表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

第14話 冒険者の仕事(白大鷲編)

遅くなりました。今回、レミイの新兵器が登場します。

「今日はこれといった仕事が無いね。私たちは宿に戻るよ」


「私は、書庫に寄ってみます。まだ見ていない資料が、山ほどあるので」


 ルミニアからエルディナに戻って、しばらく過ぎたある日の午後。冒険者ギルドにて、そんな会話をしていた時のことです。

 突然、外が騒がしくなりました。見ると、入り口に馬車が横づけされ、そこから三人の男女が、あわただしく降りてきます。一人は初老の、恰幅の良い男性。残る二人は、まだ二十代と思われる美男美女でした。三人とも、服装からして、明らかに貴族か富豪です。

 いかにも激情に駆られている、という様子で、荒々しくドアを開けると、先頭の男性が声を張り上げました。


「頼む! 誰でもいい! 孫の敵を討ってくれ! わしの孫を雛の餌にしおった、あの大鷲どもを退治してくれ!」


 一度に肺が空になるほどの、大声を吐き出した初老の男性。その後、まだ呼吸が整わないらしく、肩で息をしています。突然の出来事に、皆が呆気にとられる中、私の知っている、あの年配女性職員が駆け寄りました。


「だ、大丈夫ですか? どうなされたのです、エスター伯爵?」


「……君か……今聞いた通りだ。誰でもかまわん。報酬はたんまり出す。わしの孫を雛の餌にしおった、あの大鷲のつがいを殺してくれ!」


「と、とりあえず奥へ……」


「いや、ここでいい──。ちょうどいい、ここにいる冒険者たちにも聞いてもらいたいのだ」


「わ、わかりました……」


 部屋にあった椅子の一つに腰を降ろすと、エスター伯爵と呼ばれた男性は語り始めました。


「今から4~5年前のことだ。わしの別宅のそばにあった小さな森に、ノハラシロオオワシのつがいが住み着いたのだ。シロオオワシが人里近くで見られるのは珍しいし、見た目にも良いので、猟師などに殺されぬよう、それとなく保護してやり、時々餌も提供してやっていたのだ。なのに、あのつがいめ、恩を仇で返しおった! 今朝、別宅の庭で、息子の嫁が孫をゆりかごに寝かせ、ほんの少しその場を離れた時、ゆりかごごと孫をさらいおったのだ! 奴らの巣の下で、身体から引きちぎられた孫の頭を見つけた時の、わしと息子夫婦の気持ちが解るか?!」


「それで……」


「そうだ、誰でもいい、孫の敵を討ってくれ! あの大鷲どもを殺してくれ!」


 ノハラシロオオワシ……翼を広げると3mを超える、知られている限りこの世界最大の猛禽です。主に草原地帯に棲息することと、全身が白っぽいグレイであることから、その名があります。純白でないことから見ても、おそらく獲物に対するカモフラージュとして、そんな体色をしているのでしょう。晴れていても曇っていても、地表から見上げた空に、溶け込みやすい色ですからね。


 エスター伯爵の言葉通り、人里近くで見られるのは珍しく、しかも見栄えのする鳥です。結果として、剥製は非常な高値で取引されます。

 それゆえ人との関わりでは、愛され大切にされるか、金目当てで狙われるかの、両極端になりやすい鳥なのです。


 しかし猛禽類といっても、人を襲うことなどは無い鳥で、過去の記録でも、そんな例は知られていません──。でも、考えてみれば、鷲に、獲物と人間の赤ん坊の区別など、つくわけはありません。そういうことが起こったとしても、何の不思議も無い。彼らは、ちょうど良い獲物を見つけたから、襲ったに過ぎないのです。


 そのつがいは、悪しき存在ではありません──。罪を犯したわけではない。しかし、エスター伯爵と息子さんたちの気持ちを考えれば、そんなこと、言えるはずもありません。今回の出来事は、エスター伯爵家とシロオオワシのつがい、2つの家族にとって、極めて不幸なことだったと言わざるをえません。


「誰かいないのか! 誰か、シロオオワシのつがいを殺せる者はいないのか!」。血を吐くような、悲痛極まる顔と声で叫ぶエスター伯。しかし……。


「そう言われても、相手が大鷲では……」。冒険者たちも、顔を見合わせて困惑しています。それはそうでしょう。この依頼は、高速で飛行する爆撃機を、地上からの攻撃のみで撃墜しろ、と言っているようなものです。しかも、対空ミサイルも近接信管付きの対空砲弾も、無い状態で。


