『決着』
リンカとサンタ、ロバートの三人は動かないでハクヤがどう動くか様子を待っていた。
先ほどのように一撃でやられないようにするために彼らなりに出した結論だった。
「小細工のつもりか」
ハクヤは戦力の差など、関係ないとお互いにやられないようにと、二人で密着するように並んでいる。
そんなものは自分には関係ないとハクヤは動いて、二人をしとめようと動くが。
「フォルテ‼」
突如として現れた、風の刃にハクヤは吹き飛ぶと、何事もなかったように立ち上がると。
「なるほど、サンタとロバートの二人を一撃でやられないように陣形を組んでいるわけか
「確かに、アンタは強い……でも三人なら何とかなりそうだ」
サンタとロバートは得意げな表情になり、ハクヤと視線をぶつけた。
先ほどハクヤが受けた風の刃はリンカの魔術によるものであり、直撃する前にハクヤは、風の刃を受け流し、直撃したように見せて後方に飛んだのだ。
「なるほど、お前たちのやりたいことは分かった。ならば俺も、そうわきまえたうえで動くだけだ」
目の前の三人はハクヤを止めるのが目的である。逆にハクヤの方は、何が何でもあの三人を倒してエイシュンと相対しなければならない。
ハクヤは少し瞬きをして目を見開くと、侮っていた事をはっきりと認めて、最小限の動きでサンタとロバートに、歩いていく。
ハクヤはサリエルの目を駆使して僅かな動きにも反応できるように、サンタとロバートの前まで、接近しようとすると。
「フォルテ‼ スフォル‼」
サンタとロバートにハクヤを近づけさせまいと援護しようとするリンカの魔術は主に風の刃と質量を持った風である。これらは、風を利用している為に相手には視認しにくく、躱しにくいのが特徴であるが、全て動きを予知されているが如くハクヤに躱されていく。
「何で当たらないのよ‼」
「あの目はハッタリじゃなさそうだな」
サンタとロバートは唾を飲み込み、ハクヤがロバートとサンタに自分の攻撃が当たる間合いまで入ると。
「この野郎‼」
ロバートの横なぎを、しゃがんで躱し、立ち上がる力を利用してサンタを投げ飛ばして。
一対一の状況を作り出した。
「これで一対一になったな」
「へへへ、やっぱりお前はすごいな」
ロバートは純粋にハクヤに賞賛を送り、今度は真正面から己が一番信頼できる、剣道の初歩の面を打ち出すと、ハクヤは背中からククリを抜き出して、ロバートのM,Aを半分に切り。
「……ウソだろ」
基本的にM,Aというのは金属で出来ており、それにマナを散りばめて循環させることにより、初めて機能し元々戦闘用に作られているために並みの事では壊れないのだが、ダマスカス鋼で出来た刃物を受け止めることは不可能だったらしい。
驚愕の表情を浮かべるロバートに対して、当たり前だという表情でハクヤ剣を振りぬいた勢いを利用してロバートの腹部に回し蹴りを叩き込んだ。
「冗談きついわ」
ハクヤはロバートが外壁に衝突して、気を失ったのに安堵すると、すぐさま視線をリンカに移して、リンカに肉薄しようとすると、勝気な彼女は、魔術師ではないものに倒されるのを認めたくないのか、何度ハクヤに躱されようとも、風の刃と質量を持った風の魔術を当てようとするが、それすらも全て躱された。
ハクヤには、リンカの魔術の動きも全てが捉えられていた。サリエルの目と呼ばれる天使の目を持って全てを見えているような衝動に駆られる。
いくら、何もかもが見える目を持っていると言っても、万能の存在になったわけではないのだ――この感覚に浸りすぎてはいけないと自重する。
「さてと、残るはお前一人だけだな」
「クッ‼」
ハクヤはリンカの真正面に立ち、大仰ではなく基本に沿った動きをする。リンカは抵抗しても無駄と悟ったのか、力なさそうに頭を落として項垂れると。
