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「救い」

ハクヤは、爪がボロボロになっても墓を掘っていた――そうすることで、いま突きつけられている現実を忘れるようにと、そうしなければ自分は本当に、くるってしまうだろうからだ。


「クーン」


 そんな、ハクヤを心配してか、小さくなったオオカミのオークが彼の傷ついた手を舐める。


「……なんだ、お前まだ生きてたのか……」


 ハクヤは虚ろな目でオークに話しかけると、泥だらけの手でオークの体を撫でる。


「…そうか、お前のご主人様、死んじまったもんな……ごめんな。俺の所為で…死んじまって」


 ハクヤはオークに謝ると、もう一度オークの姿を見つめなおして、頭を回転させる。


「……待て‼! どうしてお前が生きている。どんな召喚獣も召喚者が死ねば、マナが尽きて存在できないはず……」


 ハクヤの驚愕の目をオークに向けると、まさかとは思い彼女に目を向ける――そうしてハクヤは思い出していた。昔、母親にもらった首飾りを。


--いざというときに、これがあなたを守ってくれるわ――


(……まさか、まさか、母さん……)


 ハクヤは彼女の体が光に包まれて、自分が渡した首飾りが、太陽よりも輝かしい極光を天高く打ち上げて、いるのを見た。


--――だが、ハクヤは信じない。彼の中の神は――生まれたときから死んでいるの

だ。

 彼の心にあるのは虚無神という名の神だけだった。

 そんな彼が、目の前にある奇跡を信じるわけがなかった。

 彼は救いがこの世にはないとしっていた――救世主などはいない、ただ終わりがあり、それに向かって進んでいくだけではないか。


(……なのに……なんで‼ 捨て去った筈だろう‼)