 チャンスは、攻撃のために降下してきた時だけで、相手が逃げたら手も足も出ない。救いは、相手の基地が判っていることですが、基地に近づくこと自体が容易ではなく、気づかれたら逃げられてしまう。

 無理難題と言われても、仕方のないことです。ところが……。


「上手く行くかどうか判りませんが、方法はあります」。ジェーンさんがそんなことを言い出しました。


「ジェーンさん、それはどういう?!」。思わず駆け寄り、そう問いかけます。


「レイミ、あんたももう気づいているんだろう? あの、跳竜の時と同じ手を使えば、見込みは充分あるって」


「それは……」。そう、ジェーンさんの言う通り、私ももう気づいていました。でも正直に言えば、今回のことでノハラシロオオワシのつがいを殺すのは、乗り気になれないんです。跳竜の時と違って、再び同じ事が起こる可能性も、まず無いでしょうし──。


 しかしジェーンさんは、自らの思いつきに夢中になっているらしく、私の気持ちに気づく様子はありません。いえそもそも、この世界の人にとってはそれが当たり前で、気づけと言う方が無理。この世界のレベルでは、自然保護の精神など、持てと言う方が無理なのですが。


「本当かね?!」。そして、案の定の結果になりました。エスター伯爵が、私たちの会話に食いついてきたのです。


「ええ、保証はもちろん出来ませんが、上手く行きそうな方法ならあります」。ジェーンさんが喜々として、そう答えていました。一方の私は、正直天を仰ぎたい気持ちでしたが──まさかこの場で、そんなことも出来ません。気はすすまないけど、これはもう、やるしかなさそうですね──。



──というわけで、エスター伯爵家の馬車に便乗して、現地へと向かう私たちです。しかし馬車の中、当然のごとく、伯爵と息子さん夫婦が、私のことをジロジロ見ています。ジェーンさんが、私のこの姿は鎧だと説明しても、納得しきれないようでした。幸いなのは、伯爵自身が私の名と、『知の砦』のことを知っていて、それを話すと解ってくれたことですが。


 伯爵家の別宅に着いた時は、すでに日が沈もうとしていました。しかし、夜の方が都合が良いことから、そのままシロオオワシの巣へと向かうことにします。


 ところが、エスター伯爵と息子さん夫婦が、それにくっついてきました。それどころか、伯爵自身が先頭に立って、私たちを案内しています。

 戦いにははっきり言って足手まといで、当人たちにもそのことは言ったのですが、『どうしても自分の目で確かめたい』と言って、聞き入れてはくれませんでした。

 いえ、もちろん、そう思うのはある意味当然で、私たちもそれは解るのですが、いやはや……。


 ノハラシロオオワシの巣は、伯爵の言葉通り、小さな森の、ひときわ高い木の上にありました。当然周囲からは丸見えなのですが、人間以外敵のいない大鷲にとっては、これで問題無いのでしょう。

 女性二人が、遠見の魔法で、つがいが巣に戻っているかどうかを確認します。雛一羽と親一羽しかいなかったため、待っていると、ようやく一番星が出る頃になって、もう一羽が帰って来ました。


 あとは仕掛けるだけです。まだ空に明るさが残っている内に、巣のある木の下まで接近します。しかし、すぐには仕掛けません。親たちが落ち着いて、隙を見せるのを待つためです──。

 あたりがすっかり暗くなった頃、小麦粉の袋を取り出しました。ある意味幸いなことに、今回の私は積極的な役割ではなく、ミーニャさん、テウさんと一緒に、伯爵一家のガード役です。


「行くぞ」 「了解」


 コペルさんとジェーンさんの短い会話の後、つむじ風が袋から、小麦粉を巻き上げます。小麦粉の雲が、シロオオワシの巣を呑み込んだところへ、ジェーンさんがファイアーボールを撃ち込みました。

 空中に、爆発の火球が出現します。しかし間一髪、何かが二つ、そこから飛び出したのが見えました。どうやら、寸前で勘づかれたようです。


 シロオオワシの巣が、木の上で燃え上がっています。おそらく雛は、すでに死んでいるでしょう。私たちは、シロオオワシのつがいを伯爵一家と同じ目に合わせたわけで、ある意味、伯爵家の復讐はこれで終わったと言えます。


