒーだ」


 彼は冷蔵庫に山ほどありそうな缶コーヒーを開けて、喉を潤すと。

 一息ついてようやくストレスから解放されたと感じた。

 ハクヤが住んでいるアパートは少し古ぼけているが内装はしっかりしており、和室が二部屋あり、リビングがあって住むには困らない場所だった。

 あるいは大司教の息子という事もあって気を利かせたのかハクヤには分からなかったが。

 ハクヤは壁に寄りかかるように、座るとコーヒーを飲みながら、あの時と同じような月を見て感慨に老ると


「……お袋さん。リンカ。長くなったけど……俺やっと魔術師になったよ……」


「これから頑張って、立派な魔術師になってみせるから、きっとその時は……」


 ハクヤは願いを込めて。十何年前に分かれた母親と妹に報告をした。


 ハクヤの学校生活が二週間ほど続き、彼の目には違和感のようなものがユリナから感じられた。


 何というか口には出来ないのだが、彼女だけが友人が少ないような気がするのだ。


 周りの子は皆色々な子と話しているのに彼女一人だけが疎外感を持っているような――その違和感が学校に行ったことが殆んどない彼には分からなかった。


 ハクヤは普通の学校に通った事など殆んどなく、彼が通っていたのは教会の兵隊を育てるための養成学校だった。


 彼女と親しいのは梨花『リンカ』と呼ばれる少し勝気な性格で、ハクヤが転入初日にユリナに話しかけていた茶髪の女性だった。


 リンカもユリナに負けじと綺麗でありユリナとは違った美しさを表現していた。

ユリナが百合なら、リンカが力強い向日葵といった所か。


 それ以外の女子生徒は彼女とはあまり関わろうとしないように見えるのはハクヤの気のせいかと考えられた。

 午前の授業が終わり昼休みになりユリナが一人で校庭のベンチでパン食べているのを見ていたハクヤは。


「此処、いいか?」


 ベンチでパンを食べているユリナに尋ねた。


「大丈夫です」


 彼女はドキリとしたのか、少し驚いた表情をして快く返事をしてくれた。

ハクヤ自身も空を見ながらおにぎりを食べて、ユリナがサンドイッチを食べ終わるのを待っていた。


ハクヤは空を走る雲を眺めながら、チラリと横目でユリナが持ってきていて食べているのは自分で作ってきたのだろうかと考えていると。


「良かったら。お一つどうですか?」


 もの欲しそうに見ているように映ったのか、ハクヤの目の前にサンドイッチが一つ差し出された。


「…いいのか?」

「私は、もうお腹一杯ですし……それに隣でそんなに見つめていたら、一つぐらい上げたくなりますよ」


 ハクヤにユリナは鈴のように笑う。


(…別に、欲しいと言った覚えはないんだが、そんなに見てたかな…?)


 頭に疑問符をつけたまま、サンドイッチを食べていると中にはポテトサラダが挟んでおり、アクセントとしての胡瓜とピーマンと黒胡椒がハクヤの食欲を刺激していた。


「…上手いな、こいつは」


「ありがとうございます」


 ハクヤはまたまた、横目でユリナを見ていると彼女は嬉しそうに笑っており、彼は背中がむず痒くなりそうだった。


(…いかんな、主導権を握られっぱなしだ…俺の方が年上なのに…)


 どうにか、自分が主導権を握る方法をないかと、探しているとハクヤは次のサンドイッチが目の前に出されたのを無言でつかんだ時に、『しまった‼』と自身の敗北を認めた。


(…サンドイッチには勝てないな、とりあえず飯ぐらいはゆっくり食べるか)


ハクヤは、ユリナから渡されたサンドイッチを食べ終えると、こちらを向いている彼女を見つめなおす。


「少し質問をしていいか?」


「構いませんよ」


 ハクヤはユリナに少し聞きにくい事を聞いてみた。


「……ユリナさんは、他の子と一緒にご飯を食べたりしないのか? 友達がいないというより、なんだか避けられているように見えるのは、俺の気のせいかな?」


「……どうしてそう思うんですか?」


 ユリナが、言われたくないことをハクヤに言われたのか、彼から目を逸らして少し俯いてしまう。

 ハクヤは何とか頭の中で彼女が元気づく台詞を考えようとして、俯いた彼女に目を向けて。


「俺も編入したてで、友達とかあまりいないからないつも一人だ。ユリナさんはそんな俺と一緒の雰囲気がしてたからかな?」


 ハクヤは自分の事を卑下してユリナが顔を上げるような言葉を探した。


「だから、聞いてみたのさ」


 ユリナとハクヤの間に数秒ほどの時が刻まれて、ユリナがたどたどしくしゃべりだした。


「……実は私、去年事情があって長いこと学校休んでて――留年しちゃいました」

 

ハクヤは納得したようにユリナを見ていた。


(……成程な、だからか)


 日本では教会の勢力が少ないのか六科学院の事は、自分で調べろというべく生徒の情報などはまるでハクヤに伝わっていなかった。


どうやら、生徒の情報も調べるのもハクヤの仕事になっているらしく、やるべきことはなかなかに多そうだと実感していた。


「皆が卒業した後に学校に来ても、友達もいなくて、私一人だけ取り残された気分でした……」

「でも、梨花ちゃんが話しかけてくれて大分助かりました」

「……私、今年で19歳になってしまいます…ちょっと情けないです」


 ハクヤはユリナの告白を聞いて自分に苦笑する。


(……それなら俺は来年で二十二歳になるな)


 ユリナは俯いた顔を上げて、今度は逆にハクヤに聞いた。


「ハクヤさんはどうして、この学校に来たんですか?」


 ハクヤは少し悩み教会からの使者としての命令で来ているのではなく『ハクヤ・サイトウ・ミレイユ』としての目的で来ていることを口にする。


「魔術師になってある人に会いに行くって。約束してな」


 意味深な言葉だが嘘は付いていなかった。


「…そうなんですか。叶うと良いですね」


 ユリナがハクヤを見て百合のように笑う。


「…叶えるさ。その為にここに来たんだからな」


 ハクヤが此処に来たのは、目の前にいる工藤優梨奈の父親を排除するともう一つ目的がある。

 魔術師になるという事である。


「それじゃ、もうすぐ授業が始まるから一緒に戻るか」


 ハクヤは先に立ち上がり、座っているユリナに手を差し伸べた。

 彼女は差し出された手を恐る恐る握りハクヤに引っ張られて立ち上がると『はわわわわ』と不思議な台詞を並べて一緒に教室へと戻っていった。


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