「……ねえ、ユリナは無事なの?」
ハクヤに素朴な疑問を訪ねてきた。
「ああ、俺は、あの女に何もできなかった」
ハクヤの言葉を聞いてリンカは安心したのか、顔を上げると。
「なら、いいわ一思いにやってちょうだい……」
リンカは覚悟を決めたのか、目を瞑ると。
「……ああ」
ハクヤは目の前の女を見て、大きくなったなと感慨に老ける。リンカは覚えていないだろうが、こうして対峙してみると、あまりにも皮肉にハクヤは笑いを禁じえなかった。
「なにしてるのよ。やるんなら、さっさとやんなさいよ」
リンカはハクヤがいつまでも、仕掛けてこないのを疑問に思ったのか、急かそ
うとする。
「そうだな、いつまでも感慨に老けていないで、終わらせるとしようか」
ハクヤが構えたその時、後ろから誰かに捕まれた、先ほど投げ飛ばしたサンタである。
「へへへへ、ようやく捕まえたぜ」
ハクヤは少しだけ自分の甘さを呪った、最初から殺すと決めていれば五分とかからなかっただろう。投げ飛ばした後に、懐にある自動拳銃で心臓を打ち抜いていたはずだ。
目の前には、この光景が見えていたのか。マナを溜めて、最大級の魔術を放とうとしているリンカの姿があった。
「俺も甘くなったものだな」
自分の甘さを呪いながら、ハクヤは大気が畝って収束して、小規模の台風に近い風が、自分に向けられて放たれるのを正面から食らって、轟音と共に吹き飛んでいった。
サンタは、ハクヤと共に吹き飛んでいったが、リンカの魔術の大半はハクヤに向けられた為に、サンタは其処までの怪我はなかったのだが、サンタはハクヤの吹き飛ばされた方を見て。
「容赦ねえな」
「あら、私はまだ気は晴れてないわよ」
気分が晴れやかなのか、リンカは顔上げると。
「さすがに死んではいないと思うけど、しばらくは動けないでしょ」
リンカは余程嬉しいのか、朝焼けに上ってくる太陽の方を見て微笑んだ。
ハクヤとは逆方向で、迂闊と言えばそれまでだが、それすらも今はきにならなかった。
だが、それがリンカの命取りになった。
「よくやったと言いたいが、まだまだだな」
ハクヤは、すこし服に付いた埃を払うと、何事もなかったように出てきた。
その姿に驚愕をしたのはリンカだけではなく、サンタも同様だった。
「一つアドバイスをしてやろう、お前たちは何も分かっていない、自分たちの力と俺の力の差についてだ、この程度の危機など俺は何度もあった」
ハクヤが先ほど防いだのか、ハクヤの手の方に、降霊術の紋様が刻まれていた。
思わず、リンカとサンタの二人から歯ぎしりが聞こえそうだった。
「さてと、終わらせるか」
ハクヤは呟いた後に、激しく絶望する顔のリンカとサンタに向かって行った。
場所は変わり、ユリナは、オークの背に乗り走っていた。ユリナは自分のポケットに手紙のようなものが入っているのに気付いた。
「これは、なんでしょうか?」
ユリナはポケットの中から、それを取り出して読み始めると、彼女はワナワナト手を震わせた。
『 今まで騙していて済まなかった。
教会の部隊が、もうすぐ其処にやってくるかもしれない、アンタは直ぐに逃げろ。
これから、俺はアンタの父親と決着を付けにいかなくてはならない。
それから、俺の妹と仲良くしてやってくれな。
俺の妹の名前は、梨花と言って、アンタと仲のいい勝気な女だ。
もしかしたら、あいつ寂しがりやかもしれないからな……
それと、俺の代わりに幸せになってくれ、俺は出来なかったから、
俺の代わりに叶えて欲しいんだ。
さようなら』
手紙はそこで終わっていた。
彼は最初から、死ぬつもりで出ていったのだった。
ユリナは自分がどれだけの覚悟を持っていたのかを知らなかった。
それでも向かうしかない、自分に出来ることはそれしかないのだから。