──しかし親は、当然のように、私たちを許しはしませんでした。わずかな間、巣の周りを飛び回っていましたが、我が子を殺したのが私たちだと、直感的に気づいたらしく──上空から交互に、急降下攻撃をかけてきます。と言っても、昼間なら空に溶け込む白っぽい身体は、夜の月明かりの中では目立ってしまい──こちらから攻撃するのはともかく、避けるのは容易でした。


 おそらく彼らは、自分たちが復讐されたのだとは、気づいていないのでしょう。いえ、野生動物に、『復讐』などという概念自体、そもそも無いのでしょうが。


 ミーニャさんが土の壁で周囲をガードしますが、相手もそんなことではあきらめません。ジェーンさんがファイアーボールを撃っても、当然のごとく当たりはしません。膠着状態になる中、一羽が業を煮やしたように、さらに高度を下げてきました。ところがその時、突風が吹き──もちろんコペルさんの仕業です──空中でバランスを崩します。すかさずテウさんがジャンプして切り付け、その一羽を両断しました。


 もう一羽、やや大きい方──おそらく雌でしょう、猛禽類は普通、雌の方が大型です──は、雛だけでなく夫まで失って、さらに怒り狂ったらしく、飛ぶ速度を上げて、執拗な攻撃を加えてきます。隙を見せれば、私はともかく他の誰かが殺されかねません。


『飛び道具が有ればいいのに!』。そう思いながら、母鷲をにらみつけた時です。突然、目の前が光って、思わず片手で目を押さえました。その瞬間、「ギャッ!」という声が上がり、続いて、男の声で歓声が上がります。見ると、大鷲の身体が、空中から落ちて来るところでした。


 理解出来ない状況に唖然としながら、動かなくなった大鷲を見つめます。よく見ると、その胸と背中には穴が開いており、血が噴き出していました。

 誰かに背を叩かれ、ふり返ると、ミーニャさんが私に笑顔を向けています。


「やったじゃないの、レイミ!」


「え? あの、どういうことなんです?」。わけがわからずに問い返すと、彼女の目が丸くなりました。


「何言ってんの?! あんたがこいつを撃ち落としたんじゃない?!」


「ええ?!」


「あんたの額から光が走って、それがこいつの身体を貫いたのよ。自分じゃ気づいてなかったの?!」


 私がうなずくと、彼女、あんぐりと口を開けました。ミーニャさんだけではありません。落ち着いてよく見ると、他の人たちも皆、同じ顔をしていました。


「……あんたの鎧に、こんな武器があったなんてねえ……」。ジェーンさんが呆れたように、半ば一人言のように、そうつぶやきます。彼女だけではないでしょう。私も同じ心境でしたし、他の人たちも皆、同じだったに違いありません。


 レミイに、こんな飛び道具が有ったなんて。この額の青い石が、レーザー光線らしきものの、発射口だったなんて……。



 その後、エスター伯爵家の別宅にて、ささやかな祝勝会が開かれました。出席しないのも礼儀に反するので、私もレミイを脱いで参加したのですが──伯爵も息子さんたちも、レミイに入っている時の私と、本当の私とのギャップに、驚いていましたっけ。


 ジェーンさんを始め、パーティーの人たちは大喜びでしたが、伯爵と息子さん夫婦は、喜んだのは最初の内だけで、後は沈んだ顔をしていました。やはり、復讐の快感より、孫を、我が子を失った悲しみの方が優るようです。


 私も、正直喜べませんでした。出来れば、こんな仕事はこれ限りにしたい。出来れば、こんな悲劇は二度と起こしたくない。

 野生動物に言って聞かせたところで、無駄なのは解っています。それでも切に、そう願わざるを得ませんでした──。

 レミイの新兵器、いかがでしたか? この設定は最初からあったもので、今回のような敵への対抗手段として、考えてあったものです。

 なお、ここで言っておきますが、物語の中で、動甲冑レミイが、さらなるチートな存在になっていくことはありません。

 元々チートな存在であるレミイを、さらにチートにはしたくないし、本来、レミイのチートさは、強さという意味の、それではないんですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