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悪の明星(1)
「兵隊さんはね……銃を持ってるけど、あれで人を撃ったことはないんだよ」
耳をすっと撫で、胸に浸透していくような、甘い囁き。
「もう三〇年以上も人が殺されたことはないの。あまりにも退屈な時期が長すぎたわ」
彼女が言葉を切ると、急に物寂しさが胸を去来する。彼女の声は優しくもどこか刺激的で、私を惑わせる。
私は彼女の声の虜だ。彼女の声が聴きたくて聴きたくてたまらない。中毒患者のように彼女のことしか考えずにいられない。
「きらいなの。銃を持っているのに、今すぐにでも人を殺せるのに……それを持て余してるような、つまらないヒト」
私の耳は、脳は、心は、彼女のもの。彼女がいない世界では、私はきっと生きていけない。
「だから“つまらないヒト”、卒業しましょう?」
私はシエルのものだ。
「リィ、貴女と一緒にこの街を破壊したいの」
シエルの指に導かれるまま、私は絶頂を迎えた。