『一話・裏切り者と大司教』
ここでは、読者としてお世話になっていたのですが、このたび
投稿することにしました。
誤字、脱字などがあったら教えてください。
一応サラリーマンなので、一日一回投稿などは出来ませんが、一週間に一回は更新したいと思っております。
どうか暖かく見守ってください。
『二十一歳の魔術高校生と十九歳の魔術召喚士』
2047年三月十日
『プロローグ、裏切り者と大司教』
遠く欧州の地で時刻は深夜の零時に入ろうかという時刻の中、大聖堂『カテドラル』の中で一人の男が祈りを祈っていた。
聖堂の奥にある中央祭壇で聖母像を眺めながら、二十一歳になったばかりの男は獣の様な目を細めながら自分の所属している象徴の聖母像を覚悟と決別の表情で見ていた。
「――こんな夜遅くにまで祈りとは、ミサの時間はとうに終わっているのに精が出るな。ハクヤ」
ミサというのは教会で行われる早朝の祈りの事である。
だというのに、こんな時間に聖堂の中央祭壇を使っているという事はハクヤと呼ばれた男が教会の関係者に相違いなかった。
ハクヤはステンドグラスから射してくる月明りを浴び、黒衣の服と額に少しばかり掛かる黒髪を露わにして東洋人特有の黒い瞳で、声の主を捕えて答えた。
「こんな遅くに無理を言って申し訳ありません」
「――何、気にするな。せっかくの義理の息子の頼みじゃ。このぐらいの頼みを聞くのは当然の事じゃ」
ハクヤの義理の父。バテウス・ディス・ミレイユが構わないと手を振る。
「それで、来月からか?」
バテウスがハクヤに問いただす。
「それは、教会の大司教としての問いですか?それとも義理の父としての――?」
大司教。それは教会内部でも相応の地位に与えられる称号である。
その上に枢機卿、法王とあるのだが、それでも教会内部では確固たる権力を持つ役職である。
バテウスは還暦の過ぎた歳にしては役職にある通り、厳格で厳しい目をしており、いまだに衰えの見えない体を伸ばして威厳を出して立っていた。
「両方だ。貴様はまだ拘っているのか?」
その大司教がハクヤに上役として聞いていた。
「いいや、たまたま適任だったのが俺……いや…私だったからですよ」
ハクヤは少し目を瞑ると肩を諌めて大司教であるバテウスに答える。
「……本当にそれだけかの?」
バテウスがハクヤの顔を覗き込むように見る。
「ふん、まあいい……聖十字教会ナンバーズ第十三部隊所属『裏切りのユダ』の称号を持つものよ。今回の任務はお前にうってつけの仕事かもしれんな」
バテウスが皮肉をハクヤに聞かせる。
「……そうですね。今日私が教会を訪れたのは、今まで使っていた名前への別れと自分の所属している組織への決別でもありますからね――そして義理の父への別れでもあります」
聖十字教会にもいくつか勢力があるがハクヤの所属している部隊はスパイ。
つまり間者としての役割だった。
主に潜入任務として敵の内部に侵入して、情報の奪取、妨害、必要とあれば暗殺も辞さない工作員である。
ハクヤは今日が終わったら、今までの自分の名前『ハクヤ・サイトウ・ミレイユ』の名前を捨てて。
『ハクヤ・ミクスト』として生きなければならない。
ハクヤがカテドラルを訪れたのはその為だった。
ハクヤとバテウスの二人の視線が交差して語ることはないと目配りをして――幾つかの沈黙が経過すると教会の鐘が鳴り、日付が変わった。
「――それでは、もう会う事もないでしょう。さよなら父上」
ハクヤが聖母像と義理の父親から踵を返して、カテドラルを出ると同時に。
バテウスが沈痛な表情をして呟いた。
「…この愚か者が、いつまでも詰まらん事に拘りおって…やはりお前は」
最早、ハクヤに命令を出来る物は協会に存在しない。
唯一の例外はハクヤに命令を出している人物だけである。
「……さてと、行くとしますか」
ハクヤは月を眺めながら、今まで仕えていた神と自身の名前を捨てて遠い島国へ向かう――過去にはジパングと呼ばれ、黄金が山のように取れたとされる。
そこは彼の生まれ故郷でもあった。
そして、彼の手には銀の硬貨が握られ、首には色あせた昔から使っていそうな真紅の装飾が付いたネックレスがTシャツ下に隠すように掛けられていた。
唯一彼に残ったのは裏切り者という称号だけであった。
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