 いまだに捨て去った物を拾おうとしている、それが心を腐らせると知っていながら。


 光が収まり、彼女は目を開けて、こちらに歩み寄ってくる。

 ハクヤは怯えた子供のように後ずさる、目の前の光景をハクヤは決して信じるわけにはいかないからだ。


「……ハクヤさん、私ハクヤさんがくれた、これのおかげで生き返ることが出来ました」


 彼女は、ハクヤに微笑みかけるが、ハクヤはまだ信じられなかった。


「…嘘だ‼ ユリナは死んだ‼ 俺の所為で死んだんだ‼ 生き返るはずがないんだ」


 ハクヤは狼狽しているのか、錯乱しているのか、いつもとは違う台詞をユリナに投げつけた。


「……性質の悪い冗談だろ……こんな光景を誰が信じるっていうんだ‼」


 ハクヤは叫ぶ、母に捨てられ、所属していた組織に捨てられた――自信を拾おうとするものなど、誰もいないという事に気づいており――彼は一人で生きてきたはずだ。


――そうだ、自分はたった一人で生きてきたのだ。


 ふわりという風にハクヤは撫でられたと思うと、ハクヤはユリナに抱きしめられていた。


「死んでいませんよ。私、生きています……だって、こんなにも暖かい」


 ハクヤは彼女に抱きしめられて、温もりを味わうと、彼女の体を抱き返して。


「……俺はずっと信じなかった……奇跡なんて起きない、救いなんてない、ただ世界はゆっくりと終わっていくだけだって。思ってた……でも」


 ハクヤは彼女に自分の心中を口にする。


「……でも、何ですか?」


 ハクヤを抱きしめるユリナは、幼子をあやすように優しく続きを促せる。


「……でも、少しぐらいは信じてもいいんじゃないかなって思っていた」


 ハクヤはユリナの胸に顔を埋めて、心の底から涙を流した。


「……ううう……ああああ」


 嗚咽を漏らしながら、彼は泣いた――自身の愚かさや過ちを全て吐き出すようにして、取り止めのない感情を吐露し、涙が枯れるまで泣き続けた。


 しばらく泣いた後にハクヤは、目を真っ赤に腫らし立ち上がると、服を正して咳を一つして、ユリナに手を差し出すと。


「……ユリナ、俺と一緒に生きていかないか?」


 ハクヤは、この人なら信じてもいいと思ったのだった。


「……はい」


 返事をした、ユリナもきっと同じ思いだとハクヤは信じたかった。


 そう、この残酷な世界で二人一緒に生きていく。それがハクヤ・ミレイグの決めた事だった。



 少し時間が経ち、騒ぎが治まって様子を見に来た戻ってきたエイシュンが呆れたように二人を見ると、二人は抱き合ってキスをしていた。


「やれやれ、娘の姿が見えないから何をやっているかと思えば……」


 誰もいないと思っていたのか、ハクヤとユリナの二人はエイシュンがにやにやと口元に笑みを浮かべながら、戻ってきたのを見ると、ユリナはあからさまに動揺し。


「…お、お父さん‼」


「何だ、アンタか……だがのぞき見は良くないな」


 エイシュンは、疲れた体を歩いかせながら、二人の元まで歩み寄ると。


「……ハクヤ君。君はこれからどうするつもりかね?」


 エイシュンは、この惨状を引き起こした張本人に問いかける。


「どうもこうもない、俺はアンタの娘と一緒に生きていくだけだ……俺から初めて悪いが、アンタと争う理由はなくなった」


 ハクヤははっきりと意思表明をすると、エイシュンは肩の力を抜くと。


「……そうか。では行くがいい。後の処理は私がやっておく」


「……いいのか? アンタは俺に聞きたいことが一杯あるはずだ」


 ハクヤはくどいようにエイシュンに尋ねた。


「構わんよ。逆に無理やり吐かせようとしたら、君は絶対に抵抗するだろうし

な」


 エイシュンは軽く笑い、ハクヤに振り向くと。


「違いない」


 ハクヤは苦笑した。

 話は済んだのか、エイシュンは二人にはもう用はないと首を振ると、今まで何処にいたのかオークがひょっこりと三人の前に尻尾を振って現れた。


 オークはユリナと同調しているのか怪我も治っており、巨大化もしていた。


「……おまえ、こんなにでかくなれたんたんだな」


 ハクヤはオークが自分を乗せても、大丈夫な程デカくなっているのを見ると、少し驚いていた。


「オン‼」


 オークは大きく鳴くと自分の後ろに乗れとでも言いたそうだった。


「乗ればいいのか?」


 オークはハクヤの言葉を理解しているようにうなずいた。

 ハクヤは後ろを見てユリナの手を引くと、オークの耳を掴んで、背中に乗ろうとすると。


「ギャン‼」


 オークは余程痛かったのか、叫び声をあげて少し唸りハクヤを見ると、自分と同じことをしているハクヤが可笑しかったのか、クスッと鈴のように笑うと。


「何か可笑しかったか?」


 少し疑問に思ったハクヤがユリナに聞いた。


「……だってハクヤさん、私と全く同じことをして、オークちゃんの耳を引っ張ってジト目で見られているんですもん」


 ハクヤは恥ずかしいのか、もどかしいのか頬を少し掻いて、誤魔化した。


「……そんなことはいいから、行くぞ」


 ハクヤは気恥ずかしいのか、誤魔化すようにユリナに言うと。


「はい」


 彼女は嬉しそうに返事をした。

 エイシュンは、ユリナとハクヤが言ったのを見ると、疲れたように腰を下ろすと。


「やれやれ、手間のかかる子供たちだ……さてと、私もこれから忙しくなるかね」


 エイシュンは、大人たちがしでかした不始末を片付ける為に動き、若者たちは未来に向かって動き出した。



--ハクヤは暖かい匂いと台所から聞こえる、包丁のリズムの良い音で目を覚ました。


「おはようございます」


「……ああ。おはよう」


 ハクヤとユリナは一緒に住み始めたのだが――ハクヤは少し年上の威厳を示そうと考えているのだが、どことなくか上手くいかず尻に敷かれているのが現状だった。


「もう少しで、朝ごはんが出来るから待っててくださいね」


「……ああ」


 髪の毛をボサボサにしながら起きたばかりのハクヤは、心の中で己を叱責する。


(……待て待て‼! ハクヤ・ミレイグこの展開は何か違わないか‼)


 ハクヤは、ユリナに手綱を握られている状況に己を叱責して、年上としての威厳をもう少し示さないといけないと感じた。


(……それに……随分とゆるくなったもんだ。俺も)


 眠気を飛ばすような欠伸をして、自分はここまで、警戒心が薄かったかなどと自分を見つめなおして笑う。

 顔を洗い、だらしのない髪を直して、食卓に歩いていくと、綺麗に出来上がった、出来立ての白米と味噌汁、鮭の塩焼き、ホウレン草のおかか和えなど、日本人なら感動して喜びそうなメニューだった。


「……日に日に俺のやることがなくなっていくんだが……」


 初めはユリナがハクヤを自分の家に招くと言ったのだが、それではハクヤは自分に立つ瀬がないと言って、ユリナが住んでいるマンションの隣に住むことにして、ユリナが余りに頻繁にくるものだから、隣の部屋を改装工事でつなげたのだが。


(……まさか、こんなことになるとは)


 一人暮らしの長いハクヤは、全て自分でやっていたのだが――あまりにもハクヤが一人でやるものだから、途端にユリナが怒り出して、今のような状況になっているのだが。


「……なんだか、自分がどんどん駄目な人間になっていく気がするんだがな……」


 家事の殆どはユリナがやってくれる今の状況は、ハクヤ的には許せないのだ。


「大丈夫です。私もダメ人間ですから」


 彼女は、はっきりと言う。


「胸を張っていうことか……」


 ハクヤは皮肉を言うが、彼女がそれに応える筈もなく。こちらにわらいかけるだけであった。


 二人のマンションは、それぞれ二部屋に台所が一つとそれほど大きくない間取りなのだが――合わせると四部屋にもなる大きさである。

 食事を終えて、二人は学院に行くために家を出て道なりに歩いていく。

 曇り一つない空、舗装された道を歩いていく中でハクヤは考える――今はいいが教会の追っ手はどうなる、いくら魔術学生の身分で保護されているとはいえ、教会は決して自分を許さないだろう。


(……もしかしたら追手が、すぐそこにでも) 


 蒼天の空とは別にハクヤの心は、不安で真っ黒だった、隣に歩いているユリナを見つめると。


「どうしたんですか?」


 彼女はキョトンとした顔でハクヤを見つめ返す。


「……いや、何でもない」


ハクヤはポケットの中で拳を握り、あってはならない未来を振り払う。

そんな不安を感じたのか、隣にいるユリナはハクヤの手を取ると。



「大丈夫ですよ……だってハクヤさんと一緒にいるだけで、私なんでもできそうな気がしますから……それに、私一回死んじゃってますし」


 ユリナは、明るく笑いハクヤに微笑む。


「……そうだな大丈夫だ」


 ハクヤはユリナの手を握り返すと何となくだが、そう思ってしまっている自分がいるのに笑ってしまった。


 惚気ではない、事実ハクヤも二人で居れば、世界を変える事すらできるのではないかと思ってしまった。


「……そうだな、大丈夫だ」


「はい、大丈夫です」


「そうだな、こんなにも大丈夫なんだから……」


 そう、きっと救いはあると信じて、二人は蒼天の空を歩いていく。

 この世界で生きていくために……。


一応、この話で完結します。

続きは、プロットは出来ていますが、どうしようかと悩んでいます。


それとブックマークまでして、見てくださった皆様ありがとうございます。


何とか完結までたどり着けました。



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